1511:最後の試験 3
一時間ほどでアラームが鳴り、出来るだけ耳元で音声が聞けるようにスーツの襟元にスマホをセットして音量を小さめにしておいたおかげで、周りの探索者に気づかれることなく起きることが出来ました。
さて、順番待ちはどうなってますかね。今二十四番ですから……と、二十三番が帰ってきてますね。後二時間以内にボス湧きがするのは間違いないでしょう。一時間前は二十三番の札はなかったはずですから、この一時間の間にボスを倒して帰ってきたのは間違いないようです。後ろの順番は、二十五番までの札が取られていました。
ダラダラ戦闘をしていると後ろに迷惑がかかるのはわかったので、みんなをそっと起こして移動準備に入ります。
「周りを起こすのもアレなので静かに行きましょう。とりあえずボス部屋の前まで行って、ボスが居ないことを確認してその後ゆっくりするなりモンスターを倒して帰りの荷物を多くしておくなりして、ボス部屋の周りを一周ぐらいしてからまた帰ってきて確認、を繰り返していきましょう。ボスが湧いたら湧いたと知らせてくれるわけではありませんので、毎回ボス部屋を覗く必要はありますが」
「なんかわかりやすい表示とかあると良いんですけどね。入室表示みたいなやつ」
ボス部屋営業中の看板みたいなものですか。確かにあれば便利でしょうが雰囲気をぶち壊しにするのは間違いないでしょうね。
ボス部屋といえば十五層と六十層と七十五層にありますが、十五層はともかく六十層と七十五層についてはいつ倒されていつ復活するのかは解らない以上、何処かで情報を共有する必要が出てくるでしょう。ネットが繋がればネットで情報共有できると良いんですけどね。
準備が終わったところで十五層に下りて、ボス部屋まで真っ直ぐたどり着きます。流石にまだ湧いてないよね……と中を確認したところ、まだ無人でした。今少し時間がかかる様子です。
「まだ湧いてないですね。ボス部屋をぐるっと一周回る道があるのでそれを回ってからもう一度来ましょう。座って待ち続けるよりは経済的のはずです」
そういうと、皆も頷いてまだ余裕のあるバッグの中身を気にしつつも周回運動に入る。これで一時間半は経過したことになるから、ゴブリンキングは湧きなおしている可能性が高いです。
予想通り、三十分かけてぐるっとボス部屋の周りをまわって帰ってきて中身を確認すると、集団のゴブリンと玉座に座るゴブリンキングの姿が確認できました。
「湧いてますね。諸注意ですが、周りのゴブリンを倒すまでゴブリンキングは動かない上に、自身は無敵状態にあります。なので周りのゴブリンを殲滅するのが最優先です。スキルを使ってくるゴブリンシャーマンは私が真っ先に撃破するので、集団戦になる構えでよろしく頼みます。今の皆さんのスキル構成と装備では、遠距離スキル攻撃だけは防げませんからね。そこは私が何とかしますのでご心配なく」
「「「「はい! 」」」」
「よろしい、では行きましょう。肩の力を抜いてください、倒すのは所詮ゴブリンとソードゴブリンです。散々四層で倒してきたのを思い出してください。ボスがご登場あそばされるまでは心配はありません。ボスが立ち上がって剣を振りかぶったら第二段階開始です。私も全力で戦いますので、倒し方を頭で考えつつ戦っていきましょう」
ボス部屋に入り、最後の一人がドアを通り抜けると、ボス部屋に明かりがついていく。この臨場感はやはり悪くありませんね。ボスだ! という感じがしてとてもいいです。
そして、手をサッと上げて合図するゴブリンキング。同時に動き出すゴブリンの集団。少し離れて、後ろからファイアボールを撃とうとしているゴブリンシャーマンを、撃ち始める前に魔法矢で一気に貫き四散させます。
ゴブリンシャーマンさえ倒してしまえばここは後は乱戦です。好きなようにゴチャキャラバトルを楽しみながら次々とゴブリンたちが倒されていきます。四層ダッシュで戦い続けた経験が生きているのが素晴らしいですね。
数分でゴブリンの殲滅が終わり、一息ついたところでゴブリンキングが立ち上がります。第二段階開始ですね。ゴブリンキングが剣を構えたところでゴブリンキングの顔の周りに水をまとわりつかせ、呼吸が出来ないようにします。呼吸が出来なくてもがき始めるゴブリンキング。
