1343:旅行概要説明
家に着いてまずは食事。芽生さんも腹ペコだったのか、あっさりと自分の買ったものを食べ終わると食後の食物繊維ドリンクを飲み始めた。最近溜まり気味なんだろうか。もしくはダンジョン内で催さないように普段は堪えているとか。
まあ、芽生さんとは言え他人の食料事情には口を出すまい。俺も手早く食事を済ませて片付けを終えると、パソコンの前で芽生さんと共に色々調べ始めた。
早めに出したこたつのおかげで足も寒くなることはなく、着替えてリラックスした俺も芽生さんを隣に座らせて早速ミルコからのヘルプ要請と、新熊本第二ダンジョンについて説明し始める。
「今日の昼頃の話なんだが、ミルコからガンテツのところにヘルプに行ってくれないか? という相談を受けたんだよ」
「地元の探索者ではダメってことなんですかね。もしくは攻略した……あぁ、彼らは今丁度こっちに来てるはずですから現地に居ないはずですね」
「そうなんだ。で、彼らの協力を仰ぐよりも事情をよく知ってる俺のほうに話を回した方が早いんじゃないか? とガンテツは判断したんだと思う。協力内容は主に二つ。ダンジョンの産出するドロップ品のネタ切れが起きそうなので何とかしてほしいって内容と、酒が飲みたい、という話だ」
手元でろくろを回しながら芽生さんに説明する。芽生さんはろくろの動きに目を奪われつつ、真面目に話を聞いている様子。
「お酒はひとまず置いといて、たしかにダンジョンとしてネタ切れを起こすのはあまりいい話じゃありませんね。やるのは食べ物のリストアップからですか? 」
「一応、こっちで購入できる範囲で高級食材だと思われるものは既に発注済みで、明日中には全品届くことになっている。流石に熊の手が手に入るとは思わなかったが、タイミングよくネットに転がっていたのを見つけたので冷凍物だが購入しておいた。リスト的にはこんな感じ」
スマホで購入した通販サイトを見せて、買ったものを一通り見せる。
「これ以外に何か高級食材にしてみたいものとかこんな食材が落ちても良いんじゃないか、みたいなリストがあればそれに越したことはないんだが」
芽生さんがリストを見たりパソコンで検索したりしながら色々と情報を探る。そして、こたつの中で足を絡め始めた。
「そうですねえ。はちみつとかいいかもしれませんね。どの花のどんなはちみつが得られているのかはサッパリ不明ですが、ダンジョンだしまあそういうこともあるだろう、で済まされる可能性もあります」
「出来るだけ整合性みたいなものは捉えていきたいとガンテツも考えるはずなんだよな。どう見ても海の魔物じゃない奴が干しアワビを落としたりするのは違和感を覚えると思う。そういう意味でも、複数商品を持って行って提案はするけど却下なら却下でいいぞ、という感じでとらえていきたいと思う」
「なるほど……あ、ネットショップありますよ。ダンジョン産食品の」
芽生さんがネットを探している間にダンジョン産食品をメインで扱う会社のホームページを見つけたらしく、そこを覗いてみる。普通のダンジョンでドロップする食品以外に、特別に仕入れているであろう新熊本第二ダンジョンでドロップする商品の画像と値段、それから貴重さについて書かれている。
「Cランク以上しか入れないからなのか、それとも他の理由があるかなのか、人気があるからなのかは解らないが、かなりの量が売り切れになってるな」
「でも、これでもう出してる食品をまた持っていく、ということにはならなくて済みそうですね。突き合わせて同じものがないか探してしまいましょう」
サイトにある商品と手元にある商品を突き合わせて、なさそうな食品はピックアップ。そのまま利用できなくてもなにかしらの加工や発展を施すことで高級化できそうなものを選ぶ。
果物系は新しい商品としては加工の手間はかかるだろうが、甘く美味しいしでかいとか小さすぎるが強烈な甘味を提供してくれるとか、何かしら売りにはできるだろう。そうなると、メロンもそうだが大きければいいというものでもない。大きさよりも甘さや見た目の良さ、その品質が安定していることなどが求められるだろう。
