ご飯に誘われる
第四十七話 「四人でご飯に行こう」
結城と再会してから数日後。
昼休み。
IT企業の休憩スペース。
「黒瀬」
「はい」
結城がコーヒーを片手に、ニヤニヤしながら近づいてきた。
「瀬名さん、可愛いね」
「……またその話ですか」
「だって面白いんだもん」
同期の数人が「何の話?」という顔をする。
結城は楽しそうに続けた。
「付き合う前に私に嫉妬してたんだって」
「結城」
「ごめんごめん」
全然ごめんと思っていない。
黒瀬はため息をついた。
「本人、あの日かなり恥ずかしそうだったんだから」
「だから面白いの」
「……」
紗雪がここにいなくて本当に良かった。
◇
「でもさ」
結城が少し真面目な顔になる。
「瀬名さんっていい人だよね」
「そうですね」
黒瀬は迷わず頷く。
「最初は大人しくてクールな人なのかと思ったけど」
「はい」
「全然違った」
「どう違いました?」
「恋するとちゃんと可愛い人」
黒瀬は思わず笑った。
その表現が妙にしっくりきたからだ。
「本人には言わないでくださいね」
「何で?」
「照れるので」
「黒瀬が?」
「紗雪が」
「ああ」
納得したように結城が頷く。
◇
その日の夜。
黒瀬と紗雪はいつものように電話をしていた。
『そういえば』
「うん」
『結城が』
「……」
嫌な予感しかしない。
『紗雪のこと可愛いって言ってました』
「……」
私は無言になった。
「何で」
『何ででしょう』
「絶対あの日の話ですよね」
『はい』
「……」
もう会社辞めたい。
◇
『でも』
蓮の声が少し柔らかくなる。
『結城、本当に紗雪のこと気に入ってましたよ』
「……」
『また会いたいって』
「え」
『今度四人でご飯でもどう?って』
四人?
「四人って」
『俺と紗雪と』
『結城と』
『相沢』
「……」
私は静かに天井を見上げた。
何そのメンバー。
絶対賑やかになる。
そして。
絶対いじられる。
◇
「無理」
『即答ですね』
「絶対二人にいじられる」
『それは否定できません』
「蓮も助けてくれなさそう」
『助けますよ』
「本当ですか」
『たぶん』
「“たぶん”って何」
電話越しに笑い声が聞こえる。
最近の蓮は、私をからかうことを覚えてしまった。
良くない傾向である。
◇
『でも』
蓮が少し真面目な声になる。
『相沢も結城も』
『紗雪に会いたいだけですよ』
「……」
『二人とも』
『俺の大事な人に興味があるだけ』
その言い方は反則だ。
「俺の大事な人」。
さらっと言うのに、毎回ちゃんと照れてしまう。
「……ずるい」
『何がですか?』
「そういうこと自然に言うところ」
『本音なので』
「……」
だから困る。
◇
「……分かった」
私は小さく息を吐いた。
「行く」
『本当ですか?』
「でも条件」
『はい』
「蓮」
『うん』
「ちゃんと味方して」
少しの沈黙。
そして。
『もちろん』
『紗雪の味方です』
その返事に、自然と笑みがこぼれる。
「じゃあ安心」
『……』
「蓮?」
『今の”安心”、嬉しいですね』
「……」
またやってしまった。
最近、思ったことがそのまま口に出るようになってきた。
昔の私なら考えられない。
◇
電話を切ったあと、私はソファにもたれた。
高橋。
相沢。
結城。
そして蓮。
気づけば、私の周りには少しずつ人が増えていた。
恋をする前の私は、一人が気楽だと思っていた。
でも今は違う。
好きな人がいて。
友達がいて。
笑い合える時間がある。
少し騒がしくて。
少し恥ずかしくて。
でも、とても心地いい。
来週の食事会がどうなるかは分からない。
ただ一つだけ、確実に言えることがある。
――私はきっと、またたくさんいじられる。




