1496:コロッケ定食と雑談、そしてスキル情報の整理
食堂でワンコインランチを頼みます。今日はほとんど動いていないので軽めの食事にします。と言っても五百円でそこそこの量を提供してくれているので充分カロリーは取れるとは思うのですが。お腹のお肉を少し触り、太ってないことを確認すると安心して食事に取り掛かります。
今日はコロッケ定食でした。やはり定番ですし、食堂のコロッケは美味しいしお腹にも貯まるしで悪くないチョイスですね。ソースをちょいかけして、野菜から順番に食べていきます。そういえば野菜から順番に食べていく方が体にはいいという話ですが、コース料理ぐらい間が空くような食事でもない限りはそれほど違いはないそうですね。
なので気にせずまずコロッケをパクリと一口。揚げたてコロッケのサクサク感がたまりませんね。衣もいい具合についていて、スーパーの安いコロッケのへばりついたような衣ではなくしっかりと衣をまとわせたお肉屋さんのコロッケのような風情を感じさせます。
しばらく舌鼓を打っていると、巽さんがやってきて私の正面に座りました。
「相席いいかい? 一人で食べるのも味気なくてね」
「どうぞ、ただ、私のほうが先に食事を始めたので少し早く上がることになるかもしれませんが」
「かまわないよ。マニュアル作りは順調に行ってるかな? 」
どうやら、私が真剣にパソコンの前に向き合ってるのをしっかりと見ていたらしいです。ようやく上司らしいところを見せられた、といったところでしょうか。
そうだ、巽さんと言えば【鑑定】だ。食事が終わったら鑑定スキルについて軽くレクチャーを受けることにしましょう。どこまでのものが見えるのか、そして自分が知らない情報にもスキルを介してアクセスすることができるのか。そのあたりの使い勝手をしっかり聞いておいたほうがいいでしょう。
「巽さん、食事が終わったら少しいいですか? 鑑定スキルについても記述をしておきたいので簡単にで良いのでスキルの使ってる感じとか、どういう風に見えているのかとか、そういうものを知っておきたいんですが」
巽さんは味噌汁を先に飲み干す。コロッケは最後に残すタイプらしい。
「いいとも、答えられる範囲でならなんだって伝えよう。そういう僕自身もまだ鑑定スキルに完全に慣れ切ったわけではないから情報不足が出るかもしれないがそれはまた新しい情報が手に入った時にマニュアルを更新すればいいわけだからね」
ちゃんと巽さんはマニュアルの更新の大事さをわかってくれているらしい。現状で出来るだけのものを出来るだけの量でとにかく書き込み、要らないものは後からそぎ落とすなりすればいいし、足りないものは後から付け加えればいい、とはっきりしてくれている。
これなら私の知識が及ぶ範囲で作り上げた後、他の人に見てもらって更に追加する部分や要らない部分を削除する、という作業が発生するだけで済む。
「では、ご飯食べ終わったらよろしくお願いします」
「うん、任されたよ。ちなみに、猛寅会の南城さんとも少し話す機会があったから教えてもらったんだけどね、スキルが成長すれば着ている服の値段や素材なんかも解るようになるらしいよ。僕はまだまだ鍛え方が足りないらしいね」
今のも書き加えておきましょう。レアスキルは自分で成長していくんだ、という証拠の二つ目が取れました。一つ目はもちろん【保管庫】ですが、これはダンジョン庁内でも極秘事項に指定されているので迂闊に口には出せません。無難な返事をしておくことにしましょう。
「成長するってことは、レアスキルの類は多重化させなくても使い込むことで勝手に多重化と同じだけの効果を及ぼしてくれる……ということになるんでしょうか? 」
「かもしれないね。成長させたいからもう一個くれ、なんて言って素直に渡してもらえるようなスキルでもないことは自覚しているしね。そもそもダンジョンの運営や探索を効率よく行うためのスキルを、ダンジョンに潜らず地上で運用している時点で本来の意図とは違う想定になっていることもあると思うよ」
ちゃんと自分のスキルは本来ダンジョンで活かされるべきものだ、というのをちゃんと理解した上で巽さんは今の仕事をしている、と。多分そのあたりの説明は真中長官からもされているんでしょうねえ。
