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会社での黒瀬

第二十六話 「黒瀬、会社でめちゃくちゃいじられる」


「黒瀬さぁ」


「……はい」


「最近、顔柔らかくない?」


 月曜朝。


 会議前。


 俺はコーヒーを飲みながら、盛大に面倒な絡まれ方をしていた。


 相手は営業部の先輩——この前、瀬名と一緒にいるところを目撃した人だ。


「別に普通ですよ」


「いや絶対違う」


「そうですか?」


「彼女できてから分かりやすすぎるんだよなぁ」


「……」


 否定できないのが悔しい。


 最近、自分でも分かる。


 機嫌がいい。


 というか、瀬名関連で感情が動きすぎる。


 朝LINE来るだけで嬉しいし。


 “好きです”って言われた日は一日ずっと浮かれてたし。


 風邪引いた時に頼られたのも普通に嬉しかった。


 重症である。


「で?」


 先輩がニヤニヤしながら身を乗り出してくる。


「どこまで行ったの?」


「何がですか」


「恋愛進捗」


「言い方やめてください」


「キスした?」


「…………」


「うわしたんだ」


「……」


 やってしまった。


 黙ったせいで肯定になった。


 先輩が爆笑する。


「黒瀬が!? へぇ!? ちゃんと恋愛してるじゃん!」


「俺を何だと思ってるんですか」


「感情薄いイケメン」


「雑」


 だが。


 社内での俺の印象がそんな感じなのは知っている。


 恋愛興味なさそう。


 冷静。


 淡白。


 ……実際、今まではそうだった。


 でも。


 瀬名と付き合ってから、かなり崩れた。


「彼女さん、どんな子なの?」


「……普通の人です」


「絶対嘘。黒瀬がそんな顔になる相手だよ?」


「どんな顔ですか」


「“好きでたまらないです”って顔」


「…………」


 図星すぎて黙る。


 先輩がさらに笑う。


「うわ、図星じゃん」


「うるさいです」


 その時。


「黒瀬さん」


 別の声。


 振り返る。


 後輩の佐倉だった。


「会議資料できました」


「ああ、ありがとうございます」


 資料を受け取る。


 すると佐倉がじーっとこちらを見る。


「……?」


「黒瀬さん最近、雰囲気変わりましたよね」


「お前も言う?」


 先輩が横から笑う。


 佐倉はうんうん頷いた。


「なんか前より優しい感じというか」


「前から優しいですけど?」


「自分で言う?」


「いや事実では」


「でも最近さらに柔らかいですよ」


 そんなに変わってるんだろうか。


 自覚はあまりない。


 ただ。


 瀬名のこと考えてる時間は増えた。


 この前、熱下がったかなとか。


 ちゃんとご飯食べてるかなとか。


 今日も無理してないかなとか。


 気づくと考えている。


「彼女さん関係ですか?」


 佐倉がさらっと言う。


「っ」


 先輩が吹き出した。


「直球〜」


「いやだって分かりやすいですし」


「そんなに?」


「そんなにです」


 佐倉が断言する。


 マジか。


 俺そんな漏れてる?


「ちなみにどんな人なんですか?」


「……」


 少し考える。


 そして自然に口から出た。


「不器用な人です」


「へぇ」


「恋愛慣れてなくて、すぐ照れて」


「うわ好きじゃん」


「好きですね」


 即答だった。


 先輩と佐倉が一瞬止まる。


「……黒瀬、変わったなぁ」


 先輩がしみじみ言う。


「そんなですか」


「前のお前、恋愛話とか“面倒じゃないですか?”って顔してたぞ」


「……まぁ」


 否定できない。


 実際、昔は恋愛にそこまで興味がなかった。


 一人の方が楽だった。


 でも今は違う。


 瀬名と一緒にいる時間が、普通に好きだ。


 朝会えるだけで嬉しいし。


 LINE一つで機嫌良くなるし。


 “好き”って言われるたび未だに心臓が跳ねる。


 かなり重症。


「でもいいじゃん」


 先輩が笑う。


「幸せそうで」


「……」


 その言葉に、少しだけ考える。


 幸せ。


 昔の自分なら、あまり実感のない単語だった。


 でも今は。


「……まぁ、はい」


 普通に頷けた。


 すると先輩がニヤッと笑う。


「うわ認めた」


「珍しい〜」


 うるさい。


 でも。


 否定する気にはなれなかった。


 だって実際、かなり幸せなので。

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