1509:最後の試験 1
月曜の朝です。土日で一旦里帰りして実家にそろそろ帰ってくる旨を伝えて、そのまま洋一さんのところにお世話になることを伝えてきました。家族からはどうせなら早めに籍を入れて結婚して落ち着いて欲しいということを言われましたが、それは洋一さん次第だということを伝えておきました。
経済的にも余裕はある二人なので急いで籍を入れる必要もなく、このまま事実婚のままずるずる付き合い続けるのはさすがに私もどうかとは思いますが、仕事が落ち着いたら……と前に言い訳していたのを思い出しましたので、私の仕事が落ち着くのは小西ダンジョンへ戻ってからになりますから期待値が高まりますね。
今日の朝食も洋食です。小西ダンジョンに戻った時の洋一さんの朝食を考えて、トースト二枚にバターたっぷり、それと目玉焼きにキャベツ山盛りというゴキゲン(当人曰く)のメニューで満足できるようにしておきましょう。
これで腹六分、というところですね。もしかしたらこっちへ来てちょっと食べすぎかもしれません。ホテルのメニューに慣れ過ぎていて胃袋が満足できない体にされているのかもしれません。ちょっと絞っていくことも考えていきましょう。
今日はゴブリンキング撃破に行くという最後のイベントがあります。手順としては七層までにご飯を食べて仮眠、その後十二層で少しオークと戯れて人数分のオーク肉を確保した後、十三層十四層と下りて十四層で休憩とご飯、そして十五層でゴブリンキングを撃破して、エレベーターで帰ってくる、という予定になっています。
念のためカートだけでも七層か十四層に下ろしておく、ということもできますがどうしますかね。荷物のことを考えるとそのほうが楽ではあるんですが、まあ後日、本人たちがエレベーター慣れしてもらうためにもそこは自力で回収してもらうことにしますか。
自分の部屋に戻ってきて、もう少しでこのホテル暮らしもお別れかと思うと少し寂しくなりますね。洗濯も風呂掃除もしなくてよかったことを考えると、お値段以上に利益になっていたのは間違いありません。もし次回本庁に召還されるようなことになってもここにお世話になることにしましょう。なによりダンジョン庁に近いですしね。
さて……
メイク、ヨシ!
スマホ、ヨシ!
スーツ、ヨシ!
お財布、ヨシ! 中身もヨシ!
お弁当、ナシ! 今日も食堂で二つ注文! 大盛!
コップ、ヨシ!
装備、ナシ! 一式更衣室に置いてある!
指さし確認は大事です。最後になるかもしれない指さし確認を行うと、いつも通り出勤します。いつも通りのことをいつも通りに出来るようにするのも体調管理や指さし確認の大事さの一つだと洋一さんが言っていた気がします。確かにその通りかもしれませんね。
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出勤して荷物を更衣室で出してくると、探索課にはもう人が揃っていました。しかし、食堂の弁当の製造時間は九時からですから、まだ早いです。八時から弁当を受け付けてくれるなら先に受け取って待っていることもできるんでしょうが、ただでさえ大盛が欲しいとお願いを最近した立場上、更に注文を付けるのは難しいでしょう。
「おはようございます。全員そろっているのでミーティングからやっておきますか。目的は簡単、十五層まで到着して、ゴブリンキングを撃破して、その撃破の証拠であるゴブリンキングの角を使って、エレベーターで帰ってくることです。それが出来次第、七層や九層でうろうろするなり、十四層に下りて、十三層や十二層に上がって確実に戦えるだけの力が付いているかどうか確認するかどうかでもいいです、使い方はみんな次第になります。十五層でゴブリンキングを撃破した後は、それぞれエレベーターのある階層で呼吸をすることによってその階層の魔素を体内に付着させ、それがマーカーとなってエレベーターの最深層記録が更新されます」
「そういう仕掛けだったんですね……知りませんでした」