いわゆるサポートデスクのような役割ですが、最近出来た新規六ダンジョンから産出される宝箱からのドロップ品を鑑定する、という専門の仕事に就いてるのは今の所巽さんだけですから、そのあたりはしっかり教え込んでもらっているはずです。
多分、自分がダンジョンに潜り込んだら他のダンジョンマスターが自分を見始める、というのもしっかり教えられているんだとは思いますが、うかつに聞きだしてそこから【保管庫】の情報が漏れることもありますから慎重に言葉を選ばないといけませんね。
食事を終えて二人で部署に戻る。私がパソコンの前に座ってキーボードをたたきながら、巽さんが鑑定スキルの鑑定できる内容や人を見た場合、物を見た場合、ダンジョンのドロップ品を見た場合、とそれぞれで注釈をつけてくれています。
「……と、僕で解る範囲だとここまでかな。実際に入手する機会は十数年先かもしれないけど、それまではこの情報は更新こそされるもののスキルの所持者が増える可能性は低いんじゃないかな。もしかしたら増えるかもしれないし、他のレアスキル、例えば【保管庫】とか【採掘】とか、それ以外にもレアスキルが増えるかもしれないし、知らないスキルもあるかもしれない。それらを持ってる人に会ったらぜひ話を聞いておいてまとめてくれると嬉しいね」
保管庫ゴリッゴリに使用してて内部仕様も使い勝手もある程度把握してる……とここで白状するわけにもいきませんし、とりあえず【保管庫】についてはネットで調べて翻訳ソフトを噛ませて、表向きに出てきている情報を基にして記述していくしかありませんね。他の海外の【保管庫】の保持者は何処まで鍛えているんでしょう? ちょっと気になりますね。
ネット翻訳と自前のつたない英語力を介しながら探索者の集まり掲示板のようなものを探し出し、そこでスキルについての情報を集める。誰がやってくれたかは解らないが、各スキルについての情報が日夜更新されているようで、更新履歴を眺めても頻繁にやり取りがされていることがわかる。
さて、【保管庫】については……やはり公開してる人はいるみたいで、国外への出国が制限されている代わりにある程度の保護と他の人より高めの人権を手に入れているようだ。
保管庫スキルの実力は……と調べてみると、どうやら保管庫の個別にタイマーをつけられるところまでは成長しているようです。後、内容量の最大値は今は百トンというところらしいです。
洋一さんのほうがよく鍛えられていますね。頻繁に荷物の出し入れをしたり、限界まで入れたり出したりしたり、寝ながら一粒ずつ何かを出し入れして気絶するまでやり続ける……というところまでは鍛えることは考えていないようですねえ。
翻訳された文章を書き起こしていき、現状のレアスキルである最後の一つ、【採掘】について文章が残っていないかどうか調べます。すると、清州ダンジョンの一層を拡張した時のデータが出てきたのでそれを参考にして文章を写していきます。
なるほど、【採掘】も最初はスコップで手掘りじゃないとうまくいかなかったのですね。それが最終的には電動工具や重機にも対応してくれるようになった、ということが確認されました。現在は……今は何しているんでしょう? 土木工事が嫌になって辞めた、とかなんでしょうかね。行き先が気になります。
ともかく、これで現状の三種の神器である所のレアスキルの情報はそろいました。後は細かいスキルを詰めていきましょう。
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とりあえず自分の持っているスキルの使い具合や、まだ表には出てきてはいない【熱変動耐性】についても記述することが出来ました。特に【毒耐性】【索敵】は探索を行うためには必須スキルとして持ち歩く必要がある、としておかないといけませんねえ。
ちょっと休憩に食堂へ行き、コーヒーを飲みます。こんなにゆったり仕事をするのは初めてじゃないでしょうか。ちょっとインテリな雰囲気がしていいですね。普段はツナギを着たバリバリのブルーカラー職であることを考えると、こういう休憩がたまにあるのも悪くないですねえ。
ふと、スマホに着信がありました。今泉君からです、どうしたんでしょう?
