1397:冬野菜の天ぷらとグリフォン唐揚げ
昨日はしっかり調べものをして頭を使ったが、布団と枕のおかげで寝起きの頭もスッキリだ。事務作業にも効果的であることは間違いないだろう。この幸せを出来るだけ多くの人々に味わってもらうためにも毎日のダーククロウは欠かせない、ということだろう。
今日もありがとうダーククロウ、そしてちょっと価値が落ちたスノーオウル。君らの犠牲の上に俺の快適な睡眠が成り立っている。今日はいつもよりさらに念入りに感謝をしておこう。
さて、今日は芽生さんと二人で潜るので昼飯の用意も二人分しなければならない。いつもの朝食の後にメニューを考える。ふと昨日の弁当が頭をよぎる。揚げ物か……悪くないな。あの洋食の中に混ぜ込まれていた鶏の唐揚げ。鶏肉の代わりにグリフォン肉を使って、それから野菜もいくつか揚げていこう。
炊飯器をセットした後、揚げるものの工程はほとんど同じなので肉をタレに漬けこんで保管庫で二百倍速でタレを染み込ませていく間に野菜を切って衣をつける準備をしておこう。
とりあえず揚げ物の候補としてはカボチャ、人参、レンコンを用意してみた。手持ちにある冬野菜はこのぐらいなのでちょっと多めに用意しておいても問題ないだろう。どちらにも合わせられるキャベツの千切りを先に用意して、敷物として皿に全体的に敷いていく。
野菜の仕込みが終わったところで、保管庫からしっかりと漬けダレに付け込まれた肉を取り出して唐揚げ粉をつけていく。しっかりとまぶして美味しくなぁれと唱えながら、しっかりと温度を上げた油に投入する。二度揚げもちゃんとやる。からからと良い音を上げながら揚がっていく唐揚げに期待値が嫌でも高まっていく。
揚がった一つを味見する。……うむ、これは自信作だ。中までしっかりと火も通っているし外側もサクサクで小気味良い音までする。二パック使って盛大に揚げただけの効果はバッチリあると言えよう。これがメイン食材だ。
これが原価だけで考えても一欠片で万札が飛び交うような食品になる。それだけでも恐ろしい話だ。しかし、自分で取ってきたので原価はゼロ円。しいて言うなら俺の腕で上げている分だけ人件費が相当高くかかっていることに間違いはない。なにせ、その気になれば一時間に一億稼ぎあげることも可能な御身分だ。
もっと料理の上手い……例えば中華屋の爺さんなんかに料理を任せて俺は原価ゼロ円の食材を取りに行く、という役割分担ができるならもっと経済的な運用ができるようになるだろうな。
唐揚げを作った後油を軽く網ですくって唐揚げから離れていった衣をどけると、今度は野菜の揚げ物の準備だ。衣のタネをササっと作ると野菜をくぐらせては順次投入。揚がったものから順番に油から取り出していく。
今日は揚げものとご飯しかないのでもう一品、菜っ葉を絞ってごま油とすりごまを混ぜ合わせて、ちょっとだけみりんを加えて一品箸休めを用意しておく。物足りなかったら醤油をかけて味を調える感じで行こう。
IH周りの油跳ねをウォッシュで綺麗にすると、後はご飯が炊けるのを待つのみだ。スーツに着替えて炊飯器からご飯が炊けたという知らせを受け取るまでしばし待つ。炊飯器の返事と共にご飯をタッパー容器に移す。これで飯の準備はできた。物足りないと言われたら肉を追加して焼けばいいだろう。さて……
柄、ヨシ!
圧切、ヨシ!
ヘルメット、ヨシ!
スーツ、ヨシ!
安全靴、ヨシ!
手袋、ヨシ!
籠手、ヨシ!
飯の準備、ヨシ!
嗜好品、ヨシ!
車、ヨシ!
保管庫の中身……ヨシ!
その他いろいろ、ヨシ!
