1507:Cランク試験
朝です。昨日は阿南さんと二十一層から二十八層まで一気に歩き抜けてきました。が、特に何もイベントもなく、それどころかまともな戦闘もせずに進んだので話すことはあまりありませんでした。
阿南さんも「ここまで混んでるといっそのこと清々しいわね」と戦闘を諦めて二十五層より先へ向かい、【索敵】を使う場面もほどんとなく素直に二十八層まで到着。そのままエレベーターを使って帰ってきました。念のため待機させておいたリヤカーは結局ほとんど使わず。収入も時間のわりに非常に少ないものになりました。
さて、今日はCランク試験開催の日です。無事にみんなが合格して帰ってくることを望むのは……それは明日で良いでしょう。今日は何しますかね。いっそのこと一日他部署で作業手伝いとかそういう方向性で行きましょうかね。
一応入庁から三カ月は自由に部署を決められる権利があると聞きますし、探索課から他の部署へ一日体験ということで査定カウンターや支払いカウンターのお手伝いをしてみるのもいい経験になるでしょう。
その前に昨日やらなかったマニュアルの目通しをお願いするという話もありましたね。それも行わないといけません。やることはちょっとだけありますね。早ければ一時間ほどで終わるでしょうし、ダンジョン庁内をうろうろして忙しくて専門性の低い作業を手伝っていくことにしましょう。
さて、いつも通りシャワーを浴びてメイクをして、それから朝食です。今日は何食べましょうかねえ。昨日はきちんとトーストとコーンスープで洋食をキメましたから、今日はご飯と味噌汁と漬物とお野菜で和食で攻めることにしますか。ドレッシングはもちろんごまだれです。
ご飯も最近は高くなったと聞きますが、流石にそれなりに高い金額を払っているだけあって食事に手抜かりはなく、ご飯もちょっとしか炊いてないとかそんなことはないようです。しっかりと炊飯器に目一杯炊かれています。早速ちょっと多めに盛り付けると、アツアツの味噌汁と漬物、それから朝の美容にも優しい野菜サラダとフルーツを取ります。
朝からモリモリとご飯を食べ、野菜もしっかりお腹に入れて脳を回転させていくための栄養素とさせてもらいます。フルーツもこの間は残り少なかったですが、今日はたっぷりと残っています。足りなかったら追加でもう一皿行きましょう。朝から食欲があるのは良いことです。
卵かけご飯にしても悪くなかったですねえ。たんぱく質も必要な栄養源の一つです。温卵に卵かけご飯のたれをかけて食べるだけでもたんぱく質の補充になりますし、二皿目に行くときに考えましょう。
結局温玉とフルーツお代わりしてお腹いっぱいにしておきました。これでお昼はいつも通りワンコインランチで済ませられますね。朝のニュースと天気予報、それからちょっとしたダンジョン情報を仕入れると、時間通りに出勤です。
メイク、ヨシ!
スマホ、ヨシ!
スーツ、ヨシ!
お財布、ヨシ! 中身もヨシ!
でっかいバッグ、ヨシ!
お弁当、ナシ! 今日は食堂の予定!
コップ、ヨシ!
装備、ナシ! 一式更衣室に置いてある!