「今のうちに! 」
ちゃんとみんなにも倒したという実感が欲しいでしょうからね。ゴブリンキングがもがいている間にそれぞれゴブリンキングを取り囲んで殴りつけ、切り刻む。満足するだけの攻撃を終えたところで、自分の顔から私の水の膜を取り去ったゴブリンキングがようやく呼吸をする。
「GURUAAAAAAAAAAA!! 」
怒ったのか、ゴブリンキングが吠える。少し喉に痰が絡まったような、荒っぽい叫び声だった。多分水分が肺に入ったのでしょう。その分だけ動きは鈍くなっているはず。とはいえ、ゴブリンキングの手を全部見てあげてから倒す必要はないので、さっくりとウォーターカッターで首を切り落とす。
ゴブリンキングは「え? 」という表情のまま首だけが落ちていき、そしてそのまま大量の黒い粒子を吹きだしながら消え去っていく。周りのパーティーメンバーも「え? 」という表情。そのままゴブリンキングの魔素を浴びて、西さんと今泉君も「お? 」と声をあげる。どうやら身体強化が上がったらしいですね。
ゴブリンキングは内包魔素量も多いし、さっきボス部屋周りをグルグル回った分も含めての身体強化アップ、ということでしょう。ゴブリンキングはいつも通り、黒くて大きい魔結晶と角を落としました。
「あっさりでしたね……最初からそれで倒してしまってもよかったのでは? 」
「後日自分たちで挑みなおしても良いんですよ? その時は私抜きでしょうから、私が担当した分をどうやって埋めるかで悩んでくださいね。今回の目的はゴブリンキングの撃破であって、自分達だけの実力だけで倒すというわけではありませんでしたが、一応戦闘には参加したぞ、という実感を持ってもらうために余計なことをしました。まあ、今回は目的優先ですので、リベンジバトルはまた今度頑張ってください。では、ドロップ品を回収して帰りましょう」
合図すると、みんなでドロップを拾い集め始める。荷物がほぼいっぱいになったところでゴブリンキング狩り完了です。帰りの分はギリギリ入るかどうかというところです。ポケットにでも突っ込んでいけばいいでしょう。
帰りの道を急いで戻り、十四層で戻ってボス討伐カードを戻します。次の順番を待ってる人はちょうどいるようですね。彼らも今日ダンジョンへ来て真っ直ぐここまで下りてきて、そしてボスへと挑んでいくのでしょう。
角を持たせてエレベーターの位置を確認させて、みんなで乗り込む。初めてのエレベーターにおぼつかない足取りの皆でしたが、角をはめて魔結晶を入れることで動き出したエレベーターに興味津々の様子だった。
「これ、改造とか解析は禁止されてるんでしたね」
「下手にいじって壊したらダンジョンマスターに怒られますし、他の利用者の迷惑にもなりますからね。使わせてもらえるだけありがたい、と考えるほうがいいかもしれません」
「確かにそうですね。ここまで十二時間以上歩いてきましたが、エレベーターなら待ち時間と十分少々の時間で終わってしまうわけですか。これならよりスムーズな探索が可能になります。これでパーティーメンバー全員が利用できる、ということですよね」
「そうなります。頑張ってゴブリンキングを後三回倒せば、一人一本持って自由に探索することも可能になります。ともあれ、そこまでの回数を狙ってボス狩りするのはかえって効率が悪いでしょうからほどほどにしておくのがいいと思いますよ。ボス狩り一回するよりも、十三層をぐるっと一周回ってくるほうが時間効率は上ですからね」
「覚えておきます」
話している間に一層に着き、エレベーターを降りる。時刻は午前三時。睡眠時間は五時間ぐらいは取れますかね。ホテルに戻ったらゆっくりすることにしましょう。明日の朝礼までに帰ってくるという約束は一日分早く達成してしまいましたし、彼らには何をしてもらいましょうかねえ。
オーク肉を一枚ずつ別で食べるようにとより分けておいて、荷物をドサッと全部査定カウンターに提出し査定の時間を待つ。今日も私は教育係なので等分では受け取らず、四人の収入となった。結果だけは聞いたが、三十五万二千二百四十八円になったらしいです。九層をグルグル回るより四割増しってところでしょうか。