指さし確認は大事である。今日も体調もいいし、いつも通り七十二層で昼食、その後真っ直ぐ足早に七十六層までたどり着いて精々稼がせてもらおう。若返りポーションの効能がある程度わかってる以上、そう遠くない未来にポーションも査定が開始されるはずだ。
一本一億七千四百六十万円の品物をバーンと出して懐を一気に潤す作戦は効果があるかどうかはわからないが、気持ちのいい稼ぎができることに違いはあるまい。楽しみにして待つことにしよう。
◇◆◇◆◇◆◇
いつもの時間にバスに乗り、到着次第芽生さんを探して合流。そのまま入ダン手続きへ。いつも通り七層でダーククロウを一狩りしてから七十層へまっすぐ降りる。
「さあ、今日からグリフォンの爪と肉を卸していくぞ。今回はまとめて一気にやるのではなく、来るたびに載せられるだけ載せてちょっとずつ保管庫の中身を減らしていく予定だ」
「洋一さん、質問です。相当な量があると思うんですけど、今回先に一気に納品して午後からゆっくりと探索しない意味はあるんですか? 」
前回と違ってまとめて提出しないことに疑問を持つ芽生さんから質問が出た。
「ざっくり言えば稼ぎの効率の問題だな。前回は物量もさることながら、魔結晶も同時に解禁されたため、普段の稼ぎに比べて相当多い量を運ぶ必要があったし、その分だけ収入にはなった。しかし、保管庫の中に入っているグリフォン素材の価格をざっと算定すると、全部合わせても一億七千万程度にしかならない。その為に午前中を潰して一日七十三層以降で戦わないことと、分割して載せられるだけ徐々に納品していくことを考えると、後者の方が収入としては効率が良い。それに、七十三層以降は荷物が少なめで帰るのでリヤカーに空いたスペースが結構多いのでどれだけ回数こなすかにもよるが、きっちりギリギリまで詰め込めば数回で終えられると思う。グリフォン肉にしろ爪にしろ、四百ずつほどあるから三回か四回七十三層以降に通うだけで査定しきることができる計算になる。なので、懐具合を考えるとまとめて時間かけて納品するよりも、こうやって深く潜ってくるときについでに隙間に詰め込んで載せていったほうが経済的に効率的だと考えた。他に質問は? 」
一気に解説をし終える。芽生さんはなるほど……とつぶやいた後、次の質問を始める。
「じゃあ次の質問、お昼は何ですか」
ドロップ品の査定については満足する答えが返ってきたからか、全力で脱線し始めた。
「今日のお昼はグリフォン肉の唐揚げと季節のお野菜の天ぷらだ。千切りキャベツと菜っ葉の胡麻和えもついている。ちなみにお野菜はレンコン、人参、カボチャをご用意してみた」
「それは楽しみですね。二時間後をじっくり待ちましょう」
「もし足りなかったらまた何か作るからその時に言ってね」
時間が空いたのでまた二人でクロスワード。次の月刊雑誌の発売日までは二週間ほどあるし、その時になればまた違った内容が誌面をにぎわせてくれるだろう。おそらく次の内容は新しいダンジョンの大まかな内容や率先してダンジョン探索を行っている配信者のチャンネル紹介なんかが載せられていると予想している。
後、価格改定後の全価格リストを載せてくるのも確定だろう。懐事情もちゃんと考えて紙面をにぎわせてくれるのも探索・オブ・ザ・イヤーの良いところ。そこが気に入って毎号購入しているし、前のインタビューにもこっそり答えた。あれが売り上げにつながったかどうかはわからないが、少なくとも他の紙面に載っていない情報があった、という点では売りの一つになった事だろう。
七十層にたどり着いていつも通り車で七十一層側へ。そして階段を下りて頭の上に雷撃を放ち、サメがドロップ品に変わって降ってくるのをキャッチして、さぁ探索開始の合図だ。今日も気張って探索していこう。
◇◆◇◆◇◆◇
七十三層への階段まで一気に駆け抜けてお昼。机と椅子を用意して、ほぼ揚げたての状態の天ぷらと鶏の唐揚げ、そして菜っ葉の胡麻和えを用意すると、お茶碗にタッパー容器からご飯をよそってお渡しする。
「これは……二パック使いましたね? 」
「二パック使いましたとも。しっかり腹に飯を詰め込んでお腹いっぱいで満足することも大事だからな」
「では早速頂きます」
神妙な面持ちで唐揚げに齧り付く芽生さん。保管庫で保管していたおかげでまだ外側の衣はサクッとしていて、静かな月面マップに食事の音が鳴り響く。俺も一口早速頂く。サックサクにあげられた唐揚げがいい音を鳴らす。
