1376:七十四層 熱変動耐性
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休憩を終えて七十四層に突入する。休憩と言っても、この暑い気温がじわりじわりと体力を削っているのは確かなので、出来れば早いところ七十二層のあのうすら寒かったところに戻りたい気分でもあるが、急にあの気温にあたってしまっては、サウナから水風呂に入るような感覚を覚えて達してしまう可能性もある。
中々に厳しいところではあるな。探索者の体力を直接削りに来るマップは多分ここが初めてじゃないかな。
「今度は三匹ですか。流石に三匹は洋一さんに手伝ってもらわないといけませんね」
芽生さんが、階段を下りた所に見えているフレイムサラマンダーの様子を見ている。階段を下り切っていないのでまだこちらの姿は見えていない、という感じになっているんだろう。
「よし、いちにのさんで降りてサッと倒そう。二体はこっちでやるから」
「解りました。では……いちにの……さん! 」
階段から素早く降り立ってモンスターがこっちを見た瞬間に雷撃衝二発。フレイムサラマンダーが動き出す前に二匹を消滅させる。芽生さんも一匹手早く倒して、階段を下りた先のモンスターはこれで退治できた。いちにのさんでやらなきゃいけないほどでもなかったな。
「うむ、楽勝楽勝。フレイムサラマンダーなら油断しなきゃ三体ぐらいまでは一人でも相手できそうだな」
「そうですね。まだまだ手数にも余裕がありますし、四匹ぐらいまでなら出てきても何とかなる感じですね」
「前のマップが数が少なめだったから手数が多く感じられるが、ここよりも手数が多いマップはあったことだし、調子を整えていかないとな」
前のマップは多くて二匹で、それも一撃で倒せたから楽に潜り抜けられた面もある。ここからも同じように一撃で倒していけるという保証はないが、出来る限り楽をして進んでいこうというスタンスは変わらない。今のところまで出てきたモンスターには苦戦しないことが確認できているので、後は数がどのくらい出てくるかだろう。この階層からは数が増えるはずだから油断せずに行こうか。
「さて……ここはマップのどの辺になるのかな。芽生さんのスキルに頼って三十分さまよってそれから戻って帰るか」
「私のスキルって何です? 」
「女の勘」
「なるほど。では……こっちへ行きましょう」
芽生さんが指示した西方向へ向かいながら地図を描き、そして片手間で芽生さんではちょっと対応しきれないであろう数が出てきた時に雷撃で手伝う。そんな中、またポーションがポロッと落ちた。
「収入的にはこれで大きなものになったんでしょうが、今すぐ査定できないことを考えるとちょっとここでの稼ぎが安すぎやしませんかね? 」
「まあ、実質的にここが最初のポーション供給場所だと思えばこそだ。実収入としての稼ぎは七十一層と七十二層で決まってくるのでそっちでキュアポーションが落ちることを願いながら進むしかないんじゃないかな」
「うーん……まぁそれで納得しておく事にしましょう」
しばらくフレイムサラマンダーを倒し続けて、マグマゴーレムが同時に二体湧ける広い空洞に出た。流石に二体とも相手にしろとは言えないので片方は俺が倒す。
すると、マグマゴーレムから輝く玉が一つポロッと落ちた。芽生さんの戦闘が終わり次第、拾って内容を確認する。
「【熱変動耐性】を習得しますか? Y/N 残り二千八百七十九」
どうやら【熱変動耐性】という新しいスキルがドロップしたらしい。どういう方向性で熱変動に耐性がつくのかはちょっと気になる所だが、もしかしたら暑さ寒さをそれほど感じないようになる、というスキルオーブなら大歓迎するところだろう。
「ノー。これどう思う? 」
芽生さんにも渡して内容を確認してもらう。芽生さんも頭にハテナをつけたままのようで、スキルオーブを手に持ちながら色々と考えている様子だ。
