1498:大盛弁当八百円
朝です。昨日は少しだけ残業してマニュアルの不備を指摘されたり書き直しをしたりで少し遅い帰宅でしたが、それほど長い時間ではなかったので思ったよりは早めに帰れました。
昨日の夕食のビーフストロガノフは中々絶品でしたね。いいお店を見つけたのでまた通いたいと思いますが、ホテルの夕食も味わっておきたいので、こっちにいる間に出来るだけいろんな店に通って贅の限りを尽くしたいところです。
さて、今日もいつものビュッフェ朝食に行きましょう。シャワーを浴びて私服に着替えてメイクをした後朝ご飯です。今日は……昨日は和食だったので今日はいつも通りトーストにしますかね。バターをぬりぬりして安村家の朝食と遜色ないだけのご飯を取ると、そこにミニトマトとカボチャを薄切りにして焼いた奴を数枚載せて、ちょっと彩り鮮やかにします。
もう少し何か欲しいですね、トマトジュースかオレンジジュースか……今日はトマトにしておきましょう。オレンジは明日でも飲めるような気がします。
一通り食べるものを見繕ったところでいただきます。どうやら焼き立てを用意してくれてあったらしく、バターが熱で綺麗にとけて流れていきます。サクサクとしたトーストがやはり美味しさをそそりますね。野菜も欠かさず食べましょう。食堂のご飯では少々野菜成分が不足しがちですからね。
腹七分、というところで止めておきます。野菜で残りを埋めるのも良いですが、今日も半日はデスクワークの予定ですしあまり身体を動かさない分控えめにしておきましょうかねえ。
部屋に戻ってスーツに着替えて、身支度を済ませます。さて……
メイク、ヨシ!
スマホ、ヨシ!
スーツ、ヨシ!
お財布、ヨシ! 中身もヨシ!
でっかいバッグ、ヨシ!
お弁当、ナシ! 今日は食堂!
コップ、ヨシ!
装備、ナシ! 一式更衣室に置いてある!
指さし確認は大事です。指さし確認を行ってこれまでに忘れ物をしてうっかりホテルまで戻る……といった行為は行っていないので、これは確実に意味がある物として機能しているんでしょう。その内部署でも広めていきたいですね。
◇◆◇◆◇◆◇
探索課に早めに到着し、昨日の続きを早速始めようと思ったが、就業前だからか巽さんが自分のブースから出てコーヒーを飲んで課長の席に座っていた。何やら全員そろったところで話すことがあるらしい。
「おはようございます、朝礼にはまだ早いですが連絡事項ですか? 」
「そういうことになるね。まあ、連絡というほどのものでもないんだけど、全員に認識しておいてもらいたいことがある、ということになる」
なんでしょう、残業しすぎ、とかそういうのでしょうか。普段九時六時で仕事をしているので一時間毎日残業をしている形になりますが、それの是正、ということでしょうか。
ちょっと考えごとをしている間に今泉君達以外の全員が揃ったところで巽さんが口を開き始める。
「みんなおはよう。今更だけど、高野君達は少し前にEランクに、そして今日から阿南さん達のパーティーはDランクに認定された。今後も頑張ってほしい。育成方針についてはそれぞれあるだろうけど、Dランクになったからと言って今すぐ九層や十層へ行って精一杯稼いでこいとは言わないので、まず安全第一で装備をそろえて荷物をそろえて、無理のない範囲で探索を行ってもらいたい。文月さん達のパーティーは今ごろ戦闘中かな? 帰ってきたら言うけれど、彼らもCランク試験を受けられるだけのギルド税納付が後一週間ほどで見込めることも確認した。文月さんは彼らをゴブリンキング撃破まで手伝う、ということでよろしくお願いします」
なるほど、全員に用事があったというのはそういうことですか。今電話をかけてネット通話で会議を聞く、ということは出来そうだがうっかり仮眠中や戦闘中に鳴らして注意を逸らさせるのはあまり褒められた行動ではありませんからこちらから改めて通達する形になるでしょうねえ。
「三週間ほどしか経ってないが、充分に実力をつけて行ってくれてるのが数値で確認できているのでこのまま順調に進んでくれると嬉しいが、何事も問題なく過ぎ去る、というのも緊急時対応が出来なくなるからそれはそれで困りごとになるのかな? まあ、何でも相談しあってケーススタディの場を増やしてくれると嬉しいね。今の所は、だが全員新入庁員の横並びだ。もう少し経てばハッキリとした身分を発行してくれるように真中長官には掛け合うから、それまでもその後も仲良くやっていってもらいたい。僕からは以上だ。何か聞きたいこととかあったら今のうちに頼むよ」
