1330:新ダンジョン開幕
二週間ほど七十一層をソロで巡ることを繰り返した。もちろん芽生さんと潜る時はセットで潜って七十二層まで潜っているが、それ以外の時は七十一層でひたすらに潜っている。七十一層は問題なく一人でも丸一日回れることが確認できたので、毎日四億の収入が見込めている。毎日潜っている訳ではないが、出来る限り潜って自己研鑽に努める毎日だ。
今日はオフの日。いつもの納品と昼食は自分で作って食べることにする。夕食も今日は作って食べるか。午前中は布団の山本、午後は色々レシピの探り当て。
いつもの朝食を食べてニュースをチェック。すると、ダンジョン関連のニュースで持ちきりだった。
どうやら昨日の夜の段階で判明してたらしいのだが、過疎ショッピングモールの空きテナントの一室がダンジョン化していたらしい。この場所は……リーンの担当区域か。しっかりダンジョンを作ってから公開する形になってくれたのか、それとも公開に踏み切る分の範囲は出来たと判断したのか。
何にせよ、無事に新しいダンジョンが出来上がって公開されたことについては一安心するところなのかもしれない。ダンジョン庁としてはここからが本番なんだろうが、真中長官がどんなアプローチからダンジョンがここに出来た理由をぶっちゃけてしまうのか、それともたまたまここに出来たことにするのか。
いや、たまたまここに出来たというのと、トレジャーダンジョン、そしてこの間小西で行われたトレジャーイベントを結び付けて、ダンジョン庁からお願いしてダンジョンを立ててもらったのではないか? という推測は容易にたてることができる。
勘のいい弦間さんならそのあたりを突っ込むだろうし、弦間さんに限らず色々知ってる探索者なら気づくことはできるだろう。念のために真中長官にレインで質問しておくか。
「ダンジョン庁としてはどこまでダンジョンマスターとの仲をアピールしていくつもりなんですか? 」
俺が小西のダンジョンマスターとの仲がいいということは知られてしまっているから、トレジャーイベントをきっかけにダンジョンマスター同士の交流があるということも更に掘り下げられるだろう。俺のほうに圧迫はできるだけ避けたいところ。真中長官の動き次第では俺も仕事をしなければならないだろう。
と、真中長官からレイン経由で電話がかかってきた。
「はい、安村です」
「今日は出勤日だったかな? だったら手短に話を進めようと思うのだけれど」
こっちの都合を優先してくれるらしい。向こうのほうがよほど忙しく金のかかる仕事をしているだろうに、今回は俺にも手間をかけさせているから、と申し訳の無さがあるのかもしれないな。
「こっちは今日は休日を満喫中ですよ。だからこそこんな時間にニュースを見てのんびりしている訳ですが」
「では、休日を邪魔しないように手短に済ませようかな。ダンジョン庁としてはダンジョンマスターと会談以外の部分でもコンタクトを何回か取って、新しい形のダンジョンを作り上げることになった、という方向性で進めようと思っている。出来るだけ安村さんの関与が及ばないようには配慮するのでその点は安心してほしい」
ふむ。ここでまたあの通訳ですか、と言われないためにもこっそり高輪ゲートウェイ官民総合利用ダンジョンで話し合いを重ねていた、という感じで進めていくんだろうな。
「ということはこれが完成した段階でもう俺の出番は無さそうですね」
「よっぽどのことがない限りは大丈夫、とは言いたいところだけどね。まだ【鑑定】のほうの進捗が思わしくない所があるのでそこだけはどうにかしたいところだね。彼の練習としていろんなものの鑑定を行ってもらって、スキルアップに努めてもらってはいるんだけどまだ詳細まで鑑定しきることは出来てないみたいなんだ。何かアドバイスみたいなものはあったりするかい? 」
スキルをレベルアップさせるためのアドバイスか……やはりステータスを伸ばすことも必要なんだろうか。
「そうですね……一層で潮干狩りでもしてみると良いかもしれませんね。金にはなりませんが気晴らしやステータスアップにはなるかもしれません。レアスキルの上達には何がキーになっているかまでは解りませんからね」