品質の安定化という目標についてはダンジョンドロップ品ということで達成できるので、残りの項目をうまく埋め尽くすことができるかどうか、というのに重点を置く方が良さそうだな。
「熊本行くならくまモンは外せませんよねえ。何かくまモン周りで一ヶ所とそれから温泉にも入りたいですし、行きたいところはそれなりに多いですから悩みますよねえ」
相棒は全力で脱線し、観光場所の選定に入っていた。まあ、気楽な旅だと思えばこその旅行でもある。旅程のほうは任せるとするか。俺はダンジョンのことにしばらく集中して、リストアップした品物を明日買い集めることにした。
そして、こっちはこっちで旅行の日程を詰める。年末の大混雑には巻き込まれたくないので、クリスマスを挟むことになるだろうがその工程で長期旅行になるかもしれない、というのを芽生さんに伝えておく。
「クリスマス旅行ですか、悪くないですね。できるだけいいお宿が取れると良いんですが」
「周辺調べた感じ、そんなに高くない所が多いな。流石に東京や名古屋とは比べられないや」
「じゃあ出来るだけアクセスのいい所を選ぶ感じですかね」
お互いにパソコンとスマホを両方駆使しつつ、食品と泊まる場所と観光スポットを探していく。ダンジョンは観光スポットに入るんだろうか。
熊本第二ダンジョンのスレッドを見ると、十四層まではそこそこの人が入り込んでいるが、二十一層付近の情報は集められなかった。おそらく二十一層までは潜り込むことが必要になるんだろう。丸一日ダンジョンへ潜り込んで中でガンテツと会話、その後でエレベーターで帰還してお仕事終了という流れになりそうだ。
ダンジョンに着いてからの予定は大体頭に入れた。後はいつ出発していつ頃帰るか、だが、帰りの新幹線を予約しなくてもいいようにできればのぞみで帰りたい。そうなると、正月の帰省ラッシュのギリギリ前あたりに帰郷時間を設定したほうがいいだろう。
ダンジョンで二日潰れるとしても残り三日ぐらいはぼんやりと旅行して旅館でゆっくりして今年一年お疲れ様でした、と言えるだけの慰労旅行にできるほうがいい。芽生さんにふわっとだが、そんなスケジュールを伝えてみると、授業自体はもう終わってるそうなのでその気になれば荷物が届いて食品が到着し、それぞれ確認してから出発でも問題はないらしい。
何とも忙しい旅行計画だが、そういう形で決まった。決行は明後日から五日間ほど、早速近くのお宿に予約を入れて……よし、まだ埋まってないな。初日はちょっと高めのところに宿泊して英気を養いつつ、その後ダンジョンで一泊か二泊、場合によっては夜間行軍もしてダンジョンを探索する。
まあ、なんとかなるだろう。後は現地で何層まで地図が販売されているかにもよるが、出来れば十四層までは出来上がってくれていると七層で小休憩して一気に十四層まで下りる、といったこともできる。
うまく予定が回ってくれることを祈るしかないな。まあ最悪宿のほうにはダンジョンの中から通信ができることだし、ちょっと帰れなくなったのでへやをそのまま空けておいてくれ、ということもできる。料金はネットで先払いするのでキャンセル料についても問題ない。
何より今回の旅行の前半は仕事で行くのだから経費で落とせる。往復交通費と初日二日目の宿ぐらいは経費で落としても文句は言われないだろう。三日目以降は……まあ、場合によっては遊びに行ってると思われなくもないがそこは税理士さんと相談だな。
多分ダンジョンに潜ってないからアウト、と言われそうだが、そう俺が感じている時点ですでにアウトな気がする。何はともあれ相談は大事。年始最初のお仕事としてメモにしっかり記しておこう。
「とりあえずこんなもんですかね……しかし、ダンジョンネギが全て同じ形で同じ長さで出てくるというのは面白いですね。金太郎飴みたいです」
「工業製品化された農産物としてはノリぐらいのもんだと思ってたが、ダンジョンではそういう規格の統一がされてるんだったら大量納品による大量消費という面でも商売にはなるのか。ちょっと考えるべきところが出てきたな」
