1329:新居計画
そのまま七十一層を巡る。午前中二時間半戦えたところから考えるに、そこまでは魔力が持つことは判明している。これはとりあえず休みなしでどこまで稼働できるかの実験中だ。今のところはうまくいっている。
現在時刻は午後三時。午後一時ぐらいから開始したので後三十分は動ける計算になる。その先はどうなるかは解らないが、現実問題としてここらあたりならまだ問題ないらしい。
戦闘については問題なく戦えている。後は持久力のみ。さあどんどん進んでどんどん狩って、どんどん稼ぎにしていこう。今日の稼ぎは過去最高になるかもしれんと思うとその数字が見たい気持ちも大きい。稼げるだけ稼いでいつも通りに帰る。定時出社定時退社の気楽なお仕事だ。そう考えればちょっとだけやる気がまた上がってきた。
そのままのテンションを維持しつつ、探索をどんどん進めていく。グリフォンが来ても、来たな! という感じにはなっているが、今まで程のプレッシャーを感じずに戦えるようになった。雷撃衝がきちんとイメージング出来て発動し、一発でグリフォンを消し飛ばしてくれているおかげでもある。ここが安定してくると精神的には負担がかからなくて済むところ。
もうちょっと慣れれば、エイやサメと同様の対応をしていくことになるだろう。慣れるまでにはいましばらくの時間がかかる、というべきだろうか。
更に探索を続け、二時間半を超えて三時間、三時間半と続けて探索が出来ているが、ここで一旦水分補給兼カロリー補給を兼ねて数分休む。索敵網には何も引っかかっていないので、月面の真ん中でぽつんと一人椅子を出して休憩することになる。この間にも魔力は回復しているはず。残り二割で行程五分とする、という視点で言えば中間点あたりといったところだろう。
ここまでは耐えることが出来たぞ、と自分を褒めてやるとこだな。よしよし、今日もいい仕事をしているぞ。自分を適度に褒めてやることは自分の健康にも良い。一日一回は自分を褒めてやる時間があるとすれば今がそうだろう。そういうことにしておく。
今日はグリフォンがポーションをくれた。この未だに効能のわからないポーションだが、いつもの倍率でポーション価格を査定に出すとすれば指輪以上の高額のドロップということになる。ダンジョン庁に預けてある分も含めれば、これだけで一日分の収入になることが確定している金額だ。大事に保管庫に入れて日のあたる時を待とう。一体どんな効能なのやら。
数分の休憩が終わり、椅子を仕舞って再び立ち上がり、探索を再開する。しかし、仕事とはいえ一人だとやっぱり寂しいものがあるな。村田さんなり平田さんを拉致してきて賑やかしとして連れてきた方がよかったか。
戦力としては換算しなくていいので傍で応援なり騒ぎなり、雑談相手なりがいるというのはやはりメンタルにかなりの安心感を得させてくれるので大事だな、と再認識する。
ともあれ、なんか寂しいから途中で帰ってきた、ではあまりに格好悪い。このままのペースで今日一日は頑張って、それでもって査定を受けて成果を見て、今日も一日頑張ったなと自分をもう一回褒める場所をつくってやれればそれでいいな。
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色々考えながら一時間半更に探索を続け、家に帰る時間になった。結局途中休憩はしたものの、ほぼ一日ぶっ続けでこの七十一層で探索をやりきることが出来た。今日も安心安全の探索を行うことが出来た自分えらい、とここでも自分を褒めてやることにしよう。
七十層に戻る直前のサメにも戸惑うことなく撃破。今日も完ぺきに探索をこなすことが出来た。後は帰り道に茂君を刈り取れば終わりだ。
七十層に無事帰ってくると、いい仕事をした感が急激に体を支配し始めた。これで後は帰るだけ。収入はそれなりに多いものじゃないかと邪推しておく。ポーションが七本落ちたのでその分の収入だけで四億近くになっているはずだ。それに加えて魔結晶とフカヒレの金額を足せば、個人の稼ぎとしては記録になっているはずだ。
