1345:探索開始
周辺をスマホで確認したが、スーパーやコンビニこそあるものの食べる所というのは見つからなかった。仕方なく、近くのスーパーで昼食を食べて、夕食はコンビニで買い込んで温めておくことにした。
二十四時間営業のスーパーは昨今珍しくなくなったが、腰を落ち着けて食べることが出来ないことに気が付いたので、買い物をした後でホテルに戻ってホテルで食事。まずは移動で疲れた足と減った胃袋を補充するべく行動開始前の補充をしておく。
ついでにコンビニで夕食分の飯を買い込んで温め、温めた先から保管庫にこっそり入れていく。
「もうちょっと栄えてくれていてもいいとは思うんですが、やはり難しい所なんでしょうかねえ」
「うーん、もしかしたら現地で屋台なりなんなりで営業をしている可能性はあるね。ホテルまで戻らなくても地元で商売を始めたとか、周りの土地を借りてキッチンカーみたいなものが来てるとか色々考えられる。実際に行ってみて、その後で食事を決めてもいい感じじゃないかな。栄えているとまでは言わないもののかろうじて黒字を出していたダンジョンなんだし、もしかしたらダンジョン食品をその場で買い取って現地で調理して、その場で食べたいものが食べられる、みたいな店があるかもしれない」
食品ダンジョンの一番の強みは地産地消だ。さっきまで自分が取っていた食品がその場で調理されてガレット風になって出て来るとか、そういう屋台が出ていても不思議はないし、そういうコーナーがあるかもしれない。ちょっと食事しながら調べてみるが、やはり探索者目当てでそういう店を開きに来る屋台はいるらしい。その場でショバ代を払って一定時間営業、という形になっているらしい。
「やっぱり商売のタネは何処にでも転がっているものなんだなあ。商魂たくましいのか、それだけ探索者にすり寄った商売をしているのか。でも、ダンジョン産食材をその場で食べてはいけないルールはないんだから、みんなフライパンとバーナー片手に七層辺りで料理して潜ってたりするかもしれないな」
「Dランクのころを思い出すような内容ですねえ。あの頃も夜泊して中でウルフ肉やボア肉焼いて食べてましたね。パックライスを持ち込んで」
「あの頃はまだダンジョンに対して未知への楽しさというものがあったな。今となってはもう解かりきってしまって面白さも半分ぐらいになってしまったが」
懐かしいと言っても去年の話。まだあれから一年半しか経ってないことを考えると、激動の時代であったような気もする。大体は俺のせいではあるが、この一年半でダンジョンへの認知度やダンジョンの仕組みやダンジョンマスターについて、色んな知識と経験を身につけることが出来た。
来年はすべての新規ダンジョンが出現してそれぞれのダンジョンが無事に成長していってくれるのを見守りつつ、新しい階層に挑むことになっているだろう。まだ楽しみは尽きない。そして、その後には芽生さんの大学卒業とダンジョン庁への就職が待っている。このペースで潜り続けるのもそろそろ限界かな。
芽生さんのほうを見ながら考えごとをしていたら芽生さんが何ですか? という感じの目線でこちらを見つめて来る。芽生さんとの付き合いも一年半で随分発展したな。しかし、高々一年半の付き合いの俺と一緒でいいんだろうか? という不安は残る。
しばらく一緒に暮らしてみてダメだったらまた考え直す、という点でも問題はないだろう。そういうことはゆっくりとやっていけば……ゆっくりしてる間に俺の寿命が尽きなければ問題ないんだが、寿命を延ばすポーションとかそのうち出てくれば、ナイスミドルを維持するポーションとしてそのうち自分で手に入れて飲むようになるかもしれないな。
食事を終えて、再び部屋から出る。着替えや手持ちの荷物は置いて、芽生さんの槍も手渡すと探索者装備に着替えていざ出動だ。
ガンテツに渡す新しい品物、ヨシ!
柄、ヨシ!
圧切、ヨシ!
ヘルメット、ヨシ!
スーツ、ヨシ!
安全靴、ヨシ!
手袋、ヨシ!
籠手、ヨシ!
飯の準備、ナシ! これはどうしようかな、途中のコンビニで仕入れていくことにするか。
嗜好品、ヨシ!
