1502:いつもと違う二人行
仮眠をとって、ギリギリ世良さん達がみんなが帰ってこないうちに着替えて装備を確認して、お弁当を二つ大盛でお願いして、受け取った後ダンジョンに潜ります。思いついたら早速行動。探索者に大事な心掛けです。
エレベーター待ちの長い列をうんざりしながら待つ間に、高野君のおごりというか、私が先導する代金代わりに十五層から二十一層の地図を買ってきてもらいました。このぐらいなら許されますよね。
流石に広大な高輪ゲートウェイ官民総合利用ダンジョンだけあって、地図の大きさも広さも、そして十六層の複雑さも輪をかけて広がっています。これは巡るのは大変そうですね。
「うーん、小西ダンジョンとは大違いですねえ」
「まあ、国内最大である分だけよりそう感じるんだろうね。一階層何時間かかるやら。お弁当は二つ買ってきて正解だったかな? 」
「二十一層行くまでに疲れ果ててその場で眠り込む準備も考えないといけませんしね。そこまではまあ気合でなんとかするしかないでしょう」
「このあと最低もう一回は付き合う必要がある、と考えると大変になるな、この広さは」
二人で高輪ゲートウェイ官民総合利用ダンジョンの名前の長さとマップの広さにうんざりしている。やはり狭くて程よく密度のある小西ダンジョンが懐かしいです。早く帰りたいですねえ。
エレベーター待ちの時間は順番に解消し、自分達の番になる。ゴブリンキングの角をはめて、最下層表示されている十四層へのボタンをポチ。高野君が二十一層まで行けないのは間違いないらしいですね。
このエレベーター、乗っている人にまとわりつく魔素を判別できるらしく、到達可能な一番浅い層までしか表示されないので、六十三層まで行ける私と十四層までしか行けない高野君が同時に乗ると、十四層までしか表示されないという便利な判別機能が付いています。
試しにゴキの魔結晶を三つ放り込んでみた結果がこれなので、確実に行けないことを目視で確認できました。五千円無駄にしたとも言いますが……まあ確認は大事ですからね。実は二十一層まで行った覚えがあった、とかならこの話は一気に解決して、短時間で二十層と十九層の混み具合を確認して……とやる予定ですが、まあいいです。
十分ほどで十四層にたどり着くと、人の量はまだ夕方なのかそこそこ。ボス待ちの順番も二、三パーティーが待っているという状況でした。月曜日の夕方はそこそこ人が居る……というのは間違いないらしいですね。
「流石にボス待ちはいますか……まあ今回はボスはパスできるので素直に十六層までいけるのは便利なところですねえ」
「さて、では文月さん、申し訳ないがお付き合い願いますよ。十六層は……階段へは入り組んでる割に近いのかな? でもマップの入り組み方と細かさを見る感じ、急ぎ気味に行ったとしても一時間半ぐらいはかかりそうですね」
「十五層がシンプルだけど少し時間がかかる感じですかねえ。まあ、最短経路最短手数でさっさと通り抜けてしまいましょう。十七層に入った時点で次のマップの確認をする、ということで」
「はい、よろしくお願いします」
なんか調子狂いますね。でもまあ、ボス部屋までは何回か通った道なので問題なく通れますね。十六層で迷わないことを祈りますか。
十五層は何回かボスを倒す際に通ったのでそこまではよし、その先、ボス部屋を抜けて奥へ行き、十六層への階段へたどり着く。途中数回のネクロダッシュを問題なく解決した後、高野君のベースステータス的なものを考えながら行くが、彼自身は戦力として不足は無さそうですね。
まあ、私一人で横断できるマップですし、彼が多少足を引っ張っても問題ないとは思いますが、念のためポーションを一本拝借してきてあるので怪我なんかを負うことがあればそれを使うことにしましょう。
十六層に下り、地図とにらめっこしながら【索敵】で道があってるかどうかを確認しながら進みます。自分たち以外にも探索者はいるので全ての曲がり角や小部屋にモンスターがいるというわけではないのが移動を楽にしていてくれます。
「やっぱり昼間に来るのが階層を跨ぐのは一番でしょうねえ。夕方だとそろそろ帰り道、という探索者も多いでしょうから……ほら、向こう側からも二パーティーやってきています」
