黒瀬の友達が気になる
第三十七話 「今度は蓮さんの友達が気になる」
きっかけは、本当に何気ない一言だった。
『黒瀬さん、三十分くらい語ってた』
高橋から送られてきたそのLINE。
私はベッドの中で頭を抱えた。
恥ずかしい。
めちゃくちゃ恥ずかしい。
でも。
同時に思った。
「……そういえば」
私は高橋を知っている。
蓮さんも知っている。
でも。
私は蓮さんの友達を誰一人知らない。
「……」
何かずるくない?
いや別にずるくはない。
でも。
知りたい。
好きな人がどんな友達と付き合っているのか。
どんな学生時代を過ごしていたのか。
そういうのが気になってしまう。
◇
翌日の帰り。
私は少しだけ緊張しながら切り出した。
「蓮さん」
「はい」
「聞きたいことがあります」
「改まってますね」
電車の中。
蓮さんが少し笑う。
私は数秒迷ったあと、言った。
「……蓮さんの友達ってどんな人なんですか」
一瞬。
蓮さんが目を丸くした。
「友達?」
「はい」
「急にどうしたんですか」
「……気になったので」
正直に言う。
すると。
蓮さんが少しだけ考え込んだ。
「そういえば紹介してないですね」
「してないです」
「確かに」
その反応。
完全に忘れてたな。
「会ってみます?」
「え」
話が早い。
私は瞬きを繰り返した。
「いや、そんな簡単に」
「大丈夫ですよ」
「……」
「多分面白がられますけど」
「嫌な予感しかしない」
◇
そして翌週の土曜日。
私はめちゃくちゃ緊張していた。
「帰りたい」
「また言ってますね」
蓮さんが笑う。
デジャヴ。
高橋と会った時も同じことを言った気がする。
「だって」
「大丈夫です」
「その大丈夫が信用できないんです」
すると。
蓮さんが少しだけ肩を揺らした。
絶対笑ってる。
待ち合わせ場所はカフェ。
数分後。
「あれ?」
男性の声。
振り向く。
「お、いたいた」
現れたのは、蓮さんより少し背が高い男性だった。
雰囲気は明るい。
人懐っこそう。
「久しぶり」
「どうも」
蓮さんが軽く手を挙げる。
そして。
その男性の視線が私へ向いた。
「え」
「?」
「マジで彼女?」
「何その反応」
蓮さんが即ツッコミを入れた。
すると男性が笑う。
「いやだって、お前だぞ?」
「失礼だな」
「大学時代“恋愛めんどくさい”とか言ってた奴が?」
「……」
私は思わず蓮さんを見る。
蓮さん。
視線逸らした。
「本当だったんですか」
「昔の話です」
「へぇ〜」
面白い。
初めて知らない蓮さんの話が出てきた。
「初めまして」
男性が笑顔で手を差し出す。
「俺、相沢」
相沢 拓海
「蓮とは大学からの付き合い」
「瀬名紗雪です」
挨拶を返す。
すると。
相沢さんがしみじみ頷いた。
「なるほどなぁ」
「何がですか」
「蓮が落ちるタイプ分かった」
「相沢」
「ごめんごめん」
全然反省してない。
◇
席へ座る。
そして。
私はすぐ理解した。
この人。
高橋と同類だ。
「紗雪さん」
「はい」
「蓮、家でどんな感じ?」
「何聞いてるんですか」
「気になるじゃん」
相沢さんが笑う。
蓮さんが呆れた顔をしている。
でも。
なんだか新鮮だった。
私の知らない蓮さんを知っている人。
「昔の蓮さんってどんな人だったんですか」
思い切って聞いてみる。
すると。
相沢さんが即答した。
「真面目」
「はい」
「面倒見いい」
「はい」
「あと意外と世話焼き」
「……」
それは今もだ。
風邪引いた時とか特に。
「それから」
相沢さんがニヤッと笑う。
「好きな人にはめちゃくちゃ甘いタイプ」
「相沢」
「事実だろ?」
私は思わず吹き出した。
蓮さんが珍しく困った顔をしている。
ちょっと可愛い。
「でも安心したよ」
相沢さんがふと真面目な顔になる。
「蓮、本当に幸せそうだから」
「……」
一瞬。
空気が静かになる。
「今まで彼女できても長続きしなかったし」
「え?」
私は思わず反応した。
蓮さんが小さく額を押さえる。
「あ」
相沢さん。
やったな。
「……彼女いたことあるんですか」
私が聞く。
蓮さんがため息を吐く。
「ありますよ」
「……」
知ってた。
知ってたけど。
実際聞くと何か違う。
「嫉妬してる?」
相沢さん。
余計なことを言う。
「してません」
「してる顔だ」
「してません」
絶対してる。
自分でも分かる。
すると。
隣から小さなため息。
「紗雪」
「……はい」
「帰りにちゃんと話します」
「……」
何その言い方。
安心するじゃん。
私は少しだけ視線を逸らした。
すると。
相沢さんがニヤニヤしながら呟く。
「うわ、両想いだ」
「黙ってください」
私と蓮さんの声が綺麗に重なった。