「美味しいです。美味しいですが、これの値段が二十万円ということを考えると素直に頷けない自分がいます」
「二十万円と考えるからよろしくない。自分で取ったんだからタダ飯だと考えよう。ここはあえて俺の人件費は考えないものとする」
「洋一さんの人件費を考えたらもっと高額になってしまいますからね。グリフォン肉の唐揚げ……これは流行りそうな予感がします。探索者の間で、ですが最高級中華の一品として数えても良いぐらいの旨味の凝縮ですよこれは」
芽生さんが絶賛しているので美味いのは間違いないんだろう。満足してくれて何よりだ。さて、味見してない野菜のほうはどうだろうか……と、レンコンはもう少し揚げ時間を長くしてもよかったかな。
人参は甘い奴を使ったので甘さが天ぷらの衣にほのかに移って美味しい。箸休めにキャベツと菜っ葉を食べて……うむ、口の中の脂を良い具合に流してくれてまた新しい気持ちで食べることができる。
「今日は百八十点ぐらいですね。百点満点で」
「中々の加点だな、満足してくれたならばよし。午後からの働きに期待する物である」
「ははーっ」
楽しく昼食を済ませたところでダラダラと胃袋を落ち着ける時間。その間にグリフォンが湧いたので腹ごなしついでに少し掃除。肉が出たので今日の昼食は半分返ってきたようなものだな。美味しく調理させてもらったのもあるし、またグリフォン肉で鶏肉系レシピを攻めていくことにしよう。まず搬出するのは爪からだな。
おっと、ミルコへのお供え物を忘れていたな。いつも通りコーラとミントタブレット、それからいくつかのお菓子を机に備えると、パンパンと二拍。ついでにグリフォン肉美味しかったよありがとうとお礼も言っておく。
お礼が届いたかどうかは解らないが、お供え物は無事にミルコの手元に届いたのか、シュッと消えていった。これでよし、後は七十三層以降に潜って今日のメイン探索を始める手順だな。
食休みを終えて七十三層に入る。ここからはちょっと楽が出来る。真っ直ぐ七十六層まで下りるとはいえ道中のモンスターはグリフォンやサメほどの脅威を感じない。そこそこの数は出てくるものの、やはり素早い攻撃でこっちの機先を制してくるようなモンスターでもない限りは今のところはまだまだこちらの敵ではない。
ささっとフレイムサラマンダーとマグマゴーレムを片付けながら七十四層へ向かう。ここはまだ通り道、三十分しか通らないとて魔結晶でそこそこの稼ぎにはなるので余さず収入として利用させてもらうことにする。
七十四層に下りても工程は同じ。密度が増えた分戦闘回数は増えるが、それでもやはりまだ敵ではない。命名ヘルハウンド君ほどの苦戦がなければ安心安全の通り道、といったところだろう。
しっかり地図に描かれたままの道をたどる。一応七十三層から七十五層までは全て地図を網羅したので、後は七十六層をどれだけ巡れるか、というところだ。七十六層は十六層にも似た迷路に近いマップをしているので中々地図の作り甲斐がある。
そのまま七十五層へ下りて、ボス部屋を横切る形で七十六層のほうへ足を向ける。そう言えばここのボス、レッサーファイヤードラゴン(仮称)のリポップタイムはどのぐらいになるんだろう。リッチで一カ月を見込んでいるのだからこっちは二カ月か一カ月半かそのぐらいだろうか。
年に十回ぐらいしか出会う機会がないと考えると相当レアなモンスターであることに違いはないが、そうそう回数を重ねてボス戦を挑むことはないとは思うが、たとえばこいつもリッチ同様ドロップ品が複数あるとすると話は変わってくる。
もしかしたらファンタジーお決まりの極上の食物であるドラゴンの肉という一品を手に入れたりする機会も巡ってくるかもしれない。鱗、牙、逆鱗、肉あたりはドロップ品候補として存在しててもおかしくはないな。
しかし、あれにもう一度挑めと言われて手持ちで勝負ができるか? と言われると複数回は今の段階ではゴメン被る、という所だろう。まだまだ俺達では手数も足りないし強さも充分ではない。
二か月後ぐらいにもう一度訪れるまでに自分が強くなった自信がついたらまた再戦してどれだけ強くなったかを確認する作業、というのも必要になってくるかもしれないな。その時まではそっとしておこう。どうせ今はまだ湧きなおしていないんだろうし、わざわざドアを開けて確認する必要もないと考えられる。
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