リヤカーをエレベーターに押し込んで七層を倍速でポチリと押すと、後は二十分間何をするか。クロスワードでもやって待つかな。気分が乗っているのでいつもよりなんだかクロスワードも楽しい気分になってくる。普段は時間まで半分気晴らしのまま半分は時間が来るのを待つ、という感じだが今日は違う。いつもより単語がスルスルと出てきて非常に楽ちんに問題を解くことが出来ている。
ササッと二問クリアしたところで七層の扉があき、早速リヤカーを表に出し、テントをポン立てして中にリヤカーを隠して茂君ダッシュへ行き、帰ってくる。またボア肉が溜まったな。
ボア肉を贅沢に使ったレシピみたいなものを何処かで探してみるのもありだな。もしかしたら俺みたいに一部の肉ばかり溜まって仕方ない、という悩みを持つ探索者も居るかもしれない。
リヤカーを再び引いてエレベーターに乗り、一層にたどり着いて退ダン手続き。
「おかえりなさい、今日もお疲れ様でした」
「今日も安心安全でした」
受付嬢もいつもより丁寧に返事をくれている気がする。もしかしたら毎日そうだったかもしれないが、今日は少し気分が高揚しているおかげかそんな感じすら覚える。テンションが上がりっぱなしということなのだろう。
リヤカーを引いたまま査定カウンターの列に並び、自分の番を待つ。今日は査定も少し混み気味。二、三パーティー自分の前に並んでいる。ここは大人しく待とう。急かしてミスをされても困るからな。十分ほど待って自分の番。順番に種類ごとに渡し、計算してくれている間にリヤカーを返却。リヤカーを返して戻ってくるとちょうど査定が終わったタイミングだった。
今日のお賃金、四億三千九百九十七万八千円。四億超えは久々。これがほぼ毎日繰り返せるのは今のうち、と思っておこう。いずれ必ずポーションと魔結晶の値下がりのタイミングは来るはずだ。それまでに稼げるだけ稼ぎきって、優雅な老後を送るという選択肢だってある。
支払いカウンターで振り込みをして、いつも通り温い湯をもらう。肌寒かった月面と、ダンジョンの外の冷え始めた空気との対比で更に暖かく感じる。一気に飲み干すと、今日も一仕事が終わったんだなあ……という気分になる。お仕事の時間、ここでおしまい。ここからはプライベートな時間だ。
さて、今日の夕飯を買い求めるか、たまには自分で作るか。作るのも悪くないかもしれないな、ちょっと小腹が空く間にカロリーバーを詰め込んで、何か一品料理を作ってそれでヨシとしておこう。
帰りのバスで月刊探索ライフを流し読みして、モンスター肉料理を色々と見て回る。せっかくだから余っているボア肉を贅沢に使いたい。丸ごと煮豚なんかはあるが、流石に煮豚を作るほど俺の胃袋は気が長くない。もうちょっと片手間で作れる料理を探そう。
色々時短レシピを探していると、甘辛わさび炒めというものがあった。調味料はあらかじめ混ぜ合わせておいてダンジョンに持ち込めば料理も楽ちんで後片付けも手間がなく、そして美味しいというこのレシピ、一丁チャレンジしてみるか。
炊飯器は時間がかかるのでなしにしておいて、出番はないが保管庫にしまい込んであるパックライスを消費していく方向で行こう。後は合わせのサラダか何かをコンビニで買って食事の足しにしておけばいいな。
最寄り駅まで電車でたどり着くと、コンビニでホットスナックとサラダを買い足して会計。余計な物は買わずにそのまま家に戻ると片付け物をしてからホットスナックを齧りつつ夕食を作り始める。
タマネギを細切りにして、バラ肉風にしたボア肉と共に炒める。肉に火が入りタマネギがしんなりして透明になってきたところで、キャベツをちょっと投入してそれから合わせ調味料を入れて更に炒める。全体に味が回ったら火を止めて終わりだ。非常にお手軽でよろしい。
こんなに簡単に一品できてしまった。これはつまみにもいいし便利でいいな。量も多めに作ったし、早速食べよう。もう一品何かサッと思いついて作れるようになると、俺も料理の腕が上がったと言えるんだろうが、今のところはそこまでの物は思いつくほどではない。
いや、ダンジョンへしっかり潜ってその疲れが少し残ったままでも料理が出来るだけ体力が残っている今こそ自分を褒めてやるべきだろう。よし、今日は一杯自分を褒めているぞ。
サラダとパックライスとボア肉の甘辛わさび炒め。今日の夕食のメニューだ。量的には充分あるし、足りなかったらもう一つパックライスを開けて何かしら足し込んで食べることができるし心配ないだろう。