車、ヨシ!
保管庫の中身……ヨシ!
その他いろいろ、ヨシ!
芽生さん、ヨシ!
指さし確認は大事である。さあ、熊本第二ダンジョンへ行くぞ。上手くバスの時間帯に合えばバスで、バスがなければタクシーで向かうことにしよう。この移動は経費で落ちるから安心して使っていける。
◇◆◇◆◇◆◇
バスの時間に間に合ったので急いで乗り込み、ダンジョンを目指して運転してもらう。やはり他人の運転で行ける、というのは大きいらしい。そしてバスに乗った後気づいたのだが、保管庫の中には社用車が入っているんだった。バスに乗らなくてもダンジョンまで自力で行けたな。
そのことを芽生さんに話すと、小声で返ってきた。
「行きに迷子になるよりは帰りに迷子になったほうがまだ笑い話で済みますし、今のうちに道を教えてもらって帰りにバスやタクシーがなかったらその時こそ使いましょう。手はいくつか残してあればそれでいいんですから、せっかくなら帰りに使う方面で一つ行きましょう」
とのこと。俺のミスをこっそりカバーしてくれる芽生さんが頼もしい。ここはちゃんと道順を覚えて、帰りにちゃんと戻ってこれるようにしたほうがいいらしい。
しばらくバスで道を教えてもらいながらダンジョンへ近づいていく。熊本第二ダンジョンは山間に出来たためここまでの道は意外と単調だった。これなら迷わずに現地までたどり着くことが出来そうだ。
二十分ほどかかっていくつかの停留所を経由しながら熊本第二ダンジョンに到着した。第一印象は田舎にある屋外野菜売り場である。どうやら時間帯を区切ってダンジョンから出てきた品物をその場で販売しているらしく、それなりの値段でダンジョン産の食べ物が並べられていた。
日が短いせいか、それとも朝一ではたくさんの食品が並ぶからか、朝から夕方にかけてのんびりと野菜や果物、肉類が並べられている。肉類も並べられているということは、肉を落とす二足歩行系のモンスターは存在する、ということだろうか。近寄って品物を手に取ってみると、レッドカウの肉のリパックしたものだった。グラム数を落としてその分お安く販売しようという試みらしい。
日持ちのしない商品にしてまでレッドカウの肉を売るということは、そういう需要もあったのだろうか。建物全体をよく見まわすと、食品衛生責任者の名前が貼ってあった。どうやら法的にも問題ないようにしてあるらしい。
「やっぱりここは他のダンジョンとは雰囲気が違うな。何とか地元に溶け込もうと頑張っているような痕跡がある」
「面白いダンジョンであるのは確かでしょうね。ささ、中に入りますよ。後でも見回りは出来ますからさっさと用事を済ませて帰ることにしましょう」
芽生さんの言うことも尤もなので、お土産物売り場はまた後で見回ることにしよう。ダンジョンの入ダン手続きに行く。
「あのー、初めてここに潜るんですが注意点とかありますかね」
「そうですね、ドロップ品を放置しないことと、重量のあるドロップ品があるのでそれの持ち運びに注意してもらうことでしょうか。リヤカーの貸し出しもやってますのでご利用されるならリヤカーの貸し出し証明を出しますけどどうしますか」
やはり、入ダンの段階でリヤカーの貸し出しの有無を確認されるらしい。今日のところはどうするかな。一層二層三層辺りで大量にドロップする可能性もあるし、リヤカーを引きながら歩くことには違いはないのでこの際借りてしまおうか。
「じゃあ、一台お願いします」
「はい、畏まりました。この番号のリヤカーをお使いください。退ダンの際にリヤカーを元の位置に戻してから番号札を返していただければそれで貸し借りの手続きが終了になります」
やり方は小西ダンジョンとほぼ同じらしい。ここで手続きが共通化されているのは便利な証拠だな。対応した番号のリヤカーを借りて装着すると、早速ダンジョン内に突入する……と、地図を買うのを忘れているな。
「すいません、現状あるだけの地図を購入したいのですが、何層までありますか? 」
「少々お待ちください、一つずつ、でよろしいですか? 」
地図が一枚ずつ出されてくる。どうやら十七層までは公開されているらしい。十七層までの地図を八千五百円払って購入すると、一層から順番に地図を見ながらダンジョンに突入する。
