1405:洋ちゃんって何ですか
階段で休憩している五人組に声をかける……まあメインは結衣さんだから他のお付きの四人は置いといて、だ。
「おはよう結衣さん」
「おはよう洋ちゃん。芽生ちゃんもおはよう。ここで休んでればその内出会うだろうと思ってたわ」
「リーダーだけおはようでっか、ワシらにはなんかないんですのん? 」
平田さんから苦情が飛んできた。しょうがない奴だな。
「じゃあ……わーい平田っち昨日ぶり! 」
そう言いつつハイタッチに向かう。
「安村っちもおはよう! 」
二人でハイタッチしてきゃぴきゃぴしてみる。
「 ……なんか違いますなあ。こう、もっと何かあるような気がするんやけど」
「俺もそう思った。で、ご休憩にしてはまだ早すぎるような気がするんだけど何かあった? 」
まだ午前十一時。休憩するにも昼飯を食べるにもまだ早い。
「ほら、私たち七十層に食事は全部置いてきてるから、ここから歩いて戻ると丁度いいぐらいの時間になるのよ。みんなが洋ちゃんみたいに保管庫片手にうろうろできるわけじゃないからね」
そういえばそうだった。最近気が緩み過ぎているな。俺の【保管庫】の所持について知っているのは二十人にも満たない人数のはずだ。その間でよく口が止まっていてくれているな、とここは感謝をするべきところだろう。
「それもそうだった。こっちはいつも通りなら七十二層でお昼ご飯かな。今日は普通のチキンカレーだ」
「グリフォン肉ではないんですね。ちょっと楽しみだったかもしれません、グリフォン肉のカレー」
「長めに時間が取れるなら出来るだけ美味しく食べられるようにしてからグリフォン肉にする可能性もあったけど、今日のところは普通のカレーだ、悪いな」
「いえ、作ってもらうご飯に文句は言いませんから。でも、リクエストに応えてくれると嬉しいですねえ」
「今度カレーを作る時はそうさせてもらおう。今のうちにメモっておこうか」
「さて……じゃあ私たちは戻ってご飯の準備にするかな。カレーの話聞いてたら私たちまで食べたくなっちゃう。流石に七人分ものカレーはないんでしょ? 」
結衣さんはパッパッと尻を払うと動き出す準備。休憩を終えて七十層に戻るようだ。
「その人数だと事前予約が必要かな。椅子も机も七人分ほどはないし、もてなすにはちょっと準備が足りてない。今度余裕があったら考えておくことにするよ」
「そうして頂戴。私もグリフォン肉は研究中なのよね。何かいい一品がひらめいたらその時は洋ちゃんの分も用意して待っておくことにするわ」
「市販のスパイスシーズニングを使ったタンドリーチキンはなかなか美味かったぞ。あれはお勧めできる」
「話半分に聞いておくわ、それじゃあね」
結衣さん達が去っていく。さて、こちらも七十三層の階段までたどり着いて昼食の準備とするか。
「こっちも小休止って形にはなったが、本番は午後からだ。しっかり巡って稼いで、それから休憩してまたしっかり稼ごう」
「今日からはポーションも解禁ですし腕が鳴りますね。最先端パーティーの稼ぎっぷりを世の中にこっそりと示すチャンスでもあります」
腕をまくるふりをして持つ槍にも力が入る芽生さん。そういえば最近芽生さんが槍を振り回している場面を見ていないな。お互いスキルだけで戦っているから腕が鈍って……いや、多分大丈夫だろう。ヘルハウンド当たりに追い掛け回されたらさすがに近接戦闘の出番が出てくるはずだ。奴はスキルにはそこそこの耐久性があるがグリフォンほど硬い爪を持っている訳ではなかったしな。
そのまま七十二層を歩きとおし、七十三層への階段に到着した。
「そういえば前回は七十三層側で休憩したんだが、グリフォンに横湧きされるのとフレイムサラマンダーに横湧きされるの、どっちがお好み? 」
「うーん、手軽さの面で考えても収入の面で考えてもフレイムサラマンダーのほうが御しやすい気がします。階段下りて掃除してからご飯にしましょう。どうせ暑さは克服できてるわけですし」
合意が取れたところで階段を下りて七十三層に入る。早速現れたフレイムサラマンダーを雷撃で消し飛ばすと、魔結晶を拾ってついでに隣の部屋っぽい場所も掃除してそこをキャンプ地とする。
早速椅子と机を出して、既に盛り付けられているご飯を芽生さんの前に出す。
