1506:Cランク試験のお知らせ
夕方になり皆が帰ってきました。今日の収入も順調だったようで、瀬田さん・竹内君・日高君・和田君達七層初挑戦組も、阿南さんのサポートありで無事にのりきることが出来たらしいです。
火曜日に全員そろったので、みんなが帰ってきた段階で調べることが出来た情報によると、今泉、森崎、石川、西の全メンバーが無事にCランク試験受験基準である百万円のギルド税納付に達したことがわかりました。
その件を伝えると、四人とも喜んでハイタッチしあい、他のメンバーは祝福しています。当初の目的はここまでだったのですが、この後ゴブリンキングまで連れていく仕事が私にはあるので、ここからが本番、といったところでしょう。
本来なら自分たちの力だけで攻略してこそボス戦だとは言えるのでしょうが、ダンジョン攻略に楽が出来るならそれに越したことはないので素直にボス戦にも乱入して出来るだけ楽に勝てるようにする算段を立てておくに限りますね。
「とりあえず、四名ともおめでとうございます。高輪ゲートウェイ官民総合利用ダンジョンでいつCランク試験が行われているかは解りませんが、明日はいつも通り休みを取って、次の一番近い日に申し込みをするようにしてください……と、今電話でカウンターのほうに聞けばわかりますかね。ちょっと確認してみましょう」
探索課に一つだけ設置されている内線電話で総合カウンターに連絡し、次のCランク試験がいつ行われるかを確認する。すると、高輪ゲートウェイ官民総合利用ダンジョンでは火・木・土の三日間行われていることがわかりました。清州ダンジョンよりも人数が多い分だけCランク希望者も多く、その分だけ日数も多い、ということなんでしょう。
「木曜日、丁度いいですね。四人とも今のうちにCランク試験の受付を済ませてきてください。受験当日は荷物の上げ下げサービスは使えないと考えてくれていいです。荷物は残しておいて後日取りに来るなり、全部持ち帰るなり手立てを考えておきましょう」
私の一言で四人ともでは早速、と受付に申請に向かった。監督者が足りないとかで問題が出ない限りは受付はされるはずなので、充足していることを祈ろう。まさかCランクを越えているから人手足りないしいいよね? と身内に監督官をやらせるわけにもいかないだろうから、私たちに声がかかる可能性は低い。
その内みんなCランクになったらそういう仕事が回ってくる可能性もあるでしょうが、今の所は大丈夫だと思っておきましょう。
「さて、これで私の仕事もあと一つになりましたね。それが終わり次第私も地元に戻る予定になっています。流石に十六層より先へは自分たちの足で行ってもらうことにしましょう。そのほうが探索っぽいですしね」
私がそういうと、一人減るんだ……という空気が少しずつ広がり始める。
「そっかー、文月さん期限付きでこっちにいるんでしたよね。もうちょっと仲良くなりたかったなあ」
世良さんは少し残念そうにしているが、私としても自分の管理監督で探索者が強くなっていく、という流れを見ることが出来たので貴重な経験が出来たと思っています。
「まあ、ダンジョン庁を辞めるわけではありませんからまたその内ふらっと用事があれば来ますよ。それに、彼らがうっかりCランク試験に落ちたらまた二日か三日延長ですからね。高野君や阿南さんはCランク試験の内容はわかっているとは思いますが、そう難しい課題を押し付けられるわけではありませんし、安心して待とうではないですか。今日今から行くというわけでもないですし、ゴブリンキングに挑むにしても前準備をきちんとしてから向かいますからね。そのあと数日ぐらいは余裕がありますから、Cランク到達祝いでもゴブリンキング撃破祝いでも良いですからみんなで飲みに行く、というのも悪くないかもしれませんね。みんな持ってますし、お高いところへ食べに行くのも悪くないでしょうし、その日までに何か考えておいてください。阿南さんからは何かありますか? 今日の初七層組の動きについては」
阿南さんに話題を振って、若干暗い話題から逸らす。阿南さんはうーん……と考えたあと、一つ話を打ち出した。
