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隔絶都市へようこそ!〜【愉しみ屋】天寺享一の喧騒的日常〜  作者: 星太郎
第1話〜First meeting of the troublemaker〜
3/4

第1話①:隔絶都市へようこそ!

 ——人生何があるか分からない。


 俺は今日、そのことを嫌でも思い知ることになる。


 簡単に自己紹介をしておこう。


 俺の名前は、犬神いぬがみ 玄馬げんま。この度この隔絶都市アマイモンに移住してきた18歳男子だ。

 移住してきた理由は、ありきたりって思われるかもしれないけど、地元での生活が退屈だったからだ。


 このままここで職を見つけて、家庭を持って、慎ましく暮らしていくのかって想像したら嫌気が指してきて……

 それでどこか別の場所で暮らしたいって思った矢先に、ネット上に上がっていたこの街のPR声明を聞いたんだ。


 まさに神からの啓示だと思ったね。この街には俺が求めていた刺激やスリルがある!

 だから俺は、親の反対も押し切って一週間この街に移住してきた。手続きは面倒くさかったけど、これからの愉しみを考えていたらすぐだった。


 けど、技能スキルについてはまだよく分かってない。

 なんでも移住してから一ヶ月以内に自分の技能スキルについての情報が入った封筒が届くらしい。それが届いた日から自分の技能スキルは使用可能になるそうだ。

 どんな技能スキルになるか、今から楽しみにしている。


 で、この街に来てからの一週間、俺が何をしてたかと言うと詰まる所、人探しだ。

天寺あまでら 享一きょういち】、それが俺の探してる男の名前だ。そしてこいつはさっき言った街のPR声明をネット上に投稿した張本人だ。



 ————



「なかなか見つからないもんだな。もう五日くらいあちこち聞きまわってるんだけどな……」


 はぁ、と俺はため息をつき、自動販売機で買った缶ジュースを手に、通りを外れた公園のベンチへと腰掛けた。

 この街に来てからはや1週間が経つ、色々と噂は聞くことはできたが、肝心の居場所は分からない。


「人探しよりも仕事探ししなくちゃいけないかもな。財布の中身が寂しくなって来た……」


 開いた財布の中には居心地の悪そうな一枚の一万円札があるだけで、その他のスペースは空っぽだ。

 強引にこの街に越して来た俺は、家族とは軽い絶縁状態、当然仕送りなんてしてくれるわけはなく、俺の生活はかつかつな状態だ。


「やっぱりそう簡単には見つからないか……」


 缶ジュースを飲み干し、ゆっくりとベンチから立ち上がる。


 ——ふと視線を目の前へと向けると、そこには一人の男が立っていた。


 黒いフード付きコートに、下にはブラックグリーンのカーゴパンツを履いたその男は、明らかに俺の目の前に佇んでいる。

身長は俺よりも数cmぐらいは上だろうか、そう思いながら相手の顔を直視した瞬間、俺は思考が一瞬固まる。


「君、犬神 玄馬君だね?風の噂で聞いたんだけど、俺のことを道行く人に聞きまわってるそうじゃないか?」


 どこか通りの良い声で、男は俺の名前を呼ぶ。この声にはなんとなく聞き覚えがある。


「え?」


 少し言葉が詰まる。手に持っていた缶ジュースを落としてしまう。

 間抜けな声が出てしまったと自分でも思うが、仕方がないと思った。


「ふふふ、自分が探していた男が自ら会いに来るとは思いもしなかったかい?俺がそういう人間だってのは他の奴からある程度は聞いてるんだろう?」


 いや、それも少しはあるけど、俺が驚いた理由はそこじゃない。そんなことを思いながらも、少し顔を痙攣らせ、俺は目の前の男へ言葉を紡ぐ。


「あんた……天寺 享一か?」

「おいおい、いきなり質問かい?せっかちだね君。もっと初対面の初々しい会話を愉しもうじゃないか。」


 何がそんなに面白いのか、目の前の男は愉快そうに俺に言葉をどんどんと投げかけて来る。

 いや、正確には愉快そうなのは雰囲気だけで、その真意は全く分からない。


 感情が読み取れないというわけじゃない。ただ、相手の感情を読み取るための材料がその雰囲気以外に無いんだ。

 なぜかって?そりゃ目の前の男がこんなへんてこりんなお面(・・)付けてちゃ、どんな顔してるかも分からないだろ?


「ん?どうしたのかな?急に黙り込んで?」


 首を傾げ、お面をしているのに何故か透き通った声で質問してくる男。

 男が付けているのは、どじょうすくいのネタなんかでよく見るひょっとこの面だ。失礼だけど、とても阿呆らしい。


 俺がそんなことを頭の中で思っているとハッとしたように手を叩き、男がまた話し始める。


「ああ、このお面が気になるのかい?ちょっとね、失礼だとは思ったんだけどこっちも色々と事情があってね。勘弁してくれないかな?」


 どうやら俺がお面を気にしていることに相手も気づいたらしい。けど、気づいただけでどうやら外す気はこれっぽっちも無いようだ。

 なら、少しうざったいけど、俺もお面は気にしないことにして話を続けることにしよう。


「確かに……俺はあんたのことを調べてましたよ。あんたに会いたかったんで。ていうかあんた、噂以上の変人だな。」


 相手の様子を伺うためにわざと皮肉を込めて、俺は少し挑発気味に喋ってみる。


「で、あんたのことを調べていた俺をどうするつもりなんですか?機密保持のために始末する、とか言いませんよね?何でも屋さん?」

「…………」


 我ながら少し芝居くさいと思うが、そんなことは気にせず、どんどんと煽っていく。

 そして相手がどんな反応をするかを待ってみる。


 けれど、次の男の一言で俺は余裕を保てなくなる。


「黒神 玄馬、18歳、身長170cm、体重59kg、誕生日は7月30日、かに座。故郷の高校を卒業後、一週間前にここ隔絶都市アマイモンに移住、37番通りの月一万五千円のアパートで一人暮らしをしている……」


