13話
〜side セレネ・セルファルト・ルフレイル〜
私は壇上へと上がる、眼下にはこれまで見たこともないような数の人々。
これから轡を並べて、共に切磋琢磨していく学友が、今は自分の声を待っている、そんな事実に、褒められたものではない感情が胸の奥で燻るようにして湧き上がってくる。
我ながら性根の悪い、どうにかそれを押し留めながら私は話す。
「王国において最高学府とされるここ、王立学校エヴィエルのこの場に、首席として立つことができたことを誇りに、そして同時にとても嬉しく思います」
心にもないことではない、本心ではあるし、同時に王族としては、首席として入学するのが当たり前だとも思っていた、現に上の2人の兄は首席として王立学校に入学していた。
しかし、当然だと思っているからこそ、やはり悔しいのだ、納得ができない、この首席は本来私のものではなかった、本来首席であったはずの少年、2つ年下の彼は現在、どこか心ここに在らずというか、ぼうっとしたような表情で私の話を聞いていた、いやあれは聞いているのか?それすらわからないような、そんな表情をしているのがやはり気に入らない、これはどうしようもない先入観だと、自分自身に言い聞かせて、そのまま言葉を紡ぐ。
「皆さんと一緒に、これから時間をかけて成長していけることを嬉しく思います、末席とは言っても、私は王族の一員です、ですがそんなことは考えず、ただの学友と思って接していただけることを私は望んでいます、ですからどうか、これからよろしくお願いいたします」
その言葉と共に礼をし、話を終える。
席に着き並ぶ生徒、観覧する保護者や学園の関係者達の拍手の音が心地良い、だがこれは私以外が首席であっても与えられるものだ、やはり納得が行かない、私は意固地になりすぎているのだろうか。
それからも式典は続いた、退屈な時間だったが、いまだに心の底の方で燻っている、暗い感情が退屈な間も常に燃え上がらんとしていて、もちろん抑えるようにしていたが、やはりそれは難しいことだ、式典が終われば、教室への移動、そして…
式典が終わり、各教室へと向かう、どうやら私と彼は違うクラスのようだから、少しばかり挨拶をして、話しかけにくる他の生徒を躱して、やっと彼のいる教室へと向かうことができた。
「すいません、ダインくんはいらっしゃいますか?ダイン・アルフレイブくんです」
「え、ええっと…ダインは確か探している人がいるとかで、教室に来た後すぐにどこかに…」
対応してくれたのは金髪の少女、どこかその喋り方からは親しみが込められていることから、もとより知り合いなんだと思う、周囲は何やら騒がしく、銀髪の少女がこちらへ詰め寄ろうとしているのを周囲が止めているようだ、仲が良さそう…?なのは良いことだと、私はそれらを無視して、彼を探しにいくこととする。
それにしても私は彼を探しているというのに、彼は別の人間を探してどこかへ行っていると言うのだから、少し妬いてしまいそうだ。
〜side ダイン・アルフレイブ〜
式典が終わり、教室へ移動してすぐ必要なことを済ませてから、担任であるデヴィット先生、なんと試験官の時もそうだったので、縁があると思ったところ。
彼に許可をとって、学園長室へと向かう、許可は取れないと思っていたものだから、少し拍子抜けだったが、無事に許可を得ることができたので、巨大な学園の廊下を歩く、迷いそうになるが、魔力を追いかければ迷うことはない、というよりこれはわざと残されているような気がしてならないが…
閑話休題、数分、いや数十分だろうか、廊下を歩き続けていると、いつの間にか周囲の景色が、全く別のものへと移り変わっていることに気がつく。
しかし不安や、恐怖はない、この空間に満ちているのは、この空間を形作っているのは、見知った魔力、やはり間違いはなさそうだ、目の前に突然現れた扉を開ける、そこにいたのは1人の女性、先ほど壇上に上がっていた年若い女性、そして老成したような雰囲気をした、彼女、いや、彼なのか?
