防御不可の"好き"
第二十五話 「弱ってる時の“好き”は、防御力を貫通する」
目が覚めた時、部屋は少し暗くなっていた。
「……ん」
ぼんやりする頭。
毛布の温かさ。
それから。
近くで聞こえる、ページをめくる音。
「……」
ゆっくり目を開ける。
ソファ。
隣。
黒瀬さん。
本を読んでいた。
「……っ」
瞬間、記憶が戻る。
風邪。
看病。
頭撫でられた。
その辺りで意識が飛んだ。
私は数秒固まったあと、小さく呟いた。
「……まだいたんですか」
黒瀬さんがこちらを見る。
「あ、起きた」
「……何時ですか」
「六時くらい」
「え」
寝すぎた。
私は慌てて起き上がろうとして、ふらつく。
「わ」
「危ない」
すぐ支えられた。
肩へ回る腕。
近い。
顔が近い。
「……」
「……」
熱のせいだけじゃない熱さが、一気に上がる。
「まだ寝てた方がいいですね」
「……平気です」
「説得力ゼロです」
そのまま額に手を当てられる。
「朝よりは下がったかな」
「……」
「瀬名さん?」
「だから急に触るのダメですって……」
黒瀬さんが吹き出す。
「慣れないですねぇ」
「無理です……」
でも。
その手が気持ちいいと思ってる自分もいる。
悔しい。
「お腹空きました?」
「……少し」
「雑炊作ります」
「え」
「冷蔵庫借りますね」
「……」
自然すぎる。
彼氏ってこんな感じなんだろうか。
私はぼんやりその背中を見つめた。
キッチンに立つ黒瀬さん。
慣れた動き。
袖をまくる仕草。
なんかもう。
普通に一緒に暮らしてる人みたいで、変にドキドキする。
「……」
「また見てます?」
「……見ますよ」
「なんで」
「好きな人なので」
最近、自分でも驚くくらい素直だ。
熱のせいかもしれない。
だが。
黒瀬さんは数秒止まったあと、困ったみたいに笑った。
「弱ってる時、火力上がりますよね」
「自覚ないです」
「危ないので気をつけてください」
「お互い様では……」
少し笑い合う。
その空気が心地よかった。
しばらくして。
「はい、どうぞ」
「……ありがとうございます」
湯気の立つ雑炊。
一口食べる。
「……美味しい」
「よかった」
黒瀬さんが安心したように笑う。
その顔を見てると、胸の奥がじんわり温かくなった。
「……黒瀬さん」
「はい」
「なんでそんな優しいんですか」
ぽろっと出た言葉だった。
すると。
黒瀬さんは少しだけ目を細める。
「優しくしたいからです」
「……」
「瀬名さんには」
反則。
私はスプーンを持ったまま固まった。
すると黒瀬さんが、小さく笑う。
「なんでそんな顔するんですか」
「……今、心臓に悪かったので」
「また?」
「毎回です」
でも。
嫌じゃない。
むしろ、嬉しい。
こんな風に大事にされたこと、たぶん今までなかったから。
食べ終わる頃には、身体も少し軽くなっていた。
「薬飲んだら、また寝てください」
「……はい」
「ちゃんと寝るまで見てます」
「監視みたいな言い方」
「信用がないので」
「そんなにですか」
「この前も夜更かしして風邪引いたじゃないですか」
「……」
何も言い返せない。
私は毛布へ潜り込みながら、小さく息を吐いた。
「……黒瀬さん」
「はい」
「今日来てくれて、嬉しかったです」
静かな声で言う。
少し恥ずかしかったけど、ちゃんと伝えたかった。
すると。
黒瀬さんは、驚くくらい優しい顔で笑った。
「俺も」
「……え」
「頼ってもらえて嬉しかったです」
「っ……」
ダメだ。
弱ってる時にその顔は。
破壊力が高い。
私は毛布を顔まで引き上げた。
すると。
その上から、ぽん、と優しく頭を撫でられる。
「おやすみなさい」
「……子供扱い」
「今日は病人扱いです」
「違いあるんですか」
「あります」
黒瀬さんが笑う。
私はその声を聞きながら、ゆっくり目を閉じた。
——昔の私は、一人の方が楽だと思ってた。
でも今は。
こうやって隣にいてくれる人がいることを、幸せだと思ってしまっている。
7話と8話を修正しました。
見返してみると面白いですね笑。