 ぼそりと、周りには聞こえないような小さな声で、男はそう俺に呟いた。


 血の気が引いていくのが分かる。変な汗が止まらない。今俺の顔色は側から見れば真っ青になっていることだろう。


 なんでそんなこと知ってんだよ?

 いつの間に調べてやがった?

 身長と体重まで知ってるとか気持ち悪いだろ。

 アパートの家賃言わなくてもいいだろ。やめろ。


 幾つもの疑問が俺の脳内でぐるぐると渦巻く。

 何か喋ろうと思っても頭の整理が追いつかず、言いたいと思っている事が言葉にならない。

 そんな俺を尻目に、男はまだ呟きを止まない。


「父親の名前は玄八げんぱち、母親の名前は絹枝きぬえ、強引にこの街に来たことが原因で現在は絶縁状態のようだね。見知らぬ土地で仕送りもない生活は辛いだろうに。」

「なんで……そのことを……」


 やっとの思いで言葉に絞り出した俺に対して、「ふふふ」と、愉快そうに笑う男は、俺が落とした缶ジュースを拾い上げ、近くのゴミ箱へとそれを投げ入れる。

 そして見事に缶がゴミ箱に入ったことを確認した後、俺の方に振り向き、さらに続ける。


「俺も、君について色々と調べさせてもらったよ。だから、君が俺のことを調べていた事を咎めはしないよ。お互い様ってことにしておこう。」


 俺の集めた情報に対して、この男が集めた情報では明らかに密度と量に差がある。お互い様とはよく言ったものだ。


「まぁ、ここじゃあ何だし、ゆっくりと話せる場所へ行こうか。そうだね、うちの事務所に来ると良いさ。歓迎するよ。」

「事務所……」


 どう考えたって怪しい。罠じゃないのか?行かない方がいい気が……いや、探していた奴が自分から会いに来たんだ、こんなチャンスは二度とない。


 男の誘いに、俺の脳内はパニックに陥る。この誘いに乗るべきか、断るべきか、凄まじい葛藤が心の中で繰り広げられる。


 いや、覚悟を決めろ俺!ここまで来たら腹をくくるしかねぇ……!自分と自分の強運を信じろ。


 そう自分に言い聞かせ、俺は目の前の変人をキッと見つめる。そして震えそうになる声を必死に抑えながら、あくまでも余裕そうに言葉を返す。


「分かりました。行きましょうか、何でも屋さんのお宅に。」


 俺の返答を聞いて、男は笑った。正確にはお面のせいで表情は分からないが、俺には笑ったように見える。


 そして男はゆっくりと俺に近づくと、値踏みでもするように、じっくりとおれのことを見つめてこう言った。


「いいね。俺のことはある程度調べてる筈だけど、それでも敢えて誘いに乗って来るなんて、ただの馬鹿なのか、変人なのか……君は最高だね。」


 あんたには変人って言われたくない。と俺は思ったが、そんなことを言える状況でもないので、自分の喉奥へと飲み込む。

 お面から覗く二つの双眸に少し臆しながらも、俺は力強くその双眼を見つめ返す。こんなったらとことん張り合ってやる。


「さぁ、どっちでしょうね。俺、もしかしたらあんた以上の変人かも知れませんよ。」

「愉しいね。こういう掛け合いはいつぶりかなぁ。今日びにおいて俺とこうやって面と向かって真っ直ぐに話す奴はあんまりいないからね。」


 何が愉しいのか俺には全く分からないが、男は一人満足そうに頷くと、くるりと踵を返して歩き始める。その背中は俺に「ついておいで」と言っている。


「じゃあ、早速行こうか。実は事務所はこの近くなんだ。あと少しすれば君の方が先に俺に会いに来てたかな?あっそれとここは……」


 てくてくと歩き出した男は、たわいも無い会話を俺の相槌が何も無いにも関わらず、吐き続ける。

 そしてまた「あっそうだ。言い忘れていたよ。」と言って急に立ち止まると、俺の方を見て男は口を開く。


「ここに住む愉快な住民達を代表して、俺が歓迎の言葉を述べさせてもらうよ。」


 ——人生何があるか分からない。


 俺はこのひょっとこの面を被ったこの変人を見て、頭の中でそう思った。

 これが俺の喧騒的日常への一歩。

 そして、天寺 享一という【愉しみ屋】との邂逅の瞬間だった。


「ようこそ隔絶都市アマイモンへ。さぁ、一緒にこの街の喧騒を飽きる事なく愉しもう。」


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