1398:やっぱ熱変動耐性があると便利だわ
「しかし……【熱変動耐性】があると普通に一層歩いているのと大差ないな」
「モンスターが強いのを除けばそうですね。ヘルハウンド君が中々に耐久力があるのを考えると彼がソードゴブリン相当のモンスターなのかもしれません」
「だとするとマグマゴーレムがゴブリン担当か。さしずめフレイムサラマンダーはグレイウルフ担当かな。見た目だとヘルハウンドのほうがグレイウルフ担当っぽいところはあるが……まあ強さ順で言えば言うとおりかな」
迂闊に二人とも【熱変動耐性】という寒冷地や灼熱の地獄で生きてる人たちにとっては快適をもたらすであろうスキルを取ってしまったおかげで、ダンジョンの最奥部で戦闘をしながら進んでいるという感覚がマヒし始めている。
これは結衣さん達にも早めに覚えさせて進むのが楽になるように手配できるようにしっかりとモンスターを倒していくことが必要だな。
っと、若返りポーションゲットだ。これでまた一つ世の中に若返る人が出来ちゃうことになる。
「そのポーション、いつになったら査定開始するんですかね。結構な数溜まってきてません? 」
「そうだな、今ので……ギルドに託した分も含めてちょうど六十本ってところだな。七十五層まできっちり地図に収めるところまで歩き詰めたおかげか、中々の本数になりつつある。これを査定にかける時の査定嬢の表情が楽しみではあるな。六十本でざっと百億を超えるからな。ギルド税で一割抜かれても一日の取引金額としては過去最高のものになるだろうし、振込金額としても日本記録を打ち立てるであろうことは間違いない」
レッサーファイヤードラゴンを倒してから価格改定までに複数回潜っている分の儲けはきっちり計算に入れているが、それも含めての本数がこれである。一回潜るたびに四本から六本ずつ増えていくので相当ここにも来ていることになる。おかげで地図が出来上がっているという側面もあるのだが、早いところ換金してしまいたいのが本音だ。
しばらく進むとまたヘルハウンドが三匹。雷撃衝一発で落ちてくれるとは言え、素早く駆け寄ってくるところを考えると溜めに使える時間は短い。最近は雷撃衝も溜め時間を短くする方向性で連射できるように色々と苦慮を重ねているところだが、これがなかなか難しい。
雷撃衝の連射を。出来ればヘルハウンド一グループぐらい一人で全部片づけられる程度の連射を。そう望みながら何回も試射を重ねているが、まだ難しく、芽生さんと半々ぐらいのペースでしか打つことが出来ない。
もし七重化を行うタイミングがあるとすれば、雷撃衝の連射と、雷撃衝の更に上の一発を撃ち放つだけの力量が備わった時にまたあの感覚が来ることだろう。今は楽しみにしながら自己鍛錬をこなすことぐらいしかできないな。
七十五層を抜けて七十六層に入った。七十六層は更にモンスターの数が増えた迷路ゾーンだ。ここはまだ半分ぐらいしか開拓できていない。ミルコにはどうせ暇なんだから七十六層まで頑張って作ったことを考えて全部回ってみてよと言われていることでもあるし、可能な限り全体の地図を作って自己満足とミルコの満足を両方満たしたいところではある。
何より、まだ七十七層への階段、つまりダンジョンコアルームへの道もまだ見つかっていない。一泊してゆっくり回れるならその時に是非見つけたいところだが、さすがに芽生さんも車校や卒業までの何やらで忙しく、一泊して朝出てきてそのまま自分の用事に向かう、という時間はなかなか取れない。
もしそれをやるには運転免許を取った後か、卒業式が終わって入庁式が行われるまでの短い間ぐらいしかないだろう。俺は一人でここを回れるかと言われると、先ほども言った通り雷撃衝の連射能力が足りないのでまだ一人で巡れるのは七十四層までかな、と考えている。
おっと、早速ヘルハウンドが出てきた。早速雷撃衝を連発し、二匹までは即座に対応する。三匹目は芽生さんに任せる。三匹目まではもう少しで連射できそうになるが、今の自分の状態ではまだ三匹に対応するのは難しい。おそらく三匹目か二匹目に噛まれるか背中の炎で焼かれる覚悟が必要になるだろう。それはあまりおいしくない選択肢だ。
