10話
頭上に浮かぶのは精緻な紋様を模ったかのような火球、魔力によって生み出され、現在も操作されているそれは、渦を巻くようにゆっくりと回転しており、その総数は百に及ぶ。
通常、魔法とは一つずつ、もしくは正面切っての戦闘においても最大3つほどの魔法を並列して発動し、戦闘を行う技術、そのため魔法の修練においては速射性、および正確性が求められる、だが私のもっとも得意とすること、それは圧倒的な魔力量によって為される、数の暴力だった。
『彼』による、スパルタ教育だったか、その甲斐かおかげもあって、私の魔力の総量はその昔、王宮で魔法師団の団長をしていたという我が家の顧問を務めるヘリオス翁の魔力総量の半分に相当するのだとか。
基本的に年を重ねるごとに増えていく魔力で、老齢の、それも前線で活躍していた時期もある魔導士のそれと、私の年齢で比べられるほど、というのは数百年ほど生きてきたというヘリオス翁でも初めてのことのようで、大層驚かれたのを覚えている。
そんな大量の火球を一つの的にぶつけてしまうのは、幼少の頃からの魔法の反復練習の成果で速射性、正確性ともに及第点とされ、圧倒的な数の暴力を目標とした修練を始めた自分にとっては造作もないことだ。
ただしそれでは芸がない、簡単に言ってしまえば派手さがない。
なので今回は別の方法を取る、こちらも単純な話で、早い話が総数百に及ぶ火球を全てひとまとめにし、矢として放ってしまおうということだった。
空中の火球達を回転させる速度を徐々に上げていく、中心あたりの火球は生み出された熱気により押された大気とともに圧縮され、渦を巻き始めている。
周囲の視線が集まり、デヴィット様の目も厳しくなっているが、ここで全て制御してしまえば逆に高得点となるだろう、エヴァのための時間も稼げている。
「お、お前、何してるんだ!周囲に危害を加えるなと言われていただろう!」
何やら近づいてくる足音が聞こえてきたと思えば、そんな言葉を投げかけてくるヴィル、おそらく愛称だろうからあまり呼びたくはないのだが。
「そんなヘマはしません、それよりも近いと危ないですよ、喋りかけられれば集中力も切れますし…ところで、貴方名前はなんでしょうか、私はダインと言います」
「なっ…!俺はヴィルヘルム!ヴィルヘルム・ゼムフィス、ゼムフィス侯爵家の次男だ、お前とは立場が違う!」
確かに立場が違うだろう、目上の存在だが、まず跡取りでもない子息同士では家の立場などほとんど蛇足、むしろ良家であればあるほど悪目立ちしてしまい、返って不利益を及ぼすのでは、などと思ってしまうのは、彼への僻みだろうか、私が抱く感情でもないか。
ところで一つ思い出したことがある、リアベル家にはとある公爵家のご令嬢が嫁いだという話を、そしてその後にとある侯爵家がご令嬢を側室として出したのだと、ただ側室として迎え入れてもらえなかったのだとか、そのご令嬢というのがエヴァのお母様で、このヴィルヘルムとやらはその侯爵家の子息…であればあの態度にも納得がいきそうだ。
「そうですか、ではヴィルヘルム殿、貴方は離れて、見ていてください、私の、そしてエヴァの魔法を」
その言葉と共に私とは別の場所で、膨大な魔力の起こりが発生する。
ヴィルヘルムが振り返るのと同時に、私もその方向に目をやる、教本を何度も、何度も見て練習したのだろう、洗練された魔法陣が6つ、円錐型に、先端に近づくにつれて小さくなるよう形作られており、その中心を蒼い炎を纏ったプラズマが揺蕩っていた。
「な、なんだあれ、見たことない色の魔法…?」
疑問を口にするヴィルヘルム、しかしエヴァは集中の末か周囲への意識を極限までカットしているようで、その言葉は届いていない、数秒、沈黙が空間を支配する。
誰もが込められた魔力量に気づいて、エヴァを観察する中、最後の調整が終わった。
円錐のように重なった魔法陣は限界まで引き絞られ、その中に位置するプラズマは押し固められ圧縮されたかのように、球体のような状態でエヴァの手元に鎮座している。
エヴァはそれを見て、満足げに頷いたあと、一度こちらの方を見た、それに頷き返せば、先ほどまで強張っていた表情が少し緩んだ気がする。
「【蒼炎雷】」
小さく、ただ確実に強い意思と魔力が込められた言の葉、それが発せられたと同時に、突き出された右腕。
瞬間、的となる壁、そしてその奥にあった丘や城壁、そして修練場を覆っていた結界すらも、その熱量によって綺麗に壁を貫通し、それによって空いた穴、その縁は理外の熱量によって溶け、ガラス化していた。
周囲がざわつく中、エヴァの凄さも見せつけられたところだし、次は私の番だろう。
火球を回す速度をさらに加速させ、渦心の部分が下へと下がっていく、それを上空に翳した右手の平に収束させ、握り込む。
左手と右手を合わせ、左腕を目の前へと伸ばし、体を横にしたまま右手を顔の後ろへと引く。
左手と右手の間には紅蓮のような、赤と朱が混じった色の炎が矢のようにして携えられている、『彼』に教えてもらった弓道、その「引き分け」と呼ばれる姿勢で、圧縮された炎を構える。
息を吐き、吸う、そして放つ。
的となる壁に一瞬にして到達、着弾した矢は、内側から炎が溢れ出るように爆ぜて、次の瞬間には巨大な火柱が立ち上がって、上空の結界を食い破り、破壊した。
それからは少しばかり大変だった、私の魔法に驚いた人が腰を抜かしたり、怯えたり、エヴァの元に探究心が強い人が、見たこともない魔法を知りたくてか殺到したり、壊してしまった結界の修復に協力したり。
私達の行動のせいで少しばかりのハプニングがありはしたが、無事試験は終えることができた。
騒ぎに対応している間、ヴィルヘルム殿がこちらの方をずっと睨みつけていたが、試験中だったので何か害されることはなかった、エヴァに何かしないといいが、少しは敗北感をうえつけることも…できたはず、エヴァへの扱いもマシになると、願いたいところだ。
10話突破です!
小さな小さな区切りですが、私にとっては結構な進歩だと勝手に思っているので、節目と思って改めて感謝を述べさせていただきます、ここまで読んでいただいてありがとうございます!ここから先もどうかよろしくお願いします!




