1347:新熊本第二ダンジョン、セーフエリア到着
そのまま外側の崖に沿って五層を回る。コボルドアーチャーはこちらを見つけると射程圏内まで一気に走り込んできてから狙いをつけ、そして矢を放ってくる。しかしこちらのスキルの射程のほうがコボルドアーチャーの射程より上であり、索敵で丸見えなのであちらが狙いを引き絞っている間に雷撃でバチィッと一発で倒してしまえる。
問題なのは数だ。コボルドに負けず劣らず、コボルドアーチャーもとにかく数で攻めて来る。芽生さんと交互にリヤカーを交代しつつ、お互いにコボルドにスキルを連射していく。
威力自体はそんなに必要ないため心配はないが、数が相手となると少々面倒くさい。あっちへこっちへとスキルを乱射している芽生さんだが、まとまって数が存在している訳ではなくバラバラに向かってくるのが面倒くささに輪をかけている。
「あーもう、まとめて来てくれないかな。そうすればスプラッシュハンマーの余波で倒せるのに」
「こっちもだな。チェインライトニングがうまくつながらない。もうちょっと近寄ってくれるか固まってくれれば一発で終わるんだが」
ブルーベリーの入ったカプセルと魔結晶、それとヒールポーションのランク1を拾って収入としてはそこそこのものになりつつあるが、Cランクの収入としては物足りなさが大きくて仕方ないこの階層では、人気がないのも仕方がないかもしれない。さっきの人たちも、この森マップではなくサバンナマップでブルーベリーを回収しているのもそういうスキルや戦い方の都合かもしれないな。
「もうちょっとで階段までたどり着けそうだからそこまでは我慢かな。次の階層ではコボルドアーチャーは出ない代わりにコボルドの一回り大きい奴が出て来るそうだ」
「そっちの方が戦いやすそうですね。ドロップも変わるんでしょうか」
「サイトでは……バナナを落とすと書いてある。黄色いのか緑なのかは解らないし、一房出るのか一本ずつ落とすのかは気になる所だな。ここは情報不足だな、もうちょっと細かく書いてくれてあると嬉しい所だ」
その謎を解き明かすためにもここは突破しないとな。階層を半分に圧縮したってことは、ここが魔の十層部分ということにもなる。人が居ないのもそのあたりを勘案されてのことだろうか。だとしたら割といい設計をしているかもしれないな。
五層の階段間はちょうど反対側。割と長い間このモンスターの多い空間を通り抜けなければいけないので、ある程度の時間が来たらリヤカー役を代わってもらっているが、もしかしたら俺がまとめて倒す方が効率は良いかもしれないな。弓を放たれても刺さる可能性は低いが、スーツに穴を開けたくないから放たれる前に瞬間で倒せる俺のほうが分があると思う。
それに、本体を倒した時点で放たれた矢も一緒に消えていくらしく、空中でファサッと消えていく矢も何か儚げな感じがしてちょっと風情がある。
前衛を務め続けて六層側の階段にたどり着いた。流石にそろそろ荷物もリヤカーもそこそこ量が増えてきた。あまり金にならないとはいえ、それでも誰かの口に入るかもしれないものだと考えるのもそうだし、食べ物を粗末にしてはいけませんと教え込まれてきた身としてはたとえダンジョンドロップ品であろうともちゃんと持ち帰りたいものである。
階段を下りて六層。ここは反対側ではなく、向かって右方向、つまり反時計回りに四分の一ほど回ればセーフエリアに到着することができる。時間を見るが、今からなら七層で一旦エレベーターを使って戻り、一層へ到着して査定を受けて帰れる程度には時間に余裕がある。
ここで有り難いのがこの新熊本第二ダンジョンの仕組みだ。このダンジョンでは、七層に到着した時点で七層に到着したぞ! という魔素が体内に取り込まれることによって、エレベーターがいきなり使用可能になる。十四層、二十一層も同じ仕組みで出来ており、ボスを倒してドロップ品を使ってエレベーターがようやく使えるようになる既存のダンジョンと違うシステムだ。
このシステムは最近設計に走っていた新しい五つのダンジョンも同じ仕組みで出来ている予定であり、ボスが存在するかどうかはさておき、七層まで潜っただけでも七層から一層まで戻ることができる。
そのおかげで、今日も七層から一層に戻ることでホテルの開いてる時間にかろうじて滑り込むことができる可能性が高い。後は六層を乗り越えさえすれば行ける。意外と距離はないので時刻を確認して、無事に深夜に入る前にもう一度ホテルに戻ることが可能だと思っている。
