12話
試験が終わってから、しばらく経ち、無事合格したという連絡が来た。
もちろん私だけでなく、フレア姉様とグレン兄様もである、ちなみにフレア姉様は武闘試験の模擬戦において相手となった元騎士団に所属していたという試験官に勝利してしまったらしく、称賛の言葉を贈られたそう。
グレン兄様は筆記の試験において史上3人目の満点を記録したようで、筆記試験後の自己採点では満点だったと、とても珍しいことに家に帰ってきた後、自慢げに話していたのを覚えている。
ちなみに私に関してだが、成績としては首席としての入学だったとのこと。
筆記試験も自分で満足のいく内容だったと思うし、魔法試験も問題を起こしてしまったことに変わりはないが、周囲への危害はなく、的も無事に破壊できていたから、それなりの成績だとは思っていたが、まさか首席レベルとは予想していなかった。
ただ成績としては、というだけであり、首席入学とは行かない、なぜならば私は特別枠としての入学になるので、首席としての枠ではなくその枠として入学することになっているのだ、というわけで首席には別の人物が座るらしい、どんな人なのか気になるところである。
ちなみにフレア姉様は実技試験でほぼ満点という結果だったが、筆記試験がどうしようもなく振るわなかったようで席次は下の方に、グレン兄様は魔法の方もそれなりに得意なので、なんと第三席とのことらしい、そしてエヴァは第四席なのだと、試験の後に交換した文鳥での連絡で知った、めでたいことだ。
ちなみに学園からの手紙を受け取り、私たちに報告してくれたのは父様でもユリフィア母様でもなく、2人と入れ替わるようにして自領から王都の屋敷へとやってきたサクラ母様だった。
皇国では日頃から着られているという着物を私服として、見た目だけでいえば、この国とは違った異国情緒をたたえた良家のご令嬢にしか見えないのだが、その本性?正体は家族の中で誰よりもおてんばである、フェリア姉様やフレア姉様が貴族の子女とは思えないような行動や言動をすることがあるのは、恥ずかしながら母様が原因なのだと、一家の誰もが思っているほど。
運び屋から手紙を受け取った際は走りにくそうな服にも関わらず器用に走り、なんなら一瞬で距離を詰めてきて「合格だって!みんなよく頑張ったね!!!」と発言していた、抱きしめる力が強すぎて、今も少し肩が痛むような気がする、別に照れ隠しなどではない。
「ダインちゃんはほんとうにいいの?今のうちなら首席入学にさせろって圧力かけるぐらいできると思うよ?」
「私としてはあまり目立つのも、特別入学というだけで破格ですし…それとちゃん付けはやめて欲しいと何度も言っていますよね、母様」
「だって女の子みたいに可愛いんだもん!可愛く呼ばないと損じゃない!?」
そう言って大きな声で力説するサクラ母様、その勢いに髪につけられた簪の花飾りが揺れる。
私が髪飾りを作り始めた頃の作品だから、今できるものと比べるとかなり不恰好に見えてしまうので取り替えさせて欲しいと、ちゃんと付けて呼ぶのをやめて欲しいと言うのと同じぐらいの頻度で伝えているのだが、私はこれがいいと言って一度も渡してくれたことはない、大事にしてくれているというのは嬉しいが、ずっと同じものというのも困るので、別の作品を時々渡すなりして、対策をとっている。
「ダインは髪が綺麗だよね、サクラ母様と父様のいいとこ取りみたい!特別なこととかしてないでそれでしょ?やっぱいいなぁ〜」
「フレア姉様の髪の方が私は好きですよ、ユリフィア母様とフェリア姉様もそうですが、銀髪というのはどこでも映えて良いと思います」
「そう〜?ふふ、ダインってば日に日に口が上手くなっていくんだから」
そんなふうに喜びを隠そうともせず、少し赤く染まった頬に手を当てながら剣を振るうフレア姉様。
実は先ほどからサクラ母様とフレア姉様は木剣を使った模擬戦を行っている、どちらとも軽い調子であり、始める前に言っていたがまずは肩慣らしということだが、その時点で目にも止まらないような剣戟をお互いに浴びせ合っている。
ちなみに私は両者から模擬戦を申し込まれたが、今日は試したいことがあったのでそれを断り、代わりに審判を務めることになってしまった次第である、2人に程近い場所で椅子に座り観戦しているので、いつこちらに剣が来ても対応できるように意識を割いている、正直言って辛いが断った手前こればかりは勤め上げたいところだ。
「そういえば、ダインちゃんはさっきから何をしてるの?」
「魔法の研究です、つい最近面白い魔法を見たので、それをどうにか扱えるようになれないかなと」
長く、そして少し後ろに反った片刃の剣、刀というらしいそれの木製の模造品を使って戦うサクラ母様、話しながらもフレア姉様の攻撃を躱し、次の瞬間には地面に髪が触れそうになるほどの低姿勢で肉薄して下から斬りあげる。
もちろんフレア姉様も難なく躱し、飛び上がって空中で一回転するようにして、再び攻勢に移った。
まだ肩慣らしだと言うのだから、本人達にとっては当然の動きなのだろう。
2人の戦いから目を逸らし、手元の暗球に目をやる、そこにあるのはこの間、エヴァと出会った時に自分自身が閉じ込められた魔法、その極小模型だ。
中には普段使いしているような、小さいサイズの魔石を入れて実験をしている、どこまでの魔力で吸収機構を作れるか、その吸収のレベルは、秒間でどれだけの魔力を吸収すれば維持に自身の魔力を使わなくて済むのか、そんな諸々の部分を確かめたいがための実験だ。
