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4話

 野次馬と言うのは失礼だが、大きな音がした方向にいけば、ちょっとした人だかりというか、まだ身長の低い私の視界では人の壁ができていた、申し訳ないが足下を潜り抜けるようにして抜けて見ると、何やら1人の令嬢が使用人らしき人を怒鳴りつけているようだ。

 そろそろ開幕が近いのだろう、会場内に点在するテーブルに飲み物を置きに行こうとしていたのだろうが、グラス達は割れ、中身であっただろう質の良さそうなワインはこれまた高級品だろう絨毯に紫色のシミを作っていた。


「この私を退かそうとしたのが間違いなのよ!みんなして私とフェリアを比べて、アレの何がいいのよ!」


 ヒステリックにそう叫んでいる令嬢、どうやらフェリア姉様に対して言いたいことがあるような、というより言ってしまっている、呼び方がどこか親しさも感じるので、ご学友なのだろうか。

 しかしいただけない、もちろん彼女がこんなふうに悪態をついたままでは悪評につながってしまうし、フェリア姉様の悪口を言われてもこれから祝いの席だというのに空気が悪くなってしまう、家族だからこそ言えることだが、フェリア姉様はとても良い人だが、同時に欠点があるのも否定できない人なのも問題だ、どうにかしなきゃいけない。

 幸い斜め後ろを軽く見やれば、私を追いかけてか、それとも騒ぎに気づいてかガルガン父様が近づいてきているのがわかる、そうとなればやることは一つ。


 人混みからさらにまた2歩ほど前に出る、周囲の人の中にはこちらに気づくものもいたが、子供であるため別に何か関わりにこようとするわけでもないため、とても都合がいい、右手を前に出し、魔法で水を生み出す。

 ラウド兄様から魔法は無詠唱で放つのが基本と教えてもらったので、修練した、言葉足らずなところがたまにあるラウド兄様のことだから、おそらく騎士団、ひいては戦闘においては、という前提がつきそうだが、せっかくだし無詠唱で扱えるようになっておいた、その当時は基本となる魔法は覚え、やることがなくなりかけていたのでちょうど良かったのである。

 閑話休題、生み出した水を圧縮し、さらに魔法で創り上げた水を追加していく、それをまた圧縮し、水を生み出して…と続けていれば手のひらサイズの高圧圧縮された水球の完成である。

 これと同時に周囲の部屋、では足りないな、パーティ会場の上空全体に微量ながらに魔力を流し、魔法を発動する準備をしておく、優秀な魔導士の方には気づかれる可能性もあるが、逆に優秀であるから、この程度の魔力では攻撃などはできないとみて何もしないでいてくれるだろう。


「ダイン?何をやってるんだ?というかそれは…会場内で魔法を扱うのは」


「少しだけです、父様、お許しください、そして少しばかりお力をお貸しください」


 父の返答を待つことなく、水の波を操作して空中に留めつつ、上の方へと上昇させておく、この間にも騒ぎを起こしているご令嬢は色々と、表現してはならないような毒を吐いてらっしゃるので、もう少し早くやろう。

 ゆっくりとあげていた水球の速度を少し上げる、操作にかなり意識を食われるが、背に腹は変えられない、シャンデリアの少し下のあたりに水球が到達したところで、上昇を止める、一度息を整え、タイミングを計算してから圧縮していた水球を一度に解放する!

 小さな破裂音、それによって周囲の人間が上を向く、同時に室内に薄く撒かれていた魔力から別種の魔法を発動すれば、細かな水飛沫となった水が冷気を帯びた魔力に触れた瞬間に凍り、結晶化して少し殺伐とし始めていた会場内に降り落ちる、それはまるで小雨のような雪であり、魔照石の光を乱反射して御伽話の光景のような、幻想的な光景を形作っていた。


「これは…魔法か?こんな繊細なもの初めて見たが…」


「王城の中で雪…?とても綺麗…」


 水球の圧縮を解いた時の破裂音、それによって向いて視界をそのままに、降り落ちる雪の結晶達に視界を固定することに成功した、あとは行動に移すだけである。

 先ほどまで騒いでいたが、今は上を見上げ、手に落ちた結晶を眺め困惑している令嬢、そして父様の手を引きつつ、野次馬の群れを抜けて会場の端へと急ぐ、手を取った一瞬何か違和感を感じたが、気のせいと思うほどにすぐに失せた。

 2人とも抵抗らしい抵抗はしなかったが、突然のことに戸惑っているのか一緒に進んでくれることはなかった、ので仕方なく身体強化の魔法を扱うことで無理やり連れていくことにする。


「突然お連れして申し訳ございませんでした、怒り狂ってしまうお気持ちはわかりますが、何卒落ち着いてください」


「怒り狂う!?別にそんなのじゃないわ、貴方なんなのよ!妙な魔法を使ったと思ったら、私を無理矢理引っ張って!」


 本人は否定しているが、怒り狂っているのは事実のようだ、私の隣にいる父様のことが目に入っていないのだろう、私の顔は知らなくて当然だが、父様は金持ちの辺境伯として良い意味でも悪い意味でも有名である、ご令嬢の方は身につけているドレスやアクセサリー類から見てもかなり上のお立場のご令嬢のはず、つまりは父様の顔を知らないわけはない、視野狭窄というやつだ。


「申し遅れました、ダイン・アルフレイブと申します、そしてこちらはアルフレイブ家当主、ガルガン・オーダー・アルフレイブ、貴方の名前をお聞きしてもよろしいでしょうか」


「っ!フェリアの…私はエレノアール、エレノアール・カイゼル、カイゼル公爵家の長女よ、フェリアの弟の貴方がなんの用?」


 なるほど、公爵家の方だったのか、通りで綺麗なドレス、それもうちの製品の中でも最高品質のものを使った代物…少し前にフェリア姉様が屋敷に帰ってきた時、我が家の布を使ったドレスを好んでくれた友人がいると話していた気がする、それが彼女なのだろうか?


