1344:旅行開始、いざ熊本へ
旅行の準備というのはどうやら思ったよりも時間がかかり、そしてその時間は短く過ぎ去るらしい。
一日あるから余裕で準備ができるだろうと思っていたが、スーツは一着で良いとして替えのワイシャツや下着、向こうでの普段着や何やらを準備している間に午前中が終わり、急いで食事をしたら次は荷物の受け取り。全部受け取り終わったところで酒屋へ行って酒の選定をして大量に買い込んだ酒と一緒にスーパーで必要なものを買い込んで帰ってきたら既に夕食に近い時間になってしまっていた。
うむ、時間配分を間違えたか。この際だから現地調達としてワイシャツはともかく、下着や肌着はそのままにしておいて、コート一着だけ着まわしてスーツ姿で出かける、というのも選択肢としてあり得る。
後、結衣さんに二人で旅行に行ってくると言ったら「お土産買ってきてね、くまモングッズじゃなければなんでも」という割と解ったような答えが返ってきた。
その後レインで、きちんと仕事として行ってくることを伝えると、私も行こうかなとか言い出したので、その間に強くなっておいてと伝えておいた。
なお、事後報告になるが真中長官にも連絡をしておいて、熊本第二ダンジョンからドロップ品に関するヘルプが来たので対応してきますときちんと送っておいた。後から口を出されてそれならばこれを……とならないようにだった。
返ってきた答えは「その辺は安村さんに任せるよ。変な物とかドロップしないようにと、地元の農協や漁協と喧嘩になるような品物は出来るだけ避けてね」とのこと。キャビアは熊本では取れないだろうからセーフだろうが、どうやら地元産のアワビは有名らしかった。
今更ながら選択を間違ったかな? とも思ったが、ダンジョン産と喧嘩しない価格での提供というならば充分張り合ってくれるんじゃないかとも思っている。ダンジョン産は活きの良さではなく息の長さが売りだ。上手いこと住み分けをしてくれるよう祈るだけだな。
結局夜までかかった荷物づくりでほどほどに疲れてしまったので、夕食を作る気にならず、昼夕ともにコンビニ弁当で済ませてしまった。後は洗い物とか洗濯物とかを片付ければ長期に家を空ける準備はヨシ、だな。後は明日の朝にゴミさえ出してしまえば片が付く。家に帰ってきたらゴミ箱やゴミ袋から虫が湧いていた、という可能性はこれで消え去った。
◇◆◇◆◇◆◇
翌日、気持ちよく起きたところで念のために布団と枕を回収。もし向こうの枕と布団で寝付けなかったら使ってしまえるように配慮をしつつの十全な保管庫使用に苦心する。朝食のトーストを早急に片付けると、芽生さんとの待ち合わせの時間に間に合うように家を出る。
名古屋駅で待ち合わせなので、待ち合わせの合流時間も含めて計算に入れてある。どっちかが迷ったらその時は一時間か三十分ほど遅れる話になってしまうが、到着できないという事態は無さそうである。
電車で名古屋に向かう途中で芽生さんから連絡。少し遅れるかも、だそうだ。少しなら許容範囲。焦らずゆっくり来てと返しておく。しばらく待ち合わせ場所で待っていると、少し多めの荷物を抱えた芽生さんが到着した。
「旅行って一週間ぐらい前から準備するものでしたね。家の中の惣菜とか期限の早いものとか、色々気にしてる間にあっという間に時間が来てしまいました」
「次に旅行に行くときは弾丸旅行じゃなくてもっと余裕を持っていこう。それがいい、そうしよう」
「とりあえず到着したのはいいですが……手ぶらだとかえって不思議だからとわざと荷物を持ってきましたか」
「葉を隠すなら森の中へってな。一応ちゃんと中身も入ってるぞ、着替えだらけだけど」
一応中身を見せてみる。きっちり畳まれたワイシャツと下着、肌着を見せつけておく。
「これはまたコンパクトにまとめましたね。装備がないのがかえって探索者らしくないですが」
「そういう芽生さんもスーツじゃん」
「私服は別で入っているから良いんですよ。今からしばらくは探索者ですから。後、槍預かってください。流石に邪魔です」
「わかった、いいタイミングで保管庫に仕舞おう」