「潮干狩り……あぁ、安村さんが有名になったあれかい。そうだね、もし気を張り詰めて進捗が思わしくなかったことがあるようならアドバイスしてみることにするよ」
実際、俺自身も鑑定さえしておけばレベルアップするというわけでは無さそうだということもほのかに感じている。実際、南城さんもかなりの戦闘をこなしている訳だし、保管庫も保管庫を使い続けていればレベルアップしていたのか? と問われると疑問符が付くところ。
巽君もダンジョン経験はそう豊富でもないだろうから、スライムだけでも簡単に倒せるようになっているぐらいのことは出来ていていいだろう。お仕事でやるわけだし、一日にスライム五百匹ぐらい倒して二週間ほどダンジョンで訓練と称して戦ってもらうのも悪くないはずだ。
「まだ本格稼働には時間があるんでしょうし、その間に結果が出せるように頑張ってもらうしかないですね」
「そうだね。ダンジョンのほうはダンジョン庁から正式に、ダンジョンマスターとの交渉の結果、経済的利益が得られると思しき地域で出来るだけ迷惑にならない範囲の場所でダンジョンを新しく作り、互いの目的が一致できるようにする、という話で通していこうと思う」
真中長官がそう決めたなら俺はもう関わらなくても良さそうだな。もしかしたら他のダンジョンマスター経由で情報が流れてくる可能性はあるから、それを耳にして真中長官に情報をあげていくぐらいのことしかもうできないだろう。ダンジョンが出来た時点で俺の手からは離れた、と考えておくほうがこれは下手な出費や時間の浪費をしなくて済むかな。
「ともかく、真中長官のお考えは解りました。こっちとしては静観して様子見、もし何か問題が発生したらその時は他のダンジョンマスター経由で連絡が入るでしょうからそれを伝えるってことで良いですかね」
「そうだね、ここまでありがとう。後はこっちでなんとかやっておくよ。今回の件、ダンジョンマスター会談から始まって随分手間をかけてくれた。お礼がしたいところだが、民間への還流を疑われるようなことはしたくないからね。何か精神的にお礼をすることにしようかな」
「だったら精々芽生さんを大事に扱ってやってください。それで充分のはずですから」
「なるほど、そういう手もあるか。善処することにしよう。ではね」
真中長官との連絡が終わり、テレビに戻り他のチャンネルに切り替えると、どこもダンジョン情報で盛り上がっていた。弦間さんが出ているチャンネルは……あった。ちゃんと出ていた。
「私としては、ダンジョンマスターにはきっちりと横のつながりがあると考えています。例えば先日、とあるダンジョンでトレジャーイベントといって宝箱が出現するイベントが開催されたことがありました。もしかしたら、今回のダンジョンも新しいダンジョンで、恒常的に宝箱が設置されているようなダンジョンが立っているのかもしれません。中に入るまで詳細は不明ですが、だとしたら探索の楽しみが増えて良いことになりますね」
ほう……小西ダンジョンでのイベントの情報まで掴んでいたか。やはりいろんなところに目と耳があるらしい。なら弦間さんの中ではダンジョン庁とダンジョンマスターが今回ランダムな場所ではなく過疎化したショッピングモールの中、というまるでテナントとして入ったかのごときダンジョンについても何らかの推測を得ているとみていいだろうな。
ま、俺のすることは日常のお仕事だ。もうちょっとニュースでの騒ぎを見てから布団の山本へ行くとしよう。
「ダンジョンは安全だって聞いてますけど、近場に出来るとなると不安になるのは仕方ないことなんですかね」
「近所にダンジョンができたってことは危ない人がうろつくようになるんだったらちょっと怖いですね」
「私近所に住んでる探索者なんですけど、新しいダンジョンならぜひ潜ってみたいですね」
「ダンジョンも新しく出来るものなんですね。また同じところにできるものだと思っていましたけど」