巽さんの話が終わったので一言質問しようと手をあげようとしたら、先に阿南さんに手をあげられてしまった。
「今の所は、と協調されるということは、見込みの段階で私たちの中に多少なりとも上下関係が出来上がる、ということでしょうか」
「まあ、ハッキリ言えばそうだ。特に阿南さんは気になっていたかもしれないね。自分だけキャリア組なのに肩書も何もなく同じとして扱われていることに」
「いえ、そう言うわけではないのですが……一応そういうところも勘案してくださっているなありがたいところではあるかな、と思うところです」
キャリア組だからなー阿南さん。そういう風に見せないようにはしているけど、一応気にしてはいたんだな、ということなんでしょう。一般組に探索者としては上位に当たる私がいたものだから、せめて階級ぐらい上でもいいでしょう? という感じなのかもしれない。
巽さんはチラッと私のほうを見て目が合うと、その後阿南さんのほうに向きなおり、言葉を続ける。
「まあ、みんなが納得するような形で人事をきっちり決める段階に来た、ということだね。多分いつも通り、という形には収まると思うので心配はしなくていいよ。ダンジョン庁も探索課という大きなひとくくりは設けたものの、その中ではまだぼんやりしてた組織の内容をよりくっきりさせるための準備が整った、という所だろうね。詳しくは真中長官が暇になった時の月曜の全体朝礼ででも発表するだろうからそれを楽しみにしておくといいよ。僕からはそんなところかな。というわけで、阿南さんのパーティーはDランクに探索者証を更新しておいてね。後、食堂のお弁当の話なんだけど」
全員が巽さんの方向を一斉に向いて、巽さんを貫く視線の多さに巽さんが少したじろぐ。
「あ、はは。みんな食事に関してはやはり気になってたみたいだね。三百円増加で大き目の弁当を作ってくれる、というのを今日から始めることになったから、大盛弁当を注文すれば八百円で弁当二個ほどではないけどそれなりの量の多さの弁当を作ってくれるようになってるはずだ。気になる人は早速今日から利用してみてほしい。他の部署でも伝えることになってるので、全部署で人気があれば定番メニューとして置かれることになるようになると思う。今回はとりあえず二週間のお試し、ということになってるからね。できるだけ多く注文が入ると嬉しいところだけど、探索課からのお願いで、というのは通じてるはずなので他の部署からありがとうが飛来する可能性はある、とだけ覚えておいてくれていいよ」
手を叩き合っているメンバーも居れば小さくガッツポーズしている人もいる。女性でも大盛弁当を頼むというのは肉体労働ではあることだし、弁当を二つ注文することに比べたらまだ大盛だけ、というほうが生理的に許されるような気がします。
さて、後一週間でCランク試験ということは、試験に二日使うとしてその後一週間の猶予を持って十五層まで行く、という形になるでしょう。流石に彼らだけで十三層と十五層を回るのはまだ荷が重いでしょうから、一回ぐらい一層から歩いて付きあって十五層まで進んで、そのまま私込みでゴブリンキングとの戦闘、とやっておくのが良さそうですね。
それとも、あえて順番を先取りするために先に十四層へ下りて適当な順番の番号札を選んで保持しておいて、到着する頃に合わせてボス退治、という形になるんでしょうかね。待ち時間を考慮するなら後者の方が効率的ですが……何事も予定通りに進むとは限りませんし、やはり後者の方が良さそうですね。
「では、今日もみんな頑張ってほしい。では解散で……と、何か連絡事項あったりする? 」
今度こそ手をあげてしっかりとアピールしておく。
「はい、文月さん」
「巽さんに一応目を通してもらっておきたい書類が三種類ほどあります。共有フォルダに入れてあるマニュアルを参照していただいてもらっていいですかね? 急ぎではありませんが一応上司に報告、という形でデスクワークの成果を見ておいてほしいのですが」
「わかったよ、合間で確認しておく。それ以外はないかな? ……では、今度こそ解散で」
