1408:グリフォン肉祭りと特殊ドロップ
アラームが鳴り朝、温かい人肌で目覚めるのも悪くない。羽毛布団と肉布団の両方でとても気持ちいい眠りを過ごすことが出来た。芽生さんも同時に起きたらしく「おはようございまあす」とのんびりとした口調で返事。ビシッと起きた俺とはちょっと対照的だ。
「おはよう。朝作るから着替えるなりして待ってて」
「そうします……布団から出ても寒くないのは有り難いですが冬って感じがしなくなったのがちょっと残念ですね。もう布団の中から出たくないといったような生理現象とは無縁の生活を送ることになるんですね」
そう言いながら「自分の部屋」へ入っていった。確かにそうかもな。他の人と歩調を合わせづらくなったのは確かだろう。これからは季節感を感じることもなく冬でも短パンTシャツおじさんとして過ごすこともできるようになるわけか、それはそれで困るので毎日のニュースなりなんなりで季節感を味わいつつ服装を変えていくことにしよう。
さて、いつもの朝食を二人分用意して、目玉焼きが出来上がったところでちょうど芽生さんも部屋から出てきたので、早速頂きます。芽生さんがバターを贅沢に塗り、厚めバターのトーストを食べる。お高いバターだからとちょっと控えめに使ってきていたが、なくなったらまた買えばいいので俺も今日は厚めに塗るか。
「今日のご予定はなにかありますか? 私は大学の細々とした仕事を済ませれば終わりの予定ですが」
「今日は……何しようかな。グリフォン肉に合う一品を何か開拓してみるか。揚げ物系は問題ないので焼きものか蒸しものあたりで攻めてみてもいいな。グリフォン肉はそれほど脂っ気がないから油を追加するか、更に脂を抜くかの二択が美味しいと思うんだよなあ」
「それは今後が楽しみな話ですねえ。査定にも出せるし自分でも拾えるし、グリフォンに捨てるところなしですね」
「一回の探索で……丸一日七十一層に居たと計算しても六百万ぐらい変わってくるからな。今後はそれだけ収入が増えるということで、また一つ懐に潤いが出ることになる」
「いいですねえ懐の潤い。お肌の次に大事です」
サクサクといい音をたてながら芽生さんが厚塗りトーストを食べる。毎日こういう朝を迎えることになるかもしれない、というところか。今のうちに精々慣れておいて、お互い気にするところと放置で良いところのバランスをとっていかないとな。
「さて、朝食を頂いてすぐにアレですが、午後出かける前に自宅で着替えてから行きたいので早めに失礼します。また来ますね。着替えの洗濯はお任せしました」
「任された。丁寧に洗濯機が洗っておく」
芽生さんはいったん自宅に戻ってから大学に用事のようだ。流石に二日続けて同じ服、というのは避けたいのだろう。着替えはこっちで出かけるように残しておくんだろう。洗濯が終わったら部屋に干しておけばいいかな。
芽生さんを見送った後、テレビのニュースで再びダンジョン情報について一報が入ってないか確認する。どうやら今回も不法侵入者は出なかった模様だ。新熊本第二ダンジョンの二の舞を舞うようなことはない様子。マスコミ関係者も出入りを制限されていることから、今出入りしているのはD部隊、ということになるんだろう。
先に出来た三ダンジョンと同様の施設が備え付けられているかとか、内観がどうのとか色々調べてから安全を確認して、周囲にギルド用地を確保してからスタートって形になるだろうからインターチェンジほどじゃないにしろここでもそれなりに時間はかかりそうだな。後は温泉地か。うまくいってくれることを願うだけだな。
さて……ニュースも見たことだし、早速趣味の料理に取り掛かるか。思いつくレシピをあれこれそれと並べて、どれを作ってみたいかを色々とチャレンジできる。オーソドックスなチキンソテーを作ってベースの味を確かめて、それから他に応用するでも良い。今日はチキン曜日ということで良いのではないか。とりあえずご飯は昼と夜の分をまとめて炊いておこう。
色々試したいので一パックを複数に分けて作っていく。まずはフォークでグサグサと刺し穴をあけて、塩胡椒で味付けして純粋にオリーブオイルで焼いてみる。皮目がない分カリッとパリッと仕上げるのは無理なので、念入りにヤキを入れた後蓋をして蒸す。出来上がったチキンソテーを一口パクリ。
