1493:ダンジョン庁勤務のその裏で
side:真中・久多良・小林
真中は久多良、小林とまた三人で悪だくみをしていた。悪だくみという言い方は正しくはない。正確には次にどこにダンジョンを作るかの相談である。
官専用ダンジョンから官民共用ダンジョンに移った中から三ヶ所、新たに踏破する予定のダンジョンが決まったので、それらのダンジョンの踏破が終わってから次のダンジョンを作る場所を考えていたら遅い、ということで踏破前に打ち合わせをしている最中である。
「さて、前回の六カ所のダンジョンの内五ヶ所は稼働、残り一ヶ所も半稼働状態にあると言っていいわけだが、新たに三ヶ所いい場所があれば移設場所を考えたいと思う。これはこっちで勝手に決めてもいいものなのか、それとも探索者に改めて聞きなおして希望の場所があるならそこにダンジョンを作ってくれないか? とダンジョンマスターに頼み込む形になるのかにもよるが、暫定的な場所を考えていきたいと思う。今回もダンジョンマスターは好意的に受け取ってくれるという解釈の上での話なので、しばらくサボりたいと言われたらそこまでになってしまうんだが、ダンジョンマスターの友好度に期待しておくことにするよ」
真中がいつも通り音頭を取り、久多良が国交省としての立場から立地を提案、小林はオプションである。そもそも小林は外国からダンジョンマスターを誘致した時に外務省としてダンジョン庁と国交省の立場をそれぞれ知った上で回答が出来るように、という要員だったが、なんだかんだで三人で会うのも悪くないと思って今回も参加している。
「ということは、通訳してた例の探索者伝手で話を伝えていくってことになるのか。こっちから直接意見を聞きに行くって事が出来ないのが難点と言えば難点だな」
「そこはまあ、探索者本人もある程度了承してくれていることだし、これが定期イベントにならないようにこっちとしても何とか伝手を得ようとは思うところだ。その条件が中々当てはまらなくてね」
「今回僕要りますかね? 完全に内政の話だとは思うんですが」
こうなると小林は完全に蚊帳の外である。
「まあ、どこのダンジョンが国外出身のダンジョンマスターかわかっている小林君がいたほうが便利なのは間違いはないよ。今どこにダンジョンがあってどこに新しくダンジョンが立って、それからどうなっていくか、というのを報告する立場にあるだろうからね。新規立ち上げには引き続き参加してくれる方がこっちとしてはやりやすいし、三人寄れば文殊の知恵とも言うしね。三人そろえば派閥が出来るとも言うが、今回の場合この三人とも同じ派閥で集まっているといえるんだから気兼ねなく相談できるという意味でもいてくれた方が各所に報告する手間が省けるってものだよ」
「そういうものなのかなあ……まあいいですけど。サボれますし」
「本音が駄々洩れだなあ。まあ、参加してるだけでもきちんと情報を手に入れてきている、という証拠にもなるしいいんじゃねえか」
「まあまあ。それで、次の新規ダンジョン案なんだけど、人がとにかく多いところ、人口密度が高いところ以外に、北海道に代表されるダンジョンとダンジョンの中間地点のこの辺にちょうどあってくれると嬉しい、みたいな意見を拾い上げたいと思うんだけど」
「それでいいんじゃないか、一ヶ所はそう言う場所を選定しよう」
久多良がペットボトルのコーヒーを飲みながら暢気に返事をする。どうやら元々頭にあった意見らしく、すんなり通ったということは久多良の要望通りの場所に行きそうだな、と真中は感じた。
「県によっては南北に長いのに一ヶ所しかなかったりするしな。探索者の拡充や移動の便利さや地方創生の観点からすれば欲しいところは何カ所かあるな……ちょっと部署に戻って詳しく調べて、需要の高そうなところからリストアップして次の話し合いに提出できるようにしておこう」
「頼むよ久多良君。北海道に一ヶ所は設けたいが、札幌近郊がいいのか、それとも探索者の多そうなところからピックアップするべきかどうなのかは悩むところだからね。ちなみに一ヶ所はある意味では既に場所は決めようと思うんだ」