高野君達は早速食堂へ大盛弁当を発注しに、阿南さん達は探索者証の更新に向かった。私は昼頃まで暇なはずなので、昨日の段階でボロが出ていた部分のマニュアルの修正を行うのが午前の仕事ですね。後は出来るだけ先に進む形での人材育成マニュアルを作っていきましょう。
◇◆◇◆◇◆◇
午前中の時間をたっぷりと使って細かい修正と今泉君達のこの先の育成方針について記していく。生理的に乗り越えられるかどうかがわからないゴキの壁についてもきちんと記述しておく。できるだけ腰を低くしながら戦うことで奴らは飛ぶことを思い出さない。
これをきちんと書いておくことで、飛びつかれて噛まれて毒を喰らったりしないようにというのと、念のため人数分のキュアポーションを所持させておくことも忘れない。後は二十五層に突入するまでに【索敵】を入手させるか、【索敵】を持ったパーティーと同道するように厳命しておくことも書いておく。
一応サーマルフィルタ付きのゴーグルが開発されており、索敵の代わりになることは明記もしておくが、【索敵】があるなら確実に手に入れておきたいところではある。ただ、入手できるのは二十五層から二十七層のカメレオンダンジョンリザードと二十層十九層のダンジョンハイエナだけ、ということを考えると、ライバルは相当多いので難しいだろうということは考えておいてもらわないといけない。
今の今泉君達の運の総量を考えると、Cランク試験前に【雷魔法】を手に入れたことで使い果たしてしまっているかもしれませんねえ。まあ、その頃には私はここにはいないでしょうから彼らなりの方法で解決するであろうことを願っておきますかねえ。後はゴーレムにまともに立ち向かったら怪我するので絶対回避で行くことも書いておかなければ……やることが多いですねえ。
気が付けばあっという間に昼を過ぎていました。少し遅れましたが食堂に向かいましょう。大盛弁当がどのぐらい大盛なのかを確認するためにも、ここは私も大盛弁当をたの……あ、食堂ワンコインメニューがプラス三百円で大盛に出来ると書いてありますね。どのぐらい大盛になるのか気になるので今日のお昼はこれですね。
「大盛一つ」
「あら、探索課の。今日は外回りじゃないの? 」
「今日は午後からです。午前中はパソコン仕事でした」
「じゃあ、しっかり食べていかないとね。大盛お待ち」
今日はサクサクトンカツでした。大盛の分だけ、カツが一枚半、というところでしょう。後ろの人たちも試しにと大盛を頼んでいます。これも私たちの実績、ということになるんでしょうかねえ。
大盛になっても手を抜いてはおらず、いつも通り美味しい昼食を楽しみます。さて、一週間でCランク試験を受けられるのはともかく、問題は彼らが試験を受けてる間、私が何をするかを考えておかないといけませんねえ。阿南さんと高野さんを誘って十九層回りの現在の高輪ゲートウェイ官民総合利用ダンジョンの混雑状況の実地確認が必要ですかねえ。
そこが確認できれば、もしかしたら【索敵】が手に入れられるかもしれません。手に入ったら流石に今回は今泉君達に優先的に回してもらえるように手配させてもらおうと思いますが、こればっかりはダンジョンの采配。私自身は特別な存在ではないわけですから、私の都合でポンポンとスキルオーブを手に入れてもらうわけにもいきません。
苦労しそうですねえ。後発だから仕方ないのかもしれませんが、この調子で進んでいってもらうことにしましょう。少なくともCランクになることはほぼ確定路線ということで間違いなさそうですから、うまいこと今泉君には直前ではありますがスキルアップしてもらって当日までにある程度雷魔法スキルを使いこなしてもらうことにしましょう。
彼が雷魔法を使いこなせればサンダーウェブと呼んでいた茂君の一発取りもできるようになりますし、八層のダーククロウの放置されっぷりを考えるとこれを使えるかどうかで便利さも変わります。今日は一層へ戻っても真っ直ぐ帰らずに、みんなにドライフルーツによる強制スキルアップに付き合ってもらうことにしますか。
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続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。
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