14話
〜side ダイン・アルフレイブ〜
雰囲気の良い喫茶店。
品のいい紅茶の匂いと、最近異国から取り寄せられたという珈琲の匂い、それぞれ全く違う種類の匂いが複雑に絡まり合った店内、その一番奥の席で私は座っていた、隣にはフレア姉様、そして正面にはセレネ、そしてその隣にエヴァという形で。
「というわけで、友人になったセレネです、エヴァ、フレア姉様、挨拶を」
「というわけでじゃないよ!?王女殿下様じゃないですか!?」
「やっぱり第三王女様だった!私はフレア、よろしくねセレネ!」
驚くエヴァと、素直に挨拶するフレア姉様、それぞれがそれぞれらしい発言で、反応を見たくて少し無茶振りな紹介をしてみた甲斐があったというもの。
ちなみにセレネはいまだに困惑しているようだが、上手く猫を被っているようにも見える、私としては愉快で仕方がない、なおグレン兄様も誘ったのだが断られた。
サクラ母様には友人ができたので、仲良くなるためにも途中で店に寄って行くと伝えて先に帰ってもらったのだが、それと一緒にグレン兄様も帰ってしまった。
その代わりと言ってはなんだが、エヴァと出会った日、本屋で目をつけていた本を私の代わりに買ってきてくれるということで、話がついた、グレン兄様は人との交流をあまり好まない人だが、優しくないわけではないのだ、ただ私達とこうしてお茶をするよりも、サクラ母様と2人きりという方が辛いだろうと、私は勝手に思ってしまう、アヴィルあたりに助けてもらうのだろうか。
「その…ダインくん?私、あまり状況がつかめていないのだけれど…友人に私を紹介してくれたという形で、いいのかな?」
「はい、正確には、友人と姉ですが、セレネは本音を話せる友人は時間をかけて見つけていくタイプでしょう?それではなかなかに勿体無いと思ったのです」
「なっ……これでも私は品行方正で通っているのですが」
驚いたような、困惑した顔を見せたあと、紅茶を一口飲んでから、そんなふうに話すセレネ。
視界の端では、エヴァがどこに置くのかわからない手を動かせず慌てていて、フレア姉様は店員を呼んでケーキを注文している、マイペースすぎやしないだろうか。
「ある程度本音を曝け出せる方が好ましいと思いますよ、人間らしいというか、それに他人とはいえ、身内のようなものではあるので」
「身内…ですか?」
「セレネと私、フレア姉様は義理とはいえ兄弟にあたるでしょう、クリフ殿下にはフェリア姉様がお世話になっています、それにエヴァはうちが懇意にさせてもらっている商会の娘さん、ですし」
「そのぉ、私だけ弱くないかな…」
不安そうなエヴァだが、そんなことないよ!とフレア姉様に慰められて、結構すぐに立ち直っている、2人とも気が合いそうだとは思っていたが、私の人を見る目はあまり間違っていないのかもしれない。
もっともいまだに納得がいっていない様子のセレネではあるが、先ほどよりは態度が軟化しているだろうか?
「………身内だとして、本音を晒して何になると?何か利点があると、ダインくんは思っているの?」
「はい、楽しいですよ、本音で喋れる友人というのは」
「………本当にそれだけみたいなのが、ますますわからない、褒められたことじゃないのは自覚してるけど、私はダインくんに嫉妬していて、聞きようによっては…失礼なことも言ったのに」
どうやら先刻の私への発言を申し訳なく思っている…らしい。
私としてはただただ嬉しかった覚えしかない、彼女の言うように、聞きようによっては私の実力が認められていないことに納得していない、だとか、自分よりも上の人がいるのに、首席として認められていることが許せない、だとか、人のことを気遣えていたり、向上心があったり、まぁ端的に言ってしまえば…
「私としては、あの発言は好ましいものとしか聞こえませんでしたよ、相手を傷つけてしまうようなものは黙っておくべきですが、人を傷つけないような、ただ抑えておくのが難しいだけの本音であれば、話せてしまえる相手がいた方がいいに決まっている。
「半分ぐらいはダインのせいって嘆いてたこともあったけれど、お父様も愚痴を話すぐらいダインは聞き上手なの!」
余計なことを、というような顔でフレア姉様の方を見れば、事実でしょ、とでもいいたげな顔でこちらに笑いかけてくる、だがきっと、友人関係というのはこれぐらいが心地よいのだ、本音を話せなければ、いつか疲れてしまうのだと、昔『彼』が話していたのを思い出す。
「…毒気が抜かれる姉弟ですね、わかりました、それではこれから私達は本音を曝け出し合える友人同士ということで、エヴァさんもそれでいいですか?」
「えっ、私もいいんですか…?な、なるよ!友人!!」
これがエヴァの素なのだろうか、あの時は気丈に振る舞っていたのだと、今ならわかる。
そう思えば信頼されるような、そんな人物だと認めてもらえたのだろうか。
「じゃあもう遠慮なく話すけれど、先生から聞いたよ、ダインくんにエヴァさ…エヴァ、2人とも学園の魔法試射場の結界を破壊したんだって?」