「これ、マグマゴーレムからじゃなくても出る感じなんですかね? 」
「そこも含めてどう思う? ってところだ。これは同じマップのモンスター、つまりフレイムサラマンダーからでも出るんだろうか。フレイムサラマンダーは表面は熱いが、舌を絡ませられた時にまで熱さは感じなかった」
芽生さんにろくろを回しながら説明をする。芽生さんはろくろに目を奪われながらも話を聞いている。
「それはフレイムサラマンダーの革の効力なんじゃないんですかね? 」
「そうとも考えられる。それが革の威力を強調しているのか、それともこの階層のモンスターが全部この能力を持ち合わせているかどうか、という点にもかかわってくるんだ。もしもフレイムサラマンダーからも同じスキルオーブが出るなら問題ないが、マグマゴーレムからしか出ない、となると結構悪戦苦闘しながら頑張らないといけないことになる。この暑い中を」
「なるほど……で、どっちが先に覚えます? 」
「ここはお年玉ということで芽生さん先に覚えなよ。汗でぐっしょりするのも軽減されるかもしれないよ? ウォッシュの回数や水分補給の回数も減らせるかもしれないし、外へ出たりマップの切り替えの気温差で風邪をひくこともなくなるかもしれない」
とりあえず、便利そうなパッシブスキルはどんなものでも取ってみる、という方針は崩さないことにしているし、熱変動耐性とわざわざ銘打って出してくる以上、おそらく寒いマップも出てくるんだろう。その際にはこいつが活躍してくれる可能性は高い。
「じゃあ……改めて」
芽生さんは一度スキルオーブを地面に置くと、地面から拾って改めて音声さんの声を聴くことにしたらしい。
「イエスで」
芽生さんが発光し、スキルオーブが沈み込んでいき、いつもの一分間の発光タイム。その間にモンスターが寄り付かないか警戒しつつ、芽生さんのスキル修得を待つ。
発光が終わり、芽生さんがいつも通りの姿で立っている。芽生さんはあちこちを見回したり、足元の様子を見たり色々としている。
「ちょっとウォッシュと乾燥をかけてみてください」
頼まれたのでウォッシュ&乾燥で芽生さんのクリーニングを行う。行った後、芽生さんはもう一度あちこちを確認。しばらくジャンプしたり槍を構えたりして色々体の微調整をした後、こちらへ向き直った。
「うん、暑くもないし寒くもないですね。どうやら、自分の周囲の熱やなんかを一定温度で保つシールドが張られているような感じですね。多分これもオンオフ機能があるとは思いますが、暑さが和らいで気持ちいい感じになってますね。これは洋一さんも早めに手に入れて是非味わってみるべき……いや、でもそれはそれで大変な思いをしているという感じがでないのでしばらく暑いのは我慢しててください」
「なるほど。それを覚えた瞬間自分の体温を変化させられたりとかそういう変温動物的なものになるわけではない、と。一つ学習できたな」
「あ、もしかして人を実験台に使いましたね! 」
芽生さんから抗議の声が飛ぶ。
「まさか。ただ、俺は自分の不具合を割と早めに探知することができるから、俺から見て芽生さんがどのぐらい無理をしているかわからないからそれを和らげて探索ペースを作るためにも、まず芽生さんに覚えてもらって、その様子を見て俺も覚えようと考えていただけだ」
「どっちにしろ実験台なのは変わりないじゃないですか。まあ、不具合みたいなものがなかったから良いものの、このまま私の体温がおかしいまま地上に出て本当に風邪でも引いたらどうするつもりだったんですか」
「看病しながら口にキュアポーションのランク3あたりを突っ込んで終わりかな」
芽生さんの抗議を横目にしつつ、熱変動耐性についてもう少し考えてみる。耐性が付いたってことは体温調節は出来るってことになるな。なら今の芽生さんの体温はどのぐらいになっているのだろう?
