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3話

 家族の歓談中、3度のノックの後、入室してきたのもまた、家族の1人だった。

 私はあまり会ったことがない長兄のラウド兄様、理由は明白で彼は王都にて騎士をしている、それも近衛騎士団の副団長だとか、父も騎士の位を持っているものの、騎士としての立場はラウド兄様の方が上なのだとか、年若いのにとても優秀なのだろう。

 そんな兄様は日頃から山ほどの書類の束に懊悩しているらしく、家には滅多に帰ってこない、そのため私視点会ったのはこれまでで数度、片手で数えられるかどうかぐらいだったと記憶しているので、6度ぐらいだろうか、いまだに他の家族達と比べると実感は薄いのだが…


「ユリフィア様、それにグレンにフレア、息災そうで何よりです」


「ありがとうラウド、怪我もなく騎士の仕事を真っ当できているようで何よりです、サクラにも伝えておきますね」


 恭しく、悪く言えば少し他人行儀な口調でユリフィア母様に挨拶をするラウド兄様、2人から発せられる和やかな雰囲気から仲が悪いということはないだろうが、どこか敢えて距離をとっているように感じるのは気のせいなのだろうか?

 ちなみにユリフィア母様が名前を出したサクラ、というのは私の母、つまりはラウド兄様の母でもあり、父の正妻でもあるサクラ母様のことだ、ユリフィア母様とは学生の頃からの友人らしく、そこでガルガン父様とも出会ったらしい、母から父との馴れ初めを聞いた時『彼』が何かしらの毒を吐いていたのは覚えているが、当時の自分には慣れない言葉だったのか、よく覚えていない。

 そんなふうに、また1人思考を回していると、そして、と呟いたラウド兄様の視線がこちらに向いたことに気づく、と同時に視界が勢いよく上に上がり、抱き上げられたのだとわかった。


「久しぶりだなダイン!会うのは確か、8度目かな!元気そうで何よりだよ!!」


「お久しぶりですラウド兄様、失礼ながら7度目では?私の記憶違いでしょうか」


 物心つかないうちに会っていたのを入れていた、と言いながら、少し恥ずかしそうにしつつ下ろしてくれる。

 こんなに仲がいい…というよりラウド兄様が私に気を配っていてくれる理由、『彼』が言うには好感度が高い理由だが、文字を覚えた頃から、ラウド兄様、そして父からの提案で文通をするようになったからだ、ちなみに『彼』の知恵を借りて何度か騎士団内の問題の解決の手助けをしたこともあり、たまに近衛騎士団から私宛に贈り物が届けられることがある。

 たまに有用な魔道具(子供が使用しても問題ないもの)や武器(子供が使える訓練用のもの)が混じっていることもあるので、素直に文中で感謝している。


「みんな元気そうで何よりです、フェリアも、とても綺麗だ、おてんばはどこに行ってしまったのかな?」


「ダインにも言われたわ、そんなに変わったように見える?なら大成功ね」


 2人の歳の差は3つしか変わらず、こちらで過ごしている間も度々会っているのだと、ラウド兄様から手紙で教えてもらっていたが、仲が良さそうで何よりだ、こうやって家族で集まって話すことのできる機会というのは少ない、存分に満喫させてもらおう。

 そう思っていたのも束の間、ラウド兄様が1人掛け用の椅子に座り、ガルガン父様がおそらく王国の近況だろうことを聞いていたところで、ノックの後メイドが入ってきた。


「最近の情勢はどうだ、少し気になることがあるとヴァレンシアが手紙で言っていた」


「こちらとしてはなんとも…ただ第一王子派閥の方で気になる動きがあるというのは聞いた覚えがあります、ただそれはいつも通りですし、第二王子派もそのあたりは変わりませんので……どうぞ」


「ご歓談中のところ失礼します、フェリア様、お時間になりましたのでご案内いたします」


 私や家族の気持ちとしては名残惜しい限りだが、フェリア姉様は今回のパーティの主役と言っても過言ではないのだ、仕方のないこともあるだろう。

 ではみんなまた後で、そう言ってフェリア姉様はメイドさんとともに部屋を退出した、このメイドさんもとても所作が綺麗というか、優雅だった、流石に我が家のメイドさんでは負けてしまう気がする、少し悔しい。


「そろそろ私たちも会場に向かった方が良さそうですね、私は警備の仕事もあるので、案内しますよ」


「それは助かるよラウド、みなも準備ができたら向かうとしよう」


 それからしばらくして部屋を出てパーティの会場へと向かうこととなった。

 ちなみにしばらくかかってしまった理由は私なのだが、仕方がないと思う、紅茶は良い香りでお菓子もとても美味しいし、ソファや置かれていたクッションは触り心地が良かった、しばらく満喫したいと思うのは不思議なことではないだろう。

 若干微笑ましそうな顔というか、生暖かい目で見られた気がするが気にしないようにしたい、私が普段は大人びているように見えるからと言って、なんだか年相応な反応をすると決まってそう言った態度を取られるのだ、これに関しては『彼』のせいと言っても過言ではない、恨み言がまた増えた気がするな、言っても通じはしないのだが。


 閑話休題、パーティの会場へと辿り着く、そこは外から見た王城や、廊下と比べても、もはやうるさいほど眩しく感じる、壁の高い位置に設置された魔石の灯に加えて、淡い光を放つ巨大なシャンデリア、そんな光達を貴族の人々がつけたアクセサリーが反射し、さらにその眩しさが暴力のように目に襲ってくる。

