2話
王都は広大だった。
『彼』が元々住んでいたという街と同じか、それ以上の規模を誇っていた、その上馬車で大通りを進めば、目の前には巨大な城、そしてそこから段々に続く建物や巨大な屋敷が続いている、そのどれもが私が住んでいた屋敷と同じぐらいはありそうだ。
「気が遠くなりそうな大きさですね…」
「ダインは初めてだもんね、緊張もするだろうし、もしかして怖かったり?」
そんなふうにこちらの顔を伺い、少し揶揄うように声をかけてきたのは2番目の姉、次女のフレア姉様、我がアルフレイブ家…というと少し偉そうに感じるが、これは『彼』由来の倫理観なのだろう、『彼』の生きていた場所では貴族などはいなかったようだから。
閑話休題、話を戻せば、アルフレイブ家は3台の馬車を使って王都に来ている。
2台は移動用兼寝室、どちらとも空間魔法と呼ばれる魔法により内部が拡張されており、外観と比べると中は屋敷の部屋2部屋分となっている、父は相当値が張ったと悩んでいたが、仕方のない出費だろう、残りの一台は使用人と少量の荷物用、辺境伯家と言ってもピンからキリらしく、王国に存在する4家の中でも我が家が一番裕福なのだとか、だから3台を使うというのはとても珍しいらしい、もっとも今回の目的のためといえば、家の力を誇示する為にも大事なのだとか。
「ダインくんに至ってそれはないんじゃないかしら?怖がってるところなんて見たことないし」
「残念、珍しく可愛いダインが見れると思ったのに」
少し返答に困っていたところ、フレア姉様を嗜めてくれたのはユリフィア母上、この馬車には私とフレア姉様、そしてユリフィア母上が乗っている、もう一台には父と次兄のグレン兄様が、長兄であるラウド兄様は王宮で騎士として働いているので、向こうで合流するそう。
馬車での移動は4日ほどだったが、まず父が値が張ったというほどの馬車を使ったこともあり、かなり快適に過ごすことができた、それに自分で空間魔法を簡単なものだが覚えたことにより、ある程度の荷物の持ち込みは許された。
ボードゲームなども持ち込んできたので、道中退屈もしなかった、余談だがこのボードゲームも『彼』から聞いたものを再現したものであり、確か人生ゲームだとかなんとか言っていた、人生をゲームにするなんて、と思ったが、なかなかどうして楽しかったので、声を大にはしていないが、それなりに気に入っている。
「さぁ、そろそろ到着ですから、2人とも身支度が済んだか確認しましょう、玩具もしまいましょうね」
「わかりました、ユリフィア母様」
若干ながら名残惜しいが、魔法で作った空間にボードゲームを放り込みながら、服や髪などを整える。
たまにフレア姉様がちょっかいかけようとしてくるが、それを躱しつつ逆にフレア姉様の髪を整える、纏め上げた髪に差し込んだのは簪というそうで、母の地元にあったものを、例に漏れず『彼』の助言をもらって私が作ったもの、鮮やかに染めた絹と布を使って花を模ってみたが、『彼』含めて母やユリフィア母様、フェリア姉様まで羨ましがったものだから、数日の間は花飾り作りに集中していた、細かい作業は好きだったし、魔法の修練にもなったので、今となってはいい思い出である。
王城への入城はもちろん他の貴族の方々も来ているわけで、軽い渋滞のようになっていた、王都についてからもかなり、大通りについてからもそれなりに時間が経って、三時間ほど経ってようやく入城が叶った。
日が落ち始め、世界には陰が落ち始めているが、王城はどこも明るい、我が家もそうだが、魔獣の体内に生成される魔石を利用することで明かりとしているらしい、『彼』が元いた場所でもここまでの光量、物量は存在していなかったらしい、ただ王城はその数が多いのか、少し目が疲れてしまうほどである、眩しい。
「目を細めてどうしたダイン、何か興味深いものでもあったのか?」
「俺の予想ですが、おそらく眩しいのではないかと、ダインは初めてですからね」
そんなやり取りをしているのは父であるガルガン父様、そして次兄のグレン兄様、馬車を降りて一緒に王城に入城したが、2人とも普段はみない正装に着替えており、家族としての贔屓目を踏まえてもかなりの美丈夫、イケメンと言えるだろう。
ちなみに当たり前だがユリフィア母様、フレア姉様も正装であり、鮮やかで美しいドレス姿だ、ユリフィア母様はマーメイドドレスというらしく、身長が平均より高く、スレンダーな体型のユリフィア母様にはとてもよく似合っている、フレア姉様は腰のあたりからふわりと広がったようなドレスをしていて、ユリフィア母様に似て身長も高い上に、剣術を嗜んでいるからか健康的な体が上手い具合に調和しているのだとか、これらは『彼』の総評であり、興奮気味に褒めていた、それを伝えると喜ばれたが、私本人の感想を求められると少し困る。
