彼氏と友達が仲良くなった
第三十六話 「彼氏と友達が意外と仲良くなってしまった」
高橋と蓮さんを引き合わせた日から、一週間後。
私は非常に困惑していた。
「……何で?」
昼休み。
社員食堂。
向かいの高橋がスマホを見ながら笑っている。
「いや、黒瀬さん面白いわ」
「何で連絡先交換してるの」
「流れ」
「どんな流れ」
「普通の流れ」
絶対違う。
絶対普通じゃない。
あの日の別れ際。
高橋が「また機会あったらご飯でも〜」とか言っていたのは覚えている。
社交辞令だと思っていた。
まさか本当に連絡先交換していたとは。
「瀬名」
「……何」
「彼氏、思ったより天然だね」
「……分かる」
普段しっかりしてるのに、たまに変なところでズレてる。
そこも好きなんだけど。
いや今はそれじゃない。
「何話してるの」
「別に普通」
高橋がスマホを見せてくる。
そこには。
『紗雪、最近ちゃんと昼食べてますか?』
という蓮さんのメッセージ。
「……」
その下。
『食べてるよ。昨日は珍しくデザートも食べてた』
高橋。
さらに。
『安心しました』
蓮さん。
「何してるの?」
「観察日記?」
私は頭を抱えた。
◇
その日の帰り。
ホーム。
いつもの場所。
いつもの時間。
隣には蓮さん。
「蓮さん」
「はい」
「高橋と何してるんですか」
「何がですか」
「連絡先交換してましたよね」
「ああ」
あっさり認めた。
「普通に連絡してます」
「何で」
「紗雪の話」
「何で」
大事なことなので二回聞いた。
すると。
蓮さんが少しだけ笑う。
「友達からしか分からない紗雪がいるので」
「……」
嫌な予感。
「例えば?」
「高校時代の話とか」
「やめてください」
「あと入社当初の話」
「やめてください」
「初めて高橋さんと仲良くなった時の話」
「本当にやめてください」
全部恥ずかしい。
私は頭を抱えた。
すると。
蓮さんが少し楽しそうに言う。
「可愛かったですよ」
「何がですか」
「友達できて嬉しそうだった紗雪」
「……」
高橋。
余計なことを。
◇
電車へ乗る。
座席は埋まっていたので立つ。
自然と近くなる距離。
「でも」
蓮さんが少し真面目な声になる。
「会ってよかったです」
「……高橋に?」
「はい」
私は目を瞬かせた。
すると。
蓮さんは少しだけ視線を下げる。
「紗雪が一人じゃなかったって分かったので」
「……え」
「昔の話聞いてると、結構無理してたでしょう」
胸が少しだけ詰まる。
確かに。
昔の私は、人との距離感が苦手だった。
頼るのも苦手。
甘えるのも苦手。
だから。
高橋みたいな友達ができたのは、本当に大きかった。
「高橋さん、紗雪のことちゃんと見てくれてるので」
「……」
「感謝してます」
その言葉を聞いた瞬間。
なんだか妙に嬉しくなった。
蓮さんは。
私だけじゃなくて。
私の周りの大切な人も大事にしようとしてくれている。
「……」
「どうしました?」
「いや」
少し迷ってから言う。
「やっぱり好きだなって」
「っ」
今度は蓮さんが固まった。
珍しい。
「……紗雪」
「はい」
「最近、不意打ち多くないですか」
「そうですか?」
「そうです」
耳が少し赤い。
私は思わず笑ってしまった。
すると。
蓮さんが小さくため息を吐く。
「好きですよ」
「……」
「かなり」
結局返ってくる。
しかも毎回真っ直ぐ。
ずるい。
でも。
それが嬉しかった。
◇
その夜。
スマホが鳴る。
高橋からだった。
『今日彼氏と話した』
『何を』
『瀬名の可愛いところ』
『帰れ』
即返信。
数秒後。
『黒瀬さん、三十分くらい語ってた』
私は静かにスマホを伏せた。
そして。
ベッドへ顔を埋めながら思った。
——今度、本気で二人を問い詰めよう。