やはり旨味がかなり強いな。塩胡椒だけで、いや塩だけでも充分美味いチキンソテーになったんじゃないかな。これは旨味を足さなくてもそのまま活かせる感じで色々試せそうだ。より旨味を追加して足し算の旨味を味わうのもいいが、これを出汁としてすましスープを作るってこともできるな。うむ……鶏出汁を追加しなくて済むのは中々に便利。
次は細かく切ってレンジで蒸かして蒸し鶏にする。味付けを何もせずに、純粋にその味だけを確かめてみる。
うむ……ほのかな甘みも旨味もしっかりついていて美味しい。ラップをかけてレンジで温めたので水分を逃すことなく綺麗に蒸すことが出来た。
これは調味料を足し込んで更に味を加えることでより美味しい鶏肉料理として扱えるだろう。棒棒鶏にしてもたれの具合で変わるだろうがかなりときめく一品だ。
さて、残り百グラムほどある。どうやって味付けしようかな。そういえばまだ鳥刺しは確かめてないな。脂がないのでサッパリ、油の少ない刺身みたいに食べることができるかもしれない。
試しに一切れ食べてみる。……鶏の味だ。濃厚な鶏の味がする。うむ、味は生肉のそれだが、鶏の風味は充分に楽しむことはできるな。これは……ニンニクチューブと生姜チューブと醤油を取り出し、それぞれで味付けを比べる。
うむ、どっちも良い食感良い風味良いお味。これは中々癖になるかもしれん。そのまま塊で生で行くということにはならないだろうが、カンピロバクターや寄生虫の事を考えなくていいのはダンジョン食材ならではだ。細切りにして綺麗にお出しすればそのまま何も手を加えなくても美味しい食事として提供することができるのは間違いない。
馬肉のように赤身が強いわけではないが、ほんのり色づいた、という表現が近いこのお肉は蒸しても焼いても揚げても生でも美味しく頂けることがわかった。タタキにしても良かったかもしれないな。焼いたところと生のところと両方の食感を同時に楽しめて口も喜ぶことだろう。
小腹を満たし続けていたらそろそろいい時間。さて、肝心の昼飯だ。朝から食いどおし料理し通しだが、この辺りでちゃんと胃に溜まる一品を作っていこう。何が良いかな……
そういえば冷蔵庫に早めに消化したいトマトジュースがあるな。トマト煮を軽く作ってみるか。塩胡椒を生グリフォン肉にフォークめった刺ししたところにしっかり染み込ませておいて、馴染んだら一口大に切る。まずオリーブオイルで一焼き。焼いたら肉を一旦どけて、刻んだニンニクを熱してオリーブオイルに味と香りが少し移ったらとみじん切りにした玉ねぎとなすとキノコを合わせて炒めていく。
同じ旨味仲間であるところのキノコはどうするか悩んだが、今回は試しで作って旨味のほどが何処まで凝縮されるかが気になるからエリンギを入れておく。
適度に炒めてタマネギの色が変わってきたらさっき焼いてどけておいたグリフォン肉を投入。混ぜ混ぜした後、トマトジュースをドバッ。煮詰めながら味を調えていこう。コンソメや砂糖、日本酒などで味を調えて更に煮詰める。
グツグツと言い出したらそこから蓋をして三十分ほど煮こんでベースは完成。後は好みに合わせて塩を足すなり何なりすればグリフォンのトマトジュース煮の完成だ。トマトジュースがあったから今回は良かったものの、なかったら多分パスタのトマトソースやホール缶でも同じことができるだろう。
多分、煮込み時間や水分を飛ばす時間が変わってくるだろうからそこの調整だな。それからトマトの酸味が出ないように砂糖を入れる量を調節すればまた一工夫できるだろうが、今回はとりあえずで作ってみた。
とりあえずの試しで十万円をドバっと使う料理も珍しいだろうな。俺としては美味しければ何でもいい。これをご飯に合わせて果たして食えるものになっているかどうか……実食である。
早速炊飯器から茶碗にご飯を盛ると、さっき作ったトマト煮と合わせて食べる。んまい、旨味の大洪水だ。これはご飯の存在が吹き飛ぶ味だ。コク深いのはコンソメを足し込んでおいたおかげだろうな。
ただ、これはご飯に合わせるおかずじゃない、パスタと絡めてパスタソースとして食べたかった。そこがちょっと惜しいな。でも、美味いものは美味い。それは間違いない。これで今日は二品ほど手軽に作れるおいしいレシピを手に入れることが出来た。また研究しよう、グリフォン料理。