「さて、ハイコボルドとかチュウボルドとかコボルドロードとか色々呼ばれてるのはこのモンスターらしい」
コボルドをそのまま大きくしたような奴が出てきた。背丈は大きくなって俺と同じぐらいの体格になり、持っている武器も小剣から槍に持ち替えている。中々にレベルアップしたな。このハイコボルド……もう解りやすいからハイコボルドで良いな。こいつは複数体では出てこない様で、数匹固まって行動していたコボルドたちとは違い多くても三体ほどしか出てこないらしい。
とりあえず現状目の前にいる一体をバチッと強めの雷撃で焼いてみると、簡単に昇天してくれた。ドロップは……なし。今回は御縁がなかったということで。
そのまま続けてハイコボルドとの戦いを順番に続けていく。芽生さんも戦ってみたいとの事なので、時々交代しては戦いを楽しんでいる。どうやら槍の扱いに関してはまだまだらしく、芽生さんが一方的にボコボコにして楽しんでいた。なお、バナナは一房六本で決まっているらしい。魔結晶はまだ黒。
魔結晶の大きさに関して言えばオークと同じぐらいだろうか。流石にそろそろ記憶が怪しいので一度エレベーターに投入して燃料の使い具合で試してみることにしよう。
バナナは皮は硬く出来ていてそうそう傷がつかないようになっているが、開けて中身を取り出すと柔らかくそして甘味があり、カロリーにすぐさま変わりそうな極上の味になっていた。これは複数採取するとこれだけで商売が出来そうなぐらいの美味しさだ。
芽生さんもこの美味しさにはにっこり。一房分開けてしまったので、これはお土産として……いや、お土産にするにはもう一房必要だな。何なら五房ぐらい用意して持って帰ることで、土産話としても花が咲くだろう。ちょっと保管庫に保管しておいてお土産にするかな。ブルーベリーも一人一個ぐらいは当たるように保管庫に入れていこう。これでリヤカーが少し軽くなった。
米と麦は……これはさすがに査定に出そう。いや、一袋だけ入れておくかな。リヤカーでごそごそしだした俺に芽生さんが声をかける。
「何やってるんですか? 」
「いや、お土産にこのダンジョンの物を持ち帰るのもいいかと思って。今更細かい金額でガヤガヤ言うこともないだろうし、それならお土産でこういうのがあったよ、と現物を持ち帰るのもいい土産になるなと思って」
「なるほど、お土産の一つですか。その点は洋一さんに任せます。結衣さん達にも配りに回るんでしょうから、足りなくなるよりは余ってるほうがましでしょうし、持っていく量は任せます」
芽生さんからヨシをもらったところで、移動しながらお土産のネタをいくつか保管庫に入れるとリヤカーは随分軽くなった。しかし、一種類一食品とまではいかないが、色々これからまだ出てくることを考えると、底は遠そうだな。
六層でバナナを収穫しながら七層へ向かう。後ちょっと、と言うところで四匹出てきたハイコボルド。芽生さんのスプラッシュハンマーでまとめて処理され、バナナと魔結晶に変わった。
「さて、何事もなく無事に七層まではたどり着けたな」
「もうちょっと手ごたえがあってもいい感じではありましたが、厳しくても進捗が悪くなるだけでしょうしここまで無事に来れたことを祝いましょう」
「それもそうか。とりあえず第一目標であるセーフエリアには到着した。セーフエリアの光景を楽しみつつ一層に戻るか」
七層へのスロープを下りてセーフエリアに到着する。セーフエリアは、色違いの迷宮マップ、という感じで出来ていた。細かいタイル状の壁で出来ており、なんか名古屋駅から新幹線口へ向けて今朝歩いてきた道とよく似ている気がする。そして、非常にわかりやすい所にエレベーターは設置されており、そのまま一旦帰ってもいいのよ? といった感じで出迎えてくれた。
とりあえず七層に到着したことで深呼吸をしておく。芽生さんも深呼吸をした。
「これで、七層の魔素を取り入れたことにはなったんですかね? 」
「わからん。が、エレベーターが動かせるかどうかではっきりわかるはずだ。早速試してみよう」
