1346:ダンジョン産食物の可能性
「これはお米ですね」
「そうだな、重さは……一キロぐらいか。ちゃんとダンジョン産らしくしてあるし、ここに「1」って書いてあるからガンテツなりの歩み寄りかもしれない」
一キロの米か。確かに重量物で体積もあるからリヤカーなしでこれを持ち歩くのは少々面倒なことになっていただろう。それはともかく、新熊本第二ダンジョンへ来て初めての収穫は米、ということになった。
「このお米、美味しいんでしょうかね」
「最高に美味いというほどではないが、普通の激安米とは遜色ない味だと誰かが書き込んでいた覚えがある」
「だとするとこのお米の存在する価値ってどこにあるんでしょうか」
ふむ、安心安全な米という観点では一つの結論があるのでそれをご披露するとするか。
「普通の米だとコクゾウムシや蛾の幼虫がついたりするだろ? 少なくともパッケージを開けるまではその心配がないという判断をする場合、備蓄米としては中々に悪くないんじゃないだろうか」
「なるほど、そういう視点もありますか。だとしたらこの階層、もっと混んでてもいいんじゃないんでしょうか」
「そこまで目を付けられる探索者がいないか、それとももっと深くに潜って他の食品を集めてるほうが効率がいいと考えているか、どっかの企業が救済米として備蓄に入るまではこの調子かもしれんな」
ただ、米農家としては面白くないだろうな、という感想は出る。ただしこちらはダンジョンの広さと探索者の数で供給される量が決まってしまうので、そうそう数をそろえられるほど用意できないという問題と、それらを回収するには人件費のほうが多くかかってしまうので、サイクルしながら備蓄米を貯めていくという方向性で言うとまだまだコスト的に支払える量ではないんだろう。
もしも米の急激な値上がりや買い占め、不作なんかの原因で米が急激に足りないとなった場合にこの階層は稼げる階層として注目される可能性はあるが、そこまでにはまだ至っていないというのが現状だろうな。
地図に従って進むと同時にリヤカーにも少しずつ荷物の重さも加わってくる。とりあえず米以外に小麦粉らしきものもドロップした。どうやら二層は主食が主にドロップされるらしい。毎階層違うものがドロップするという可能性は低いが、ある程度モンスターでどんなものがドロップするかは決まっていてもおかしくはないな。
途中、探索者の集団とすれ違い、会釈しながら通り過ぎる。向こうは見慣れない二人組だな、という視線を隠し切れない様子だったが、気にせずにお互い通り過ぎていく。向こうはリヤカーに一杯の米と麦を抱え込んでいた。
もしかしたら彼らが、俺が今さっき考えた備蓄米、備蓄小麦の回収業者だったのかもしれないな。やはり先を見通せる人はいるらしい。わざわざ七層や奥まで行かずともこの二層でグルグル回っているところと、配信をしている様子がないことを見るとそっちで儲けようという考えはなかったんだろう。
単純に米と麦を集めて回っているか、それとも七層には行こうと思えば行けるがダンジョン食品だけで生活してみた! みたいな配信をしている人かもしれない。それはそれで面白そうだな。
二層を抜けて三層へ。三層からはサバンナマップに入る。階段のある大岩は他のダンジョンよりも更に大きい岩になっており、スロープと緩やかな階段を表現する為なのか、十メートルを優に超えるような大きさの岩になっていた。この大きさの岩を目印にするなら階層移動はやりやすそうである。
「さて、ここも事前情報だとゴブリンでしたね」
「確かマジシャンとソードゴブリンが追加されるんだったかな。ここも米と麦なんだろうか」
「戦っていけば解ると思いますし、もう見えてる範囲にモンスターがいますから早速聞いてみることにしましょう」
芽生さんが一足先にモンスターに向かって歩みを進めていく。隠蔽をわざとオフにしたのか、向こうからこっちに向かってファイアボールとソードゴブリンの走ってくる様が見える。リヤカーを灰にしたくはないのでリヤカーをかばうようにして籠手でファイアボールをうけとめ、明後日の方角へ飛ばす。