槍を受け取ると良い感じのタイミングでシュッと収納。誰にも見られては……いないな。これで一つ荷物が楽になった。本来の荷物は仕方がないのでそのまま新幹線の荷物置きに乗せる。ここからはひたすら移動だ。予定では乗り換えを含めて四時間ほどひたすら電車で移動だ。
全く、国内移動よりもダンジョンの最深層のほうが近いとは、またこれも不思議な現象ではある。もっとも、目的のダンジョンの中身についても特定の階層まで歩き続けなければいけない都合上、やはり歩き回らなければいけないんだろうな。モンスターが違うのと、ドロップ品が違うのが楽しみのところか。
ちょこちょこスレッドの情報を仕入れてはいるが、やはり二十一層以降の情報が少ない。どうやらこの辺がスレッドに集う探索者の底であるらしい。ガンテツ自身は何処か別の階層を作っている途中でネタ切れに気づいたんだろうが、何処まで作ってあるか見物ではある。もしかしたら最初に二十八層に到着するのは俺達かもしれない。そういう可能性も考えていこう。
一応スマホの充電バッテリーも持ってはいるが、出来るだけ使わないようにしないとな。ほどほどでスマホをしまい込み、少し眠る。一応到着時刻五分前ほどにアラームをかけておき、芽生さんに少し眠ると断って目をふさぐ。おやすみ。
◇◆◇◆◇◆◇
アラームが鳴って間もなく博多らしい。やはり移動時間は眠るに限るな。隣を見ると、芽生さんもしっかりと眠って英気を養っていたようだ。
「ここからあと何分ぐらいですかね? 」
「乗り換え込みで一時間ぐらいかな。トイレとか大丈夫? 」
「行きたくなったら行きます。今のところは問題なしですね」
博多駅でさくらに乗り換えてそこから一本で新八代駅までつく。新八代駅に着いたらタクシーを呼び止めてダンジョンへ向かうことにしよう。公共交通機関があればもっと楽なんだが、今のところそこまで細かく調べていないし、贅沢にお金を使ってしまっても仕方ない所ではある。
まあ目的達成のためだ、今回はお金稼ぎに来たわけじゃなく、どちらかというと豪遊に近い。二日で仕事が終われば残りは遊んでから帰れるので大人しく仕事に粛々と向かうことにする。
待ってる間また眠るのもアレなので、一応帰りの便を確保するために現地の交通事情を調べてみるが、どうやらタクシーが常に張っていて探索者を乗せて近くの駅まで乗せて行ってくれるサービスがあるらしい。予約はできないかもしれないがそういうシステムが出来ているなら都合がいい。是非利用させてもらおう。
また、一応バスも一時間に一本程度のダイヤで新八代駅方面へ連れて行ってくれるらしい。一時間の中で三十分おきに交代で、八代駅か新八代駅へ向かうバスのダイヤがダンジョンができた時から存在している。
ダンジョンがなくなった時に一旦止まったものの、新熊本第二ダンジョンが開設されたことにより復活したらしい……という情報をスレッドの過去スレから発掘することが出来た。ちゃんと過去スレが保全されているのは嬉しいことだな。
「ふむ……目的は二十一層だな。そこで情報を集めるしかなさそうだ」
「配信してる探索者がいると思いますからそこも含めて考えていくことになるんでしょうかね」
「配信かあ……まあ配信番組用のアカウントも持ってないし、こっちから配信することはなさそうだが、他人の配信に映り込むのはあり得るだろうな。もしかしたら配信されながらガンテツと話し合いを始める可能性だってある。別にガンテツは気にしないだろうけど、七層や十四層で呼びかけて出てくる可能性は低そうだ。ちゃんと潜りにやってきたぞとアピールするにはしっかりとそこまでは潜り込む必要があるだろうな」
色々と事前に考えておく必要が出てきたな。他の探索者の配信に映り込む可能性も考えないといけないってことは、迂闊に保管庫を使えないってことでもあるな。荷物は出来るだけ減らしたいが、リヤカーを引きながらの戦闘になるだろうし、七層まではまずは新熊本第二ダンジョン体験って事でしっかり楽しんでいくことにするか。
「まずは駅近くのホテルでチェックインして部屋を確保しておいて、もしかしたら帰れないかもしれないことと探索者であることを告げつつ、ダンジョン内で一泊する可能性について伝えておかないとな。泊まるっていって来たのに帰ってこないではホテルの人も心配するだろうしな」
