1401:七十二層巡り旅 2 共同作業
ご飯を食べ終わってそのまま階段でくつろいでる間に、視界外で二度ほどフレイムサラマンダーが至近でリポップしたので刈り取って魔結晶と革を手に入れる。腹ごなしの運動にはちょうど良かったので美味しく頂いておいた。
さて、そろそろ七十二層に戻るか。戻った際のグリフォン二匹が若干近いことだけが問題かな。素早く雷撃衝を出せるように心の準備はしておこう。最悪雷切か圧切で爪を回避しつつ雷撃するという形になるだろう。
覚悟を決めて階段を上がり、七十二層に戻った瞬間に赤い点が二個。間違いない、グリフォンだ。視界にとらえて確実に雷撃衝で一匹を葬った後、もう一匹を相手にする。グリフォンは早速爪でこちらを引っ掻こうと足を延ばしてきたため、圧切で爪を抑えつつ、その間に雷撃衝をもう一発お見舞いして二匹とも倒すことには成功した。
まだまだ余裕のある探索とは言い難いな。階段を下りて昼飯にしたのは失敗だったかな? 少しだけ芽生さんに危険アラームが通じてしまったかもしれない。今のはちゃんと倒せたしダメージもなかったからセーフということにしておこう。
さて、このまま七十一層方面へ向かって、階段までたどり着いた後はゆっくり階層を周回して今日の糧とさせてもらおう。
◇◆◇◆◇◆◇
しばらく七十二層を進んでいくと、向こうのほうから何やら見慣れた五人組が歩いてきているのが見えた。向こうが手を振っているので手を振り返す。
お互いの間にいるモンスターを倒した後で合流。やはり結衣さん達だった。
「七十二層まで来たってことは、いい感じにスキルも身体も強化できたのかな? 」
「今日初めての七十二層だけど、グリフォン二匹はちょっと厳しめね。平田さんが一匹は抑え込んでくれるんだけどその間にもう一匹を確実に排除する手段に乏しいというか、まだここに来るのは早かったかも、と相談しながらの移動と、ついでに七十三層の階段探しってとこ。洋ちゃんは? 」
「七十三層の階段でお昼食べてからこっちに戻ってきたところかな。階段だけ先に見つけるなら案内するけど」
「そうね……一応場所だけ教えてもらおうかな。ついでに場所まで案内してくれるとよりわかりやすいけど、そこまでしてもらうのも悪い気がする」
結衣さんは少し考えこんでいる。このままのペースで探索を続行して果たしてたどり着けたと言えるのか、という考えが少し透けて見える所だな。
「じゃあ、七十三層の階段まで往復して七十一層の階段まで戻ってくる間、付き添うってことでどうだろう。その後で七十一層に戻るか七十二層に居続けるかはそっち次第ってことで」
「とりあえず地図だけスマホに撮らせてもらっていいですか。地図さえあれば後日突入する時の参考に出来ますし」
横田さんから地図の提供を求められたので素直に応じる。手書きのマップをパシャッととると、横田さんはスマホで地図を確認する。
「なるほど、クレーターを参照するにここから左上、そこから更に左上、というところですか。こっちへ向かってきて正解でしたね。逆だったら安村さんに出会えない所でしたよ」
「流石に月面マップは例によって上下左右ループしてるだろうから、階段までの最短距離しか確認してないんだ。もう一つ下りた先のマップはまた色々と面倒ごとが多いんだけどね」
「次のマップまでもう行ってるんですか。ということはボスがいるはずですよね? もう戦いましたか? 」
矢継ぎ早に質問を浴びせてくる横田さん。やはり先の情報は今のうちに仕入れておきたいということなんだろう。
「ボスは一応倒したけど……再戦したほうが良いボスかもしれないね。かなり保管庫スキルに頼って戦ったところがあるし、出来れば保管庫なしでもう一度戦って確実に自力で倒せた! って感覚をつかみたくはある」
「そうですか……だとすると僕らが挑むのは時期尚早っぽいですね。安村さんがそこまで苦戦する相手ならこちらで対応するのはほぼ不可能でしょうし」
確かに強かったが、手数があれば倒せたか? と言われると疑問に思うところも多々ある。何より、【魔法耐性】と【物理耐性】を実質三枚重ねにしてもブレスでかなりのダメージを受けさせられたのは間違いない。全員分の指輪と耐性スキルを持たないと厳しい相手ではあるだろう。
