1391:ボス戦 レッサーファイヤードラゴン 1
「さて、戦場に入る前に確認だ。手持ちの指輪が複数個ある。邪魔にならない程度にバフしておこう」
「物理も魔法も、ですか」
「そうだな、多ければ多いほどいいが……とりあえず余分に三個ずつは装着してみて様子を見よう。これで実質【物理耐性】【魔法耐性】共に三重化だ。ここまで上げておけばそれなりに耐えると思う」
武器の持ち手の邪魔にならない程度に指輪をジャラジャラさせておく。効果的なのは前のボスのリッチで学んだ。指輪の個数は正義。
「これで防御面は問題なし、ですね。後は攻撃面ですが……ゴブリンソードの残弾は充分ですか」
「残弾はあるが、ドラゴンの表皮を貫けるほどゴブリンソードに硬さがあるかどうかといわれると困る所ではある。一応スケ剣とトライデントもあるが、スケ剣から順番に……なんてケチなことはせず、ゴブ剣がだめならトライデントを放り込んでいこうと思う」
「解りました。こっちはドラゴンとはいえ熱に強い分水魔法に弱いかもしれませんし、表面が熱で覆われているなら蒸発させてエネルギーを奪い取って弱らせたり、口から放り込んで窒息させたりできるかもしれません。色々やってみることにしましょう」
「よし……じゃあ行くか」
再び鉄の門を開く。鉄の門は古めかしくギギギギという音をたてたりはせず、すんなりと開いてくれる。それがかえって恐怖心をあおる。門の建て付けは悪くなく、いつでも挑戦者を待っているぞと言わんばかりの堂々とした門構え。
それを乗り越え、門を閉めずにちょっと開けておく。もし自然に閉まってしまったらその時は……その時はちゃんと開くんだろうな? まさか開くだけ開けて閉めるにはボスを倒すか全滅するしかないなんてことはないだろうな。
「とりあえずめいっぱい開けておくか。もしかしたらボスがスタックするかもしれないし」
「なんともメタい理由ですが可能性はゼロではありませんからね。楽に倒せるならそれが一番いいです」
芽生さんと二人で門をめいっぱい開いておく。まだドラゴンは動かない。もうちょっと近づいてやらないとだめらしい。もしくは、門からちょっと覗いただけでは反応しない、そのギリギリの所なのかもしれないな。
ボス部屋らしく天井も高くかなりの広さの空間となっている。これ、空飛ばれたらかなり面倒だな。出来るだけ地表で戦えるように戦場を整えないといけない。
一歩、二歩と近づいていくと、あるタイミングでドラゴンの目が開く。どうやらこちらを認識したらしい。もう少し進むと、ドラゴンはそのでかい体をのっそりと動かし、立ち上がり始める。しまった、動きはじめる前が攻撃のチャンスだったか?
「攻撃タイミングを一つ逃したかもしれない」
「まあ、変身中やポーズを決めている間は攻撃しないというお約束ではないでしょうか。ゴブリンキングも似たようなもんだったじゃないですか」
「それもそうか」
ドラゴンは立ち上がり、翼をめいっぱい開いてこちらに向けて威嚇の姿勢をとる。猫が気に入らない相手にしっぽを膨らませて逆立てているかのようだ。
「グアアアアアァアアアァアァア! 」
おそらくそういうスキルを持っているのであろう、全力で吠えた。その吠えた声に体が反応し、全身が重たく感じる。しいてこの攻撃に名前を付けるなら【威圧】スキルだろう。これにより芽生さんと俺が一時的に反応できないようにするためだと思われる。
しかし、俺にとっては動けないほどではない。【威圧】の効果も身体強化のレベル差でなんとかなる、ということだろうか。芽生さんはまだ少し辛そうだが、後数秒も経てば【威圧】の効果も薄れていくんじゃないだろうか。
そう考えているうちにドラゴンがこちらに向かって腕を伸ばしてくる。その爪には充分な切れ味と威力がもたらされているのだろう。芽生さんはまだ動けないので俺が抱えて無理矢理S字を書くように回避。
「動けそう? 」
「あと五秒ぐらいは無理かも……五秒耐えてください」
五秒か、短いようで長いな。ドラゴンは続けて爪による攻撃を仕掛けて来るが、威圧の効果が切れたのか余裕をもってまた避けることが出来た。どうやら素早さではこっちに分があるらしい。もっとも、素早さ以外はすべて負けているような気がしないでもないが。
「もう大丈夫です、下ろしてください」
芽生さんの準備が出来たところで仕切り直しだ。芽生さんと離れて行動し、ドラゴンがどっちを攻撃するのか見定めながら悩んでいる間にまずは射出による攻撃を試す。ゴブリンソードを十本ほど用意して先ほどの雷の出力を思い出し、その威力を維持しつつ射出を試みる。
スパパパパパパパパパパァンという音と共に、キンキンキンキン……という弾き飛ばされるような音。五十メートルほどのこの距離でリニア式射出を外すようなおまぬけさんではないので、この弾かれたような音はどうやらすべて鱗や体表に当たった音だろう。これは想像以上に硬いな。鱗以外の部分を狙ったゴブリンソードは……かろうじて二本刺さってはいる。しかしダメージにはなっていない様子だ。浅く刺さったのみのゴブリンソードがかろうじて見えた。
「ゴブ剣通じず! 相当硬いよ! 」
「なら物理攻撃はしばらくなしですねえ! 」
流石の耐久力だな。さてここからはゴブリンソードを介して雷撃を流していくか……と考えている間にドラゴンの顔がこちらに向いていた。おっと、ちょっと考えに頭が行き過ぎて体を動かすのを忘れていたか。ドラゴンのブレスが来る……全力のサイドステップでギリギリ回避……出来るか?