「そうですねえ。進捗次第というのがもどかしいですが、七層、十四層辺りで一旦出て無事に戻れると良いんですが」
「一階層当たり何分かかるかもわからないし、リヤカーを引きながらの行動になるだろうからそれなりの荷物になる。リヤカーは最悪保管庫にしまい込んでダッシュで探索することになるかもしれないけど、借りれなかったらその時はその時で仕方ないということにしておこう」
「他のダンジョンとは仕様が違いますからね。どれだけの荷物になるかもまだ未定ですし、少なくとも二層三層では大荷物になる可能性があります。米とか小麦はその辺でドロップするそうです」
芽生さんも同じく過去スレを読みつつ、みんなが新ダンジョンで一喜一憂していた様を確認しながら話をしている。
「保管庫は出来るだけ使わない、でもできるだけ素早く移動したい……両立できるかどうかはなかなか難しい問題だが、リヤカーを借りずに七層まで一気に突破して、その後で一旦地上に戻ってきて七層からリヤカーを借りる、という手もあるな。そのほうが移動効率としては良さそうだ」
「そのほうがいいかもしれません。荷物はいつものおっきいバッグに入れておけばあいつら背負ってるんだなと見せかけることはできますし、洋一さんはバッグに入れるふりして保管庫に積み込めますから問題はないですね」
大分楽しみになってきてるな。なんだかんだ行かないと言っていたダンジョンに入ることになったが、真面目に他のダンジョンに潜るのは清州以来だ。清州も長いこと行ってないな……清州ダンジョンが何層まで出来ているかも気になるし、その点で言えばたまには巡るのも悪くないかもしれん。
もしかしたら新しい出会いがあるかもしれないし、ただの通りすがりの探索者として誰かの画面に映って終わりかもしれない。もしかしたらそれすらないかもしれない。変に期待していくよりも気楽に行くことにするか。
調べものをしている間にさくらは新八代駅に着いた。駅から出てまずバス乗り場を探す。バス乗り場を確認したところで、駅すぐ近くのホテルにチェックイン代わりの言伝を伝えておく。
「すいません、本日から予約している安村ですが」
「少々お待ちください……安村洋一様ですね。二名様一室、確認いたしております。早速お部屋のほうに向かわれますか? 」
丁寧な受付に好印象を覚える。だが、まだ一泊するにも休憩するにも時間が早すぎる。
「それなのですが、私達探索者なんですよ」
「探索者の方でしたか。では、もしかすると帰らないかもしれない、というご相談ですか? 」
どうやら受付のほうも対応に慣れているらしく、同じように宿は取ったけど結局ダンジョンで一泊してきました、という例は少なくないらしい。
「そうなんです。キリのいいところで帰ってくるつもりではあるんですが、もしかしたらダンジョン内で一晩過ごす可能性もありますのでそれだけお伝えしておこうかなと思いまして」
「でしたらそのように承っておきます。そういうお客様の需要を満たすのも当ホテルの役割だと承知しておりますので、どうぞお気になさらず探索のほうを楽しんできてくださいませ」
どうやらここのホテルは需要を解っているホテルらしい。ホテル側としても、部屋さえ埋まってくれればいいという対応をしてくれているようなので利用するかしないかわからない申し訳なさがありつつも、きちんと対応をしてくれるという点ではいいホテルではある。
結構新しいホテルでもあるし、きっと旧熊本第二ダンジョン時代からそういう客が頻繁に来る、というのを納得した上で運営を続けてくれるんだろう。探索者にとっては荷物を預かってくれるだけでもありがたいのだ。無理を言ってるわけではないので一つ安心することができるな。
作者からのお願い
皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。
続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。
後毎度の誤字修正、感謝しております。





