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ダンジョンで潮干狩りを  作者: 大正
第三十一章:年度末に向けて

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1407/1409

1407:おじさんへの懇願

 無事にエレベーター前までたどり着き、ちゃんとサイドブレーキもパーキングも確認したところで車を降り、収納。さて、後はエレベーターに乗って帰るだけだ。もう戦う必要もなければ稼ぐ必要もない。後はポーションと魔結晶をそろえて積み込んで、残りの隙間にこれでもかとグリフォンの爪を積み込む。


 さらにスペースが空いていたのでそこにグリフォン肉を積み込む。グリフォン肉は百ほど積み込んだ。これ以上積めないこともないけれど、積み過ぎて荷崩れを起こしても困るし、今日中に全部やらなければならない、というわけでもない。キリが良いほうが分かりやすいしな。


 帰り道は今日は七層に寄らずにそのまま真っ直ぐ地上へ戻る。ギルマスにはすぐに帰ると言った手前、今更茂君刈りたいともいえないし、在庫も逼迫するほど少なくはない。今日のところはまあいいだろうぐらいの内容だ。


「いくらになるか楽しみですねえ……これだけで一般社会人の何人分の収入になるんでしょう」

「四がけして考えても相当になるんじゃないか? しかもこれからまだ稼げるというのがポイントだな」

「そうですね。そういえばさっきの運転の話ですが、路上教習が終わったので後は筆記のテストをうまく潜り抜けられるかがネックになってきました」

「筆記はな……引っ掛け問題多いからな……まあ、引っかからないように充分注意してくれとしか言いようがない。あれは免許を取らせないための嫌がらせの側面もあるだろうが、基本的に常住坐臥注意して運転しろ、という内容に尽きるからな」


 流石に俺も落ちはしなかったものの、後で自問自答してあの問題は逆だったかな? 等と思い返しながら発表をお祈りしながら受けたものだ。なつかしいなあ。もう二十年以上前になるのか。今やったら……多分落ちるだろうな。普段使わない記号やこの辺にはない看板もあるし、交通ルールも毎回変わっている。


 古い知識だけで満点を取ろうとは思わないがテストや資格試験なんてものはそれを取る時だけに最大限脳みそが発揮されて、普段使いしないものは忘れていくように人間は出来ている。ラウンドアバウトだってこっちの地方にはないけど試験問題には出てくることだろうし、石に破壊されている落石注意の看板なんてのも普段街中を走る時には見かけない。


 芽生さんとあーでもないこーでもない、と試験問題の例題を出しあったりしながら時間を過ごすと、一層に到着したので退ダン手続き。満載の荷物を見て受付嬢が驚いているが、最下層に貯めてあった分を持ってきたと説明すると納得して探索者証を受け取ることが出来た。


 査定カウンターはちょっと人が多めに居たので、自分達の順番が来るまでには十分ぐらいかかりそうな感じだ。


「あ、帰ってきた、安村さん! 」


 呼ばれたので振り返ると田中君がいる。この時間に田中君と会うのは珍しいな。


「やあ田中君、今日もお疲れ様」

「丁度安村さんにお願いしたいことがあって待ってたんです」


 何やら俺に用事らしい。なんだろう?


「この場ではちょっと話しにくいので、いったん外へ来てもらっていいですか」

「なんだろう? 解った。ここでは話しにくい内容なんだな? 」

「まあ、この場で言ってしまってもいいんですがマナー的にちょっとよろしくないので外へお願いします」


 田中君に誘われてリヤカーを引いたまま外へ出る。外は寒いらしく、田中君は身を少し震えさせるが、こっちは【熱変動耐性】のおかげで寒さを感じない。確かに風情はなくなったのかもしれないな、と少し苦笑いすることになった。


 受付からギリギリ見える場所まで移動すると、田中君はぽつぽつと話し始める。


「安村さんは……グリフォン肉を取ってこれますよね? というかそれグリフォン肉ですよね? 」


 リヤカーに積まれている肉を指してそう尋ねる。


「ああ、これがグリフォン肉だ。一つ十万円する高級ファンタジーダンジョン肉だぞ」

「一つ、譲ってもらうことは出来ないでしょうか」

「……理由を聞いても良いかな? 田中君が個人的に食べたいとかなら話は分からんでもないが」


 わざわざこっちで話すということは、多分そうじゃないんだろうな。


「実は会社で問題になってまして。グリフォン肉という新しい食肉が出回ることになったらしいが、会社でもサンプルとして用意しておきたいので入手の伝手はないかという話になりまして。安村さんならもしかして……というか安村さんじゃないと入手できないような場所なんじゃないかと思って声をかけてみたんです。一つ売ってもらえないでしょうか」


