9話
今回は少し長いです
エヴァ達のことをクリフ殿下に任せ、集合場所だと知らされていた場所に急いでいけば、ユリフィア母様にフレア姉様はもちろん、グレン兄様までもいたので、少し焦った。
食べ歩きをしていたと伝えて、途中で寄った肉串を手渡して質問攻めを回避したが、ユリフィア母様には残存魔力の関係か、それとも内面を察せられたのか、何かあったのだろうということはバレていそうだ。
現在私は父の執務室の前にいる。
ノックをすると、端的に入れ、との返事、従って入れば、何か仕事をしていたんだろう、いくつかの書類と向き合って羽ペンを動かしていた。
「ダインか、街の散策は楽しかったか?何かお土産でも買ってきてくれたのかい?」
「アヴィルに買ってきた肉串と果物を渡しておきました、それとは別に、一つ」
その言葉を聞いてペンをおいて、少し顔を固くした父様、何か大事な話だと読み取ってくれたのだろう、普段から表情が変わらないとよく言われているので、声色だとかで察してくれたのだろうか。
あまり他の人に聞かれたくもない、それに使用感に興味もあるので、クリフ殿下の術式を真似して消音の結界を執務室の枠に沿って形成してから、話し出す。
「散策中に襲われている少女と出逢いまして、成り行きで4人の男を撃退するに至りました、ただこの襲われていた少女というのが、リアベル家のご令嬢でした、その後警備隊と共に来たクリフ殿下に引き継ぎましたので、父様の方からご連絡ができるかもしれません」
「………わかった、とりあえず話の内容は理解できた、納得はしたくないが…」
頭を抱え、目頭を指で押さえながら呟く父様、申し訳ない、2日続けての厄介事である、それも私が持ち込んだ。
「どうしてそこでクリフ殿下が出てきたんだ?お忙しい方だろう、それにリアベル家のご令嬢といえば…いや、今はいい、そこは恩を売ることにも繋がらないこともない…ダインの持ち込む問題は悪いことばかりでないのが困りものだな、まともに叱れたためしがない」
「それに関しては、何もいえないですね…クリフ殿下に関しては警備隊に通報する際に、被害者がリアベル家の関係者であるという話をしたので、それなんじゃないでしょうか」
納得したような表情を浮かべてくれるまで説明をする、その甲斐もあってか、どうやら信じてもらえたようで、あまりクリフ殿下にとって不利になることは言わないように気をつけたい、そうすれば、おそらくだが彼もこちらに不利になるような行動はしないでいてくれるだろう。
今回みたいな私が叱られるか叱られないか、程度のことではただただ面白がって、不利になる発言をするかもしれないが…勝手な偏見だろうか。
「はぁ…今日は良しとする、明日は試験だろう、早めに休め、その様子だと魔力も多く使っただろうしな」
「わかりました、迷惑をかけてすいません…失礼します」
そう言って部屋を出て、それ以降特に何もなく、無事に1日を終えることができた、父様は夜まで仕事や、今回のことに関する連絡をしていたようなので、申し訳ない、今度労うか、何かしらのお礼をする必要があると思った。
翌日、いつもの日課を最低限に済ませ、正装へと着替えて朝早くに家を出る。
今日は王立学園の受験試験の日だ、王都へと来た目的の一つであり、これからの人生を少しばかりは左右する事柄でもある、ただ私の場合今日試験に合格しなくとも、2年後にはほぼ必ず入学することが可能なので、あまり気負わなくても良い、というのはラウド兄様の言だ、ちなみにラウド兄様はこの制度を利用して、早くから王立学園に入学していた、謂わば2つの意味での先輩である。
そんなことを考えながら馬車に揺られていると、王立学園のある東区へと辿り着く、王城ともそれなりに近く、屋敷からも馬車を使えば一時間ほどで辿り着くことができる距離だ。
試験会場は分かれているらしく、フレア姉様とグレン兄様とは分かれて、案内を務めているであろう教員の方に先導してもらい、ついていく、メガネをかけた堅物そうな青年、勝手な認識が失礼にあたるかもしれないから顔に出ないようにしよう。