「まあ、そんなわけで皆さんには私の仕事をやり切る意味でも、ゴブリンキングに今日明日で挑戦してもらいます。ゴブリンキングを倒した時にその場にいればゴブリンキングの魔素を吸収してエレベーターが見えるようになります。それからは角を持ってその辺をうろちょろするだけでエレベーターが見えてくるようになりますので、ここが最後の山場みたいなものです。勿論戦闘にも参加しますし、出来るだけ怪我のないように配慮はしますが、もしもの可能性があるので人数分のポーションは持ち込みましょう。今度は皆さんがゴブリンキングの撃破を手伝う側になるかもしれませんので、どんな攻撃をしてくるか、どんなモンスターがいるのか、そのへんは時間までにマニュアルを読み込んでおいてください。それが最終稿になります」
マップとモンスターマニュアルを開かせて、ゴブリンキング退治の場面を見せておく。その間に次々にみんなが出勤してきて、朝の朝礼が始まった。朝礼の音頭は巽さんがとっている。
「おはようございます。今日は全体朝礼なので一言。先週はお疲れ様でした。探索課からも無事にCランク探索者を出せたということで、順調に進んでいると考えていいのかな? 何にせよ、この調子で怪我なく探索のほうを進めていってほしいね。それと、近いうちに探索課の中身を手入れしてちゃんとした形にする、という話なので早ければ水曜日にでも細かい人事が発表できるようになると思うから、みんな水曜日の朝は一応ここにいてくれるかな」
ゴブリンキング退治に時間制限が課せられましたが、まあ移動するだけなら問題ないでしょう。帰りはエレベーターですし、丸二日かけて挑めないほど混んでいるなら別の話ですが、そこまでの可能性はないと考えておいたほうがいいでしょうね。
「わかりました。それまでに帰ってくるように努力します」
「うん、頼むね。僕からは以上かな。それじゃあ各自パーティーの今日の予定を聞いておきたい」
巽さんからの連絡事項は終了し、各パーティーの今週の予定を発表し始める。
「では、まずは私から。月火と二日間かけて十五層まで潜って、ゴブリンキング退治に行ってきます。同道するので道中もボス戦も苦戦することはなく終了すると思います」
「初ボス戦だけど大丈夫かい? ……と、文月さんは一人でもゴブリンキング倒すだけの実力があったんだったね」
巽さんが口を挟むも、そういえば三本も持って来たんだったな、というのを思い出して言いなおす。
「ええ、ですので心配はないと思います。怪我しない範囲で戦ってもらいつつ、ちゃんと戦ったという体感だけは感じ取って帰ってこれるようにはする予定ですので道中の安全だけ確保できてれば問題ないと思います。朗報を待っていてください」
「では次に私のほう。前回荷物の搬入は済ませたので今日からは一泊二日で九層か十層で探索活動……ということになるわ。お弁当は各自で用意、水分は……確かまだあったはずだけど、帰りに文月さんにチェックしてもらって、減りが早いようなら補充しておいてもらおうかしら? 」
「そのぐらいの時間の余裕はあると思いますので良いですよ。やっておきましょう」
「そういうわけだから、火曜日は高野君達だけここに出勤ってことになるのかしら? 」
高野君にお鉢が回ってきたので高野君もそのまま報告を始める。
「こっちはマニュアルに従ってソードゴブリンやゴブリンをひたすら倒して回る仕事になるかな。早く回れば回るほど利益になる階層のようだし、最高効率を目指すのと、身体強化の持久力を高めていくためにもできるだけ儲けて帰ってこようと思う」
簡単にしめると、巽さんに再び注目が集まる。
「僕はいつも通りデスクワークだね。じゃあ、今週もよろしく。ご安全に」
さて、行きますか。食堂で十二人分、六十食のお弁当大盛が一気に発注される。厨房は朝から大忙しだ。順番に出てきた弁当を詰め込み、各パーティーごとに出発する。私たちが一番最後になりましたが、一番急ぎではないパーティーでもあるのでまあそこは良いでしょう。
「さて、いつも通りなら五層に入る前にご飯ですか? 」
「最近は七層に入ってから食べてそのまま右を下にして仮眠、というようにしてますね。そのほうが胃袋も長持ちしますし休憩時間の無駄がなくていいので」
「なるほど、ではそれに従うことにしましょう。できるだけ道中は高速で移動していきましょうね」