ヘルハウンドがもうちょっと耐久力が低ければ可能性はあったんだがなあ。だがそこに文句をつけるのはお門違いであるし、自分が強くなればそれを満たせるのだから頑張って強くなるしかないな、うん。
ヘルハウンドが七十六層では最悪四匹のグループで出てくる。芽生さんと交互に戦って、一、三匹目を対応して二、四匹目は芽生さんに任せるような形でなんとか戦えているものの、出来れば全部まとめて相手にしたいところではある。これも修行みたいなものだな。
七十六層に下りて制限時間は二時間。帰りの茂君をなしにしても片道一時間。このペースだと、後三回ぐらい通えば七十六層も完全制覇して階段も無事に見つかるかな、というお気楽コースである。わざわざきつめの探索をして稼ぐほどの場所でもないし、急いで行かないと七十七層へたどり着けない時間制限があるわけでもない。
芽生さんがこっちにいる間に八十層まで出来上がるなら話は別だが、そういう予定をミルコから聞いている訳でもない。今のところは大人しく次への階段を見つけてしまってさっさと次へ行く準備だけは欠かさないようにしておくところが限界だと言えるだろう。
八十層が出来上がるのとポーションが査定可能になるの、どちらが早いか勝負ってところだな。一つダンジョン庁の対応が早いか、それともミルコのダンジョン作成のほうが早いか見物だな。
こちらも最速でダンジョンクリアを目指している訳ではないが、最深部まで潜ることは出来ている訳だし目標の一つはクリアしている。後は階段、そう階段が見つかってくれれば御の字なのである。
マップの広さから考えるに、一時間かかってギリギリの距離のところに階段があるという可能性は低い。ここも三十分ぐらいあれば攻略することは可能な距離に階段はあるはず……と考えて近場から回ってはいるが、今のところ発見には至っていない。見落としか、それとも見当外れか。
今回の場合後者の可能性が高そうだ。最後のマップだし離れたところにあってもいいよね? という合図なのかもしれない。
◇◆◇◆◇◆◇
迷路をグルグル回る。今のところは収穫はあるが収穫はなし、という微妙な気持ちだ。地図は描けているしモンスターは余すところなく倒している。が、肝心の階段はまだ見つかっていない。ポーションこそ落ちたものの、違うんだよなあ……という気分で一杯だった。
そんな折にポロッと、ヘルハウンドからスキルオーブのドロップがあった。ヘルハウンドなのだから【火魔法】かな? それとも階層固有の【熱変動耐性】か、それ以外の何かか。手にして確認を取る。
「【熱変動耐性】を習得しますか? Y/N 残り二千八百七十九」
どうやらお望みのほうを手に入れられたようだ。これで余裕が出来たな。
「ノー。こいつはギリギリ二百日まで塩漬けか、七十三層まで早くたどり着けた方に売りつけるとしよう」
「ということは【熱変動耐性】のほうが出ましたか。結衣さん達が来れるようになった時に数を溜めこんでまとめてうっぱらえると好都合ですね」
「その為にも保管庫で大事にしまい込んでおこう。身内に近いとはいえ金はちゃんと取る。贈与税だのなんだのと言われたくはないからな。この階層まで進んだら必要になるであろうスキルオーブだし、そう高くない値段で最初は取引を始められると良いな……と。今日の収穫は【熱変動耐性】と埋まらなかった場所の地図を埋めたこと。この二つか。ちょうど折り返しにもいい時間になったしそろそろ戻るとしよう」
「そうですねえ。もうちょっと頑張って進んでゴールが見えてるわけでもないですし、戻りたくなった時に戻るぐらいがちょうどいいのかもしれません」
そのまま七十三層まで一気に戻る。道中のモンスターを消し炭にしながらなので素直に、というわけではないが、きっちり魔結晶を回収しているので金にはなっている。
これでポーションが査定開始になれば、このマップは七十二層よりも稼げる階層に変貌する可能性は高いが……移動時間を考えると微妙な所だな。七十七層が出来上がってから七十六層に上がって稼ぐ方が多分効率としては上になるのだろうな。