早速食べよう。まずはパックライスから……うん、いつもの変わらないご飯の味だ。まずくはないがこれと言って美味いという感想は浮かばない。良くも悪くもインスタントライス。普段の米に比べれば二段ぐらい劣る。しかし、今日のメインディッシュは当然お前ではない。
さっそく甘辛炒めを食べてみることにする。醤油みりん酒で味付けられた甘めの調味料がボア肉やキャベツとマッチしている。そして、鼻を通り抜けるほのかなわさびの香り。辛さは熱しているうちに飛んでしまったようだ。わさびの風味だけが残っている非常に食べやすい一品になっている。
レシピ通りと違いキャベツを足したので、本来はもうちょっと味の濃い一品だったのかもしれない。そういう意味ではキャベツを足さないほうがよかったのかもしれないが、味が薄いというわけではないのでこれはこれでいい。
ボア肉をワンバウンドさせてパックライスにタレを移して食べ、その後でタレの絡んだご飯を食べる。やっぱり焼肉にしろ肉炒めにしろ、ワンバウンドでご飯が美味しくなるのは間違いないな。
サラダにごまだれをかけて食べ、胃袋の中身をご飯と肉以外を入れてしっかりと充実させていく。一品料理で比較的肉多めの食事だが、これがまた仕事の後の一品としては腹に溜まって中々いい。調味も良い感じに濃過ぎず出来ているし、もうちょっと濃くても良いぐらいの塩梅。
キャベツを入れた分良い感じに薄まったのかもしれないな。本来のレシピはキャベツ抜きでタマネギと肉だけだったのだが、それだけでは寂しいのでキャベツを投入したが、キャベツの甘さも相まっていい感じの味わいになってくれた。
玉ねぎをもっと炒めればより肉のうまみが引き出せたかもしれないな。次回は考えておこう。飴色とまではいかなくても、もうちょっと焦がしてやっても良いぐらいだったかもしれないな。次に活かそう。
食事を食べ終わり片付け。さて、風呂に入ってゆっくりするか。風呂を沸かしている間に天気予報を見る。風はしばらく強いかもしれないとの事。バス停で待ってる間がちょっと辛いか。冬よりはマシだがそれでも寒いとは感じられるだろう。そろそろ冬、というのは間違いないようだ。
風呂が沸いたので風呂にゆっくりつかる。最近は風呂も素早く入るようになったが、今後は寒くなるし、湯船の湯の温かさから中々出られなくなってくることだろう。冬の風呂は危ない。ヒートショックもそうだが、湯船の中が気持ち良すぎて湯からなかなか上がれないのだ。
ふぅ……あったかくて気持ちいいな。このまま二十四時間この暖かい中で過ごしたくなるような、そんな時期がもうすぐやってくる。流石に脱衣所にエアコンは付いていないが、そこまで温風を、いや温風じゃなくてもいいから床暖房みたいに家中どこにいても温かいようなそういう贅沢をしたくなってくる。そうなると、新居計画も一歩前に進めるのも悪くないかもしれないな。
湯船の中が温く感じるようになったところで気合を入れて風呂から上がる。体の水分をしっかり拭きとって風邪をひかないように充分注意すると、水分をちょっととって不動産について調べ始める。
まずは空き物件からだ。小西ダンジョン近辺で空き物件があったら……と思ったが、賃貸も一戸建てもどうやらキャパはないらしい。そういえば、ここ最近も新しいアパートが建ったが入居者はすぐに埋まったという話らしいし、小西ダンジョンの周りには探索者が大量に住みついている、というのは確からしい。
小西ダンジョン付近からダンジョン最寄り駅まで範囲を広げて選ぶと、数ヶ所の物件があることは解った。しかし、ちょっと狭い。もうちょっと広い範囲で土地を確保できればいい感じの場所が空いていたら確保するだけしておいて……というのもありだったかもしれない。
遅きに失した、というイメージがあるな。また今度確認してみて良い広さの土地があったら押さえてしまうことにするか。もしかしたら隣の土地も空いて……となったら合筆して一つの土地として合体させて、そこに家兼事務所を建てる、ということもできるだろうしな。真面目に新居計画を考え始めるか。
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