第21話謎の女。怪しい影
「じゃあエレミア、お願いします」
「はいっ全力でお願いしますイリス様……手加減はいりません。私の身はイリス様に捧げるためにあるのですから、貴方から与えられる痛みすら私にとっては至福のご褒美です!」
「いや……うん。まぁいいや」
うねる雷を纏った鞭。思い切り振りかぶりエレミアに向けて放つ。エレミアは魔剣を構えていたが当たる直前になって武器を引っ込める。
「うわっ!」
鞭の軌道を変えようとするがもう遅い。鞭がエレミアの体を叩く。
「ぁんっ!」
「いや、あんっじゃねぇんだよ!!ワザと当たらないで?!しかもいい具合に勢い殺した上で当たってきたでしょ?!」
「はぁ……流石イリス様……雷魔法が籠っていなくてもこの刺激……全身が痺れますっ」
一生痺れてろ!!!
「ほらぁ、だから言ったでしょイリス。この女と特訓なんて無理だって」
アヤが朝食用のミネストローネを混ぜながら呆れる。
「う……でも早く使いこなせるようになりたいんだよ」
スキル【ドS】は依然として俺の手に負えるものではない。だから、力の出力を調整したり、力に飲まれないよう俺の攻撃を捌けるエレミアに特訓相手を頼んだのだが、この有様。
「もう二度と、俺の力が暴走したせいで誰かが傷ついたりして欲しくないんだ」
「お人好し、つまんない」
未だにザクッとくるアヤからの「つまんない」。アヤと寄りを戻す気はないが痛む胸は未だアヤへの好意を示しているのだろうか。
「そのつまんないってのやめろ」
「つまんないものはつまんないわよ……もっと欲しがりなさいよ……全部俺のものだ〜って……」
「自己中な奴になれって?」
「そうじゃないわよ。前のアンタは"君が好きなら俺も好き。君が望むなら与える。でも望まないなら与えない"そんな感じなのよ」
「?……」
「も、この話は終わり。さっさとそこの痴女縛り上げて朝ごはんにしましょ」
「縛り上げて下さるんですか?その上で、朝食もとらせない、と……な、なんて、なんて仕打ち!酷いですイリス様……」
頬を赤らめうっとり俺を見つめてくるエレミア。
うん、酷いって訴えてる顔じゃないな
「イリス!クマを獲ってきたぞ!褒めろ!」
「あ、シュリ――」
ドカァンッ
砂埃をあげて地面に落下したのは巨大なクマ。とみせかけたキメラだ。体はクマだが頭はライオン。おまけに巨大な羽が生えている。
「いやこれクマじゃないよ……」
「違うのか?でも美味しそうだろ?褒めろ!」
頭一つ分俺より小さいシュリ。褒めろ褒めろと頭を突き出して飛び上がる姿は子どもみたいだ。
「いやコレ食えるかなぁ……」
シュリの頭を撫でながら目の前でくたばっているクマもどきを見つめる。ダンジョン生物はプログラムだけど武器を捕食モードにすれば食べることも可能だ。
どう捌いたらいいものか。考え込んでいたその時だ。草むらが蠢く。
「ダンジョン生物か?!」
「嘘でしょ?!ここセーフティエリアよ?」
ダンジョン歴は長い。俺とエレミアは咄嗟に武器を手にかける。
しかし、出てきたのは傷を負った金髪の女性だった。
「っ?!どうした?!」
セーフティエリアに入れるのは冒険者だけ。俺は鞭を収め、女に駆け寄る。
「た……たすけ、て……」
倒れ込む女。外傷だけでも相当なものだ。
「血の匂いが酷い……アヤ、回復魔法を頼む」
「えぇ……」
手ぬぐいを水で濡らし腕や首の血を拭いてやる。えらく白い肌だ。
?……体はこれだけ傷ついてるのに、髪の毛は汚れのねぇ綺麗な金髪だな……なんつーか、アンバランスっつーか……
「一人か?」
「いえ、お父様と一緒です」
「お父さん?父親とダンジョンって珍しいな。それもこんな下層まで来てるなんて、相当な手練だな。何があったんだ?」
「えっと、覚えてなくて……」
「覚えてない?」
アヤ達と顔を見合わせる。
記憶の混濁か……?相当なダメージだったのかもな
「頭打ってるかも。エレミア、天幕の用意してやってくれ」
「はい!」
「い、いえ……私、その、父を探さなければならないんです」
金髪の女は腕を抑えながら顔をあげる。蒼いサファイアの瞳に、長いまつ毛。相当な美人だ。
これだけ下層で父親とパーティを組んでる美女……配信界隈で有名になっててもおかしくないはずだけど
「お父さんのことは覚えてるの?てか、どこまで覚えてる?」
「ええ、と……お城と、暗闇と……箱の中で馬車に揺られていて、それから電気と、光と、包丁と……」
「お城と、包丁?」
「なぞなぞならアタシに任せろ!正解は武道大会だ!」
しゃがみこんでいる後ろからシュリが飛びついてくる。重たい。
酷い怪我、行方不明の父親、混濁した記憶。そして麗しい見目。
まるで作り物みたいだな……
この女との出会いが58階を恐怖の森に変えることなど、知る由もなかった。




