写真フォルダ
第四十九話 「写真フォルダの一番上」
日曜日。
休日。
私は家でのんびりしていた。
洗濯をして。
掃除をして。
コーヒーを淹れて。
ソファで一息つく。
「……暇」
そう呟いた瞬間。
スマホが震えた。
『暇ですか?』
蓮からだった。
「……」
何で分かるの、この人。
私は少し笑いながら返信する。
『暇』
数秒後。
『俺もです』
『通話します?』
『する』
返信が早かった。
◇
「もしもし」
『もしもし』
聞き慣れた声。
それだけで少し安心する。
「今日は何してたの?」
『掃除してました』
「私も」
『奇遇ですね』
「ね」
何気ない会話。
特別なことは何もない。
でも心地いい。
◇
『そういえば』
「うん」
『紗雪』
「何?」
『スマホの待ち受け何ですか?』
「え?」
急な質問だった。
「普通だけど」
『普通って?』
「猫」
『ああ』
「蓮は?」
少しの沈黙。
『……内緒です』
「怪しい」
『怪しくないです』
「怪しい」
私は確信した。
絶対何かある。
◇
「見せて」
『嫌です』
「何で」
『恥ずかしいので』
「……」
恥ずかしい?
蓮が?
珍しい。
「じゃあ余計気になる」
『見せません』
「見せて」
『駄目です』
子どものような攻防が数分続いた。
結局。
『じゃあ交換条件』
蓮が言った。
「何?」
『写真フォルダ見せてください』
「……」
それは困る。
◇
私の写真フォルダ。
猫。
カフェ。
風景。
そして。
蓮。
「……」
『紗雪?』
「……嫌」
『何でですか』
「恥ずかしい」
『俺も同じです』
「あ」
なるほど。
そういうことか。
◇
「じゃあ」
私は提案する。
「一番上だけ」
『一番最近の写真ですか』
「うん」
『いいですよ』
通話を切らずに、お互いスクリーンショットを送る。
数秒後。
画像が届いた。
「……」
私は固まった。
そこに写っていたのは。
昨日、四人で食事に行った時の私だった。
笑っている。
相沢が何か面白いことを言って。
結城が笑っていて。
その横で私が楽しそうに笑っている。
いつ撮ったのかも分からない。
『……』
蓮が何も言わない。
私も何も言えない。
「……いつ撮ったの」
『昨日』
「知らなかった」
『笑ってたので』
その理由だけだった。
◇
『紗雪のは?』
「……」
私は送る。
観念した。
数秒後。
『……』
今度は蓮が黙った。
「何」
『これ』
「うん」
『いつ撮ったんですか』
「……」
駅前。
待ち合わせの日。
蓮がこちらに気付く前。
少し遠くから撮った一枚。
私だけが知っている写真。
柔らかく笑いながらこちらへ歩いてくる蓮。
「……その」
『うん』
「好きだったから」
『……』
「撮っちゃった」
言ってから恥ずかしくなった。
穴があったら入りたい。
◇
長い沈黙。
「蓮?」
『……』
「もしもし?」
『紗雪』
「何」
『それ』
『反則です』
「また?」
『またです』
少し掠れた声だった。
照れている。
分かりやすい。
◇
『実は』
蓮が小さく笑う。
『俺もあります』
「え?」
『付き合う前』
「……」
『紗雪の写真』
「えっ!?」
思わず立ち上がる。
「いつ!?」
『駅で』
「……」
『本読んでた時』
「……」
あの日だ。
一目惚れした日。
「……」
二人とも。
やっていることは同じだった。
◇
「……」
『……』
沈黙のあと。
二人同時に笑ってしまった。
「何してるんだろうね」
『本当ですね』
「付き合う前から」
『お互い撮ってました』
「犯罪者みたい」
『そこまでは言わないでください』
また笑う。
◇
電話を切ったあと。
私は写真フォルダを開いた。
風景。
猫。
カフェ。
そして。
少しずつ増えていく蓮の写真。
自然な横顔。
笑っている顔。
食事中。
歩いている後ろ姿。
「……」
気付けば。
フォルダの中まで。
恋をしていた。
そしてきっと。
蓮のスマホにも。
同じように私が増えているのだろう。
それを思うと、少しだけ照れくさくて。
少しだけ嬉しかった。