「ゴブリンキング撃破までに、という期限付きになりますが、その後の水分補給をどうするか今のうちに考えておかないといけないわね。今は文月さんが好意で水分を残しておいてくれているから楽が出来ているけど、その後どうするかは全体で共有してそれぞれでミネラルウォーターを持ち寄って共有タンクに入れていくなり、エレベーターで下ろしてくるなり色々考えましょう。私が子離れしたら帰り道にリヤカーに水分を積んでドロップ品の代わりに水分を置いてくる、という形で対応ができるようになるからそういう形で運用……うん、それがいいと思うわ。水分はできるだけ使い切らないようにして、順次七層に潜るたびに新しい水分を置いていく、という形にすれば、一層から六層まで歩いて水を持ち歩く必要はなくなってくると思う」
阿南さんは自分で提案して自分で納得したようだ。彼女自身も自分の探索が出来るようにはなりたいとは思っているはずですが、そのへんはあまり突くと蛇がでそうなのでやめておきましょう。もしかしたら飲み会で愚痴りつつも自分ものんびり探索行きたいなんて話が出てきた際は、高野君に付き合ったように一日補助をしながら二人で潜るというのも中々悪くないかもしれません。
とりあえず今日はお疲れ様でした、と解散して私は作り終えたマニュアルを阿南さんに見せておく。阿南さんの反応を見て、それから修正するべきところは修正していく、という方向性で行きましょう。
「うーん、パッと見た限りは問題ないと思うわ。もしも他の課や局から探索課に挑みたいって意見があって異動してくる人が居たとしても、これを基にすれば何とかなるとは思う。ただ、パーティー単位での行動がベースになってるから、ソロやペアで探索する時にはどうするべきか、というのを考えておくべきね」
「なるほど、それは手持ちにない視点でしたね。ソロの時はどうするべきか……ちょっと考えておきます」
おおよその点でヨシをもらえたので、この方針で行くことに間違いはないのでしょう。阿南さん自身が体験したことのないところまでマニュアル化してしまっていますが、そこまでみんなが潜り始めるころにはまた情勢が変わっているでしょうし、マニュアルは随時必要なときに更新する物でもありますからまたその頃にお邪魔するかもしれませんね。
今日のところはこれで解散しましょう。明日はマニュアルを巽さんと真中長官に見せた上で、未解禁情報状態になっているモンスターデータとドロップ品の話についてマニュアルに盛り込んでもいいかどうかのチェックを受けたいとは思いますが、真中長官は暇なんでしょうかねえ。暇そうだったら聞くぐらいにしておきましょう。
さて……夕食はどうしますかね。ホテルで三日連続夕食というのも悪くありませんが違ったものも食べたいですね。たまにはのんびり夕食を物色するのもいいかもしれませんね。
「文月さんはこの後ホテルへまっすぐ帰るの? それとも何処か食べに行くの? 」
阿南さんから食事のお誘いみたいなものが届いた。ちょうどいいお届け物ですねえ
「今それに悩んでいたところです。仕事の終わりが見えてきたのでせっかくなら色々食べ比べておきたいとも思っているところですが、どこで食べましょうかねえ」
「一緒していいかしら。ちょうど予定もないし、一人で食べるのも寂しいような気がしてたのよね」
同志を手に入れました。二日酔いにならない程度ならお酒もたしなめるでしょうし、ほどほど食べれる場所を探しますか。
「どこが良いですかね? ざっと調べてこれだけ出てきましたが」
阿南さんに検索した結果と口コミ情報を見せる。しばらく二人で悩んだ後、色気なく串カツ屋で呑む、ということになった。ビールは一杯までにしておきましょう。
選んだ店に行くと並ばず入れたのは良いことですね。早速ビールと串を適当に選ぶと乾杯。ご飯ものも遅れて追加注文すると、届いた串と共にビールで乾杯して早速二人飲みを開始する。
「……ふぅ。後二週間で文月さんも戻っちゃうのね」
