1348:一晩を過ごして
何事もなくホテルに到着。かろうじてホテル側はまだ開けてくれていたようで、無事に帰ってきたことと朝食について尋ねると、朝食はカレーが食べられるらしい。どうやら腹ペコでコンビニに駆け込むという行事は避けられるようだった。
部屋まで案内された後、二人してまずは食事。夕食として事前に買ってあった食事を食べ始める。食事はさすがに保管庫が遅延させてくれているとはいえ、食べごろは少し過ぎて温め、と言った感じになってしまっていたが、冷えているとまではいかなかったのでそのまま食事をすることに。
もうちょっとお高くて気の利いたホテルなら部屋に電子レンジがあるとかそういう物が用意されていたりはするんだが、ここでは精々お湯が沸かせてお茶が飲み放題、という程度らしい。まあ利便性を理由に選んだので多少の手の届かなさは仕方がない所だな。
「贅沢を言えばキリがありませんが、ガンテツさんの用事が終わるまではここでしばらくこんな感じですか」
「そうなる。明日はどのぐらいのペースで進めるかは解らないが、午前中に十六層ぐらいまで行ければいいなと思ってる。それ以降は十八層から先の地図がないのでうまく進めるかどうかで決まるな。他の探索者が二十一層を目指してくれていればいいんだが……いっそのこと道を聞いてさっさと踏破してしまうべきなのかもしれないな」
「洋一さんの手料理が食べられないことはちょっと残念ですねえ。でもここで調理するわけにもいきませんし、旅行中はお預けですかね」
「とりあえず明日の朝食はカレーらしいからな。美味しさに期待しておこう」
それぞれ俺は大盛パスタ、芽生さんはドリアとサラダを黙々と食べながら明日以降の予定を決めてしまう。
「十四層にたどり着いた時点で一旦荷物を上に上げてまっさらの状態にしてから潜りなおすかどうかも重要だな。上手いこと行ってくれれば昼過ぎぐらいには一旦外には出られるとは思うんだが」
「そうですねえ、保管庫に放り込んでおいて後でまとめて出す、なんてことをするときっと疑われるでしょうから、お土産として持ち帰る分はともかくとして一旦査定にいって荷物をカラにしておく工程は必要になるでしょうねえ」
「二十分から三十分のロスにはなるが、進捗によっては短縮できるはずだ。今回は通り抜けることだけが目的だから二十一層まで到着したらさすがにガンテツを召喚しようと思う」
「そうですね。本来なら七層で話し合う、という話でも問題はなかった気はしますが、せっかく作ってくれたダンジョンを楽しんで巡って感想を求められた場合に困りますからね。ちゃんと面白いダンジョンではある、という話に持っていけるとより良い感じでしょうね」
パスタを食べきって満足した。もうちょっと入ると言えば入るが、無理に胃袋に詰め込んでしまうこともない。ほどほどにしておいて、明日の朝食に期待をかけておこう。
さて、いつもより遅い時間だ。眠る時間はきちんととっておかないとな。トイレに行くついでに風呂を見てみたが、各部屋についている分だけ狭い。これは二人で入れる広さじゃないな。
「風呂が狭いから一人ずつだな。流石に二人で入るには狭い」
「そうですねえ。じゃあ先に頂いてしまっていいでしょうか」
「どうぞ。その間にスマホの充電とか色々済ませておくよ」
芽生さんが風呂に入っている間に色々とやってしまう。明日もしっかり潜るからな。後は明日の行程で出てくるモンスターの種類とドロップ品について色々調べておこう。
八層からしばらくはキノコやネギ、白菜なんかの鍋のお供エリアが続くらしい。前の階層からもちょこちょこ出ているが、ドロップ品は様々。どうやら二層から十一層ぐらいまではある程度の固定化されたドロップもあるものの、色々落とす状況が続くらしい。ランダムドロップなので何が落ちるかは決まっていないが、菌類なのに無菌状態というよくわからない仕様のおかげで放置していても菌が繁殖して増えたり減ったりはしないらしい。
どういう仕組みでやってるんだろうか。しなびたりもしないってことは菌は死んでいる訳ではないんだろうが、まあダンジョン産の細菌だし、細かいことを気にしただけ負けのような気もする。とにかく美味しい食材であることは間違いなく、十四層で鍋を持ち込んで早速食べる探索者も居るみたいだ。栄養素とかもちゃんと考慮されている可能性は高いな。