私が扉を開けたことに今気づいたかのように、振り返って微笑みかけてくる。
「やぁダイン、来ると思っていたよ、ようこそ我が学園、そして我が学長室へ」
「お久しぶりです、ヘリオス翁、いえ、本当はグウェン様の方がいいのでしょうか?」
そう語る彼女、もしくは彼は、数年前まで我が家で家庭教師を勤めていたヘリオス翁、その人の魔力と完全に一致していた。
不意打ちと空間魔法が誰よりも得意だったこの人であれば、魔力を残すだなんてヘマはしないが、私を誘導するつもりであったのなら、やりかねない。
夜空の星々のような瞬きをたたえる紺紫の髪を振り撒きながら、大袈裟な身振りと手振りをして話し出す。
「そんな他人行儀な、先生でいいんだよ、それとも隠していたことを怒ってるのかな?だとしたらごめん、立場的に一つの家に肩入れするのをバレるわけにはいかなかったんだ、だから偽装もしていたんだけど!バレてしまっては、私もまだまだということかな」
「別に怒ってはいませんが…ただ少し驚いただけです、まさか学長がヘリオス…グウェン先生だったとは、魔力に関しては最初気づいてませんでした、でも魔法の癖が同じだったので」
「魔法の癖?私は魔法なんて使った覚えがないんだけどなぁ〜」
そう言って顎に指を当ててとぼける、この人の本当の年齢が200歳は悠に越していることを知っている身としては、少し複雑なような、それでも絵になってしまっているのが悔しいような…そんなことを考えてしまっている時点で、おそらく私はこの人に負けている。
いや一体なんの勝負に負けているんだ…?グウェン様の調子に巻き込まれてしまっているような気がする、昔からこの人に好きにさせていると、大体最後には煙に巻かれて終わってしまうのだ。
「とぼける必要はないですよ、さっきの、というかこれ、貴方の魔法ですよね、グウェン先生」
自分の体の中から、魔力によって保護した魔法陣、それにも満たない魔法式を取り出して、グウェン様に見せる、暗闇の中で輝く星のような色をしたそれは、式典の際の演説の時、その言の葉に乗せられた魔力が創り上げ、編み込まれたもの。
内容は、対象の魔法に対する親和性を上昇させ、成長速度を1.1倍から1.2倍程度にするという地味なものだ。
だがその効果範囲の広さに、多人数への同時付与、そして静謐性、正確性、そして隠密性、その全てが私の技術の遥か上を行っている。
私がこれに気づき、取り出すことができたのはこれがあの場にいた生徒全員に付与された、つまりは普遍的なものであったことが理由であり、少なくとも周囲の人物よりはある程度優秀である自分に合わせられた代物ではないから気付けただけである、自分1人に合わせてこの魔法をかけられていたのであれば、ただこの恩恵に気づかずに享受していたと考えると、恐ろしくさえ思ってしまう。
「ふむ…バレてたか!いやなに、ここまで来るために頑張ったんだ、少しぐらいご褒美があってもいいだろ?もちろん君にもだ、嫌なら解除してくれていい、君ならできるだろう」
「…考えておきます」
「いいことだ、さ、話は終わりかな?なら帰ってくれ、私は忙しい!それに君に用がある子もいるようだしね?」
「…?そう言うなら、わかりました…久しぶりに会えて嬉しかったです、ヘリオス先生」
そう言ってその場を去る、満足気に笑っていたので、及第点には達していたのだろうか。
扉を出れば、そこはごく普通の廊下、数分前まで歩き続けていた廻廊、その入り口に私はいた。
そして、目の前にはつい数刻前、壇上で立派な口上を述べていた、金髪の少女が、突然現れた私に驚いたような表情をして、立っていた。
「貴方…どこから、いや、今はいいか…ダインくん、だよね、私はセレネ、知っていると思うけど、この国の第三王女で、そして、この学校の首席合格者…偽物だけど」
「えっと…話が読めない、んですけれど、一体どういう?」
「…本当は、貴方が首席の成績だと、私は知ったの、でも貴方は特別枠だから首席として入学することはできないって、だから私が首席だって…ふざけてる!私よりも優秀な人がいることに、文句があるわけじゃない!でも、貴方が評価されないのが、そのおかげで私が首席として入学していることが、許せないの」
感情に任せた言葉に、魔力が溢れる。
窓から差し込む朝日のような、美しい光が、少しばかり暗い廊下を花火の如き瞬きで照らす。
彼女はいい人だと、そう思った、そして同時にどうしようもなく人間なのだとも思った。
私に向けられた感情は、嫉妬、焦燥、劣等…そして、ほんの少しの羨望。
そのどれもが人間らしく、どうしようもなく苦く、汚れていて、それが私にとっては好ましく、羨ましいことに思えて。
この少女と私は相容れない、だからこそ…そんなことを思ってしまう、その衝動のままに私は、考えることなく、勝手に行動を始めていた。
「セレネ様、いえ、セレネ、私と友人になりませんか?」
「…は、はい…はい!?」
予想していた反応と違ったのだろう、いや、もはや予想すらしていなかったのかもしれない、先ほどの言葉は衝動に任せたそれであったのだから。
完全な予想外からの言葉だったのだろう、私の提案を聞いて驚く顔は、やはり好ましいと思えた。