「ほら……と言われても、俺は【索敵】を持ってないので見えないんですが」
「そういえばそうでした。【索敵】があると色々便利なんですよ。モンスターが続けて並んでいることで、そこが未踏破の場所であってもそこに道がある、と判別することが出来ます」
高野君は【索敵】についてあまり知らないようなのでついでにレクチャーもしておきます。伝えるべきを伝えるのもお仕事の内ですからね。
「なるほど。壁の中にモンスターがいることはないということか。でも小部屋の場合もあるよね? 」
「その時は小部屋が連続している、とみなすことができるので、その小部屋につながる道があると判断できます。この先も小部屋が二つ並んだあと、右に折れる道があると考えられます」
二人で真っ直ぐ進むと、たしかに小部屋が連続して二つ並んでいる先に右に折れる道があり、そこにもスケルトンネクロマンサーが居たので二人ダッシュで倒す。
「ダッシュ大会もたまにやるなら楽しいですね。毎回やると面倒ですけど」
「一応ダッシュしなくても倒す方法はあるんですよ? スケルトンシリーズの魔法耐性の高さをぶち抜いたうえで核に確実にダメージを与えるだけのコントロール精度があれば、ですけど」
「それが出来るのはわかったよ。流石にまだ俺には早そうだ。いつになったら追いつけるのやら……いや、そもそも追いつけるのかな? まあ、出来るだけのことはやるんで足手まといと思って介護のほうよろしくお願いします」
「素直でよろしい」
そのまま戦闘を続けながら十七層へ到着した。疲れのほうはまだ来ていないしお腹もすいていない。高野君もこの階層までなら問題なく対処できることも確認できましたし、この先での戦闘をよく観察することにしましょう。
「久しぶりの十七層だなあ」
「ここも広いですねえ。マップは……と、一応目印があるのでそれに沿っていけばたどり着けるみたいですねえ。やっぱり何もない草原で好きなだけ迷え、という風にはなってないようです」
「あ、ここも電波通じる。やっぱり二十一層まで人力で回線を引いていくって話、本当らしいですね」
スマホを見ると、流石に不安定なものであるものの、通信を行う範囲では問題がないようだ。阿南さんからの通知に気づいたのも今だ。
「どこにいるの? ダンジョンって書いてあるけど」
素直に報告しておくほうが良さそうですね。
「高野君と二十一層まで市場調査に行ってます。戻り次第詳細は共有します」
これでよし。ここから先はまだ電波が通じていないということで、無視することにしましょう。さて、草原ですが、一本だけ生えてる木や岩など、他のマップでも見られたオブジェクトを参考にしていくことで十八層への階段まで到着できるようです。ついでに十八層の地図もみますが、こちらも同様でした。
慣れればショートカットできるマップであることは確からしいのですが、今回は初めての十七層ということで、素直に順路に従うとしましょう。
「今日のところは時間がかかりますが順路に従います。そのほうがモンスター分布や混み具合を確実に確認できそうなので」
「そういえば文月さんはどのぐらい混んでるかを確かめに来るのが目的でしたね。順路が空いていればマップも空いている、と確認できる? 」
「そんなところですねえ。ただ時間帯にもよるので、参考になるかどうかまでは解りませんが……まあ、目的のメインは十九層と二十層なのでここは通り道兼帰りのエレベーター代を稼ぐ、という方向にシフトしていきましょう」
地図に描かれたこういけば迷わない的な順路に沿って移動する。かろうじて視界に見えるそれを頼りに、途中に発生するモンスターを時々相手しながら方向を見誤ることなく進むのは慣れた。そもそも小西ダンジョンの時は目印すら見えない場所にあったりもしたので、ドローンなしで進めるだけありがたいというものです。
順番にオブジェクトを巡りながら道中に湧いている懐かしのバトルゴートやレッドカウを倒します。レッドカウの金棒はダンジョニウム製の槍で応戦するとポッキリと折れてしまうことも解りました。ダンジョニウム凄い。