「ちょっとおでこを拝借」
ヘルメットを脱いで芽生さんのおでこにピタッと自分のおでこをぶつける。ちょっと芽生さんのほうがひんやりしてるのが分かる。これは俺の体温が多少上昇しているせいもあるだろうが、やはり体温調節が出来ていることに違いはないらしい。
「次、素手で握手」
ヘルメットをかぶり直すと手袋を脱いで芽生さんに直接触れる。やはり涼しげな感じはする。熱変動耐性は恒温動物の最適体温に維持してくれるものだというのが少しわかった。
「芽生さん、俺に触られた部分についてどう感じた? 」
「そうですね、大分汗かいてるなってのと、やっぱり体温調節がうまくいってないのか、洋一さんのほうが暑く感じましたね。これは私が体温調節に成功してると考えていいんでしょうか? 」
「おそらくはスキルの効果でそうなっているんだと思う。オフにしたらいきなり汗ダラダラになるだろうな」
「じゃあこの階層ではそのまま……いえ、次の階層に行ってもこのままにして、エレベーターでオフにしてみるって感じでどうでしょう」
「それが良さそうだな。その様子だと月面マップでも効果はありそうだし、急激な外気温変化で心臓に負担がかかることもなさそうだし」
「そういう意味では洋一さんが先に使った方がよかったのでは? 」
流石にそこまで老人扱いされるのもちょっとあれだが、まあ芽生さんに先に渡すつもりだったし、何より自分だけ楽をして相棒に暑い中苦労をさせる、という状況に俺が納得できないからだ。頑張ってもう一つ落とすまで頑張ることにしようか。
スキルオーブ談義を終えたところで、三十分経ってしまった。
「スキルオーブが落ちたおかげで時間が短くなってしまったが、帰りの時間だ。戻りの道を行こう。もしかしたら進捗によっては茂君も刈っていけるかもしれない」
「そうですね、キリも良いことですしここで帰りますか。さっき来た道をそのまま真っ直ぐ帰る感じで良いんですかね? 」
「下手に道を探して遅れるより、解った道を進もうと思う。最短ルートが他にあるかどうかは解らんが、それは次に潜る時まで据え置きということで」
「そうですねえ。しかし、耐性スキルのおかげですっかり体が楽ですね。これはダンジョン探索者になっても指折りの価値の高さかもしれません。これで夏の熱さにも冬の寒さにも耐えれる自分が出来上がるということですよ」
「あー……そこまで言われると俺が先に覚えればよかったな、と思わなくもないな」
「次の次の次ぐらいまで頑張れば出るかもしれませんから、それまでの我慢ですね」
うむ……外に出ても寒くないという可能性があったか。その辺もまあ、芽生さんで人体実験といくか。来た道を戻りながらそんなことを考えていた。
七十四層から七十三層に戻り、帰りの短めの道を行く。道中のフレイムサラマンダーから魔結晶と革を回収。革の回収率は今のところはっきりは言えないが二割ぐらいだろうか。これも回数を重ねていくうちに確率が収束していくだろうからもっと落とした時に考えよう。とりあえず手持ちにある十枚ぐらいを新しいドロップ品として、今度ギルマスに渡せばいいかな。
マグマゴーレムも一撃で倒していくが、流石に一日二個も同じスキルオーブがポンポン出るようなものではないことは解っているので、今日の俺の帰りは寒空の下帰っていくことになるんだろうなあという気はしている。
数回戦って七十三層から七十二層へ。ここからはたまにはやんちゃしていこうと思う。
「たまにはクレーターを無視して真っ直ぐ帰ろうと思うんだけどどうだろう? 」
「気晴らしにはいいかもしれませんね。どっちのほうがモンスターが多くなるかも気になりますし、一回ぐらいは行きましょう。後、やっぱり肌寒くありませんね。今のところの話ですが、体感温度を調節してくれているだけなのかもしれません。やっぱり火傷するような状況にならないとわからないってところなんですかね」
「そのためにわざと火傷するのは俺の仕事のような気がするのでそういうのを試すのはいずれの話にしていこう」
クレーターの隙間を縫うようにではなく、真っ直ぐ一直線に階段に向かって歩く。比較的歩きづらくはあるものの、戦闘に困るほどの足場でもないので問題なく進むことはできるようだ。
「次からはクレーター無視していくか。方向さえ間違えなきゃ問題なさそうだ」
「そうですね。こっちのほうがモンスターも多めに寄ってくるようですし、少なからぬ収入の足しにはなりますからそのほうが良いですね」
芽生さんもクレーター無視には賛成の方向らしい。まあ、この間しか収入が実質ないと言われるとその方針でいくのが最も効率的だろう。
七十二層をそのままクレーターを無視して七十一層に上がり、七十一層もそのまま階段まで真っ直ぐ歩きとおした。ちゃんと道中でキュアポーションは手に入れられたので、収入に関しては今日の目的の分量としては稼いでいると言えるだろう。
後は、査定を受けてどれだけがっかりするかということだな。こればかりは新しいマップと未査定の物品が多い分だけ仕方がないとあきらめるしかないだろうな。
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