「まあ、潜るにはちょっとしたギミック……というか【毒耐性】みたいに人数分そろえてないと辛いスキルがあるからそれをそろえてからでも遅くはないと思うよ」
「なるほど。また新しいスキルですか。もし七十三層に挑むことになったらまたその時にお話を聞かせてもらうことにしましょう」
話したことをスマホにメモすると、横田さんはスマホを仕舞った。
「とりあえず階段まで案内するよ。階段前は湧いてるかもしれないけど、道中は戦ってきた分まだ湧き切ってないはずだ。その間にササっと移動して位置を確認してもらおうかな」
来た道をそのまま戻り、結衣さん達を案内する。戦闘になったら結衣さん達に頑張ってもらうつもりではあるが、グリフォン二匹は厳しいらしいのでその時は片方を俺が倒すようにしていこう。
サメとエイに関しては問題なく対応しているので、六十九層で戦い方を考えて実践してきたんだな、というのは感じ取れる。形にはめるというか、自分達のやりやすいようにモンスターをうまく誘導しながら戦っている。
サメ二匹の時はちょっと苦労をしているようだが、基本的には平田さんが鼻っ面をぶん殴って足止め、その間にスキルと肉体言語でもう片方を対処、という感じで上手くやっている。これがグリフォンが混ざっても同じで、グリフォンの相手を平田さんがしてる間に横田さんが水魔法でグリフォンを狙って切り刻んでいくという、こちらも最初やっていた戦法でうまくいっているようだ。
七十三層への階段へたどり着き、グリフォン二匹が出てきたので片方をあっさり倒し、残りを五人でボコボコにしてもらっていると、グリフォンからスキルオーブがドロップされた。グリフォンからスキルオーブが出たのは初めてだな。
結衣さんがスキルオーブを拾い上げ、「ノー」と答えた後、こちらに渡してくる。
「【風魔法】を習得しますか? Y/N 残り二千八百七十八」
どうやら風魔法が出たらしい。外れのスキルオーブ……と呼ぶべきなのかどうかはわからないが、グリフォンらしさが出た魔法だとは思う。しかし、俺も芽生さんも風魔法は習得する予定はないのでこれは結衣さん達にそのまま使ってもらったほうが良いだろう。結衣さんも風魔法を習得していることだし、そのまま使ってもらうほうが有意義だろう。
「結衣さん使いなよ、多重化できるだろうし、より攻撃手段が強まることに間違いはないからさ」
「いいの? 【風魔法】も最近はそれなりにお値段するけど」
「いいよ、共同戦果ってことでそっちに渡れば、取引相手を探して待つ間の時間も短縮出来ていいことづくめだろうし」
「じゃあ……お礼にキュアポーション一本分余分に洋ちゃんに渡すってことでも良いかな? 」
結衣さんがパーティーメンバーに確認を取ると、全員が頷いている。新浜パーティーとしても戦力の拡充は願ってもないことらしい。耐性スキルもそうだが、攻撃手段がより強化されるのは歓迎するところだろう。その為に手間賃をかけてその分時間短くスキルオーブが手に入るなら大歓迎、ということらしい。
「じゃあ、覚えるね……イエスで……イエスで」
結衣さんが何回目かわからないが風魔法の多重化を行う。しばらく輝いた後、元に戻る結衣さん。ちゃんと最後まで光ったということは、まだ六重化までは行ってないってことだな。
「これで何回目? 【風魔法】覚えるの」
「これで四重化かな。もう一段階までは上がるのよね? 」
「正確には六重化までは確認してるけど、五重化で止めておいたほうが良いと思う。ちょっと六重化するには面倒な作業というか……かなりの努力が必要になってくる」
「そう……じゃあもう一つは行けるってことね、覚えておくわ」
「ちなみに僕も四重化までは成功させてますね。後、【物理耐性】と【魔法耐性】の二重化までは全員終わらせてます」
全員【魔法耐性】【物理耐性】を二重化させてるってことは、金を使ったか五十七層から六十層を念入りに巡ったんだろうな。頑張ったと褒めたくなる。
「でもいいのかな、キュアポーションのランク5と比べたら【風魔法】はそんなに高くないはずだし、みんなで割ることを考えたら貰いすぎのような気がするけど」