「ある意味では、とはどういう意味だ」
久多良の問いかけに、真中が少し呼吸を溜めてから発言をし出す。
「さっきも言ったが、ダンジョンに潜る探索者自身に決めてもらおうかなと。大まかな地方だけで良いので、ここにあってくれると嬉しい、という意見を受け入れて、その中で出来るだけ近い場所で用地交渉をする、という方針でどうだろう」
「なるほど、探索者自身が選ぶなら選んでおいて潜らないはずはないだろう? という話にもなるわけか。そうなると、当然人口が多い東京周辺にまたもう一か所できることになりそうだが? 」
久多良の意見に頷きながら、真中は続きを話す。久多良は二本目のペットボトルのコーヒーを開け始めた。小林はゆっくりとコーヒーを飲みながら、二人が何を考えているのかを考えながら聞き手に回ることにした。もし途中で二人が暴走を始めたら自分が止める役かな? 等と考える余裕も出てきた。
「そこは人口密度と探索者人口の兼ね合いかな。いくら探索者人口密度が高いからと言って都心のど真ん中に作るわけにもいかないからね。どっちかというと少し離れた場所に作ってもらって、首都圏内からでも通えるしエレベーターもあるし宝箱も出るダンジョン、ということでまだレアリティの高いうちにダンジョンを設置して集客を奪ってくれると嬉しい。正直、今でもまだ高輪ゲートウェイ官民総合利用ダンジョンは混雑しすぎているという状態にある。その探索者人口を吸い上げてくれる位置にダンジョンを作りたい、というのが本当の所なんだがそうなるとどこぞの公園が新しくダンジョンに生まれ変わることになるし周辺の土地を整備するのも一苦労になる。そうならない範囲で、出来るだけ地価が安くて交通の便が良いところがいいね」
久多良は頭を掻きながらメモを高速で取り始める。小林はメモを読み取ろうとしたが、久多良独自の頭の中での記号で書き写されているらしく、そこに書かれていたのは日本語とはとても読めない記号の羅列だった。一応久多良としても他の部署や他人にメモを盗み見られてもいいようにはしているらしい。
「また面倒くさいことを考えるなあ。まあ、希望地はいくつか思い当たるが、電車のダイヤも変わることになりそうだな」
「それはそれで交通各社が儲かることになるからインフラ整備に精を出すにしろ間接的に儲かるなら充分効果はある、と考えられるだろ? 」
「まあそうなんだがな。いっその事完全なド田舎に作ってそこがどう変わるか、という視点で物事を考えることも……と、それは近いことを小西ダンジョンで実施済みだったな」
「ド田舎と言えるほど田舎でもないけどねあそこは。一応ダンジョンが出来る前からバスも電車も毎時間走ってたし、一日にバスが一回しか来ないような場所は流石に除くが、人口重心地をある程度把握しておく必要があるな。ダンジョン庁にも、一つ面倒なことを頼みたいんだがいいか? 」
久多良が真中に注文を付けはじめた。真中は両手を肩まで上げて何だい? というポーズ。
「聞ける範囲なら何でも答えるとも」
「高輪ゲートウェイ官民総合利用ダンジョンだけでもいいので、どこの都道府県から通ってきているのか、というのを把握しておいてほしい。アンケートの形で充分だ。それで高輪ゲートウェイ官民総合利用ダンジョンにどこから通ってる探索者が多いかを把握しておいてほしい。そっちに近いところにダンジョンを立てられるなら、近場に出来たんだからそっちへ移動しようという探索者はかなりの数出るはずだ。現状探索者証には住所を確認する方法がないからな。どこから通ってきているのか、というのを簡単に割り出せたらそれだけでも探索者の居住地の重心がわかる。まずはそれからだな。それを知った上で、ついでにもし高輪ゲートウェイ官民総合利用ダンジョンより近くにダンジョンが出来たら移住するか? という質問をしてみてほしい。シールを張り付けるだけの板でも良いんだ。そういうものを用意してカウントしてくれると助かるね」
真中は頭の中で聞いた話を方針としてどう生かすかを纏めると、コーヒーを飲み干して快諾した。