芽生さんはウォーターカッターでサクッと遠方のゴブリンシャーマンを退治すると、向かってくるソードゴブリンの頭を掴んで頭の先から水魔法を打ち放ち、頭をズタズタにして黒い粒子に還していった。もうちょっとこう、戦い方はあったのだろうが勝てたからヨシとするか。
ドロップは魔結晶、そして小麦粉。どうやらこの階層も同じような物らしい。
「ゴブリンは穀物を落とすってことなのかな。だとすると次の階層ではゴブリン以外が出てきてもっと違うものを落とすのかな」
しかし、このサバンナ階層は目に映るものが多くていいな。小西の五層や六層みたいに何もない環境ではなく、高台があって谷があり、そして木も多い。目に映るものが多くてかえって探索には向かないのかもしれないが、ここを熱心に探索し終わって地図もほぼ階段から階段までの全体が見渡せるように細かく書いてもらってある。
他のダンジョンだとこういうだだっ広いマップはこうも違ってくるのか。清州ダンジョンも小西ダンジョンと似たような感じで何もなかったが、何かあるダンジョンと何もないダンジョンにはそれぞれダンジョンマスターの手抜き具合が違ってくるらしい。
リヤカーを引くだけでは暇なので、せっかくネットが繋がるのでダンジョン内部からサイトを検索し、新熊本第二ダンジョンに関する情報が流されているサイトにアクセスする。
すると、予想通りゴブリン系からは小麦粉、米、ジャガイモなどがドロップするらしい。ジャガイモはちょっとレアドロップに近い形らしいが、同じ形で芽がなく、ほっといても発芽しないとても便利な特性を持ったジャガイモらしい。
どうやらダンジョン外で育てようとしても育たないようにガンテツが加工を加えた可能性があるな。粉ふき芋を作るには適しているらしい。フライドポテトにして美味しいかどうかまではちょっと追えなかった。後はエリンギなども落とすらしい。
とりあえず四種類のドロップに対してモンスターが四種類。どのモンスターがどれかを落とす、というわけではなく完全ランダムであることも明記されていた。つまり、ゴブリンはジャガイモも落とす可能性があったってことだな。そして、次の四階層からはゴブリンは出てこないらしい。
二、三層では主食やブルーベリーが出た。四層から先は何が出てくるのだろう。ドロップ品が楽しみではあるし、七層に到着した時刻によってはそのまま一旦七層から地上に戻ってホテルで宿泊、というルートになるかもしれない。どこまで潜ればガンテツに会えるのか。
というかガンテツにとって、俺らは何層まで来たらよく来たな! と言える階層になるのか。少なくとも二十一層までは確認されているのだから、そこまでは潜らなければいけないような気がしている。
後、ここまで触れられてこなかったがこのダンジョンにはいわゆるボスは居ないらしい。おそらく新規で作り上げて新しいものを……というのは建造コストが高かったらしく、そこは諦めたようだ。その分十五層でもドロップ品集めは出来るそうなのであくまで魔結晶とドロップ品集めが目的として取り組まれているんだなということは伝わる。
そのまま三層の崖の縫い目にあたる谷を抜けて、階段に向かう。モンスターは芽生さん任せで、芽生さんが次から次へとモンスターを倒し続けてくれるために俺は楽にリヤカーを押していくだけの作業に没頭することができる。
魔結晶はいったんバッグから保管庫に入れておいて、ドロップ品はリヤカーに。そこそこの質量になってきたので、やはりこの階層は他の探索者にとっても早く抜け出したい階層にあたるんだろう。ドロップ品がこう色々と出るのでは荷物も多くなるし、リヤカーを配備してあり階段の上り下りが楽だとしても、小さくて高級品になるドロップ品が多く手に入るほうが旨味は大きいだろう。
三層が終わったところで、芽生さんと一時リヤカーを交代。四層からは俺が暴れはじめる。流石にちょっと運動をしたくなってきた。
四層から出てきたのは犬耳型のゴブリンとそう遜色ない大きさのモンスター、コボルドが出てきた。皆手にナイフを持っており、五から六匹ぐらいの集団になってうろうろしている。これは……ちょっと面倒くさいな。ただ、数が多い分ドロップ品には期待できそうではある。