出てくるモンスターは次からはスケルトン、スケルトンネクロマンサーと種類は二種類。骨から生えたキノコ……なんか死体を栄養素に育ったキノコみたいで少し遠慮したくなるな。でもまあ二階層だけだしそれほど気にする必要はないだろう。
その後はレッドカウと、新規モンスターでホースマンというモンスターが出るらしい。それぞれ牛肉と馬肉を落とし、人気階層であるらしい。やはりレッドカウ肉も馬肉も出るんだろうか。出るんだったら多少混んでる可能性はあるな。
十四層までには後は廃墟マップが残っているが、廃墟マップは食料ドロップがない代わりに必ず魔結晶を落とすダストマンと呼ばれているモンスターが出るらしい。廃墟だからゴミの塊みたいなモンスターなんだろう。
ネットで配信してるアーカイブを確かめてみると、たしかにゴミの塊、と言った感じのモンスターだった。流石に自分たちの持ち込んだゴミがモンスター化することはないようだが、ここに不法投棄する探索者も居るかもしれない。もしそうだったとしても、それらはスライムに人知れず回収されているんだろう。もしかしたらガンテツもゴミぐらいは持って帰れと思っているかもしれないな。
芽生さんがシャワーから帰ってくる。入れ替わりにシャワーを浴びて、今日の汚れを落とす。それほど疲れてはおらず、どっちかというと移動時間でずっと座席に座っていた間のほうが長かったのでその時間の疲れのほうが多かったかもしれない。
ともかく、熱い湯に打たれてゆっくりできるのは悪いことではない。ササッと浴び終えて寝間着に着替える。
この部屋はツインベッドなのでベッドは二つあるが、寝間着に着替え終わった芽生さんが布団を開けてカモーンしている。とりあえず、カモーンされる前にもう一つのベッドをぐちゃっとさせておく。
「何してるんですか? 」
「両方使ったふり。使ってないように見せかけておくと、ホテルの従業員も掃除するかどうか悩むことがあるらしいんだよ。だから片方だけ使うことになっても両方使っておきましたよ、というフリだけしておけば悩まずに掃除することができる」
「なるほど、そういう気遣いですか、ちょっとそこまでは思い浮かびませんでしたね」
「そして、その布団はこう! 」
布団を使わないほうのベッドに放り投げると、保管庫からいつもの枕と布団のセットを出す。
「持って来たんですか。わざわざ」
「荷物にならないからね。それに、慣れない旅行で体調を崩すこともあり得るからできるだけ同じ環境で眠りたい。その時用にとね。旅先でこそゆっくり眠れる環境は必要だからな」
「まあ、たしかに今日は遅くまで活動してますし、良質な睡眠と快適な目覚めは必要ですからね」
芽生さんの上にバフっと布団をかけると、今度は俺の布団で芽生さんがカモーンし始めた。カモーンされることにする。
「ふぅ、さて、今日もお疲れ様でした……と。明日が本番だな。明日二十一層まで行ってガンテツを呼び出す。それが第一目標だ。第二目標は……何だろうな。出来るだけダンジョンを楽しむ事かな。せっかくガンテツが心血注いで作ったダンジョンだ。出来るだけ楽しんでやることがお礼じゃないかな」
「そういう考え方もありますねえ。さあ、明日もしっかり動かないといけませんからゆっくり眠りましょうねえ」
芽生さんと二人、ダブルベッドで抱き合いながらゆっくり呼吸をする。お互いに同じシャンプーとリンスを使ったはずなのにどうして芽生さんからのほうがいい匂いがするんだろう。不思議だ。何か全身から良い成分でも排出しているんだろうか。それとも女性特有の香りって奴が存分に出ているんだろうか。
それはともかくとして、出る所は出ていて柔らかくしなやかな芽生さんを抱きしめながらふたり顔を合わせながら眠るのも中々いい。旅って感じがして悪くない。そう考えているとだんだん頭がぼやけてきた。流石に移動と探索を一気にやって疲れがたまっていたのか、気が付いたら眠ってしまっていたようだ。
◇◆◇◆◇◆◇