ドレスよりもユリフィア母様の優しく微笑みかけてくれるような柔らかい笑顔、フレア姉様の溌剌とした元気いっぱいと言った様子の笑顔の方が好きであり、ドレスよりもそっちの方が目立つし好きだと伝えると、喜んではくれたが少し複雑そうな表情をされたものである、こちらとしても正直な感想を言ってこれなので複雑だ。
「アルフレイブ家の皆様ですね、ようこそお越しくださいました、フェリア様がお待ちですので、ご案内します、定刻まではそちらでご歓談のほどを」
入城してしばらくして、王城の執事らしき人がこちらへ声をかけてきた、第二王子の婚約者、その家族ともなればまぁそれなりの立場なのだろう、それとは関係なくフェリア姉様と、私たち家族への気遣いも見えた、なるほど王城の執事というのも優秀だ、アヴィルには負けるが。
私が勝手にアヴィルと広い廊下を先導してくれている彼を競わせて、勝ち誇っている間に部屋へと辿り着く。
「では、ごゆるりと」
そう言って開かれた扉の先は広く豪奢で、青や銀を基調とした調度品が多く置かれた、有り体に言ってセンスの良い、私好みの部屋だった。
部屋の奥のソファには1人の女性が座っており、扉が開かれたのに気付き、こちらを見ると、立ち上がって駆け寄ってくる、ヒールで動き辛いだろうに器用だと感心していると、聞き覚えのあるような声が響く。
「お久しぶりです、お父様、お母様、グレンにフレア、それに…ダインも!」
そんな凛としていて、女性にしては少し低い声、優雅で綺麗な見た目では隠しきれていないと言ってしまえるような、性根の強さ、悪く言えば気の強さ、そして今回の目的を思えば当てはまる人物は1人であり、普通に考えればわかること、というより先ほども言われていたのだが、1人で勝手に思考を回していて失念していた、言い訳をするなら昔と比べると何もかも変わっていたので、少し意識の外だったのだ。
「フェリア姉様…!?」
「そう!フェリア・ウィザー・アルフレイブ、ダインの姉のフェリア!びっくりした?」
昔から気が強く、フレア姉様やグレン兄様も逆らえなかったようなフェリア姉様、『彼』が言うにはガキ大将みたいな…だったか、私には甘かったが、時折父や母に無断で、私が魔法を使えると知ったためか魔法戦をしようと言い、屋敷の外れにある訓練場に連れ出されたこともあったなと思い返す。
まぁ要するに今みたいなお姫様然とした、美しい貴族令嬢という様子は似合わないと直感的に思ってしまうような人なのだ、個人的にはもちろん好きだし、家族に甘いところがあるのでよくしてもらっているのだが、その分今のフェリア姉様と、昔のフェリア姉様が繋がらなかったことが申し訳ないと思ってしまう。
余談だがフェリア姉様の名に入っている『ウィザー』というのは王家に召し抱えられた魔導士に与えられるもの、資格のような役割もあり、つまりはフェリア姉様は優秀な魔導士なのだ、ちなみに父と長兄の2人は騎士の証である『オーダー』の名を戴いている。
「昔のおてんばな様子と比べて、ダインはきっとびっくりしているのよ、ダインにはたくさん迷惑もかけていたしね?」
「昔の話はやめてください母上、ここでは可憐で優美な姫を演じているのですから、ダインも悪くないと思うよね?」
身を屈めて私の視線に合わせて問いかけてくれるフェリア姉様、例に漏れずフェリア姉様も身長が高いため、まだ幼く成長期も来ていない私と目線を合わせるにはかがむ必要があるが、距離の近さとは関係なしに、なんとなくの圧を感じるのは気のせいだろうか…そんなふうにしなくとも私は悪くないどころか、むしろ綺麗だと思っているのだ。
「悪くないだなんてご謙遜を、とてもお綺麗ですフェリア姉様、見違えるほどですよ」
「あら、皮肉?口が達者になったのね、いいことよダイン、これからも精進してね」
くすりと笑いながらそう答えてくれたが、別に私にそのようなつもりはない、皮肉でもなんでもなく思ったことを口にしただけで、もしそれが皮肉と伝わってしまったのなら申し訳なく思うが…そんなふうに拗ねと申し訳なさが混ざった顔をしていたのだろう、フェリア姉様だけでなく父やユリフィア母様、フレア姉様にまで笑われてしまった。
ひとしきり笑われた後、部屋のソファに座り、落ち着いて話すこととなった、王城のものという色眼鏡が入ってしまっている可能性はあるが、ソファは程よく固く、ただ体重を預ければちょうどいい具合に沈み込む、フェリア姉様が淹れてくれたお茶や、専用の台に用意されていたお菓子達もとても美味しかった。
そうしてしばらく談笑していたとき、両開きのドアから3度ノックの音が聞こえてきた、その音を聞いて父がドアを開けると、1人の男性が入ってきた。
「お待たせしました、ラウドです父上、そして婚約おめでとうフェリア」
そう言ったのは軽鎧に身を包み、騎士服を身につけた父よりも背の高い細身の男性、まだ数度しか会ったことのないアルフレイブ家の長兄、ラウド兄様その人だった。




