第14話砂漠に立ち上る龍
次の日。
ダンジョン57階へ。
石階段を降り、そこに広がっていたのは――
「ここで砂漠地帯か……キツイな」
「イリス様。日傘をどうぞ」
「え、あ……どうも。エレミアはもう踏破済みなんだよね?この階を一人でクリアしたの?」
「大変でした……歩けど歩けど、次の階の階段は見つからないし、水は無くなるし、何度か死にかけました。ですがそこへ運良く水花龍が現れてくれたんです」
「水花龍って砂漠ゾーンに住む龍よね?暑さで頭がやられた冒険者が見た幻覚だって噂だったけど、本当に見たのかしら?」
「見ましたよ!水を散らしながら宙を舞うあの美しい姿。お陰で全身が潤いました!」
「流石エレミア。踏んできた場数が違…………」
脳裏に過ぎる、ひとつの可能性。おそらくアヤの頭にも同じ予想が思い浮かんでいるだろう。
「あの、水花龍ってダンジョン生物だよね?倒すなら分かるけど……潤ったっていうのは……」
「やぁねぇイリス!水花龍が出たってことはそいつが住んでるオアシスを見つけたってことよ!」
「そうか〜そうだよなぁ〜」
「いえ。水花龍は砂漠を泳いでいました。砂漠の中とは思えぬみずみずしさを放つ姿は、正に希望の光。髭を掴まえて引きずり出し、首元から……」
「わーわー!!もういいよ!大丈夫!」
「アンタねぇ!イリスの配信をBANさせる気?!グロテスクすぎるわよ!」
「えぇっ?!なんでですか?喉がとても潤って命が助かりました〜。今回も居たらいいですけど……」
人差し指を唇に当てて柔らかく微笑むエレミア。忘れていたがトップ配信&冒険者なのだ。
569:出たwエレミア配信の伝説回。龍啜りw
570:あれで水花龍の体は100%水分ってことが分かったんだよな。エレミアが啜ったあと干からびた抜け殻みたいになっちまって……可哀想だった。
「そうなんだ……」
今更ながらとんでもない人物とパーティを組んでしまったものだ。
「また運良く水花龍が現れてくれるとは限りません!どんどん行きましょう!」
「ちょっとアンタ!何しれっと相合傘してんのよ!人の男に手出ししないでくれるからしら?」
「アヤさんのじゃ無いです!他の男に乗り換えたクセに!」
「なによ!」
「なんですか!」
俺を挟んで言い合う二人。
「あ〜もぅ……余計暑くなるからやめてくれ〜」
◇◇◇
見渡す限りの砂漠フィールドは前後左右が分からなくなる。出てきたサボテンだとかサソリだとか魔物を倒しながら進むこと二時間。
前に進んでる気がしねぇ。水も残り少ないしアヤの体力が限界だな。いざとなったらテレポートかな。一旦地上に出ちゃうとフィールドは最初からになっちゃうんだよなぁ……なんとか進みたいところ――
「ねぇイリス……あそこなんか変じゃない?」
アヤの指さす方向を見る。砂煙がサークル状に沸き上がり、その中心から白い線が立ち上った。太陽に煌めく鱗、飛び散る水しぶき。
噂をすればなんとやら。
「水花龍!本物なの?!」
「うんっ本当に居たんだな!……ン?頭になんか乗ってないか?」
水を撒き散らしながら飛び上がる龍。その頭の先にしがみつき、うねりに耐えている人影が――
「なんか叫んでる……?」
「……!……助けっ……!おちる!……だれか……!!」
「な、なんかヤバそうだ!アヤはそこ動くなよ!エレミア、助けに……」
鞭を構えエレミアの方を見れば、彼女の瞳は水花龍に釘付け。
淡く染る頬。艶のある唇を舌が舐る。吐き出される吐息は甘く、切ない――
「み……水!!」
ドンッ
エレミアのダッシュ前の踏ん張りで砂漠にクレーターが出来る。次の瞬間にはもう姿が見えない。
「ちょ、エレミ……」
手を伸ばした時には既に、龍の胴と首が泣き別れになっていた。
舞い上がる水しぶきに「あーぁ」という感想を述べている場合では無い。
水花龍の頭部には人が乗っていたのだ。
叫び声を上げながら龍の頭と共に落下する人影、否。少女が。
「アヤはここにいろ!」
上手くいくか分かんねぇけど、一か八か!
峠になっている部分を滑り降り、腰から鞭を引き抜くと少女目掛けて振る。少女の体に二、三周縄が絡みついた。
「よしっ!」
「いやぁああっ!!」
鞭で絡めた少女を引っ張り、スライディングキャッチ。下が砂漠で助かった。
「ふぅ……上手くいった。大丈夫?」
黒髪ツインテールの少女が俺を見あげてきた。短い前髪からはまろ眉がのぞき、赤い瞳が俺を見上げてくる。
子どもかと思ったけど案外大人びてるな……
「わぁあっ助けてくれてありがと!アタシは火山の女神、シュリだ!よろしくな!」
「えっ……」
め、女神――?!