 なんとか我慢するように、若干薄目にすることで耐えるが、バレにくいようにした甲斐はなく、フレア姉様にバレた、そんなフレア姉様もそこまで慣れているというわけではないはずなのだが、私の手前我慢しているのだろうか?可愛いところもあるものだが、そこを指摘したらさらに指摘し返してきそうなので、やめることにする。

 会場ではすでに大勢の人々がおり、まだ正式な開場の時刻ではないものの、挨拶回りだったり、仲の良いもの同士やビジネスパートナー同士としてか、それぞれで談笑している声が聞こえる、ラウド兄様は警備の手伝いに、フレア姉様はラウド兄様と同じく騎士志望であるので、話を聞くためにラウド兄様について行った、グレン兄様とユリフィア母様はグレン兄様の学園でのご友人へ挨拶に、消去法で私はガルガン父様と共に挨拶回りをすることになった。


「アルフレイブ卿、お久しぶりですな」


「ドレッド卿!お久しぶりです、北部戦役の時はお世話になりました」


 それにしても、個人的にはここまでの量の魔照石をどうやって管理しているかが気になる、魔石一つずつに魔法を埋め込むこと自体は簡単、魔力が極端に少ない、もしくはその属性との親和性がない場合を除いて誰でもできる技術なのだが、この全てに魔力を供給するわけにはいかない、ふざけた量の魔力量が求められるし、継続することもほぼ不可能だろう。


「いやいや、何を言うか、世話になったのはこちらの方だとも、ところで、そちらの子が噂の近衛の幼き参謀殿かね?」


「恐れ多い名だと思っていますが、そのように言われているのは事実です、ダイン、こちらガイゼル・オーダー・ドレッド伯爵殿だ、3年前の北部戦役では…」


 もしかすると魔法を刻印した魔石全てを連結、連動させて一纏めにし、それを魔力の貯蔵庫となる巨大もしくはより純度の高い魔石に繋げて、起動しているのではないだろうか。

 もしかすると、というよりそれしかないように考えられる、もしかして魔動列車や飛空艇といった代物も同じような仕組みで動いているのではないだろうか…とても気になる、やはりその辺りは聞いてみたいが、魔道具職人への伝手がない…送られてきたものの所在を尋ねる流れでラウド兄様に話をしてみようか…?


「イン…ダイン?大丈夫か?」


「!、すいません父様、思考に夢中になっていました」


「そんなことだろうと思ったよ、こちらドレッド伯爵、3年前の北部戦役の頃に世話になったんだ」


 そう言われて初めて目をやる、そこにはラウド兄様と同じぐらいの身長で、父様よりもがっしりとした筋肉質な体つきをした、立派な顎髭を蓄えた格好の良い御仁がいた。

 しばらく呆気に取られたように見ていたが、慌てて目的と礼儀を思い出す、おそらく父様は私を紹介してくれようとしたのだろうが、それを聞こえることなく思考に夢中になっていたのだ、これ以上の失礼は申し訳ない。


「も、申し遅れました、アルフレイブ家が三男、ダインと申します、猛将とご高名なドレッド卿に出会うことができてとても光栄です」


「こちらこそだとも、幼き参謀殿、馬の飼葉の件ではとても世話になった、近衛騎士団から広まってな、今では騎士団内どころか軍部でも採用されている、おかげで行軍速度が早まった、感謝しているよ」


「恐縮です、ですがあれは私だけの力ではないのです、それに新しい飼葉用の作物の栽培に関してはアルフレッド家の利益にもなりました、参謀という名は私には勿体ないものです」


「そう謙遜するな!他にもいくつか助言をしたと聞いている、そのどれもが貴殿の年齢では考えられないものばかりだ、誇ってもいいくらいだとも」


 そういって彼は私の頭に手を置き、少し無造作に、されど加減を間違えぬように優しく撫でてくれた、子供に対する精一杯のコミュニケーションなのだろうか、不器用なようだが、同時にとても良い人なのだろう。

 過分な渾名ではあるが、この人に認めてもらえたというのなら、名乗るほどではないにしろ、少しだけ参謀の名に甘んじるのも悪くないかもしれない。


「そう仰ってくださると、私も少し自信がつきそうです、過分なお言葉ありがとうございます」


「礼はいいさ、これからも良き助言者となり、騎士団の力となってくれ、ではアルフレイブ卿、此度はおめでとう、また後で挨拶しにくるよ」


「ありがとうございます、ではまた」


 呵呵と笑いながら、去っていくドレッド卿、見た目もさることながら、その雰囲気まで山のようで、どこか安心感のある強さを持った人だった。

 彼のようになりたいものだが、いまだにあまり身長が伸びていない、筋肉も幼い頃につけ過ぎてしまうと成長の妨げになると『彼』やアヴィルに言われたので、運動もほどほどにしている、成長期はまだなのだろうか。

 それからも父は祝いの言葉や賞賛の言葉を何人もの人に挨拶と一緒に投げかけられていて、それと同時に騎士団に関係がある方々からは私にも感謝の言葉をくださった、後半は正直なところ気恥ずかしくなってきていたのだが、なんとか失礼のないように応対できていたと信じたい。


 そんなふうに少し忙しくしていると、ユリフィア母様とグレン兄様が戻ってきた、2人ともとりあえず話しておきたい人と話すことはできたらしく、どこか満足感をたたえたような顔をしていた。

 ラウド兄様やフレア姉様、今回のパーティの主役と言っても過言ではないフェリア姉様はいないけれど、少しばかり家族の時間ができた、しばらく談笑をしようとしたところで、何やら大きな音が鳴った、会場の一部が騒がしい。

 何かトラブルが起きたのかと思い、興味かそれとも別の何かか、私の足は自然とそちらの方へと歩みを進めていた。

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