 田中君が直角になって俺に頭を下げる。受付から見えるギリギリの所なので人に見られる心配はない。これじゃ俺が悪いことをさせてるように見えるし、わざわざ人の見えない所に誘導してくれたのは俺のためを思ってと、それなら成功するかもしれない、という両方の要素があるんだろう。


 さて、どうするかな。芽生さんと割り勘で五万円ずつもらうのは別に問題がないとして、それを田中君が毎回入手できると会社に思われたくないなあというのが一つある。卸し先と考えるとそれなりに魅力的に映る部分ではあるんだろうが、これで小遣いを稼ごうとも思っていないし、芽生さんも税理士さんの手間が増えるだけだと答えるだろう。


「条件がいくつかあるが、それを呑んでくれるなら一つだけ売る。俺から入手したということを言わないことと、サンプルとして本当に一つだけ流すということ、それから気軽に毎回受け付けるわけじゃない、今回だけだって条件。どう、守れる? 」


 田中君は頭の中でしばらく考えた後、決断したようだ。グッとこぶしを握り両手を差し出す形になった。


「それでお願いします。約束は守ります」

「わかった。じゃあ十万円用意してきて、コンビニでもいいから。リヤカーに積んであるのは数をきっちり数えてあるから減らしたくない。代わりに俺が家に帰って唐揚げでも作ろうかと考えていた方を渡すよ」

「ありがとうございます。すぐそこのコンビニで下ろしてくるんでお願いしますね」


 そういうと田中君はコンビニへ走っていった。確かに十万円のサンプルを持って来た、となれば田中君にはそう言う伝手もあるんだという田中君自身の立場を強化することにもなるだろう。それだけ高ランクの探索者との付き合いがある、という事実だけが独り歩きしてかえってよくない方向に向かう可能性もあるが、そこは田中君が自力で乗り切る問題だから俺が口を出すべきじゃないな。


 走って帰ってきた田中君から十万円を受け取り、グリフォン肉を渡す。


「これで十万円って……」

「多分シャトーブリアンより高いだろうな。大事に扱ってあげてくれよ」

「はい、ありがとうございました! 」


 田中君は先に中へ戻っていった。さて、俺も査定の列に並び直すか。また後ろからきちんと列に並び直すと、芽生さんがちょうど戻ってきた。


「あれ、全然進んでない、何かありましたか? 」

「ちょっと商談が一件。これが報酬。で、帰ってきたついでに頼むのも悪いんだけど、ギルマス呼んできて預けてあったポーションの代金今からまとめて精算したいって伝えてきてくれるかな? きっと待ってると思うんだよね」

「わかりました。ではちょっと行って伝えてきますね」


 芽生さんをファンネルにしてギルマスへの伝言を頼むと、査定の列に大人しく並んで待つ。しばらくしてギルマスが芽生さんと共に一階に下りてくる。ギルマスはそのまま査定嬢に何やら耳打ちして俺を指さし、メモを渡していた。査定嬢は一瞬驚いていたが、すぐに表情を戻し仕事に取り掛かり始める。


 そこから更に十分ほど待ってようやく査定の順番が来た。


「今日からポーションが二種類になるんでお願いします。分けてあるのはこれとこれ。それと、さっきギルマスから聞いたとは思うのですが……」

「はい、ギルドに預けられていた分の精算……です……ね……」


 同じポーションがいくつもあることに段々言葉を失っていく査定嬢。一つ一つ丁寧に扱っていくのはさすがに高額品だからだろう。ポーションもきっちり計算に入れていき、合計六十一本の若返りのポーションが査定されていく。


 あ、残りの本数はもちろん予備として保管庫に維持されているので、俺がいつでも若返ることができるように着実に準備されているのでそこは問題ない。


 十分ほどかけて、査定が終わった。本日のお賃金、五十三億四千四百十万六千四百円。ギルド税抜きにしても一人五十億を超えた。流石にため込んだだけのことはあったな。


 支払いカウンターにそのまま向かい、振り込みをお願いするときも、振り込み嬢の手が一瞬止まる。こちらの目を見てきたので、そのまま目線で返すと納得したのか振り込み作業を始めた。やはり、この金額はそうそう出せるもんじゃない、ということが伝わったのでヨシとしよう。