「こちらの会場で試験を行うことになっています、また、私は試験監督を務めるデヴィットと言います、よろしくお願いします」
「丁寧にありがとうございます、ダインです、試験は確か筆記と武闘か魔法の実技を選択形式…でしたよね」
「その通りです、なので貴方はこれから筆記の試験と、魔法の実技試験です」
私の問いに手元の資料を見ることなく答えてみせるデヴィット様、全員の情報を把握しているのだろうか?だとしたらすごいな、夢のないことを言うなら、私を案内する前に確認しただけかもしれないが、それでも仕事はできる方なのだろう。
それから少し廊下を歩いて、筆記試験の会場へと辿り着く、一番下に講義をするであろう教壇、そしてその上に階段状に机と椅子が並んでいる形のようだ。
事前に決められていた席に付き、数分後、全員が揃ったのだろう、試験が開始された。
内容はそこまで難しいものではなく、基本は基礎の問題だけであり、たまに現れる応用や、昨今の大陸の時世などについて問うた問題はそれなりに難しかったが、問題なく解くことができたと思う。
時間が余り、暇潰しに魔力を練ろうとして気づく、魔力が体の外へ紡ぎ出せず、練ることができない、おそらく不正防止のためか、この教室全体に魔力封じの結界がかけられているのだろう。
諦めて、残りの時間は見直しと記述の推敲で時間を潰した。
試験終了のベルが鳴り、同時に壇上に立っていたデヴィット様が声を張る。
「これから実技試験の会場へ向かいます!武闘選択の方は教室後部のローブを着た人に、魔法選択の方は私に着いてきてください」
その言葉によってぞろぞろと席を立ち、場所を移動する。
廊下を歩いている最中、別の教室からも結界の気配を感じる、他の教室でも試験中、もしくはこれから試験なのだろう、部屋と時間を分けるほどなのだから、やはり相当数の人がこの学校を受けているのだろう。
閑話休題、しばらく歩いていると、広大な運動場のような場所に出る、遠くには的や、その代わりになるであろう壁、大きな貯水槽、プールだろうか?いろいろな設備が整っているように見える。
「ここで順番に魔法を放ってもらう、属性や等級はなんでも構わないが、大規模な破壊行為や同じ受験生に危害が及ぶものは、確認した場合即失格と見做します」
その言葉と共に、試験が開始され、的や壁に向かって少年や少女が思い思いの魔法を放つ。
属性の指定がないのな納得だが、等級までも問わないのは意外だ、等級とは簡単にいえば特定の魔法に設定付けられたランクのようなもので、おそらく等級の高いものを使用しても良いとしたのは、その判断力と制御能力を見るためなのだろうか。
そんなふうに考えていると、後ろから近づいてくる何者かがいることに気づく、振り返ってみれば、それはあまり意外な人物ではなかった。
「驚かすつもりでしたか?エヴァ」
「!、バレてたんだ、びっくりしたよ、ダインも受けるんだね、10歳なのに」
「姉と兄と同時に入学できた方が何かと都合がいいですから、それにエヴァと共に通うこともできるかもしれませんしね」
そんなふうに正直な思い、というか事実を伝えると、エヴァは虚を突かれたような顔をした後、顔を赤くして「真っ直ぐだなぁ…」なんて言葉を呟いた。
真面目に、というよりただ単に思ったことを伝えただけなのだが、驚かれたのかもしれない、それにしても真っ直ぐだなんて初めて言われたような気がする、そこまで捻くれているつもりもないのだが。
「ここにいたのかよエヴァ、そっちのそいつ誰だ?」
順番が来るまでエヴァと話していると、後ろから声をかけてくる声がいた。
その方向を見てみると、そこには黒髪の少年が立っていた、口振りからしてエヴァの知り合いだろうか?そう思ってエヴァの顔を見てみると、少し曇っているように感じた、が次の瞬間には笑顔に変わっていた、驚くほどに貼り付けたような笑顔な気がするのは気のせいだろうか。
「…ヴィル、久しぶり、貴方も受ける…って言ってたものね、この子はえっと…ダインって言って、リアベル家の…」
「まぁ別にどうでもいいけどな、お前に関わってる時点で大したやつじゃない、どうせ一緒に落ちるだろ」