一階で十五層までの地図を全部そろえると、早速探索開始です。出来たてのCランク探索者証と、ちょっと古めのB+探索者証を一枚ずつ受付に預けると、そのまま五百円玉を入れてダンジョン内に入場。そのまま真っ直ぐ全員で早歩きで七層まで直行する。
道中邪魔をしてきたモンスターは率先して倒していく。一々戦闘態勢をとるのも面倒なほど、行き道のモンスターは邪魔でしかありません。みんなの経験値や戦闘経験として戦うのもありですが、時間を切られて探索をする以上ロスは出来るだけ減らしていかなければいけません。
引っかかるモンスターを全て【魔法矢】で一撃で粉砕しつつ、ドロップだけはきちんと拾ってずずずいっと五層まで来ました。やはり月曜朝一の五層はそこそこの混みようで、どうやらモンスターと出会う心配はしなくていいようです。
清州ほど酷い五層ではありませんが、ここは中々の広さ。そこにポツンポツンと探索者がいてくれるおかげでリポップが抑えられ、素早く歩いて抜けることが出来ます。昼はもう過ぎましたが、そろそろ空腹を促してきても仕方がない時間ではあります。が、七層まで我慢が出来る範囲の話なのでここは七層まで水で誤魔化していきましょう。
五層を抜けて六層へ。後一階層抜ければご飯と休憩の時間です。お腹が段々空いてきました。空腹は命にかかわるので下層では空腹と行動不能はほぼ一致するのですが、これだけ周りに探索者がいれば多少の空腹は誤差で済ますことができるでしょう。彼らも目指す方向は七層でしょうし、七層に下りたら一服できるというのは共通認識でしょうし。
そのまま他の探索者に戦闘を任せ、一目散に七層に駆け込みます。ようやくここでお昼休憩兼仮眠です。時刻は……午後二時。間食、というところでしょうか。まあ探索者がきっちりお昼に食事をすることは少ないので今まできっちりお昼に食べてた私や洋一さん達が例外、ということもあるんでしょう。
それはともかくとして、自分達のテントのところへ向かいます。官用テントのすぐ横にテントが……十個。私たち五人分と、おそらく阿南さん達の分が五個。
ここに高野君パーティーが到着したら十五個になるのか、それとも私たちの分を移動させて十個になるのかは解りませんが、二十一層へ到着する頃には移動させる手続きを取るかもしれませんね。それまでは精々官用テントの隅っこをお借りするとしましょう。
さて、お待ちかねのお昼ご飯です。今日の大盛弁当は白身魚の木の葉の形フライとコロッケ、それに大量のコメと隙間に埋め込まれて色味の移りで自己主張している漬物。野菜はキャベツだけですね。どれも大盛です。キャベツは朝も食べましたが、これだけあれば十四層までは持つでしょ! と言わんばかりのラインナップですね。
確かにこれだけあれば満足もできます。これだけ時間が空くなら朝ごはんも多めに食べてきても良かったのでは……と今更思いますが、体を慣らすために朝ご飯を少なめにしたんでした。
モリモリとご飯を流し込み、フライをしっかり味わって……付属のソースの入れ物が六十五層で出てくる醤油差しと同じ大きさですね。間違えることは洋一さんでもない限り不可能ですが、ちょっと思うところがあります。
綺麗に食べ終えて空き箱を袋に包んで放り込むと、共有の水分タンクの中身の補充をします。魔素の含まれた純水を満タンまで給水すると、後はおねむの時間です。今泉君に確認を取りますが、二時間ほど仮眠するそうなので、スマホのアラームを二時間後にセット。そのまま眠ります。
眠って起きたら次は地図通りに進んで十一層から十三層まで一気に駆け抜けつつ、道中十二層辺りでオークと戯れて、全員分のオーク肉を確保するところまでを目標にしますかね。まあ、階段間を歩いている間にそのぐらいは出会えるとは思いますが、行ってみないとわからない所もあります。
もしかしたら食肉業者へ直接卸している探索者で大混雑だったりするかもしれません。その辺はうまく調整していきましょう。では、寝ます。
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