パラパラっと探索・オブ・ザ・イヤーをめくってスキルオーブの最新取引価格を参照する。【風魔法】は三千万円だった。それを共同戦果であることを考えても五千七百万円ほど貰って譲ったことになる。単純に均等割りしたとしても五千万ほど貰った話になってしまうんだが。
「そこは心配ないですわ。どうせ取引に出かける際はみんな休みになってしまいますし、その一日で稼げる金額考えたらポーション一本で済むだけ逆に儲けのほうが大きいんですわ」
平田さんが注釈を入れてくれる。なるほど、そういう理由なら納得もできる。
「じゃあ、納得してもらっておくことにするよ。ちなみに、七十三層へ試しに潜ってみる気は? 」
一応聞いておく。俺が付き添えば気楽に来れる場所だが、自分達だけで来るのはそれなりに努力が必要なはずだ。寄生させて育てるというわけではないが、中の状態を味わってもらってからここでの苦労話をする、というのもあまり好みではない。なので念のため、だ。
「うーん……確かに次のマップに興味があるけどやめておくわ。まだ七十七層が出来ているわけでもなさそうだし、この更に下のマップが出来上がってるなら腕試しも兼ねて潜ってみようという気にもなるけど今のところはまだ上の階層でてこずってるようでは実力不足を感じるところね」
「そうですね、興味があるかどうかと言われたらありますけど楽しみに取っておきたいという部分も大いにあります。なのでもし次の階層の地図が出来上がっていても聞かないことにします」
冷静に考えて撤退、ということだろう。結衣さんも【風魔法】四重化の威力を知りたいだろうし、そのままグリフォンともう一度対戦させて威力向上がどのくらい効果があったのかを自分で体験する必要があるだろう。
「で、この後どうするの、七十一層に戻るの? 七十一層だとかなり前にエイから【生活魔法】がでたけど、そろそろ復活してるだろうからねらい目かどうかはさておき、ドロップのチャンスは七十二層よりも高そうだけど」
「とりあえず今日の目的である階段探しは終わったから戻るわ。まだ七十二層は少し早いかもしれない。もう少し粘って七十一層でもお気楽に戦えるようになってから来ても遅くない気がする」
慎重な判断だな、と評価できる。グリフォン二匹にてこずるなら七十一層で一匹ずつ確実に狩れるようにするのは大事だ。それに一日の稼ぎも七十一層でも充分こなせるだろうし、俺は七十二層で、結衣さん達は七十一層でそれぞれ探索するほうが狩場が被らなくてなおいい。
「じゃあそのまま送り届けてから俺は七十二層に残るから、そこまでは一緒かな」
「グリフォン二匹の時だけお手伝いよろしくね」
「任された。それ以外の分についてはドロップ品も含めて任せた」
俺はもうキュアポーションのランク5という充分な報酬をもらっているので、戦闘補助で入るとき以外に収入はちょっと少なくてもいい。それよりも結衣さん達が戦闘経験を積んで強くなってくれるほうのことが大事だ。
そんな事を考えながら進んでいくと、ここで村田さんの身体強化が一つ上がったらしく、おめでとうを投げかけておく。確実に強くはなれてるようなのでこれはこれでヨシ。俺もそろそろ一回上がるかな。
そのまま七十一層の階段まで送り届けると、結衣さん達は七十一層へ戻っていった。さて、一人旅の探索を再開するか。ここでもう一段階強くなっておけばヘルハウンドに相対する時にもおたおたせずに冷静に、そして確実に戦えるようになるはずだ。
ヘルハウンドに比べれば戦いやすいグリフォン二匹相手に雷撃衝で難なく倒すと、ポーションがもう一つコロンと落ちてきた。ここでこのレアドロップを引くとは思わなかった。これはあれかな、必要な所に必要なものを手配したご褒美という奴かな。有り難くもらっておこう。
作者からのお願い
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続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。
後毎度の誤字修正、感謝しております。