「まー、予定だとそうなりますね。私としてはいい経験になりましたよ。人を使って目的を達するって意味では充分企業人として……いえ、公務員としての仕事をしたことになりますし、一カ月少々だったとしてもちゃんと仕事をしてたという立派な肩書は付きましたからね。マニュアルがいつまで通用するかどうかわかりませんが、また戻ってくるときにグルグル回ってマニュアルを書きなおす手間はあるかもしれませんが、その時はみんなの成長を喜ぶところでしょうね」
「ふうん。そのみんなの成長には私も入ってるのかしら? 」
「まあ、一応は。ただ阿南さんの場合一人だけ突出してランクが高いですから、今泉君達がBランクになるころまで自分の探索をさせてあげられないのはちょっとストレスかもしれませんね。申し訳ないです」
「いいわよ。元々キャリア入庁した時点で人の上で扱うほうの役になるのは目に見えてたし、Bランクまで頑張ったのも、他人の上に立っておいて自分の探索者ランクが低いんじゃ格好がつかないと思ったのも理由の中だしね」
なるほど、そういう理由でBランクまで頑張ったわけですか。相当無茶をしたような気がしますが、おかげで阿南さんとこうしてのんびりおしゃべりしながら夕食を共にするのもお互いのランクの高さを物語る所ではあるんでしょう。
「私の場合はダンジョン庁の口車に乗ってお金稼いでたらあれよあれよという間にB+になってしまいましたからね。そのままダンジョン庁にこれたのは努力もありますが、勉強と探索を両立できたのは相棒のおかげですかね。ほどほどにブレーキをかけてくれたおかげでもあります」
二人豚串を食べてはビールで流し込み、追加の串を注文。次は鶏に行きましょう。胃袋に余裕があったら牛も行きましょう。食べられるものはできるだけ食べてしっかり味を覚えておくことにしましょう。
「無事に終わると良いですねえ、Cランク試験」
「あの四人なら大丈夫だと思うわよ。なんだかんだ言ってしっかり実力はあるようだし、十層でも問題なく活動できるし、スキルも一つあるし。何回も九層に潜った分だけ実力はあるし、十一層に行くことになっても問題なく戦えるわよ」
届いた焼き鳥を一気に一串分食べてビールで流し込み、二杯目のビールを注文する。
「まあ、その点は私も心配はしてないんですよね。ただ、Cランクになってすぐに一気にゴブリンキングまでたどり着けるかどうかの心配だけですねえ。多少無理をさせるとはいえ、そこまでしてしまっていいのかどうかが悩ましいところです」
「いいんじゃないかしら。順番に自力で攻略しなきゃいけないというルールはないしね。パーティーによっては、ゴブリンキングを他のパーティーに頼んで先入れしてもらって討伐実績だけもらって、エレベーターに乗れるようにするのを優先したりするらしいし」
そういえばそんなことも頼まれましたねえ。確かに合理的ではあるんでしょうが、ダンジョンマスターとしてはちょっと不満な部分かもしれませんねえ。まあ、実際にゴブリンキングを倒したからと言って十三層か十五層でないと活動できない、という可能性も出てきますし、そのあたりは彼らに任せますか。実際に実力が及ぶ範囲で戦ってもらうことが必要でしょう。
「まあ、結果が出るのは三日後ですし、素直にそれまで待つ間何するか考えておかないとですね。こっちは仕事が一段落ついてしまいましたのでこれと言ってやることがないんですよ。精々また六十三層で稼がせてもらいますかね」
「じゃあ、私に付き合ってくれるってのはどうかな。二十八層まで抜けていくのを付き合ってくれればそれでいいわ」
「では、明日はそう言うことにしましょう。ちゃちゃっと行ってちゃちゃっと帰れるはずですよ。この間の十九層二十層の混みようを考えると、【索敵】か【物理防御】拾ってギルド税を一気に稼いでB+への足掛かりにしようとしている探索者は少なくなさそうですからねえ」
明日の予定を飲みながら決める。喫煙所や飲み会で重要事項が決まるということがたまにある、ということを身をもって体感した。明日の予定も決まったところでお腹が膨れるまで串揚げを堪能し、お酒はここまでということにして早々と解散、明日の準備に備えることになった。明日はお弁当一つで足りるよね?
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