「さて、臨時収入も入った事ですし、何処かで食べていきますか? それともやっぱりデパ地下弁当ですか? 」

「そろそろ危ない食品も出始めるころだからな。デパ地下弁当は早めに消費してしまいたいところだ。手伝ってくれるか? 」

「いいですとも。カレーの残りもあるはずですし、色々食べ合わせを考えることにしましょう」


 バスから駅へ、駅から最寄り駅へ、順番に辿って、途中のコンビニで買い物。ミルコ用のおやつと雑誌……はまだだな。もう二週間ぐらい待たないと最新号は出ないだろう。最新号は新しくオープンした二つのダンジョンと速報、それからそこを根城にし始めたパーティーへのインタビューなんかで彩られることになるんだろう。


 後は肉まんを二つ買って……芽生さんが余計なものをちょいちょいと籠に放り込んでいるが、気にせず会計を終わらせる。さっきの臨時収入五万円で買えないほどのものではないしな。


 家について玄関の鍵を開ける。


「ただいまー」

「ただいまー、おかえりー」


 一人で両方の役をやっている芽生さん。あえて返さずに頭を撫でておかえりの代わりにしておく。さて、どの弁当を食べるか……あと、ついでに悪くなってないかどうかのチェックもしないとな。


 カレーを鍋で温めている間にテーブルの上に残り少なくなった弁当を色々並べる。


「大分少なくなりましたね。頑張りましたか」

「まあ、毎日食べてりゃ減りもするし、昼も弁当で済ませることもあるからな。休みの日ぐらい昼食は手を抜いても怒られないし自分も納得してればいいだろ。あ、出来ればその幕の内弁当は最後の楽しみとして取っておきたいからそれ以外ので頼む」

「解りました。もうちょっとで一つの達成感的な何かが味わえそうでいいですねえ……私この牛丼にします」

「俺は何にしようかな……銀鮭丸ごと弁当にしようかな。コーヒーでよろし? 」


 新しく湯を沸かしてコーヒーを入れると、二人分の弁当を温める。出来るだけ熱めにしておいたほうがいいよな。保管庫である程度時間感覚はつかめるとはいえ、そろそろ賞味期限切れも近くなってきているはずだ。牛丼の汁が無くなると文句を言われる可能性はあるが、腹をこわすよりはいいだろう。


 ちんちこちんに温めた二人分の弁当とコーヒーを取り出して食事、今日の銀鮭弁当も塩気が控えめなのに塩味がしっかり感じられて中々に美味いな。ご飯は……ちゃんと暖まってるし、変な糸を引いていたりもしない。今度デパ地下弁当を買うときは消費ペースと賞味期限を計算してからちゃんと買い入れることにしよう。


 暖まったカレーを牛丼にかけてカレー牛丼にしながら芽生さんも満足そうにしている。チキンカレー牛丼というコンセプトはいいのか? と思いつつも食事を終えて風呂。一緒に入って洗いっこしておく。


「もうちょっと広いと色々出来そうなんですが、新しいマンションのお風呂はどのくらいの広さを確保できてるんですかねえ? 」

「内覧会の予約とかもう始まってる……とは限らんよな、まだ建物出来上がってないし。一応風呂から出たら調べるけど、予約会があったら、行くだろ? 」

「もちろんですとも。もしかしたら私は私で一部屋買うかもしれませんしね」

「お互い贅沢な買い物をすることになりそうだ。資産的には不動産は減価償却できるのか? 例えば事務所として利用するとか」

「そうですねえ、光熱費やマンションの管理費なんかは経費で落とせるはずですよ。後はマンション自体の金額も最初に払ってるとはいえ定額ずつ毎年減価償却できるはずですから、その分赤字として組み込んで安くできたりするはずです。細かいことは計算してみないとわからないですけどね」


 チャプチャプとお湯を揺らしつつ、金の話をして風呂は終わり、一緒に寝ることにした。


「流石に明日は午後から予定あるので今夜はなしですよ? 」

「わかってる。そういうのは翌日がフリーな日にゆっくりやろう」

作者からのお願い


皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。

続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。

後毎度の誤字修正、感謝しております。

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― 新着の感想 ―
今後定期的な供給が見込まれるってのもあるんだろうけど、若返りポーション一本一億行かないのか 売りに出されたら、争奪戦ヤバそうですね
こんにちは。 ちんちこちん…確か名古屋辺りの方言でしたっけ。ちんちん→若干熱い、ちんちこちん→アツゥイ!?くらいの感じだったような?
ちんちこちんとは?
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