ドラゴンのブレスが掠るように横を通り抜けていく。ワイバーンみたいに放射線状に吐かれるブレスなら俺の命はここまでだったかもしれないが、そうじゃなかったことが幸いした。しかし、スーツは燃え始めている。急いでスーツに移った火を消す。
スーツが少し燃えてしまった。が、スーツのデモで見せてもらった通り熱に対する耐性はそれなりのものであることは解った。ドラゴンボールみたいに半裸になる所までは想定していたが、思ったよりは燃え残っている。しかし、このドラゴンの炎の温度までは予測してなかったらしい。つまり相当に熱かったんだろう。
同時に、【熱変動耐性】はドラゴンのブレスに耐える程度の性能があることが分かった。火傷はしているが熱く感じない、もしくは火傷そのものをしていないかのどちらかだが、今は火傷よりもドラゴンの相手だ。芽生さんが視界に入るようでは困る。
芽生さんの分の予備のスーツは持ち合わせていないので、うっかり帰り道であられもない姿を見ていいのは今のところ俺だけにしてほしい。
後、俺の身体はさっきの熱さでダメージを受けているのかどうかがわからない。【熱変動耐性】のおかげで熱さこそそこそこで済んだが、もしかしたら【魔法耐性】も合わせて持ってなければ消し炭になっていたかもしれないと思うと、事前に指輪を多めにつけておいて正解だったな。
「ブレスは相当熱いぞ。でも耐えられないほどではない」
「後で確認しますから戦闘に集中します。私も受けないようにしないと」
再び射出。ドラゴンが口をふさぐ前に口の中へ一本ゴブリンソードを放り込む。うまく喉の奥に刺さったそれは、先ほどのようなキン! という音をさせずにズブリと中へ刺さり、うまいことダメージになったようで少しドラゴンが怯む。どうやら口の中はそれほど硬いわけではないらしい。
俺がドラゴンの相手をしてる間に芽生さんは水魔法のイメージが固まったようで、ドラゴンの全身に対して水魔法を盛大に発射する。多分芽生さん史上過去最大級の水魔法の威力と総量だと思われる。それは全身に対してのスプラッシュハンマーだった。
ドラゴンの身体を包み込むように水魔法が発射され、着弾地点のそれぞれから何枚ものウォーターカッターがまき散らされる。こっちにも飛んできたので回避。危ない危ない。さすがに着弾点からウォーターカッターがどっちに飛んでいくかまでは芽生さんも操縦できないらしい。
ドラゴンにはいくつもの蒸気が上がり、そこに傷らしきものが見え始める。どうやらドラゴンの表面温度の高さは冷やされることで温度差で自分自身にダメージを与えるほどに高いらしい。【熱変動耐性】がなければそれの判断も付いたんだろうが、今のところはとりあえず高かった、ということだけはわかった。
「【水魔法】効果あり! 」
「そうみたいだな。そのまま継続してみてくれ」
傷をつけられたことに焦ったのか、ドラゴンは一度上空へ逃げようと翼をはためかせて頭の上へ逃げようとする。大きな翼が風を起こし、そのままヘリが上空へ飛び去るようなイメージだな。ちょっとこの図体の大きさと火力で頭の上に逃げられるとまずいな。
「芽生さ」
「はいよ! 」
言い切らないうちに芽生さんがウォーターカッターで翼を切り裂こうと試みる。俺もゴブリンソードを射出し、翼を切り裂こうとする。ワイバーンもドラゴンも概念的力で空を飛ぼうとするならば、翼さえ奪ってしまえば地面に縛り付けることができるはずだ。
どうやら翼は鱗に覆われている部分や胴体ほど硬くなかったらしく、両翼を切り裂かれたドラゴンが地面に転ぶような形で着地する。せめて君は地面にへばりついていてほしい。
芽生さんが再びスプラッシュハンマー連打。再びドラゴンにダメージらしきものが入るが、ドラゴンもそれで負けてくれるわけではなく、ブレスを吐き始めるそぶりを見せ始めた。