「何より、大きさがバラバラじゃない大きなマツタケが取れるとなったらたとえダンジョン産とは言え、見た目にも香りにも味にも区別があってダンジョン産マツタケとして大いに売り出せそうで良さそうですね」
マツタケも同じ大きさ同じ香り、同じ味ってことにもなるな。それが広まれば天然のマツタケを取らなくてもダンジョン産のマツタケで代用できる、ということにはならないだろうか。そういう意味では自然界では希少な食品という路線で攻めることもできるな。そっちも探してみよう。
ザクッと調べて該当し、それでいて今回集めきれなかった、もしくは明日中に買い求めることが不可能なものとしてコピ・ルアクがあった。確かにあの風味をダンジョンで再現できるとなればさぞ需要は高かろうとも思う。
あくまで一ダンジョンでしか扱われないため希少性にそれほどのダメージを与えないであろうが、そもそもガンテツにコーヒーの豆の味の違いを比べさせるだけでも一手間かかりそうだな。それは今回はなしで行こう。
後は何が出来るかな……俺の考えられる範囲で価値あるものや、逆に価値がないけど価値を持たせることができるもの。ダンジョン産であることで有利不利に働くものもあるし、これ以上悩んでも何ができるかどうかは進まないような気がする。所詮一人で思い着く範囲には限りがあるのだ。
「うむ、やはり俺の思いつく範囲ではこのぐらいでしかないか。もうちょっと何かしら改良を加える第三者が必要だ。この際熊本の地元で取れてるようなもので希少な物……となると今度はダンジョンとの喧嘩になるし、それはだれも望まないだろうからなあ」
「確かにそうですね。お互い喧嘩しない範囲でそれぞれの売りになるようなものをお出しする範囲だとやっぱりこのぐらいで今回は勘弁してもらうしかないんじゃないですかねえ」
後は酒か。明日にでも酒屋に行っていくつか都合してこよう。近所の酒屋は種類が多いと聞くし、受け取れる商品を全部受け取ったら買い物に行って熊本旅行で現地民へのお土産に……とかなんとか言い訳を考えて色々買い込んでいこう。
「そういえば芽生さん今日は帰るの? 泊まってくの? 」
「今日はせっかくだし泊まっていきましょうかねえ。ただ明日は旅行の準備があるので早めに帰りますけど」
「じゃあ今日は本番はなしだな」
「そうですねえ、でも布団の中でイチャイチャして抱き着き合いましょう。そのぐらいなら問題ないはずです」
うむ、実際に行為をしなくても二人で布団にくるまって温め合うだけでも満足することはあるからな。決して衰えではないからな。息子はまだまだ元気だ。しかし、息子は我慢を覚えただけだ。待てとよしがある程度自由に出来るようになった息子に対して、きちんと礼儀を教え込むことに成功したのだ。
「じゃあ風呂沸かしておくから沸いたら入るか」
「はーい、私はもうちょっと調べてまーす」
風呂を沸かして沸くまでの間炬燵の中で足をもみ合いへし合いしつつ、旅行先に良さそうな所を探して時間を過ごす。風呂が沸いたので入って、お風呂でお互いに洗いっこして一緒に湯船に入る。
「旅行先でもこういう家族風呂みたいなのがあると良いですねえ」
「そういえばそこを見てなかったな。せっかくの旅行だし二人だけでしっぽり入るのも悪くないな」
「まだキャンセルは利くはずでしょうから、後半の楽しみに取っておきましょう。天然温泉で打たせ湯、期待してます」
「天然温泉打たせ湯か……いいねそれ。風呂から出たらもう一回確認してみるか。そうなるとホテルより旅館だな」
早速風呂から上がり、値段と距離を気にせず旅館を探すと、多少の繁華街への距離の長さといい値段はしたが天然温泉家族湯付きの旅館を発見した。
「ここでいいかな」
「ここにしましょう。ぐふふ、楽しみが増えました。ダンジョンの疲れも吹き飛びそうでいいですね」
芽生さんはもう楽しみにしている様子だ、これは裏切れないな。出来るだけ手早くガンテツの仕事が終われるように手配しないと。
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