結論からいえば問題なく運用することは可能だが、そのためにはそれなりの複雑さを持った魔法陣、そして膨大な魔力量が必要となることがわかった、これでは切り札のような扱い方はともかく、戦闘中に気軽に扱えるような手段にはならない、切り札のような扱い方もその手札を切りたいタイミングで魔力を確保できていなければ意味はない。
「まだ改良の余地がありそうだな…データももう少し欲しいところだし、使い勝手も主観でしかないからなぁ…」
独り言を呟いていると、普段それにすら言葉を返してくるフレア姉様が何も言わないことに気づく、目線を正面に戻せば2人の戦闘は目で追えないほどに激化していた。
慌てて目と脳に魔力を流して強化することで、やっと2人の戦闘を目視することができた、とはいっても、それでも高速の中で行われている戦闘に違いはなく、魔力の流れからして2人とも身体強化の魔法しか扱っていないように見える、それでこれなのだからやはり剣を極めた剣士というのはそれだけ強いのだろう、魔法だけに系統しているようでは勝てない、少し好戦的すぎる思考だろうか。
そんなふうに考えている間でも、サクラ母様とフレア姉様の戦闘は続く、決着は意外とあっけないもので、加速度的に増していったフレア姉様の剣戟を全て完璧にいなした母様が隙をついて、先ほどと同じようで、速度が倍以上に増した低姿勢からの一閃により決着がついた。
もちろん寸止めだが、勢い余ってフレア姉様の髪が数本切れていたのを私は見逃していない、木剣であそこまでのことができるのは我が母ながらおかしいのではないか?時々自分の常識を疑いたくなることがある、エヴァに聞いてみるのも良いかもしれない。
その後水浴びに2人一緒に連行されかけたが、丁重に、それはもう丁重にお断りしておいた。
身体能力では敵わないので、どうにか弁論で納得してもらうしかないのでとても大変なのだ、ちなみにグレン兄様は父様やラウド兄様とすら一緒に入ろうとはしないので、2人も最初から諦めている、私は数度入ったことがあるが、年が近いと良いのだろうか。
それからまたしばらくして、私達は王立学園の入学式へと向かう日となった。
サクラ母様は朝からうるさい、と言っては失礼だが、色々不安だったのだろう、私が上手くやっていけるか、フレア姉様は何か問題を起こさないか、グレン兄様は馴染めるか…など心当たりがあるのが悔しいような心配事をつらつらと挙げていたが、出発の時間が近づくごとに落ち着きを取り戻していき、やがて自分の支度も終えて、出発することができた。
入学式への出席は母様だけだが、その理由は簡単で、ババ抜きというゲームをすることができる、トランプにおいて決めたから。
あまり世間一般には流通していなかったが、『彼』が言うにはババ抜き以外にもさまざまな遊び方があると言っていて、我がアルフレイブ領ではここ数年で定番のゲームとなっていた。
普段は負けっぱなしだった母様だったが、今回ばかりは本気を出したとのことで勝利し、入学式への出席権を手に入れて小躍りしていた、大変和む光景だったものの、父様には負け惜しみとして大の大人がすることじゃないと言われて落ち込んでいたのを思い出す。
「そろそろ着くよ〜、楽しみだね!」
「フレアは緊張してなさそうだ、すごいね…」
いつも通りな様子のフレア姉様と、緊張しているのか若干顔色の悪いグレン兄様、2人らしい様子に少し頬が緩むのを感じた、気づいていないうちに私も緊張していたのかもしれない。
目線を逸らすとサクラ母様と目が合った、なにやら微笑ましいような、大切なものを見るような目と、多分頬が緩んでいた場所を見られたな、油断ならない人だ、おそらく帰った後で話のネタにされる。
それはともかくとして、学園に到着し、入学式が始まる、サクラ母様とは分かれ、私達だけで入る、ちなみに入場や席順は入試の席次通りとなっているので、グレン兄様はかなり前の方だ、フレア姉様は単純な席次の問題で、私は特別枠ということで、少し後ろの方だ。
ぼうっと式典の様子を眺めていると、壇上に上がった人物が目に留まる、どこか目を離せなくて、どこか見覚えがあるような。
「やぁ諸君、私の名前はグウェン、この王立学校の学園長をしている、率直に言って君たちには期待している、王国を、ひいては世界を引っ張っていくような、そんな人物に君たちがなれるよう期待している、そして、同時に応援もしている、よく励んでくれ」
そう声を張るグウェンの言の葉には、力強く、それでいて洗練された魔力が乗せられていた。
魔力と、単純で開きっぱなしのような、それでいて心の底からの本音が込められた言葉はある意味の魔法として、綺麗に並んで座っている新たな芽達に降りかかる。
その魔力を私は知っているような、この魔力に触れたことがあったような、そんな気がしてならない、とすると疑問が残る、どうしてその姿で、どうしてこんな場所に?と。
「続いては首席合格者の言葉とさせてもらおう、セレネ・セルファルト・ルフレイル、前へ」
その言葉と共に壇上へ上がる少女、王女殿下が首席合格者だったか、と、そんな中身のないことを考えていた私は気づいていなかった、後で聞いた話だが、壇上に上がっていく彼女の視線は常に、私の方へ向いていたのだと。