「それ!詳しく聞いてなかった!ダインどういうこと!?あ、ケーキ、ありがとうございます!」
顎の下で両の手を組むようにして、こちらを問い詰めるような雰囲気を醸し出しながら詰問してくるセレネ、どうやら少し吹っ切れてくれたらしい。
エヴァは呼び捨てにされたことに驚きつつも、同時に嬉しそうな表情を隠しきれていない、フレア姉様は店員の方が運んできてくれたケーキを見て目を輝かせ、全員に配ってくれた、どうやら人数分勝手に頼んでいたらしい。
その全てが楽しい、憧れていたような、友人との関係がこの場にあるような、そんな嬉しい気持ちも、私も抑えきれていないのかもしれない。
「隠すことでもありませんから、話しましょう、とは言っても私も昔聞いた話なのですが、空気上に強力な電気魔法と熱をかけて、指向性を持たせることで強力なエネルギーを生み出せるという話が…」
フレア姉様は少し退屈そうに視線を他の方向に飛ばしているが一度簡単に説明をしたエヴァ、探究心も向上心も強いだろうセレネは興味深そうな顔で、相槌を打ちながら聞いてくれる。
そんな事実がやはり嬉しいようで、少し早口になりながらも、似たような会話を日が落ち始めるまで続けた。
〜side ???〜
ダイン達が平和に、至極平和に喫茶店で和気藹々としている中、それを少し離れたところから観察している人間がいた。
初めてできた友人との談笑に夢中になっていたダイン含め、フレアを除いて誰もその存在には気づいていなかったが、直感と言えばいいのか、それとも野生の感というものか、唯一気づいていたフレアの、眼光だけで人を射殺せそうな視線を受けて、その場を後にした。
その男の名はヴィルヘルム、ゼムフィス家の次男であり、セレネの外向きの振り撒いているだけの挨拶を本気にした哀れな少年だ。
「俺が王女殿下と話そうとしていたのに、あのダインとかいうやつは自分から友人にならないかと持ちかけて、無理矢理こんなところへ連れ出して…しかも特別枠、あいつは歳下だろう!?身の程知らずにも程がある!」
ダインの家族の誰かにでも聞かれていれば、即座に首を飛ばされていたか、膨大な魔力に押し潰されていたしたものの、周囲の視界から逃れるため路地裏へと入り込んでいたため、誰にも聞かれずに済んでいた。
少なくとも、彼自身はそう思っている。
「この魔道具だってなんの役にもたたないじゃないか!あんな俺よりも席次が低いやつにまでバレるなんて…」
そう言って瞼を含めた目のような形をした、ネックレス型の魔道具を地面に叩きつける。
それはゼムフィス家の宝物庫から勝手に取り出して、今回持ち出していたもの、入学式の日にそれを使って何をするつもりだったのかはわからないが、それが良いこととは言えないだろう。
そんな乱暴で、粗野な部分が目立つ、普段は隠せていると思っている姿も、誰にも見られていないと、彼だけは思っている。
「荒ぶっているな、少年」
「!?誰だ、お前!」
完全に気を抜いていた少年、その目の前に突然人影が現れた。
白いだけの、表面には何も描かれていない妙な仮面を付けた、シルクハットに黒いマント姿のいかにも怪しい男、人攫いと勘違いされても仕方がない見た目だが、怪しすぎて逆に疑う気も失せるだろう、少なくとも"世界のほぼ全ての人間"がそう思う。
しかし目の前に現れたことへの警戒か、それとも驚きか恐怖か、後ろへと身体強化魔法にものを言わせて飛び退いて、魔法を即座に放てるように構える。
素行や性格は問題しかなかったものの、成績だけで言えばそれなりに上位であるから、流石と言えるところだったが、目の前の男は、その遥か上をいっていた。
「なっ…魔法が、なんだ、おいお前!何をした!!」
「ただの力だとも、シンプルな力だ、少年」
男が手にいつの間にか持っていた杖、その石突でろくに舗装されていない路地裏の地面を叩く、その瞬間ヴィルヘルムの身体を包んでいた魔力も、用意していた魔法も解け、周囲に形のない魔力として霧散していった、もちろん、その後に魔法を形成しようとしても同じ結果になるだけ。
「こんな力が、圧倒的な力が君には必要なはずだ、君はその程度の男じゃない、下に見ている従姉妹や、ましてやそんなやつと仲良くしていた歳下の少年に負けるような、そんな男じゃないだろう?」
「っっ、貴様ッ!!!」
そう言って殴りかかろうとするヴィルヘルム。
が、その拳が男の腹へと当たる寸前、特徴的な聞いたこともない、どこか異国の楽器のような音がした後、振り抜いた拳は空を切った。
そして、背後には男。
「君に力をあげよう、強力な力だ、代わりに仕事を頼みたい、だがそれは今じゃない、その時が来たら協力してもらう、その時までにその力を自分のものにするといい、それは君の力だ」
そう言ってヴィルヘルムの肩を二度叩き、彼が振り返った時には、煙のように、いや、そんな名残や匂いすら残さずに、忽然と消えていた。




