みんなでご飯
第四十八話 「四人、いや五人?」
土曜日。
約束の日。
私は駅前で深呼吸をしていた。
「緊張する……」
隣では蓮が苦笑している。
「食事するだけですよ」
「その『だけ』が問題なの」
「相沢さんと結城さんがいるだけです」
「その二人が問題なの」
蓮が小さく笑う。
完全に面白がっている。
「大丈夫」
「何を根拠に」
「俺がいます」
「……」
その一言だけで少し安心してしまう。
悔しい。
◇
店へ着くと、すでに二人は来ていた。
「おー!」
相沢が手を振る。
「紗雪さん!」
「こんにちは……」
「こんにちは」
結城も笑顔で会釈する。
「今日はよろしくね」
「よろしくお願いします」
席へ着く。
私は蓮の隣。
向かいに相沢と結城。
この並びだけでアウェー感がすごい。
「さて」
相沢がニヤリと笑う。
「今日は質問大会です」
「帰ります」
「まだ料理も頼んでない!」
即座に立とうとした私を、蓮がそっと袖を引いた。
「紗雪」
「……」
「座って」
「……はい」
反射的に従ってしまう。
「黒瀬さん、すごい」
結城が感心したように呟く。
「瀬名さんを一言で止めた」
「慣れてきたので」
「慣れないでください」
◇
注文も済み、料理を待っていると、相沢が口を開いた。
「そういえばさ」
「はい?」
「高橋さんってどんな人?」
「え?」
予想外の質問だった。
「紗雪さんの親友なんでしょ?」
「そうですけど……」
「会ってみたいな」
結城も頷く。
「私も!」
私は嫌な予感しかしなかった。
「……やめた方がいいです」
「何で?」
「相沢さんと高橋、たぶん同じタイプです」
一瞬、店内が静かになる。
そして。
「「あっ……」」
相沢と結城が同時に納得した。
蓮は額に手を当てる。
「確かに」
「でしょ?」
「その二人を会わせたら」
「たぶん止まりません」
私と蓮の声がぴったり重なった。
◇
「逆に見たくない?」
結城が笑う。
「恋バナ好き同士だよ?」
「絶対盛り上がる」
相沢も乗ってくる。
「紗雪さんと黒瀬の恋愛をネタに」
「それは嫌です」
「満場一致ですね」
蓮まで頷いた。
珍しく二人の意見が完全に一致した。
◇
料理が運ばれてくる。
しばらくは普通に食事を楽しんでいた。
会社の話。
休日の話。
旅行の話。
すると結城がふと聞いた。
「そういえば瀬名さん」
「はい?」
「黒瀬のどこに一目惚れしたの?」
「っ」
私はフォークを落としかけた。
蓮も水を飲む手を止める。
「直球!」
相沢が笑う。
「結城、遠慮ないなぁ」
「だって気になるじゃん」
気になるだろうけど!
私は真っ赤になりながら視線を泳がせた。
「……」
「……」
三人の視線が集まる。
逃げ場がない。
蓮だけは「無理なら答えなくていいですよ」という顔をしていた。
優しい。
でも今さら逃げられない。
「……笑顔」
「え?」
「最初に見た時」
私は小さな声で続ける。
「……笑った顔が、すごく優しかったから」
静かになった。
相沢も。
結城も。
蓮も。
誰も何も言わない。
「……何」
「いや」
結城がニヤッと笑う。
「青春だなぁって」
「またその単語……」
最近、本当によく言われる。
◇
すると今度は相沢が蓮を見た。
「黒瀬」
「はい」
「お前は?」
「え?」
「紗雪さんのどこで『好きだ』って確信した?」
今度は蓮の番だった。
私は少しだけ期待してしまう。
蓮は少し考えてから、ゆっくりと口を開いた。
「最初は」
「うん」
「放っておけない人だな、でした」
私は静かに聞く。
「でも」
蓮が私を見る。
「一緒にいる時間が増えるたびに」
「……」
「笑ってくれる回数が増えて」
「……」
「その笑顔を、もっと見たいと思った時です」
店内がまた静かになる。
数秒後。
相沢が天井を見上げた。
「結城」
「うん」
「俺たち今日いる?」
「いらないね」
「帰る?」
「帰ろうか」
「帰らないでください!」
思わず私がツッコむと、全員が笑い出した。
賑やかな笑い声の中、私は蓮を見る。
目が合う。
照れくさそうに笑う蓮につられて、私も笑った。
――恋をすると、世界は少しだけ騒がしくなる。
でも、その騒がしさは案外悪くなかった。