入り込んだ一層の様子は他のダンジョンと変わらない様子。二層ごとにマップが入れ替わる、と言っていたな。ダンジョンに入ったすぐのところにエレベーターが設置されているのが見える。並んでいないので、試しにエレベーターに乗り込んで一層分の燃料を入れてみるが、うんともすんとも言わない。
やはりここはここのエレベーターのシステム要件を満たさないと稼働しない、つまり、エレベーターを使いたいなら他のエレベーターのある階層まで進んでいけ、ということなのだろう。
「ふむ、やはりだめか。素直に七層まで歩いて行ってもう一回試そう。良い感じの時間で帰れるなら今日は七層で一旦帰還だな」
「そうですね。さて洋一さん、そこにスライムがいますよ」
「あ、ほんとだ。よろしくな、今日から少しばかりの間お世話になるんだ。他の子たちにも伝えてあげてくれ」
そう言いつつ保管庫から素早く万能熊手を取り出すと、潮干狩りしてスライムの核を潰す。これでスライム全体に、殺戮者のエントリーが伝わった事だろう。
「よし、儀式は済ませた。後は素早く七層まで行って、その時間によってはホテルに帰ることにしよう」
久しぶりの一層からの探索が始まった。やはり広さは小西ダンジョンに比べればよほど広い。交通の便は小西よりちょっといいぐらいのものだが、周辺にダンジョンがないのがここを黒字化させていた所以だったのかもしれない。
流石にCランク以上の探索者でないと入れない、という触れ込みである所からも解るように、一層にはスライム以外は俺達しかいない様子だ。索敵をつけたままだが、スライム以外に人が寄り集まって行動しているようマーカーは見えない。
これは七層まで同じような流れで進むことになりそうだな。覚悟を決めると地図に沿って道を選択していく。道中のスライムは儀式が終わったので一々潮干狩りすることはせず、邪魔になりそうなものだけを雷撃で吹き飛ばしながら進む。たっぷり四十分かかって二層へ続くスロープが見え始めた。
スロープの形もちょっと変わっており、階段の横にリヤカーをゆっくり滑らせていくような形で設定されているのでリヤカーの重さや振動で後ろから押されて道中で転ぶことのないような形で設計されている。非常に楽でいい。ガンテツはこういうところもちゃんとこだわって作ってくれてあるんだな、と考えるとさすがの職人芸だとほめたたえるしかない。
二層に下りても見た目は変わらず、代わりにモンスターの数がぐっと少なくなり、代わりにある程度固まった集団としてマーカーが見えて来る。三匹から四匹、という所だろうか。さて、何が出てくるのかなと通り道に出てくるモンスターを見る。
他のダンジョンでも見かける通常のゴブリンと共に、盾とこん棒を持ったゴブリンがそれぞれやってくる。これがシールドゴブリンという奴かな。盾を持っている分防御力に自信があるという所だろうが……
「やっとこれで私の出番が来ますね。四十分待たされたというものです」
芽生さんが槍をグルグル回しながら四匹に突貫していった。やはり歩きっぱなしで何もしないというのは暇すぎたらしい。ゴブリンに一撃槍を突き刺すとそのまま横なぎにして二匹、三匹と巻き込んでまとめて切り刻んでいく。
そして、最後に残ったシールドゴブリンを盾ごと貫いて脳天に槍を突き刺し、あっという間に倒し切ってしまった。よほど運動したかったらしい。
ドロップ品は魔結晶が二つ。これが割が良いのか悪いのかは解らないが、この後もまだまだ続いていくのだし、この階層から食品が出るんだったな。何を落とすのかは今回は解らなかったが、階層を跨いでいる間にドロップはあるだろう。
しばらく歩いてまたゴブリン。リヤカーを下ろして戦闘態勢になっていざ戦闘、と戦うような相手でもないので、芽生さんと交互に雷撃か肉弾戦か水魔法か、それぞれで戦っていくうちに、モンスターからやたら重量感のあるドロップがあった。しっかりと真空パックされたそれは、米であった。
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