と、実際に試す前に七層をよく見渡して光景を確認しておく。エレベーター周辺にわざわざ陣取っているようなパーティーの痕跡はない。ちゃんとエレベーターの前は空けておくべきだという常識が通じているようだ。壁側にはいくつかのテントと、テントがあったような痕跡や地面で炭をおこした痕などが残されている。
ふむ、やはり七層は人がそれほど多くない。バナナやブルーベリーを取りに来る業者でもいない限りは収入を求めてもっと深い階層を選ぶ探索者が居るか、時間が遅すぎて他の探索者と出会えなかったかのどちらかだろう。
コボルドアーチャーの連射さえ潜り抜けてしまえば後は力業で抜けきることも可能、というところか。この後の中盤戦から後半戦にかけてどうなるかさえ考えておけば今は良いだろう。
「さて帰ろうか。上手いこと帰りの足が捕まえられると良いんだが」
「タクシーアプリなんかを使って呼び寄せるのもありですね。使えればですが」
タクシーアプリをダウンロードする前にまずはエレベーターが使えるかどうかの確認だ。エレベーターの中では……中ではさすがに圏外だった。これは地上に戻ってから査定を受けてる間に使えるかどうかを探すしかないな。ほんの五分だし芽生さんにはその間ちょっと我慢してもらうことにしよう。
ここまでで拾い集めた魔結晶を袋にしまい込み、その中から燃料を入れる。試しにハイコボルドの魔結晶を二つ入れてみた所、一層へのランプがついた。ボタンを押すとドアが閉まり、エレベーターは動き始める。その間に荷物の整理をいつも通り終わらせて、ポーションは……予備として保管庫に入れておくか。
すぐにエレベーターは到着し、降りる準備を整えると外へ。時間は午後十時、流石に深夜である。こんな時間でもタクシーは来てくれるのだろうか、とダンジョンの駐車場を見ると、一台のタクシーが停められていた。どうやら待機場として使われているらしい。退ダン手続きを済ませた後で、真っ先にタクシーの元へ行き、声をかけておく。
「乗客の予定はあるかい? 」
「ないよ。乗ってくかい? 」
「じゃあ頼むよ。今から査定受けて支払い貰ってからになるけど、その間待っててもらっていいかな」
「わかった。タクシー代の支払いは現金になるけど構わないかい? 」
「そういう用意をしておくことにするよ」
移動の足は確保した。リヤカーを任せておいた芽生さんと合流し、帰りの足を確保したことを伝えて、そのまま査定カウンターへ。査定カウンターでは二十四時間とはいえ夜間はカウンターは一つに絞っているらしく、暇そうな査定嬢が査定の客が来るのを待っていた。
「こんな時間までご苦労様です。二分割ですか? 」
「はい、よろしくお願いします」
リヤカーごとカウンターの向こう側に押し出すと、向こう側で数を数え、それぞれ仕分けして面倒を見てくれている。この辺は小西ダンジョンよりもフレンドリーというかシステム化されているというか。
小西ダンジョンのほうはこっちから順番にカウンターに出さなきゃいけない分面倒が多いが、ここは多分熊本第二ダンジョンが改装されたのを機にシステムも刷新したんだろう。リヤカーごと向こう側で処理してくれているようだ。
しばらく待って、結果が返ってくる。魔結晶を入れていた袋を返却してくれたと同時に見慣れたレシートを二枚出してくれた。このレシート自体に変更はないんだな。金額は八万九千六百五十三円。やはり金額は少ないものになってしまったが、お土産用に残した分があるからか、思ったよりは稼いで来れた感じか。
芽生さんは振り込み、俺は支払いを選択する。一応タクシーの料金は現金で、という約束だったからな。その分の現金は手持ちで持っておかないと。
リヤカーとリヤカーレンタル札を受付に返すと、今日の仕事は終わり! と言った感じでギルドの外へ出る。
「疲れてるとまでは言いませんが、普段と違うので何か違和感がありますね」
「そうだな、ホテルに戻ってゆっくりするか。夕食も食べたいし……もう夕食というより夜食に近いが」
「結局中で食べないなら今から買いに行くのでも充分でしたね。これはこのダンジョンに来る際の今後の反省点かもしれません。考えておきましょう」
タクシーの運ちゃんに挨拶をすると、二人後部座席に乗り込み、新八代駅前のホテルを指定。そこまで乗せてってくれやとお願いすると、出発した。とりあえず、初日の探索は無事に終了した。
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