アラームが鳴る。いつもより少し遅い時間になったが、ふとそう言えば今は旅行中だったんだな、というのを目が覚めて周りを見回してから気づく。そして、寝る前には確かに存在した柔らかな感触が何処かへ行ってしまっている。芽生さんどこ行ったんだろう。
耳を澄ませるとシャワーの音が聞こえる。寝汗をかいたので朝風呂代わりにシャワーということなんだろう。その間に布団と枕を片付けて、ベッドを元通りにしてぐしゃっとしておく。これで今日寝る間にもベッドメイクをしっかりしてくれる事だろう。一応予定では今夜までは同じ部屋で泊まる予定になっている。なので着替えや何やらの荷物は一応部屋に置いておくことになっている。
俺もササっとシャワーを浴びて朝食を食べに行くことにするか。芽生さんと入れ替わりで湯だけ浴びると、全身をウォッシュして綺麗に。スーツに着替え直すと、芽生さんと一階の食堂エリアへ向かう。
朝食券を食堂の入り口で渡して中に入ると、どうやらカレーだけではなく色々なスープや地元食材を生かした料理がいくつか並んでいる。とりあえずカレーとポタージュスープを頼んでいったん席を確保する。芽生さんは何を食べようか悩んでいる様子。時間には余裕があるのでじっくり選んで好きなものを食べていいのよ。
結局芽生さんもカレーとおにぎり、そしてミネストローネを選んで持って来た。では、いただきます。
ホテルカレーとしては充分な味わいと言える、ちゃんと煮込んであって野菜の角が取れるほどに煮込まれている。ちゃんと朝食を用意してくれるだけでもえらいのに、ちゃんと作ってあってなおえらい。ポタージュスープもとろりと濃厚で胃袋を熱くしてくれる。
「これは朝から中々しっかり食事をとれるホテルで良いですね。ここの系列は朝が豪華なのが売りなんでしょうか」
「あんまり外泊しないからそうなのかも。旅行に関しては詳しくないから各地のホテルでも系列店かそうでないか、あとは旅館として泊まる場合は夕食朝食がどうなるのか、なんかもサッパリだ。その辺は芽生さんに任せようと放り投げたいぐらいだな」
「まあ、明日はともかく明後日のお宿は予約してあるので期待しててくださいね」
明日以降の観光予定は芽生さんの回りたいところを回るようにプランを丸投げしてある。どこへ連れてってくれるのか楽しみだが、その為にも今日中に仕事を終わらせて色々やり終えてしまいたいなあ。
キリッと気持ちを切り替えて出かけられるかどうか。そこにかかっているだろう。
朝食を満足するまで食べ、部屋でお茶を入れて少し休憩した後、探索ルックに切り替える。と言っても下着と肌着ワイシャツこそ変えたものの、それ以外は昨日と同じだ。スーツを二日も三日も着まわすのはあまりよくはないことは知っているが、泊まりがけの仕事ともなれば多少は仕方ないと自分を納得させておく。さて……
ガンテツに渡す新しい品物、ヨシ!
柄、ヨシ!
圧切、ヨシ!
ヘルメット、ヨシ!
スーツ、ヨシ!
安全靴、ヨシ!
手袋、ヨシ!
籠手、ヨシ!
飯の準備、ナシ! 少なくとも昼食は仕入れて行かないといけないな。また昼食はコンビニ飯になるんだろうがそこは仕方がないだろう。
嗜好品、ヨシ!
車、ヨシ!
保管庫の中身……ヨシ!
その他いろいろ、ヨシ!
芽生さん、ヨシ!
指さし確認は大事である。俺が指さし確認しているのを横目で見ている芽生さん。
「こんな時でも指さし確認ですか」
「こんな時だからこそ指さし確認だ。うっかりホテルに忘れてきた、ではロスが大きいからな」
「私も指さし確認するべきでしょうか? 」
「それは芽生さんがやりたくなったらやればいいよ。強制はしない」
「では……スーツ、ヨシ! 手袋、ヨシ! 安全靴、ヨシ! 短槍、ヨシ! ヘルメット、ヨシ! バッグ、ヨシ! 貴重品類、ヨシ! ……あんまり確認項目がないですねえ」
「最初はそんなもんだった。だから気にしなくていいと思うぞ」
思えばかなりの量にもなってきたな。そろそろこれもコンパクトにする時期かもしれない。指さし確認の短縮化、今後のプランとして一つ考えておこう。
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