指さし確認は大事ですが、今日は大体使わない予定なのででっかいバッグも更衣室に置いておくのもいいかもしれませんねえ。今後はそうしていきますか。
出勤してマグネットを出勤に移動。今日一日はダンジョン庁にいる予定ですのでそのままマグネットを動かすことはないでしょう。私より先に西さんと森崎君が出勤してきていました。どうやら試験に向けて緊張しているらしいですねえ。
「おはようございます。どうやら緊張してますね」
「あ、文月さん。おはようございます。緊張してます」
「いつもと同じことをするだけですから安心して良いと思いますよ。私の経験したCランク試験だと、十一層でオーク狩って一定数倒してドロップ品を確保できれば撤収でした。中で仮眠してる間に寝坊とかしない限りは大丈夫ですから安心して試験を受けてきてください」
「そうなんですね……でもいいんですか? まだCランクじゃないのに十一層に立ち入ることになるんですが」
ああ、そういえば同じことを私も考えてましたねえ。
「一応なのですが、より上位の探索者の協力があれば予定より深い階層に潜り込んでもいい、という風になってるんですよ。Cランク試験の時はよく使われる手なのですが……ちゃんと合格できれば新しくCランクの探索者証を作ることになりますし問題ありません。むしろ、ちゃんと黄色くなることでサボらずに試験を突破してきた、という証明にもなるんじゃないかと思います」
「なるほど。じゃあ、安心して時間を待つことにします」
言葉で落ち着かせておいて、自分の仕事に取り掛かることにします。Cランク試験がこっちでも同じ時間なら十時から始まるはずですので、それまでは精々緊張しててもらいつつ、時間が近づいたら一階に向かってもらうことにしましょう。
全員が出勤してきて阿南さんの朝礼が始まります。
「では、私のパーティーはいつも通り七層からの九層でしっかり稼いでくる。文月さんの……いえ、今泉君達はCランク試験を受けてきてください。高野君達は引き続きソードゴブリン退治で早めに稼いで、こっちもDランクに早めになれるように頑張りましょう。では解散で」
非常にシンプルなお互いの日程確認だけをし終えて話は終わる。七層組としてはさっさと食堂でご飯を受け取ってダンジョンへ長く潜りたいだろうし、西さん達も落ち着く時間が必要でしょう。
せかせかとせわしない西さんと森崎君に比べ、石川君と今泉君は落ち着いて時間を待っている様子だ。こうもはっきり分かれるものですね。私の時はどうでしたっけねえ……覚えてないや。
今泉君が堂々と落ち着いているのはパーティーリーダーとして落ち着いている、と考えてもいいんでしょう。今泉君がこうどっしりと構えていることで、全員が浮足立つこともなく物事を粛々と進めていけるのかもしれません。
やがて時間になり、十五分前に今泉君達はそろって出ていきました。一階で時間まで待つそうです。遅れるよりはマシでしょうから、早めの準備は大事でしょう。
さて、みんなを見送ったところで私は出来上がったマニュアルを共有フォルダに全て送って、巽さんと真中長官に見てもらえるように伝えればそれで終わりだ。私の仕事の一つはこれで一つ終わるってところですかねえ。
巽さんのブースにお邪魔して、一言声をかけておく。巽さんはちょうど手が空いていたらしく「鑑定作業の合間に読ませてもらうことにするよ」と了解が取れたので、続いて真中長官にも声をかけておきます。
自称なところで申し訳ないですが、最先端探索者からの育成レポートということで上げさせてもらうマニュアルとしては、そこそこの評価をもらえるのではないかと考えています。まあまだ皮算用ですが、これで一つ仕事が終わったということで長官室へ向かいます……と、お暇かどうか確認するために念のため内線を入れておきますか。というか内線で済むなら内線で済ませましょう。
「はい、長官室です」
多田野さんが出ました。長官は両腕が空いているわけでは無さそうです。ならば多田野さんに伝えておいてもいいかもしれません。
「こちら探索課の文月です。探索者育成マニュアルが一応の形で出来上がりましたので、目の保養にでもしていただけると幸いです、と真中長官にお伝え願っていいでしょうか」
「わかりました。仕事が嫌になったあたりでお伝えすることにしましょう。多分嬉々として読み込み始めるはずです。適度な所で中断させて、続きを読みたければ仕事をしろ、とケツを叩くことにします」
「では、よろしくお願いします」
「はい、数日中には読み込ませ終わるようにはするつもりですので、それまでは感想のほうは待ってくださいね」
内線でしっかり真中長官にも伝えたことで、これで一仕事が完全に終わった。さて、なにをしますかねえ……残りの私の仕事はゴブリンキングの討伐の手伝いだけになりました。そろそろ私服や何やらもまとめ直して、洋一さんの所へ送る準備を進めてもいいのかもしれません。予定より一週間ほど早くなりますが、確実な日取りが決まればまた連絡することにしましょう。
