1503:Cランク帯実地レポート
十八層に下り立って同じ風景を見る。地図を確認するが、ここもほぼ同じような形で目視できるオブジェクトを経由して進めるらしい。確か小西ダンジョンの場合、十八層では目視オブジェクトがなくてドローンで検索してやっと見つけて……という流れだった覚えがあります。
「ここも広いですね」
「目視できるオブジェクトがあるだけでも難易度は低めです。何もないところをドローンを飛ばしながら行かないと進めないマップも他のダンジョンにはあるぐらいですから、ここは広いという難易度を除けば充分優しいほうになるでしょう」
バトルゴートの突進を槍でそのまま突き刺して黒い粒子に還す。当然倒してきた以上バトルゴートの毛も出るが、今回は毛は高野君が、肉は私が受け持つことになりました。ポーションは毛がクッションになる分高野君に任せようと思いますが、ダンジョンハイエナがもしヒールポーションを落とした時は区別として私が受け取ろうと思います。
示された順路なりに進みますが、人が踏んで倒れた草はそのまま倒れたままらしく、かなりの人数が踏み分けてみた分が道のようになってわかりやすくなっています。
その道に沿って出てくるモンスターは若干少なめ。小西ダンジョンと比べても少なめ、という判断を下すことはできると思います。ただ、マップが広いので一歩順路から外れて率先的に戦闘に入れば、小西ダンジョンとそう変わらない密度で探索をすることはできるでしょう。
「そういえば、文月さんは何で探索者になろうと思ったんですか? 」
暇つぶしになのか、索敵しなくていい分暇になって仕方ないのか、高野君から質問が飛んでくる。
「奨学金を返すためにアルバイト代わりに……というのが当初の目的でしたね。半年もたたない間にそんなことを言ってる場合じゃないぐらいお金が手に入ったので学業を優先するという約束付きでひたすらダンジョンに潜ってましたけど」
「約束……ってパーティーメンバーとですか? 」
「メンバーと言っても一人ですけどね。ちゃんとそれを踏まえたうえでペース配分をしてくれたのはありがたいとは思っていますし、そのメンバーのおかげでマニュアル作りも随分わかりやすくて確実なものが出来上がったと思っていますよ」
「公私ともに……って奴ですか? そのパーティーメンバーとは。多分その言い方だと男性ですよね」
プライベートな質問に変わってきた。はっきり答えてしまうほうが後腐れなくていいかもしれませんね。
「そうですよ。今も私の帰りを待ちつつダンジョンに潜ってるはずです。他にあまり趣味の無い人なのでひたすらお金を貯め続けているはずです。多分、国内の探索者じゃ一番稼いでいるんじゃないでしょうかね」
「そこまでの人とパーティー組んでたんですか……凄いですね」
魔法矢を地面から引きはがすほどの威力で下方から打ち込み、文字通り串刺しにされたような状態で空中で黒い粒子になって消えていくバトルゴート。それと共に戦っていた高野君が「お? 」と反応。
「どうやら今ので身体強化が一レベル上がったみたいです。ご馳走様です」
「お粗末様です」
「これならこっちも……よっと」
他の剣や刀に比べて反りの激しい剣タイプの武器を振り回して、真っ直ぐ差し込むだけで切り込む形になる不思議な形状の……三日月刀とでも言うんでしょうか、そんな形の武器でバトルゴートに無理矢理剣先を差し込んでずっぱりと切り刻んで内側から外に切り裂く形でバトルゴートを絶命させる。
中々のパワープレイであるように感じますが、無理をしてないという意味ではここではそれなりに戦った経験があるように感じられます。おそらくですが十八層までは潜った経験はある、ということなのでしょうねえ。
「問題なさそうですか? 」
「問題ありません。次行きましょう」
確認を取り、次のオブジェクトへ進む。大岩……いや、中岩ですね。階段のそれよりは二回りか三回り小さい細長い岩を抜け、次の一本だけ生えてる木に向かって進みます。どうやら十八層は階段間の距離は比較的近いらしく、次の木にたどり着いたら次は大岩らしいです。ほぼ一本道ですし、最短ルートを通る道もあったのかもしれませんねえ。