そうやってサラッと、人を傷つけるような言葉を発するヴィルと呼ばれた少年。
リアベル家の関係者だろうか?少し違う気がする、しかし今の言葉はいただけない、私は落ちる気はそこまでないのだ、フレア姉様とグレン兄様と同じ学校に通いたいのもある、ただそれ以上にサクラ母様と学校に通う約束をしたのだ、それを破るわけにはいかない。
だからその言葉を受けて、黙っているわけにはいかない、エヴァの強張った顔も、なんとかしてあげたいところではあるし。
「貴方は落ちる気はないんですか?」
「は?そりゃそうだろ、俺はさっき上級の【水鯨】を放ってきたばかりだ、お前にそこまでの芸当ができるのか?」
そう言って自慢げに話す少年、『彼』が言うにはドヤ顔というやつだ、エヴァは悔しそうに左腕を抱いて俯いている、が先ほどから観察はしているがそこまでの魔力の反応も術式も見れていない、おそらくそう思い込んでいるだけのハリボテ、もしくは不完全な魔法なのだろう。
それにおそらく彼が魔法を放った場所は水浸しになっており、そこで次に魔法を放つことになっている子供の邪魔になっていそうだ、おそらく減点という形になるだろう。
「上級の魔法は難しいかもしれません、まずここでは周囲に危害を加えてしまう可能性もありますから」
「ほら見たことか!正妻になれなかったお前の母親も、お前自身も、大したことはできないんだよ、それに関わってるお前もだ、ダインだったか?そいつに擦り寄っても別に利益はないぞ」
エヴァは歯を食いしばって耐えている、家族を馬鹿にされて耐えられるわけがない、苦しそうで悲しそうなエヴァの手を引く。
幸い私がいる場所で、私が知る範囲で自分の家族が馬鹿にされたりした覚えはない、暴言を吐かれたことはつい最近あったが、それもその言葉を放ったエレノアール様に事情があった。
しかし、もしそんなことがあったら、そう考えたら自分の腑が煮え繰り返るような、脳髄が沸騰するようなそんな感覚を覚えてしまう、実際に見聞きしたりなんてしたら、それはもう想像すらできない、そんな状況に今、エヴァは晒されている、勇気付けてやりたいと、そう思うのはなんら不思議なことではないはずだ。
「だ、ダイン?私は大丈夫だよ?それに、まだ会ったばかりで…」
「そろそろ私たちの順番ですから、見せつけましょう、コツがあるんです、技術を示せる、その上派手ですごさが目立つ、そんな方法の」
小声でその内容を伝える、驚いた表情のあと、本当にいいのか?と疑問に思う視線を投げかけてくるが、問題はないだろう、まずこの技術を聞いただけで行えるだけで、それはすごいことというのがまず一つ、次に受験者同士で協力してはならないと言ったルールは聞いていない上に、ほんの少しの会話、助言程度なら推奨されているだろうことから。
現に先ほどのヴィルとやらのエヴァへの声かけ、家族や本人への侮辱は止められていなかった、素行の調査として扱われているのだろうか、それはそれとして止めるべきだとは勝手にだが思ってしまう、あとでクレームを入れておきたいぐらいには我慢がならない。
試験官に指定された場所、一列になって魔法を放つようで、数m先には的となる壁が。
エヴァも2つ隣の場所で魔力を練り上げている、まだ表情は固く、苦しそうに見えるが、これからの魔法で、少しでも気分が晴れてくれることを願う、そのためにも派手にやろう。
「始め!」
デヴィット様の合図に合わせて、昨日もしたように体の底から魔力を湧き上がらせる。
放つ魔法の属性、等級は決まっている、炎属性の初級魔法、あまりにも簡単で普遍的なもの、おそらく人に自身の凄さを見せるには到底相応しくないだろう魔法だが、圧倒するのは質ではない、私のもっとも得意とするもので、周囲の人々をあっと言わせてみせる。
決意を固め、息を吐く、これから自分がすること、誰のためにするか、それにかける思いはどれほどのものか、その全てを言の葉にのせて、放った。
「【火球・百集矢】」
百に及ぶ数の火球と、それに付随する膨大な熱量が大気を圧し、押し出す。
久しぶりに出す本気というのは、中々に心地が良いものだと、その時初めて思った。