ドラゴンの注意をこちらに引きつけるため、射出をしたいが、ゴブリンソードは効果的な弾とは言い難い。ここは仕方ないのでトライデントで代用する。ここからでは口の中も狙えないので体のどこかに刺さってくれれば問題なしとして、一本五十万円相当の金額をしっかり出費して攻撃に加えていくことにしよう。
この際その金額で刺さってくれるなら今は御の字だ。出し惜しみはするが三本射出。何本かはトドメのために残しておきたい。トライデントの在庫はゴブリンソードほど潤沢ではないのだ。決めたところで大事に使っていきたい。
トライデントを最大出力のリニア式射出で発射、出来るだけ鱗のないところを狙って撃ちこむ。パパパン! といい音がしてそのままずぶっと深めにトライデントがドラゴンの腹部に刺さる。
「グオオオォォォオオ!」
ドラゴンが軽く悲鳴を上げた。トライデントの頭の部分は完全に埋没し、真ん中あたりまで埋まり込んでいる。
これだけ深く刺さったなら体内にまで達しているだろうな。雷撃衝をトライデントに向けて発射する。
どうやらこれだけ深く刺さると体内を通してダメージが入るらしく、ドラゴンは体をくねらせて痛みから逃れようとするが、体の内部からの痛みは苦しいだろう。俺はアニサキスで散々味わった覚えがあるぞ。
芽生さんの三度目のスプラッシュハンマーで更に体力を削られていくドラゴンは先に攻撃をする方向を定めたらしく、芽生さんのほうへ向く。
「お口がお留守ですよ! 」
芽生さんはドラゴンの口の中に向かってありったけの水魔法を叩きつける。ドラゴンがブレスを吐き始める前に芽生さんの魔法が着弾し、ドラゴンが顎を上げて上に向かってブレスを吐かされるはめになる。
その時、ドラゴンの顎の下に逆向きに生えている鱗を見つけた。どうやら逆鱗という物はちゃんと装着されているらしい。ドラゴンは逆鱗が弱点というのは相場が決まっている。この瞬間なら狙えるか。
以前は失敗したが今回は威力を求めなくてもいい、素早さと狙いさえあえばいける。圧切に瞬時に持ち替えると、安全靴に磁力を与え、地面に反発する磁力を無理矢理付加すると、俺の身体が一瞬でドラゴンのところまで無理矢理押し出される。以前カニうまダッシュで試して失敗した縮地法だ。
今回は……そのまま圧切を前に構えると逆鱗に対して猛烈な速さで追いつき、圧切で文字通り圧し切って逆鱗を弾き飛ばしてそのまま逆鱗を折る。スピードが乗っていたおかげか、逆鱗は綺麗にそこからすっぽりと抜け出てぶち割ることが出来た。
「ギャアアアアアア!!! 」
ドラゴンにとっても急所だったのか、それとも出来上がっていた攻略法なのか。ドラゴンは急激に活動をゆっくりにして、痛がってもじもじしている。男で言うと股間を蹴り上げられたようなものなのだろうな。
ヒュンとしながらもそのスキを逃すなかれ。芽生さんは口内を集中的に、そして俺は外側から圧切で再びドラゴンを切りにかかる。さて、ドラゴンの切れ味はどのぐらいの物かな。
試しに鱗を攻撃してみるが、キン、と硬い手ごたえ。やはり鱗は無理か。圧切でも鱗を弾くことはできないらしい。ふむ……圧切でも無理ということはこの次のボスはもっといい装備をそろえなければならなくなるな。
考えを改めて鱗のないところを今度は切り刻んでみるが、鈍い手ごたえ。ここは筋肉がしっかり詰まっているところなんだろう。切れないことはないが浅く隠し包丁を入れるがごとき薄さ。これでは嫌がらせにはなるだろうがとてもダメージとは呼べないな。
後は腹だな。腹の柔らかそうに見える、トライデントが深々と刺さっているところを刻んでみる。こっちの手ごたえは鱗の無い部分ほどではない。それでも十分な硬さを保持しつつも切り裂きやすい腹を見せてくれた。よし、これだけ傷を広げれば大丈夫だろう。圧切を柄に持ち替えて雷切状態で思いっきり傷口に差し込み、傷口の中へ最大出力の雷撃を撃ちこむ。さぁ、これでどうだ。
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