そのまま一本の木が生える所まで道中のレッドカウやバトルゴートを蹴散らしながら向かいます。目的は踏破することなので、どっちがどのぐらい戦ったか……というのを気にすることなく行けるのはせめてもの私へのストレス解消法ではありますね。歩くだけという時間は結構ストレスのかかるものだと感じ始めたのも、高輪ゲートウェイ官民総合利用ダンジョンに来てからのような気がします。
いかに、小西ダンジョンのモンスターリポップ量が多いかが判断できますね。清州ダンジョンでもそうでしたが、モンスターはほどほどに湧いているに越したことはありません。荷物は重くなりますが、その分確実な戦果を持ち帰れるわけですからね。
今こっちには視界範囲に三パーティーほど存在するので、その分モンスター密度が薄くなるのは仕方がないことですが、その分先に進ませてもらっていると考えれば今日の目的にも合致するので問題ないでしょう。
サクサクと草原を進み、十八層の階段までやってきました。流石に二人とはいえ、夕方から夜にかけての探索は専門の探索者がやっていることもあり、モンスターはそこそこ湧いているので荷物もだんだん重さを感じ始めてきています。後二階層分の荷物は……かろうじて持てるかな? という具合ですね。
あんまり湧き放題なら考える所ではありますが、流石にCランク最深層だけあって十九層と二十層はそれだけ混んでいるだろうと思いたいところです。
十九層に入り、マップがガラッと変わるようなことはありませんでしたが、ここからはダンジョンハイエナが出ます。つまり目的の一つでもあり、今や探索者パーティーに一つは必ず覚えておきたいスキルである【索敵】のドロップポイントでもあります。
人数の多い高輪ゲートウェイ官民総合利用ダンジョンのことですから、既に誰かが取得し終えてクールタイムに入っている可能性は非常に高いです。期待せずに進むほうがいいでしょうね。
階段のある方角へは途中までは目標物がないとの事なので、とりあえず方角を確認してからそちらに歩きだすことになります。すると、早速バトルゴートとダンジョンハイエナが喧嘩している場面に遭遇しました。
「あれは放っておいても良いのですが、モンスターがモンスターを倒すとドロップ品が出ないことが確認されているので、適当に弱ったところで乱入するのが省エネで良いのですが、今回は面倒くさいのでまとめて倒します」
魔法矢をモンスターの数分だけ発射し、それぞれ一発で倒していく。流石に十九層二十層のモンスターともなれば、四重化された【魔法矢】スキルで一撃で倒せるのも納得がいくところでしょう。四重化までされているのを知っているのは巽さんと小西ダンジョンのメンバーだけですが。
「流石ですね」
「ダンジョンハイエナは耐久力はそれほど高くないので、攻撃力が厄介なだけでそれほど脅威に感じることはありませんよ。ただ、数が多いことだけ注意すればなんとかなります」
「勉強させていただきました」
高野君が腰を折って礼をしてくる。ちょっとだけ気分が良いですねえ。まあ、いずれパーティーメンバー誘ってここまで来てもらうことになるわけですし、今日の一回で慣れろ、というのはちょっと無理を要求しすぎな話です。今日は通り抜けだけということになってますし、そのままモンスターの特性だけ覚えて帰ってもらうことにしましょう。
そのまま階段に近いとされる方角に向かうと、丁度ギリギリ十八層への階段が見える位置まで来たところで、次の目視できるオブジェクトが目に入ってきました。木が三本生えています。次はこれを目標にすればいいのですね。地図を見直しましたがそれで間違いないそうです。
「ここはちょっとしたトラップですねえ。きっと最初にここを通り抜けたパーティーも……その時はエレベーターもなかったわけですから、今よりさらに重い荷物を背負っての行軍だったはずで、それに比べればピクニックみたいなものですねえ」
「本当なら十九層を一人でうろうろするのは自殺行為みたいなもんだとは思いますが……まあ文月さんだしそれも納得と思ってしまそうな自分が怖いですね。本来ならパーティーで固まって行動するようなところですから」
「そうですよー。だからちゃんとついてきてくださいね、うっかり離れてダンジョンハイエナに囲まれたら高野君では危ないかもしれませんし、あいつら攻撃力は高いようですから」