「ダイン、どういうつもりなんだ、流石に先ほどから色々とやりすぎだ…」


 小声でそう伝えてくる父様だが、今回は私としても少し予想外だ、エレノアール様はただ悪い人、というわけではなさそうだし…しかし父様の言う通り勝手がすぎるのもまた事実、辺境伯家に明確な線引きがないとは言え、貴族の中でも頂点に位置する公爵家、その一角のご令嬢相手となれば私では3つばかり位が足りない。

 こういう時にやるべきことは決まっている、が、やはり魔法を使ったあとは少し思考のいじが悪くなっている気がする、『彼』の影響なのだろうか?今考えることではないか、こういう場合にするべきこと、というより今の最善策は、丸投げである。


「ガルガン父様が貴女に話がある、と、先ほどの騒ぎについてです」


「なっ…ぐ……はぁ、あぁ、そうだ、流石に先ほどまでの君の行動は目に余る、せっかくの娘の晴れ舞台でもあるからな」


 一瞬どこか痛むような、苦しいような表情をしたのち、少し覚悟を決めたようにしてからエレノアール様の方へと向き直った、この間瞬間1秒弱、我が父ながらとてつもない早業である、この分なら任せても問題ないだろう。

 昔聞いた話だが、元々は文官志望だったと聞いたことがある、腹芸もお手のものだろう、若干私の所業が胃痛の元になってしまっていることは否定できないが、感謝しているし、同時に許してもらいたいとも思っている。


「目に余る…それがどうしたというのです!私は…私は…フェリアに第二王子殿下を…」


「その感情は否定しない、だがエレノアール嬢、フェリアへの侮辱は我がアルフレイブ家への侮辱、ひいては第二王子殿下への侮辱にも繋がる、そのあたりを考えたら振る舞いではなかったと思うがね」


 その言葉と同時に彼女の顔が少し曇る、自分のした行いを思い返したのだろう、やはり突発的な行いではあったようだ、これまでのことから推測するにフェリア姉様との仲も悪くないはずだ。


「エレノアール様」


「な、何よ、貴女だって私のことを責めるのでしょう?わかっているの?わかっているわ、そんなこと」


 そう言って俯き、黒く浅く闇の中へ沈み込んでいってしまいそうなエレノアール様、父様に丸投げしたのち、少し引いていた体を戻し、彼女の方へと近づく。

 しゃがみ込んで俯いてしまっているエレノアール様は視界の辺りだ、ちょうどいい、先ほどのように手を取る、先ほどとは違うように優しく手を取る、困惑しているようだが、まぁ仕方ない、しかし懸念は事実だったようで、エレノアール様の魔力とは別の魔力を体の中から感じる、それを自分の魔力を流して浄化、および破壊する。


 瞬間、力が抜けたのか、立ちあがろうとしていたタイミングで体勢を崩したエレノアール様を私が抱える形となってしまった、もちろんこの身で全てをとはいかないので、身体強化の魔法、そして風の魔法を扱うことで横抱きの状態で会場の隅にある横長のソファに体を預けさせることができた。

 何をしたのか、どういうつもりだったのか、おそらく父様にエレノアール様お二人からご指摘やお叱りがあるだろう、今からでも恐ろしいが、異端審問の如き質問責めを掻い潜るため、今のうちに調べておくのが大事だろう。


「何、を…したの?今何か…」


「おそらくですが何か細工をされていましたね、今は数刻前ほど気持ちも荒ぶっていないでしょう、ゆっくり話してみてください、フェリア姉様への言も今は見逃しましょう」


「なんだか、急に、どうしようもなく悔しくなって…フェリアがいい子だってわかってるのに…嫉妬する私だけが、どんどん強く、なって…」


 感情を増幅させる類の闇魔法は存在する、だが悪感情、それも嫉妬心に絞ったものとなれば、確実にエレノアール様を狙ったものだろう、ここまでの人通りがある会場内で犯人を見つけるのは難しそうだ。

 涙を流しながら罪を、おそらく自分が一番許せないであろう罪を告白するエレノアール様、後ろで父様が大きくため息をつくのが聞こえた気がするが、今は申し訳ないが無視を決め込ませてもらう、失礼します、と伝えてからエレノアール様の涙を拭えば、少し不思議そうな表情でこちらを見る。


「今はまだ難しいかもしれません、ですが少しずつ感情を整理しましょう、そろそろパーティが始まります、挨拶ができるようになったら、姉様に謝りに行きましょう、受け入れてくださるはずです」


「許して、くれるかしら」


「まず今回のことについて姉様は知りませんし、ご友人が正直に告白した罪を許さないほど、狭量な方でもありませんから」


 その言葉に頷く、父様の方を見れば、あとで説教、という文字と同時に、よくやったという文字が書いてあるような、複雑そうな顔をしていた、父様に半分丸投げしたのは申し訳ないが、それがあの時では最善策だったので、仕方がないとはいえ誠心誠意あとで謝罪しよう。

 落ち着いたエレノアール様に手を貸し、ソファから立ち上がらせたところで、楽団の高らかで豊かな音色が会場全体に行き渡る、壇上に国王陛下と王妃殿下が登り、いくつかの口上と祝いの言葉を述べ、飲み物の入ったグラスを掲げた。

パーティが始まる。

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