自分の武器が切られて動揺している間にレッドカウに止めを刺します。かわいそうですが、これもお肉と市場調査のためです。ついでに自分が確実に強くなっていることを確認することが出来ました。
むしろ近接攻撃をしなくても今なら魔法矢でブスッと一発で倒せるのも間違いないですが、多少運動しておかないとこの後高カロリー弁当が待ってますので、体型維持にはそこそこ動く必要があるのも確かでしょう。
小西ダンジョンに帰って洋一さんに会って、一言目が「重くなった」だと、一発ぶん殴ってその後夜のダイエットに付き合ってもらう義務が発生しますからね。大事な所です。
三つほどオブジェクトを経由したところで十八層への階段にたどり着きました。どうやら丁度ここで休憩をとっているパーティーがいたので、ついでに休憩を取ることにしましょう。
「ここでお弁当食べますか。他にもパーティーがいるのでもし至近で湧いてもお互いに注意し合うことが出来ます」
「そうしましょう。焦っていく必要もないですしね。ここからちょうど後半戦、ということでもありますしタイミングもいいと思います」
階段周りに腰かけて、大盛弁当の中身を空ける。弁当の中身は見事に茶色系の食事がメインだった。やはり、肉体仕事はカロリーをとにかく詰め込むべしと思われているのか、まだ試験段階だからか、揚げ物と揚げ物と大盛のご飯に箸休め、そして揚げ物の底には油を吸わせるためのキャベツが押しつぶされて敷かれていました。
こういうので良いんですよ。大学生が喜んで食べるような、こういうハイカロリーメインの食事がとりたかったところです。胸やけを起こすほどの年齢ではないですし、これを優雅に食べてしっかり休んで、それから探索を開始しましょう。
「弁当、いい感じですね」
「ええ、肉体労働者の弁当って感じが出ていてとても雰囲気に合っていますね。もしかしたら探索者向けに弁当の販売を始めてもいいぐらいかもしれません。きっと人気が出ますよ」
しかし、ダンジョン庁職員限定だからこそこれだけの値段で大盛を作れる、という部分もあるはずなので、一般にまで販売を始めたら手が足りなくなるかクオリティが落ちる可能性のほうが高いですね。やはり自分たち専用、ということにしておいたほうがいいでしょう。
高カロリー増加食を食べ終えて少しだけスーツのスラックスのアジャスターを緩めると、座り込んで軽く休みます。座り込むためのシートぐらいは用意してくるべきでしたか。せっかくなのでと階段で座り込んでいますが、周りが見えなくても【索敵】があるのでモンスターが近づいてもすぐわかるようにはしてあります。
高野君も食事を食べ終わって、満足したのか隣に座り、のんびり水分を取りながら休憩しています。前もこんなことをやっていたような気がしますね。あの時より危険度は随分下とはいえ、ダンジョンのセーフエリアでもない所でのんびりするのも少しスリルがあって悪くはないですね。
他のパーティーも緩やかに休憩を開始しているので、階段で座っている自分たちに戦う順番が回ってくる可能性は低いだろう。
軽く目を閉じ、アラームをかけて座ったままの休憩に入る。流石に朝起きて仮眠をとったとはいえ、後半戦で眠くなる可能性はあるし、いくら物理耐性と魔法耐性でしっかり防御を固めてるとはいえ油断は良くないです。
高野君のほうはそこまででもないんだから、自分が手を抜くような形で相棒に重荷を負わせるわけにはいきませんから、ここは無理にでも休んでしまうほうがいいでしょう。
十五分ほど休んだ後アラームが鳴り、その音で目を覚ます。高野君は階段にもたれかかる形で眠っていた。やはりそれなりに疲れていたらしいですねえ。高野君を揺り動かして起こします。
「寝てましたか」
「ええ、ぐっすりと。お腹のほうは大丈夫ですか? 」
「眠ってる間に消化は進んだようなので大丈夫だと思います」
「では、行きましょうか。後三階層、進んで人口調査して、自分で得た結果を基に算出し直してマニュアルに書き直しをしましょう。そうすればよりわかりやすいマニュアルになるはずです」
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