「それぐらいなら明日からでも始められるようにしよう。早いほうがいいんだろ? ただ、開催日を平日にするか休日にするかは大きな違いが出そうだな。それぞれでやってもらうことにするか」
「助かるよ。そうやって人の移動経路の変化を見ることも大事だろうからな。それさえしてくれれば大まかな場所は割り出すことができるだろう。首都圏に設置するダンジョンはそれで一ヶ所だな。後二ヶ所、北海道の何処かに一ヶ所と……残りはどうするね」
「各都道府県のダンジョン数を見て、少ないところに一カ所追加、という形かな。候補地で言うと……まず広すぎる北海道、それから山梨と佐賀と三重、それに長崎、鹿児島、香川、大阪……大阪は和歌山に比較的近いところに出来たから今回は除外してもいいかな。同じ理由で兵庫と奈良も除外して良いだろう。そんなところかな」
「ふむ。その中で人口に偏りがあるのはどの地域になるのだろうか……と。北海道と和歌山と鹿児島と三重あたりになるかな。どこも微妙に移動距離に時間がかかる地域が多いからな。わざわざ移住してまで探索者をやりたくないが興味はある、という層にリーチできる場所がいいな」
日本地図を広げてみると、ダンジョンの位置がマーキングされている場所にシールが貼ってある。その内、黒いシールが張られた場所は踏破済み、または踏破予定の場所である。それ以外の場所でどこが次のダンジョンにふさわしいかを吟味していく。
日本地図にはあらかじめ人口密度で色が塗られているため、おおよその人口の把握は地図を見ればわかるようになっている。今回は人気不人気もさながら、周辺地域の再開発にどれだけ影響を及ぼすかも考えなければいけない。
いくら人を呼びたいからと言って本当に何もない場所にダンジョンを立てても、今回踏破されたダンジョンのように結果的に人が集まらないでは移設させる意味がない。
「これは持ち帰り課題かな。それぞれ調べることがあるし、こっちもアンケートを取る必要がある。また後日それぞれで情報を集めてまた集まろう。それまでに出来るだけ多く判断材料を持ち合うことにしよう。公共交通機関以外の移動経路を含めてちゃんと探索者にリーチできるかどうかを考えなくちゃいけないしな」
「そういうことだな。俺も帰ったら早速情報の洗い出しに精を出すことにするよ。コーヒーご馳走様。次はペットボトルじゃなくて豆のいい奴を仕入れてくれると嬉しいんだがな」
「そういうサービスはホテルにでも行ってゆっくり味わってくれ。ダンジョン庁で豆のコーヒー淹れてる暇はそれほどないんだ。だから今日もペットボトルだろう? 」
そう言うと久多良は三本目のコーヒーをポケットにしまい込んで、席を立つ。
「じゃあ、俺は早速調べものにいくとするよ。北海道一カ所は確定ということでいいんだよな。その予定で場所の選定をしていくぜ」
「ああ、そのつもりで頼む。残りの二カ所は私なりに考えておくよ。とりあえず新規ダンジョンとはいえ、また新しいダンジョンの仕組みが出てくるかもしれないからね。もしそういう話になったらまた情報共有をすることになるからその時はよろしくね」
久多良が手を振って部屋から退出する。残りは小林と真中の二人。小林はコーヒーをしっかり胃にしまい込むと、真中に軽く頭を下げて退室しようとする。
「じゃあ、僕も戻ります。一応報告する話はありますが、情報不足のため次のダンジョンの場所の選定まではいかなかった、ということでいいですかね? 」
「そんなところだろうね。実際それ以上の話は今回はしてないし、正確な場所は次回か次々回ぐらいに決められると良いよね」
小林が退室して行って、机を元に戻すと真中は一人になってぼやく。
「効率的なダンジョンの建造方法なんてものがあるなら教えてほしいものだよな。粘菌にでも聞いた方が早いかもしれないな。交通網を構築するにも参考にしやすいらしいし、よその議員から横やりが入らないうちに決めてしまいたいところだなあ」
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