告白って…
第十二話 「告白って、もっとちゃんとした空気でするものだと思ってた」
「……すみません」
黒瀬さんが水を一口飲みながら言った。
「変なタイミングで」
「……」
私はまだ固まっていた。
だって。
『好きな人相手だと、普通に緊張しますよ』
それを言われた数秒前まで、“いい感じかも”くらいだったのに。
急に現実味を帯びてきた。
好きな人。
それ、私?
本当に?
「……瀬名さん?」
「っ、はい」
「戻ってきました?」
「半分くらい……」
正直まだ脳が追いついていない。
黒瀬さんは少し困ったように笑った。
「なんか、ごめんなさい。勢いで言っちゃって」
「……勢いなんですか」
「いや、嘘ではないです」
「っ」
また心臓。
今日ずっと酷使されてる。
料理が運ばれてくる。
いいタイミングなのか悪いタイミングなのか分からない。
店員さんが去ったあと、私はフォークを持ったまま呟いた。
「……ずるい」
「え」
「黒瀬さん、距離詰めるのうますぎます」
「そんなことないですよ」
「あります」
私は俯いたまま続ける。
「普通、もっと段階ありません?」
「段階?」
「こう……徐々に、とか」
「徐々にやってるつもりだったんですけど」
「これで?」
「これでも」
ダメだ。
会話のテンポが自然すぎて、余計に調子が狂う。
私はオムライスを一口食べた。
「……美味しい」
「よかった」
「黒瀬さんは?」
「美味しいです」
「小学生みたいな感想」
「瀬名さんもですよ」
少し笑う。
でも、笑った瞬間また思い出してしまう。
好きな人。
その単語が頭から離れない。
すると黒瀬さんが、不意に真面目な顔になった。
「……瀬名さん」
「はい」
「俺、結構前から気になってました」
胸が跳ねる。
「最初、すごい怖そうな人いるなって思って」
「それ本当に失礼ですよね」
「でも毎日会ってるうちに、なんか放っておけなくなって」
「……」
「話してみたら、思ったよりちゃんと笑うし」
「“ちゃんと笑う”って何なんですか」
「最初マジで無表情だったので」
「……否定はできません」
黒瀬さんが小さく笑う。
そのあと、少しだけ視線を落として言った。
「あと、多分ですけど」
「?」
「瀬名さん、不器用だけど優しいですよね」
「……」
言葉に詰まる。
そんな風に言われたこと、あまりなかった。
私は昔から愛想がないと言われる。
冷たそう。
話しかけづらい。
怖い。
大体そう。
でも黒瀬さんは、ちゃんと中を見ようとしてくれてる。
その事実が、胸の奥をじんわり熱くした。
「……黒瀬さん」
「はい」
「私、恋愛とかよく分かんなくて」
「うん」
「一目惚れとか、今まで馬鹿にしてたし」
「……あー」
「見た目だけじゃんって思ってました」
私はフォークを置き、小さく息を吐く。
「でも」
視線を上げる。
黒瀬さんと目が合う。
「黒瀬さん見つけると嬉しいし」
「……」
「会えないと、ちょっと寂しいし」
「……はい」
「他の女の人と話してるとモヤモヤするし」
黒瀬さんが少しだけ目を丸くした。
たぶん結城さんのことを思い出したんだろう。
「だから、その」
恥ずかしい。
死ぬほど恥ずかしい。
でも、逃げたくなかった。
「……多分、私も好きです」
言った。
言ってしまった。
終わった。
私は即座に顔を伏せた。
熱い。
顔が熱い。
今ならたぶん茹で卵作れる。
沈黙。
数秒。
でもその沈黙がやけに長く感じる。
やばい。
もしかして重かった?
気まずくなった?
その時。
「……多分?」
「っ」
顔を上げる。
黒瀬さんが笑っていた。
「そこはまだ保険かけるんですね」
「うるさいです……」
「ふはっ」
珍しく声を出して笑う。
そして。
「でもよかった」
黒瀬さんは、すごく安心したみたいに言った。
「俺だけじゃなかった」
「……」
その顔を見た瞬間。
胸の奥が、ぎゅっと締め付けられる。
好きだ。
本当に。
ちゃんと。
私は小さく呟いた。
「……黒瀬さん」
「はい」
「これって、付き合う感じですか……?」
聞いてから恥ずかしくなる。
確認するな。
ムードを壊すな。
だが黒瀬さんは少し笑ったあと、優しく頷いた。
「俺は、そのつもりでした」
「……」
「瀬名さんが嫌じゃなければ」
私は数秒黙ったあと。
「……嫌じゃないです」
そう答えた。
黒瀬さんが、ふっと笑う。
その笑顔を見ながら、私は思う。
一目惚れなんて、見た目だけだと思ってた。
でも違った。
きっかけは一瞬でも。
好きになる理由は、そのあといくらでも増えていくんだ。
——たぶん私は今、人生で一番ちゃんと恋をしている。
(続く)