いろいろ意見はあるが、一方的な意見だけを聞かないのは良いメディアだろう。ダンジョン反対派だらけの声を拾い上げるよりも双方のメリットやデメリットを提示して、あなたはどう思いますか? という問いかけをするのは大事なことだろう。
ともかく、新ダンジョン第一弾は放たれたことになる。この先どうなっていくかは実際にダンジョン庁や俺の思った通りに行く保証はなにもない。だが、何もしないよりもいい結果を引き当てたはずだ。後は今後の対応でどうなっていくかを見守っていくしかないな。
◇◆◇◆◇◆◇
布団の山本にいつもの量を納品。布団の山本でもダンジョンの話は聞いていたそうで、新しいダンジョンにもダーククロウやスノーオウルが居るのかどうかでちょっとした話題になっているそう。
「新しいダンジョンが出来るのは結構なことでしょうけど、新しいダンジョンでも同じようにドロップしてくれるんでしょうかね。もし新しいダンジョンが増えていって古いダンジョンが消えていって、ダーククロウやスノーオウルが出なくなったなら私のこのダーククロウ布団の商売も難しくなってしまうでしょうから、そう考えると新しいダンジョンが出来続けるというのも問題ですね」
なるほど、そういう考え方もあるな。ダーククロウが出現するのは今のところ旧型のダンジョンのみ。新熊本第二ダンジョンは人型しか出てこないという話だし、今度あたらしく作るトレジャーダンジョンにサバンナマップがなかった場合はダーククロウの出現もなかったことになる。新しく三つダンジョンが余分に増えることになったからといって、素直に喜べる話ではないだろう。
「とりあえず今限りある資源を有効活用するってところでしょうかね。運のいいことに私の通っているダンジョンも踏破するような話は出ていませんし、その間は商売を続けられそうですね」
「左様ですね。是非旧来のダンジョンもいくつか残していただくか、もしくはもっと大量の羽根が取れるダンジョン……いっその事、ダーククロウしか出てこないダンジョンとかが資源調達用に一つあっても困らないかもしれませんね」
「あはは……そういう考え方もありですか。でも確かに、旧来のダンジョンもいくつか残ってくれないと困りますが、そうなると踏破するよりも足踏みして永遠に残し続けるほうを選択し続けることになるんでしょうね」
別に踏破するかどうかは大きな問題ではない。踏破しても同じダンジョンを作り直してもいいのだ。困るのはAランク探索者が増えすぎることぐらいか。まあ、Aランク探索者になったところで年金が増えるわけでもないし、年金を当てにしなきゃ生きていけないほど収入が少ないわけでもなし。細かいことは気にしなくていい、と言ったところだろう。
こっちとしては小西ダンジョンが無事踏破されない限り商売は続けていける公算になるのでそのルーチンワークだけは心がけていきたいものだな。
「……と、検品の結果ですが、今回も最上級扱いということで後日いつもの金額を振り込ませていただきます。結果のほうはそちらでご確認ください」
「解りました。振り込みが確認され次第こちらもデータで領収書をお送りしますので後はよろしくお願いします」
こっちも無事商売の話が終わった。ダンジョン活動も順調だし布団の詰め物商売も順調。今のところこれと言って障害となるようなものがあるとしたら、次の階層がまだできてないことぐらいだろう。
「では、私はこの辺でお暇いたします。ご商売のほう繁盛されますよう願っております」
「ありがとうございます。また納品のほうよろしくお願いします」
短めに挨拶を交わして帰ることにした。明日も元気にダンジョンに潜るし、今日は思い切り休みを満喫して新しいレシピ開発と味の確認、料理の腕前調査なんかが残っている。思い切り今日を満喫して、明日からのやる気につながっていくように一つ頑張ろう。
とりあえず今日は家に帰って昼食を何か作る。そして夕食のレシピ決めと、空いた時間で新しく立ったであろうスレッドを覗いて初カキコよろしくの雰囲気を味わいに行くかな。
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