午後は本当にやることがない。とりあえず部屋の掃除を済ませて、芽生さんの頼みであった洗濯も終わり部屋に干し、夕方ぐらいに畳んでまたベッドの上に放置して、埃避けに上からタオルを乗せておけばいいだろう。流石にどこの引き出しに何が入ってるかまで物色するつもりはないからな。
一通り掃除をしてもまだ時間がある。こういう時は配信でも見るか。熊本か、もしくは聖蹟桜ヶ丘ダンジョンでネット配信している探索者がいるかもしれないし、そもそも俺は熊本はともかく聖蹟桜ヶ丘ダンジョンのほうの内部構造についての知識はゼロだ。
知らないことを知ろうとする気持ちはボケ防止にも十分な効果を発揮するらしいし、早速配信をしている探索者を探してみよう。投げ銭はしないが俺の知識として精々吸収させてもらおう。
◇◆◇◆◇◆◇
どうやら聖蹟桜ヶ丘ダンジョンはオーソドックスなマップ……いわゆる今までと同じ形の四マップごとに見た目が変わっていくタイプのダンジョンだ。確か管理者はリーンのはずだから、悩んだり困ったりするぐらいなら今までのマップをずっと使いまわすと良いぞ、なんてアドバイスをセノから受け取ったのかもしれないな。
さて、この配信をしているパーティーだが、目の前で宝箱を見つけて開いてポーションを手に入れていた。どうやらポーションが今のところ浅い階層では最も好まれてよく出現する宝箱の中身であるらしい。
もっと深いところまでいかないと一品物は出てこないのかな? 試しにスレッドを検索してみたら、一品物らしきアイテムの獲得報告がなされていた。配信中に一品物が出てきたらもっと再生数を稼いでいてもいいはずだよな。
今の画面をそのままにして、他の画面から再生数を基準に検索し直してアーカイブを探すと……いくつか出てきた。流石に今までドロップ経験ゼロということではないらしく、色々なドロップ品が出てきているらしい。
中にはセット装備もあり、それぞれのパーツで宝箱からドロップされ、パーツを集めると特別な効果がある、といったようなものもあるらしい。
例えば隠形の仮面、隠形の鎖帷子、隠形の靴という三つワンセットのものが最も多く産出されており、この三つを装備することで【隠蔽】と同様の効果が発揮される、ということまではダンジョン庁の鑑定員、巽君のお仕事で判明している。
ちゃんと実力を高めて鑑定を使いこなしているらしくて安心した。このまま何十年か鑑定員のままの仕事を続けるのか、それとも他に【鑑定】所持者がダンジョン庁にスカウトされるなりして徐々に拡充していくことになるんだろう。
どれだけの探索者がどのぐらいの頻度で鑑定をお願いしに行っているかの情報はいずれダンジョン庁から公表されるだろうが、今後もダンジョンの踏破と新規建立の繰り返しを行っていくならば宝箱をドロップするダンジョンは増えていくことになるだろうから徐々に仕事量も増えていくはず。
いずれパンクする可能性はあるだろうが今のところは一人でまだ充分切り盛りできる範囲で済んでいるんだろう。どっちも人が居なければ成り立たない仕事ではあるし、そこまで言うほど種類も素材もドロップアイテムも色々はないようだ。
もっと階層を深く掘り込んでいってそこで取れるアイテムには興味があるが、今のところもっとも知られている宝箱の中身の特殊品はこれらしい。
隠形と名前がついている通り、黒装束のような見た目になり、人間的にもスゥっと消えていきそうな見た目をしている。装備をそろえた探索者が全身図をアップしている動画もあったが、ぱっと見は隠密って感じだ。足の裏はちゃんとグリップが利く謎の素材でできているらしい、
もうちょっと色々調べてみるのも面白いな。夕食はいつもの弁当にして、もっと新しいダンジョンについて知っていくことが大事だろうな。
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続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。
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