最近の瀬名
第三十四話 「瀬名が恋してる顔をするようになった」(高橋視点)
最近の瀬名は、分かりやすい。
いや。
本人は隠してるつもりなんだろうけど。
全然隠せてない。
「……」
昼休み。
社員食堂。
向かいでスマホ見ながら顔赤くしてる時点で、もう答え合わせなんだよなぁと思う。
「瀬名」
「……何」
「彼氏?」
「っ」
反応が早い。
分かりやすすぎる。
「……違う」
「今の間で否定は無理あるって」
瀬名が無言でうどんを啜る。
耳赤い。
昔の瀬名なら、恋愛の話なんかここまで顔に出さなかった。
というか。
そもそも恋愛に興味なさそうだった。
『一目惚れとか見た目だけでしょ』
『恋愛って疲れそう』
『一人の方が楽じゃない?』
それが昔の瀬名。
仕事して。
淡々として。
休憩中も本読んでるようなタイプ。
美人なのに近寄りがたい。
典型的な“陰キャ美人”。
でも。
今は違う。
「……またニヤけてる」
「ニヤけてない」
「いや今した」
「してない」
否定しながらスマホ隠すの、もうテンプレである。
たぶん彼氏からLINE来たんだろう。
最近ずっとこんな感じだ。
通知一つで顔柔らかくなる。
前より笑う。
表情増えた。
なんなら、ちょっと甘えるようになった。
この前なんか。
『……会いたいってどうやって言えばいいと思う?』
とか真顔で相談された。
最初聞き間違いかと思った。
瀬名が?
“会いたい”?
あの“人に依存したくない”とか言ってた瀬名が?
恋って怖。
「高橋」
「ん?」
「……そんなに変わった?」
瀬名が少し不安そうに聞いてくる。
私は少し考えたあと、素直に答えた。
「変わったよ」
「……悪い意味で?」
「逆」
瀬名が目を瞬かせる。
「前よりずっと柔らかくなった」
「……」
「なんか今、“ちゃんと幸せなんだな”って分かる」
その瞬間。
瀬名が少しだけ黙った。
たぶん、自覚あるんだろう。
実際。
今の瀬名は、前よりずっと幸せそうだ。
もちろん元々いい子だった。
優しいし。
真面目だし。
ただ、ずっとどこか壁があった。
“どうせ期待しても無駄”みたいな。
人と距離を詰める前に、自分から下がる感じ。
でも今は違う。
ちゃんと誰かを好きになって。
ちゃんと好きって返されて。
少しずつ、“頼っても大丈夫”を覚えてる。
それが見てて分かる。
「……彼氏、優しい人なんだね」
私が言うと。
瀬名は少しだけ照れたあと、小さく笑った。
「……優しい」
その顔。
うわ。
本当に好きなんだ。
私は思わず吹き出した。
「何」
「いや瀬名、恋してる顔するようになったなって」
「っ」
「前まで“恋愛とか非効率”みたいな顔してたのに」
「そんな顔してない」
「してた」
瀬名が不満そうに睨んでくる。
でも全然怖くない。
むしろ最近の瀬名、拗ね方までちょっと可愛い。
重症である。
「でもさ」
「……何」
「彼氏、絶対瀬名のことめちゃくちゃ好きでしょ」
「……」
沈黙。
そのあと。
瀬名が、ほんの少しだけ口元を緩めた。
「……うん」
即答ではなかった。
でも。
その返事には、ちゃんと信頼が乗っていた。
前の瀬名なら、多分こういう時、“知らない”って誤魔化してた。
でも今は違う。
“愛されてる”を、ちゃんと受け取れるようになってる。
それがなんか、友達として嬉しかった。
「……よかったじゃん」
「……うん」
瀬名が少し照れながら笑う。
その顔を見ながら、私は思う。
恋愛って、人変えるんだなぁって。
しかも結構、いい方向に。