「文月です、何かありましたか? 」
「今泉です。スキルオーブが出ましたのでまずどうするべきか報告をしようかと思いまして」
「なるほど、まず安全な場所に退避してください。話はそれからです。真っ先に自分の周りの安全を確保してください」
まず、落ち着かせるのが先でしょう。スキルが出てから四十八時間もあるのですから、まずは自分たちの身の回りの安全を確保するのが先です。
「はい、今八層まで戻って安全な所に到着したので連絡をしました。出たのは十五分ほど前になります」
今は八層でも電波が通じるようになってるんですねえ。それにもびっくりしましたが、スキルオーブが落ちたことは何よりです、きちんと狼狽えずにその場の雰囲気や気分の高揚に飲み込まれなかったのは充分加点ですね。
「それで、何のスキルオーブが出ましたか? 」
「【雷魔法】を習得しますか? と言われています」
九層では落ちやすいんですかねえ、【雷魔法】。それともよほど運がよかったか……さすがにこの広い高輪ゲートウェイ官民総合利用ダンジョンでだれがいつどこでどのスキルを落としたかをすべて把握するのは難しいですからね。今泉君達以外にもパーティーはいるはずですし、Cランクになるためのラッキーを使い果たしたかもしれませんねえ。
「なるほど、ということはジャイアントアントからですかねえ? 」
「よくわかりますね。とにかく拾ったので報告をまずしておいて、その後どうしようかを考えているんですが」
「では、その場にいる誰かが覚えちゃってください。選定方法はじゃんけんでも推薦でも構いません。今から合流して私も含めて相談する必要はありません。自分たちで勝ち取ったスキルですから、拾った自分たちに優先権があると思ってください」
どうやらスピーカーに切り替えたらしく、私の声が少しだけ反響して聞こえるような気がします。
「文月さん自身は含まれなくていいのですか? 一応パーティーメンバーということになってますが」
「それは嬉しいお誘いですが、私はその気になれば現金で買って複数個一気に覚える、ということもできますので。それよりも、自分達がCランク試験を受けるためのことを考えて行動してください。早いうちに覚えて早いうちに鍛えて、Cランク試験のころにはしっかりと使いまわせるようにするのが先です。そっちの四人でよく相談して決めてください」
会話が止まる私と向こうの四人。どういう状況になっているかはわかりませんが、どうやら相談している様子が向こう側で伺えます。
しばらく話し込んだ後、「イエス! 」という声が聞こえました。どうやら今泉君が覚えたらしいですねえ。
「文月さん、俺が覚えました。これでとりあえず様子見をしつつ、試運転もしながらやってみることにします」
「わかりました。明日荷物を回収するついでに今泉君にも【雷魔法】の強制スキルアップをしてもらう予定ですので、ちょっと帰りが遅くなることだけは覚悟しておいてください」
「はい、ではまた明日連絡します。流石に一日に二個も三個もスキルオーブが出ることはないと思いますので」
「では、ご安全に探索を続けてください」
通話が切れる。Cランクになる直前のこのタイミングでスキルを拾ってしかも【雷魔法】を掴んで帰ってくるとは、今泉君達も中々いい豪運の持ち主かもしれませんねえ。これは明日の特訓が楽しみです。
自分でも何回か使い勝手を掴んでから戻ってくるでしょうし、強制スキルアップで鍛えた後さらに磨きのかかったスキルでどこまで対応できるようになってくれるのか楽しみですねえ。
さて、私のほうも続きをやりますか。みんなが帰ってくる前にあらすじ的な内容を作っておいて読んでもらって、感想を聞かせてもらわないといけません。
明日からは何をしましょうかね。一日で終わるとは思ってなかったので少々時間を持て余しそうな気がします。時間があるなら他の部署を回って一日体験でもさせてもらうことにしますか。きっと小西ダンジョンに戻ってからでも、内面を知ってるかどうかで皆に優しくなれるはずです。さあ頑張りましょう。
作者からのお願い
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続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。
後毎度の誤字修正、感謝しております。