コボルドがこちらを認識し、順番に襲ってくる。あくまで「順番に」だ。そこに集団戦を行うほどの知能はないらしく、噛みついて引きちぎったもん勝ちとも伝わってくるその迫力も、ソードゴブリンと比べると少し得物が小さい分だけ安心感がある。
チェインライトニングを久しぶりに使うと、まとめて焼かれて行ってくれた。ドロップしたのは魔結晶と巨大なブルーベリーだった。こちらは真空パックではないものの、それぞれ一粒がつぶれないように多少頑丈な入れ物に入った形でドロップしてくれている。ガチャポンカプセルみたいな形の入れ物に入ったブルーベリーは、封を開けるまでは一応真空化されており、空けるとカポッという良い音がするらしい。
「芽生さん、ブルーベリーが出たよ。やっぱり目に良いのかな」
「洋一さんが老眼でお困りなら一つ齧ってみてはいかがですか」
「まだ老眼にはなってないけど、これ一つ分ぐらいならいけるか。どれ……うむ、程よい酸味としっかりした甘味が共存してて中々に美味しいぞ。芽生さんも食べてみ」
「そこまでお薦めされると味が気になりますね。どれ、ちょっと齧ってみましょう」
早速その場で味見を始める俺と芽生さん。これ一粒いくらぐらいなんだろう?
スマホで調べると、ギルド買い取りで一粒三百円らしい。米に比べて高いのか安いのか判断に困るが、この大きさならまあ納得、という所だろうか。ただ、複数商品集めて売り物にする、という段階を考えるとまだ送料のほうが高く感じる所ではある。やっぱりネットが普通に使えるって便利だな。自分の稼ぎがいくらになったかまで可視化される。
ウォッシュでお互いの手を綺麗にした後、歩みを進めていくと向こう側から歩いてくる探索者を見かける。すれ違いざまにリヤカーを見るとブルーベリーで満載されていた。どうやらブルーベリー業者らしい。こうやってブルーベリーを地道に数を集めて、まとめて売って金にする、という商売の様子だ。
ブルーベリーはともかくとして魔結晶の分は収入になるだろうから、ブルーベリーを通販しても利益が上がるのか、それともブルーベリーを更に加工してジャムにでもして販売するのだろうか。どちらにしても実が大きいのでやりがいがある仕事ではありそうだ。他のブルーベリージャムを作ってる業者には悪いが、時期や気候を気にせず何時でも作れるというのは強みに違いない。
四層のコボルドがどんどん寄ってきてはチェインライトニングでまとめて殲滅されていき、ぽろぽろとブルーベリーを落とす。どうやらドロップ率は比較的高いらしい。数えておけばよかったか。まあ、ネットを探せばドロップ率を計算しているサイトもあるだろうからそこを後で探して参照してみるのも悪くないか。
ちなみに四層もグランドキャニオン的な様子を見せた、谷間の間を縫うように越えていく道である。道自身は真っ直ぐで問題ないが、目に映る景色がどうも新鮮でいけない。これでは茂君ダッシュする時の何もなさが寂しく思えてしまう。これから先、毎日茂君をする時には寂しい気持ちで埋め尽くされることを考えると来なきゃよかったなと少しだけ思う。
四層を抜けて次は五層。五層からは森マップだ。森マップだが、もちろんジャイアントアントやワイルドボアが出てくることはなく、ここもコボルドの領域らしい。
森のそばを歩くとコボルドアーチャーから見えない所から弓の洗礼を受けるらしいので、索敵を持ってないなら近寄るべきではない、という情報を事前に得ているし、二人とも索敵は持っている。だが今回はコボルド退治が目的ではなく七層への行き道を確実に通り抜けることが目的だ。なので出来るだけ森には近づかないようにする。
なお、肝心の森マップだが、ここは完全に使いまわしであり、相変わらず「回」の字を現したような形となっているらしい。おそらくドローンを飛ばすと見えない天井にぶつかる上に、コボルドアーチャーがドローンを撃墜しようと狙ってくるであろうから、俺の腕ではおそらく二号君撃墜となってしまうだろう。それは避けたいので今回も中心部へは立ち入らないようにするつもりだ。
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