「ご飯もっと必要? なら俺の分からより分けるけど」
「いえ、ちょうどいいぐらいですね。洋一さんもしっかり動くんですから食べないといけませんし、食べ過ぎても動けない時間が増えますからね。ほどほどで良いんですよ」
ライスの量に問題はなかったようなのでそのままカレーをかけて渡す。
「炊飯器は……そういえば居ない間に私か結衣さんがこっそりご飯作りに来ても問題ないように置いてくるようにしたんでしたね」
カレーを受け取り、早速食べ始める。スプーンを咥えたまま静かに親指を上げてくる芽生さん。どうやら味に問題はないらしい。
「今日みたいなケースだとおそらくそうはならないだろうけどな。まあ、俺一人で潜って帰ってきたら芽生さんがご飯作って待ってて、ご飯食べて眠って朝同伴出勤……なんてこともできなくはない。というか将来的にそうなってくれると少しうれしいかな」
「じゃあ今日はその逆で、一緒に帰ってお泊まりしていきましょうかね。明日は午後からしか予定がないんですよ」
「構わんぞ、俺が外泊することなんてまずないだろうし、暇なときに来てもいいとは散々伝えてるんだからいついかなる時も家に来て良いんだぞ」
「じゃあ、早速今日行くことにします。着替えもそっちに置いてあるはずですし……洋一さんがいたずらしてなければ」
「一応食事中なんだが、そういういたずら趣味はないことだけは主張しておく」
「はーい……ところで洋一さん、洋ちゃんってなんですか? 結衣さんも呼び方を考え始めたとか」
そういえば、芽生さんには話していなかった気がする。
「いつまでも安村さん呼びでは彼女っぽくないってことで洋ちゃん呼びになったらしい。本人が気に入っているようだからそのままにしてる」
「なんか私より一歩進んでいるような感覚がしますね……むぅ、洋ちゃんですか……そうですか……」
「何やら気に入らないご様子だが、俺のことを洋一さんと呼ぶのも芽生さんだけだぞ。だからイーブンと言えばイーブンだな」
少し考えながらカレーを食べ、少しルゥをお代わりする芽生さん。怒りを食欲で抑えようとしているのか、ちょっとばかしペースが速い気もする。
これは要らん情報を与えてしまったか……? いや、でもそのうちばれるのは時間の問題だったしいつかは聞かれる話ではあったな。まあ、このタイミングで聞かれるのは午後の探索に影響が出そうな気がするが……芽生さんもそこまで子供じゃないんだし気にはなるだろうけど仕事には集中してくれるだろう。
◇◆◇◆◇◆◇
一休みしてる間に通路に湧いたのでそれを湧きつぶし兼腹ごなしで倒して、軽く準備運動を兼ねて動く。うむ、昼食は良い感じに腹を膨らませてくれた。動きに支障が出るほど食べた訳じゃないし、満腹感もしっかり味わえている。ちょっとカレーが残った分は夕食でまとめて処分だな。ちょっと豪華になりそうだ。
芽生さんもほどほどに休んだところでいつもの時間、早速七十六層へ向けて出発する。まずは七十三層から各階層を三十分ほどずつちょっと早めに歩き回って七十六層へ向かう。到着したら地図の埋まってない所をメインにまた三十分巡る。
七十三層から七十五層の間でどれだけタイムを縮められるかで七十六層での活動時間を延ばすことができるし、帰りも素早く帰ることでまたその分だけ七十六層を探索することができる。結構大事な時間ではあるので大事に使っていきたい。
まあ、今夜はうちに泊まると言っていた分芽生さんも明日の朝から予定があるというわけではないらしいので一泊で済ませることもできるが、その場合ギルマスと出会うタイミングがずれるので預けてある九本分の査定を受け取ることが出来なくなってしまうかもしれない、という懸念がある。
「出来れば今日中に階段も見つけて、素直にマップ完成といったところで帰りたいもんだな」
「流石に今日のエリアを見回れば見つかるとは思いますけどねえ」
二人地図の七十六層の確認をしながら七十三層を進んでいく。七十三層の地図は頭に入っているので別の地図を見ながらでも迷う心配はない。後は素早く移動するかどうかだな。
「とりあえず素早く行動しようか。その分だけ七十六層に時間を費やせるし、モンスターを放置していくわけじゃないからプラスにしか働かないはずだ」
「そうですね、七十六層のことは到着してからまた考えますか」
