第17話ドS心に抗って
エレミアフラッシュ。
地面に魔剣を叩きつけ、直径10mを爆散させるという荒業。
すごい……サソリが紙切れみたいに吹っ飛んでいく。けど――
逃れたサソリ達はすぐ束となり、エレミアに襲いかかる。さらに、体が欠損していたサソリもあっという間に再生し、攻撃へ転じる。
「おぉっ?!なんだアイツら?!再生するのか?!」
「砂漠サソリは全身を一気に塵にしない限り再生する!いくらエレミアでも捌ける量じゃない!」
俺は鞭を手に取ると砂丘から飛び降りる。
「駄目よイリス!!掠りでもしたら死ぬわ!」
「あぁ、けどそれはエレミアも同じだ!」
クソッ、なんで突っ走ったエレミア?!自分の強さを過信するような子じゃないし、一度の判断ミスが死に直結することは、トップ配信者なら分かってるだろ!
って、考えてる場合じゃないな!俺も死なないようにしないと!
エレミアに飛び掛ろうとしていた背後のサソリ目掛け鞭を振るう。
「イリス様っ!」
「エレミア!背中合わせになるぞ!絶対攻撃を受けるな!」
「は、はいっ」
鞭を固く握りしめ横振りに。一気に五、六体のサソリの体を吹き飛ばすが肉片一つでも残せばミキミキと再生してしまう。
「クソッきりがないっ」
「イリス様!」
エレミアに腕を引かれる。よろめいた所で眼前を過ぎていくサソリの尻尾。
「エレミアフラッシュ!」
バァッ
吹き飛んで宙を舞うサソリ。エレミアと背中を合わせ、精神を削りながら鞭を振るう。
組み敷きたい。そう願えば力が出せるはず。暴走もやむ無しだな。
もっと感情を昂らせろ!このクソサソリを黙らせるために!虫けらが俺に逆らわないようにする為に躾る……!
薄らぐ自分の意識。しかし不思議と状況はクリアに把握できる。
研ぎ澄まされる五感。鞭を握り直すと黒い雷が体から立ち上った。
「雷迎!」
鞭を叩きつけ、引っ張り、横殴りに。黒雷がサソリの体を爆散させ次々と塵芥へと変えていく。
「キシャアアアッ」
おぞましい断末魔ですら、俺のドS心の餌となる。
あぁダメか……力にのまれる、楽しくなっちまう。掠ったら死ぬってのにこのゴミ共を始末したくて堪んねぇ……
「はは、あはははっ!ほらもっと来いよ……俺の鞭で、粉々の塵にしてやるからさぁ」
俺は再びドSの力負けた。命よりも快楽を優先し鞭を振るってしまう。
「な、なんだアイツは。さっきとは別人じゃないか……」
「えぇ……イリスはドSだったの。私も最近になって本性を知ったわ。誰も逆らうことは許さないって感じのあの眼差し……痺れるわよね」
「ま、眼差し……?」
うっとりと目を細めるアヤを傍目にシュリはやや引き込み。だが、興味深そうに鞭の軌道を見つめる。
「どえす……鞭……逆らうことは、許さない」
ポツリポツリと呟くシュリの赤い瞳の奥が、赤黒く輝いた。
「ははっ、はぁ、はぁっ!っ……ふ!」
飛び散るサソリの殻。鼻をつく焼け焦げた匂い。嬲っては踏みにじり、怯えた断末魔を聞いて悦に浸る。
しかし全力というのはいつまでも続くものではない。理性を削られた俺は言わば力のベタ踏み状態。
感情の昂りとは裏腹に体がフラついた。
クソ……もっと、もっと鞭を使いたいのに……腕が、重いッ
「危ないっ」
ブシュッ
嫌な音がした。
目の前に舞う鮮血。
傾く白い体。
熱くなっていた心臓が一気に冷える。
「エレミアァ!」
俺を庇ってエレミアは背中にサソリの毒を受けてしまった。傾く体を抱きとめサソリを吹き飛ばす。
「おぃっしっかりしろエレミア!」
「あ……い、イリス様……ごめんなさい、私っ」
震えるエレミアの声と体。蒼い瞳が涙で揺らぎ、俺の心臓が痛む。
「なんで謝る?!俺のせいだろ?!」
「い、え……貴方が、アヤさんと仲良くしているのを見て嫉妬して……イリス様を危険に巻き込んだ……」
「俺が力にのまれて暴走したせいだ!」
囲んでくるサソリもあと少し。早く倒してエレミアを治療しなければ。悲鳴をあげる腕を叱咤しエレミアを抱いたまま鞭を振るう。
「優しいイリス様も、荒れて暴走するイリス様も大好きです……大好きなイリス様に抱かれて死ねるなんて……私は幸せですね」
涙目で微笑むエレミアを前に、俺の中で張り詰めていた最後の糸が切れた。
「……おぃ、エレミア……お前は俺のメイド。俺のモノだろ」
「?……イリス、さま?」
「俺の許可無く死ぬことは許さない。命令だ……死ぬな」
「は、はい……」
力や欲望に呑まれて情けない。暴れ狂うもう一人の俺を、必ず組み敷いて、この力、自分のものにしてみせる。
けど今はエレミアを護ることが先決。俺の"所有物"を侵すゴミ共を蹴散らしてやる……
ギチギチと鞭が音を立て、黒雷と共に立ち上る風が髪を巻き上げる。地面が抉れるほど踏みしめ、振り抜いた鞭は正に渾身の一撃。
「俺のモノに手を出すとは……お仕置だ」
俺のスキルには、まだ上があるらしい。