お昼になり、食堂でワンコインランチ。今日は焼き鮭定食でした。頑張れば一口大の大きさのサケの切り身にキャベツとたっぷりの漬物、それと味噌汁にご飯。朝も和食でしたし、今日は一日和食で終わることにしましょうかねえ。ご飯を食べたらちょっと調べものをして、このあたりで和食で美味しそうな店を探すとしましょう。
ササっと昼食を食べ終えて探索課に戻ると、夕食をどこで食べるか探し始めた。昼休みですし怪しいサイトにもいかないのでこのぐらいなら許されるでしょう。和食のそこそこ評価の高い店で予約なしで入れる店を三件ほどピックアップして……どれかに行けるといいですね、ぐらいの気持ちで行ってみて、ダメならホテルの夕食で済ませることにします。
さて、そろそろCランク試験組も昼食をとる時間でしょう。明日が楽しみですねえ。
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side:真中
「そろそろ見ていい? まだ? 」
真中は文月芽生によりアップロードされた最新育成マニュアル含め、三種類の書類モンスターとドロップ品のマニュアル、スキルについてのマニュアル、そして新人育成マニュアルをお預け状態にして多田野に操られるがごとく仕事をこなしていき、ちょうど昼になっていた。
「そうですね、そろそろ昼食時ですし食べながら眺めるのはお行儀が悪いですがどうぞ自由にご覧になっていてください。ほとんどが既存情報なので今更仕入れる知識は少ないとは思いますが」
そういうと、多田野も食堂に向かった。真中はお弁当を広げながら嬉々としてご飯を食べつつ、新人育成マニュアルに目を通す。
そこには、体感を理論的に裏付けた内容として各ランクにおける最適狩場案内とでも呼べるようなものがしっかりと書き込まれていた。
ダンジョンマスター会談の時の話にも出ていた、モンスターの強さや浄化される魔素の量に応じて魔結晶の出現頻度や魔結晶の価値が変わってくるという情報……それを基に、各マップのモンスターの内包魔素量を数値的に査定金額を基準にして計算し、また狩場の混み具合やモンスターのリポップ密度なども勘案されての情報が見やすいグラフや図表によって示されていた。
五層より四層のほうが儲かる、といった基準も示されており、その理由としてモンスターの混んでいる領域までの移動時間とリポップ待機時間、そして視界の広さのおかげでリポップがしにくいと言った理由。
ワイルドボアとソードゴブリンの魔結晶のドロップ金額にそれほど差がない以上、ソードゴブリンの湧きが多くゴブリンも多数いて、ヒールポーション分の稼ぎを期待できる分だけ四層を出来るだけ高速で回るほうが効率的である、といった話も含めて、そこには一つの経済的視点から算定される納得のいく説明が行われていた。
「ふむ……思った以上の拾い物だったかもしれないな、彼女は」
口元についていたご飯粒を器用に箸で一粒だけ摘まんで口の中に入れつつ、その次のDランクパーティーの育成方針について説明を受ける。出来ればここまでにスキルを一つ拾っておくことで戦術の幅は広がるが、ここはスキルがないものとして考えると……から始まる九層十層講義。
どっちを選んでも大きく差はないものの、荷物の都合や移動経路を考えると九層をひたすら回り続けるほうが効率は良いが、スキルオーブドロップを狙うなら十層も回るべきだとされている。
また、五層、六層、八層についても、可能ならばスキルオーブのドロップを目指して回り続けると運が良ければ拾えるかもしれないが、数千分の一の確率であるスキルオーブのドロップを確実に狙うには、他のパーティーが居ないことを確認しなくてはいけないため、これもそれなりに非効率ではあるが、夢はあると書かれている。
「このランク帯でスキルオーブを手に入れて売るって行為は……ちょっと考えつかないが、売ることによってギルド税の基準を満たせる点ではそれもあり、というところかな」
真中はマニュアルと会話をしながらご飯を食べ終えて、休憩の間に文月が組み上げたダンジョン探索理論に没頭することになった。多田野が帰って来るまでの間、真中は昼休みも忘れてマニュアルを読み込み、自分の知識として、そして想像力の元として文月のマニュアルを読んで、その想像力の翼を存分に羽ばたかせることで昼休憩を有意義なものとして過ごすことができたのであった。
作者からのお願い
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続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。
後毎度の誤字修正、感謝しております。