二人、マップ移動と戦闘時間の短縮に挑む。普通にやり合ってたら手が届かないゴーレムも雷切を伸ばして一気に核を突き、確実な撃破手段よりも素早い倒し方が出来るように戦法を変更していく。
フレイムサラマンダーはまとめて雷撃してどっちがどれを対応するか、等を決めずにとにかく打てるスキルを素早く打って、雷撃衝の範囲攻撃のようなものをイメージして撃ち放つ。まだ出力が足りないようなこの雷撃衝の範囲攻撃だが、フレイムサラマンダー程度なら倒されていてくれるらしい。
ますます美味しいモンスター化していくフレイムサラマンダーであった。出会ったら出会った分だけ魔結晶と超高級ポーションを落とす可能性のあるモンスターとして珍重されていくんだろう。
そういえば革のほうはどう研究されていくんだろうな。よほどの断熱性を発揮してくれるなら消火剤代わりや消防服の内側素材、それから建築現場なんかにも応用されていくのかもしれない。研究する価値も充分あるだろうし、追加を求められたときにドバっと出せるようにしておこう。
そのまま七十四層へ。ここもヘルハウンドが出てこないので比較的安全……というか絶対安全と言ってもそう違わないエリアである。その気になれば一人でここまで来ることもできるが、流石にわざわざここまで歩いて来るよりもグリフォンから肉と爪を回収できる分社会の役に立ってる気がする。
それに七十二層のほうが途中で帰りたくなった時にサッと帰れたり、スキルオーブの取引をする際にもエレベーターが近い分だけ楽が出来るだろう。
「ここまで潜ってくるのは楽だが、帰り道を考えると迂闊に潜ってくるのもなんだかなあって階層ではあるな。七十二層よりも金銭的な面では美味しい階層ではあるんだが、ポーション一本出るか出ないかで大きく変わるからホームにはしづらいかもしれない」
「エレベーターを直線的に時間的な距離で考えても、この階層に来るまでにざっと三時間はかかりますからね。それから探索して帰る……と考えるとかなり厳しいというかストイックに探索する必要が出てくるでしょうね」
芽生さんもそこはわかっているようで、自分一人で潜る実力とポーターが居たとしてもここまで潜って探索に来るのは面倒だと思っているようだ。
「しかし、フレイムサラマンダーにこれだけ一方的に攻撃だけして倒していると、本来こいつはどういう攻撃をしてくるのか気になってきたな。でも厄介な攻撃されていきなりピンチになる可能性だってあるから迂闊にこの階層でまで相手の攻撃パターンを参考にするのは危ないかもしれんな」
「カメレオンダンジョンリザードの場合は舌で巻き取って見た目に反した硬い顎で咀嚼して来ようとするんでしたっけ? こっちも似たような感じかもしれません」
「いずれ余裕があるかよっぽど暇で飽き飽きしてきた時にでも確認するのは必要かもしれないな。後輩への注意喚起にもなるし」
フレイムサラマンダーが四匹並んでとどまっているところでまとめて雷撃で処理。一人で四匹、行けるようになったな。流石にマグマゴーレムが二体同時に来られると対応に苦慮するが、フレイムサラマンダーだけなら対処できることがわかった。
「ちなみにこの階層だと、どのぐらいの収入になる予定なんですか? 」
「往復でポーション一本出るなら二億ぐらいは硬いかなって。七十二層の倍ぐらいかな」
「ポーションの出具合でこれだけ収入が変わるの、明らかに極端すぎませんか」
「そう思わんでもないが、素材が色々と出るならまだしも出る素材がフレイムサラマンダーの革だけで、しかもそれほど高級品になる未来が見えないからな。もっとぽろぽろと色んな素材を落とす中でポーションがたまにガツっと収入をくれるような階層……例えば五十七層とか五十三層とかならまだ重さによる実感みたいなものはあるんだろうけど、このマップでは期待しないほうが良さそうだな」
せっかく通うなら現状の底である所の七十六層まで足を伸ばす方がポーションを落とす確率もモンスターが増える分高まってお得である。こんな中途半端なところで探索をするよりはよほどいいだろうな。そう思いつつ、早足で七十四層を一気に駆け抜けていった。
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