七十二層まで戻って、グリフォン二匹を消し飛ばして午後五時。いつもよりちょっとだけ長く居た計算になるな。どうやら思ったよりものめり込んでいたらしい。次回こそは階段を見つけるぞ、という決意と共に七十層まで歩いて帰る。
もはや相手にならないグリフォンとサメとエイから少しずつお小遣いをもらいながら……いや少しずつというほど安くもないし、爪と肉はおいといてキュアポーションのランク5が落ちることを考えると決して馬鹿にはできないその小遣い稼ぎをしながら七十層へ行く。どうせこの往復分しか今のところは査定にかけられないのだから、モンスターのほうも精々気合を入れて挑んできて欲しいものだ。
七十層に到着し、また車で戻ろうとすると、芽生さんがこっちを見てうずうずとしている。
「運転してく? 」
「してく! ここなら誰も轢かないし物陰から自転車も来ないし! 」
どうやらシミュレータにまだうっぷんが溜まっているらしい。まあここなら安全だし最悪車も回収して歩けばいいや……と芽生さんに運転席を任せて乗り込むと、恐る恐る発進しだして、エレベーターの横まで安全運転で到着することが出来た。時間はかかったが、たまには教習車以外の車に乗って気晴らしをすることも必要だろう。
エレベーターのところまで誘導すると、そこに車を止めて降り、車を回収する。リヤカーをエレベーターに押し込んで、倍速で一層ボタンを押すと、早速荷物整理だ。
今日の荷物は魔結晶とグリフォンの爪と少量のキュアポーションランク5。グリフォンの爪は三百本ほど載せてみた。芽生さんとああでもないこうでもない、と言いながらリヤカーに目一杯積み込むことが出来た。
とりあえず今日のところはこれで勘弁してやろう。次回は爪の続きと肉だな。肉は……何個乗るのかな。後二回ぐらい通えば全部吐き出せるかな? という程度だ。やはりこっちの方が経済的であるらしい。まとめて一回二回……と持ち出して運び込んでを繰り返すよりも載せられるだけ載せて査定を受けたほうが今は効率がいい。
一層に着いて退ダン手続き。いつもよりこんもりとしているリヤカーを見て、受付嬢が「最下層にこんなに荷物溜めこんでたんですか? 」と聞かれたが「まだ一部ですよ。おいおい処理していきます。査定外だった物品が結構あるので」と返しておく。
査定カウンターにグリフォンの爪を満載したリヤカーを持っていくと、流石の査定嬢も少し動揺していたが、種類は少ないので数だけお願いしますと伝えると、面倒がそれほど多くはないと感じたのか、もさもさと査定業務を始めた。
五分ほどして査定の結果が返ってくる。今日のお賃金、今までのグリフォンの爪の分を含めて二億三千四百十六万四百円。中々の金額になったな。
着替え終わってきた芽生さんにレシートを渡し、いつも通り支払いカウンターに並び振り込み。振り込んだところでいつもの熱いお湯をもらってゆっくりしながらバスのダイヤとにらめっこ。ちょうど五分後に来るらしいので早々とお湯を飲み干して芽生さんと二人バス停で並ぶ。
「明日はお休みですか? 」
「休みは昨日取ったからな。明日はゆっくり無理しない範囲で……スノーオウルの羽根集めかな。二日続けて同じところに来るのも芸がないし、片手で摘まめるものを用意しながらゆっくり手早く確実に集めに行くことにする」
「私は明日は大学と車校、明後日は車校の予約があるので次は三日後ですかね。私がいない間に精々稼いでおいてください。正直これだけ稼いでるとグリフォンの肉の分ぐらいは洋一さんに全額渡しても良いぐらいの気持ちで居ますが、それでもできるだけ公平に、という洋一さんの気持ちを汲んでおくことにします」
どうやらわかってくれているらしい。頼もしい相棒を持ったな。ご褒美に頭を撫でながらほっぺたを軽くむにっとしてやると、にへらっと表情を崩す芽生さん。全く、いい相棒だな。
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