エスパー高橋
第四十三話 「月曜日の公開処刑」
月曜日。
朝。
私は出社した瞬間に嫌な予感がしていた。
理由は簡単。
昨日、高橋からLINEが来ていたからだ。
『デートどうだった?』
無視した。
『彼氏元気?』
無視した。
『絶対何かあったでしょ』
無視した。
そして今。
高橋がこちらを見ている。
嫌な笑顔で。
「おはよう、瀬名」
「……おはよう」
「土日楽しかった?」
「普通」
「へぇ」
普通じゃない顔をしている。
完全に何か企んでいる顔だ。
私は自席へ向かった。
だが。
高橋もついてくる。
逃げられない。
「で?」
「何が」
「彼氏」
「何が」
「進展」
「ありません」
即答した。
すると高橋がニヤリと笑う。
「名前呼びとか?」
「っ」
私は固まった。
終わった。
何で知ってる。
「その反応」
「……」
「当たりだ」
違う。
いや当たりだけど。
何で分かるんだ。
「高橋」
「ん?」
「エスパー?」
「恋バナ好きなだけ」
最悪だった。
◇
昼休み。
社員食堂。
向かいには当然のように高橋がいる。
「それで?」
「……」
「名前呼びしたの?」
「……」
「したんだ」
「……」
「うわ」
何その反応。
私はうどんを啜る。
逃げたい。
「で?」
「……」
「彼氏の反応は?」
私は黙る。
高橋がじっと見る。
嫌だ。
言いたくない。
でも。
言わないと終わらない。
「……照れてた」
「黒瀬さんが?」
「……」
「マジで?」
高橋が爆笑した。
失礼である。
「いやだって」
「……」
「黒瀬さんって余裕あるタイプじゃん」
「そうだけど」
「その人を照れさせたの?」
「……」
「瀬名やるじゃん」
何か違う。
◇
すると。
高橋がふと真面目な顔になった。
「でもさ」
「?」
「良かったね」
「……何が」
「前まで絶対そんなことしなかったじゃん」
私は少し黙る。
確かに。
昔の私なら無理だった。
名前呼びなんて無理。
タメ口なんてもっと無理。
恥ずかしいし。
怖いし。
距離を縮めること自体が苦手だった。
「変わったよね」
高橋が笑う。
「瀬名」
「……」
「良い意味で」
私は少しだけ視線を逸らした。
照れくさい。
◇
その時。
スマホが震えた。
通知。
蓮さん。
『お昼ちゃんと食べてますか?』
私は思わず笑ってしまった。
『食べてます』
返信。
数秒後。
『偉い』
「……」
何その返事。
私は少しだけ顔を覆った。
すると。
向かいから声。
「彼氏?」
「……」
「彼氏だ」
高橋が確信した顔をする。
「何で分かるの」
「瀬名、今めちゃくちゃ顔柔らかい」
私はスマホを伏せた。
高橋が楽しそうに笑う。
「重症だねぇ」
「……」
「恋する乙女だねぇ」
「高橋」
「ん?」
「黙って」
「無理」
即答だった。
◇
午後。
仕事中。
私はふと思う。
たぶん。
これからも高橋にはいじられる。
名前呼びしたことも。
タメ口になったことも。
蓮さんのことも。
全部。
面白がられる。
でも。
不思議と嫌ではなかった。
高橋は。
私が恋をする前も知っている。
変わっていく過程も見ている。
だから。
こうして笑ってくれるのは。
少しだけ嬉しい。
その時。
社内チャットが届いた。
高橋からだった。
『次は手料理イベント?』
『違う』
『合鍵?』
『違う』
『同棲?』
『飛躍しすぎ』
数秒後。
『でも黒瀬さんなら普通に考えてそう』
「……」
私は返信を打つ手を止めた。
そして。
なぜか少しだけ。
蓮さんの顔を思い浮かべてしまった。
……。
いや。
さすがにまだ早い。
たぶん。