「さて、時間も時間ですし皆さん終電はなさそうなので、タクシー使って無理に帰るよりもダンジョン庁の仮眠室を利用しましょう。お風呂入りたいとかお腹空いたとか色々あるでしょうが、予定より早く帰ってきましたので仕方ないことですね。まあ、とりあえず寝床は問題なくあるはずなので使えるなら早めに使って慣れることにしましょう。それでは解散ということで。あ、後寝る前にウォッシュが欲しい人は申し出てください。かけますので」
私は率先して仮眠室に行くと、西さんが付いてきた。ちゃんと男女分けて仮眠室があるのは良いことですね。多少のプライバシーに配慮されています。ちょうど使う人もいないようなので、ベッドは全部空いています。
「では、おやすみなさい。一応八時半に起きるようにアラームはかけておきますのでそれで起きましょう。その後は……もし着替えやお風呂なんかに行きたい場合は一応業務時間内ですが、それも短縮して帰ってきたから、ということでなんとか誤魔化しておきましょう。私もホテルに帰るのが面倒なのでここで寝ますが、朝みんなに会った後戻ってシャワーと着替えは済ませに行きます。一応ウォッシュをかけておきますかね。後寝床にも……よっと」
寝床と服とみんなにウォッシュをかけた後、そのまま仮眠室の布団をかぶって寝ます。さっさと寝てしまって、眠気だけを取り去った後、ホテルに戻って着替えとシャワーを済ませたら……今日は何しましょうかねえ。
◇◆◇◆◇◆◇
アラームで目覚めて西さんを起こすと、九時に間に合って朝礼。
「今日帰ってくる予定では? 思ったより早く帰ってきましたね」
世良さんが不思議そうにしている。本来なら今日と昨日で撃破する予定がトントン拍子に進み過ぎて夜の間に帰ってくるとは思わなかったのも確かです。
「順調すぎたんですよ。おかげで今日は半休みたいなものです。私もこの後一旦ホテルに帰りますし、他のみんなも自宅でひと眠りし直すんじゃないですかね」
「そのつもりです」
「私も……二日連続同じ服というのはちょっと」
みんな一旦帰りたいらしい。一応服装は綺麗にしていて汗のにおいもしないとはいえ、そのままの姿でいることには少し何かむずがゆいものがあるんでしょう。
「じゃあ、今日もいつも通りソードゴブリン狩り行ってきます。そっちはそっちで適当に時間つぶしでもしててください」
「わかりました。どうぞご安全に」
高野君達を見送ったところで、私たちの仕事終わりのミーティングを始めます。
「さて、各自解散する前に寝る前にする予定だったミーティング……というか私から最後のレクチャーですね」
「もう最後ですか……ちょっと寂しいですね」
「散々お世話になりっぱなしでしたからね。今後うまいこと返して行けるかどうかが心配になります」
西さんも今泉君も反省点は多いことに気づいているようで何よりです。
「私から言えることは一つです。探索を楽しんでください。それが第一に仕事に没頭する何よりの条件になります。収入やら肩書やら、そういうものは後からついてきますから、出来る限りのことをしつつ、自分達の戦力アップも考えていかないといけない所です。今後はCランク探索者として、十四層を拠点にするでも七層を拠点にしてまだまだ実力が足りないと粘っても好きにすると良いですが、せっかくエレベーターまで使えるようになったのですから、その恩恵は充分に使いつぶしてあげるとダンジョンも喜びます。私たちがダンジョンへ潜る一番の貢献は、魔結晶を手に入れて地上へ搬出する事です。そこさえ忘れなければ、きっといい感じに探索を続けられるでしょう。さて、みんな今からすることをしましょう。二日分の仕事を一日でやってきたわけですし、普段働き気味なのを考えて休みにしてもかまいません、自由に過ごしましょう。私はホテルに戻ってシャワーを浴びて、眠かったら寝ます。じゃあ解散」
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