そう言うと、高野君は大人しく私の後ろを歩き始めた。戦闘になると私がターゲットしてないモンスターを狙って動くようになり、だんだん動きも洗練され始めてきた。常に一匹か二匹を高野君向けに残すようにして、残りを片付けていく。
高野君自身もそういう風に誘導されているな? とは感じているようで、暇にならない程度に戦闘に手を出させることでお互いちゃんと探索してる的な空気を醸し出しているようにも見えるでしょう。
三本の木までたどり着くと、次は……次はもう階段ですか。ここは結構短いですね。だんだんパーティーも増えてきましたし、いよいよ二十層はモンスターと出会う気配すらなくなる可能性も出てきます。そうなれば移動するだけの私たちにとっては楽ちんですね。
階段に向かってダンジョンハイエナとレッドカウとバトルゴートがぽつぽつと湧いてはいるものの、他のパーティーが先に戦いにかかるためこちらは歩いているだけ。暇ですね。暇なのはいいことのはずですが、たまには暴れたくなるのも仕方ないところでしょう。
階段に到着すると、階段で休んでいるパーティーが三つ。これは混むはずです。それぞれ水分補給や食事をしているので、時刻を見ると午後十一時。この時間なら仕方がないかもしれませんね。深夜組が仮眠を終えて動き出している真っ最中、というところでしょう。
これなら二十層も期待はできないかな。でも、さっさと移動して帰れるのは良いことかもしれません。今日中に帰るということであればあまり残業はせずに済みますし、かろうじて睡眠時間も取れるので問題ないでしょう。
「さて、お待ちかねのの二十層です。できるだけ歩くだけで済むと良いですねえ」
「この時間でも結構人が居るもんですね。やっぱり、この辺は探索者専業の人だったりするんでしょうか? 」
「Cランクぐらいなら兼業が居ても不思議はないですが、二十層まで……となると専業と考えたほうが良さそうですね。休みの日に潜る兼業探索者なら土日に潜るでしょうし、今週は祝日もないですからね」
二十層への階段をおりていく。後一階層。帰るのは最短で一時半ぐらい、そこからホテルに帰って身支度して二時。睡眠をとる時間は充分ありますね。食べてすぐ寝るのは問題ですが……お弁当どうしましょうかねえ。流石に一日置くのは問題なので、資料を纏めつつ二十一層で食べてから帰ることにしましょうか。
二十層へ降り立つと、そこは探索者だらけのマップと化していた。流石に混み過ぎらしく、入れ違いに十九層へ向かうパーティーもちらほら。やはりダンジョンハイエナが多く湧く分、こっちのほうが収入になるだろうと考えているパーティーは多いようです。
「これは移動が楽そうですね……と、階段はあっちですか。この階層は地図がわかりやすくて助かりますねえ」
「どれどれ……これなら最悪地図がなくても迷う心配はなさそうですね。モンスターも居ませんし、早足気味に二十一層にたどり着いてご飯と休憩にしましょうか」
「まあ、一回二回の戦闘は挟むでしょうがそれぐらいで終わりそうな感じですね。まあほどほどに稼げることを祈っていきましょう」
二十層は小西ダンジョンのように二十一層までの道が敷かれているでもなく、ここまでの草原マップと同じでオブジェクトを跨いで行くタイプの階層らしい。
それぞれのオブジェクトにはパーティーが張り込んでいて、そのオブジェクトの周囲のモンスターを倒していくのがここのローカルルールみたいなものらしい。それが嫌なら迷う可能性を考えながらオブジェクトから離れて探索をする、という形のようだ。
「ローカルルールがちゃんと機能してる……みたいな感じかな。お互いの領域には近づかずに自分たちの視界内に湧いたモンスターを対処してる感じですね」
「それぞれのオブジェクトの近くにモンスターが湧くってところかな。減ってきて暇になったらオブジェクトから離れて探索をして、また帰ってきて、を繰り返すみたいだね」
「本格的に稼ぎたかったらオブジェクトから離れたところで探索するしかないってところでしょう。さて、私たちは目的の二十一層へ向けていきますよ」
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