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会いたい 黒瀬視点

第二十九話 「“会いたい”の一言で一週間頑張れる」(黒瀬視点)


 『……会いたいです』


 そのLINEを見た瞬間。


 正直、数秒固まった。


「……は?」


 仕事帰り。


 コンビニで飲み物を選んでいた手が止まる。


 今、瀬名が。


 瀬名から。


 “会いたい”って言った?


「……」


 ダメだ。


 顔が緩む。


 完全に。


 俺は片手で口元を覆いながら、深く息を吐いた。


 破壊力が高すぎる。


 普段あんなに遠慮する人が。


 “重くないかな”って絶対悩むタイプの人が。


 勇気出して送ってきたのが分かるから、余計に刺さる。


「……可愛い」


 思わず呟いた。


 レジ横で。


 完全に不審者である。


 ◇


 帰宅後。


 電話越しの瀬名は、予想通りめちゃくちゃ照れていた。


『……だって会いたかったので』


 その一言で、普通に理性が死にかけた。


 何なんだろうこの人。


 本人は多分、自分の言葉の威力を分かってない。


 不意打ちで真っ直ぐなことを言う。


 しかも全部本音だから、余計に強い。


『……お互い様ですね』


 少し笑う声。


 最近、瀬名は前よりちゃんと感情を言葉にしてくれる。


 嬉しい。


 寂しい。


 会いたい。


 好き。


 どれも最初は、ものすごく勇気が必要そうだった。


 でも今は、照れながらでもちゃんと伝えてくれる。


 その変化が、たまらなく愛しかった。


「……」


 通話が終わったあと、俺はソファへ倒れ込んだ。


 静かな部屋。


 でも胸の奥だけ、妙に騒がしい。


 ここ最近ずっとそうだ。


 瀬名のことで感情が動きすぎる。


 朝、眠そうな顔見るだけで嬉しいし。


 手を繋ぐだけで落ち着くし。


 “好きです”って言われた日は、一日ずっと機嫌よかった。


 かなり重症。


 スマホを見る。


 トーク画面。


 少し前まで、ここにこんな相手ができるなんて想像もしてなかった。


 昔の俺は、恋愛にそこまで興味がなかった。


 一人が楽だったし。


 仕事して、本読んで、休日は適当に過ごして。


 それで十分だった。


 でも今は違う。


 瀬名に会いたい。


 声聞きたい。


 今日何してたんだろうとか考える。


 完全に生活の中心へ入り込んでる。


「……はぁ」


 小さく息を吐く。


 その時。


 通知。


『……電話ありがとうございました』


 瀬名だった。


 さらに続く。


『ちょっと恥ずかしかったですけど』


『でもちゃんと言えてよかったです』


「…………」


 ダメだ。


 可愛すぎる。


 俺はソファへ顔を埋めた。


 何これ。


 付き合って一ヶ月経つのに、未だに新鮮に好きになる。


 しかも本人、自覚薄い。


 危険。


 かなり危険。


 俺は少し考えてから返信した。


『俺も嬉しかったです』


『また会いたくなりました』


 送信。


 数秒後、既読。


 返信は少し遅かった。


 多分また照れてる。


 想像できてしまう。


 そして案の定。


『……今日電話したばっかりなのに?』


 文章だけで照れてるの分かる。


 俺は小さく笑った。


『好きな人なので』


 送信。


 数秒。


 既読。


 そのあと。


『……ずるい』


 その四文字を見た瞬間、思わず声が漏れた。


「可愛い……」


 終わってる。


 完全に惚れきってる。


 でも仕方ない。


 瀬名は、自分が思ってるよりずっと可愛いから。


 そして多分。


 これから先も俺は、あの人の一言で簡単に幸せになる。

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