14 クラスマッチ⑥「よし、勝ちにいこうぜっ」
「おい、昨日のソフバの再生数、やばいことになってるぞ!」
「わかるー!すごかったもんね。」
クラスマッチ2日目の朝。
1日目は予選やトーナメントの1、2回戦が行われた。得点も順位も、まだ先が読めない。
「捨て種目」のパフォーマンスも1日目に集中するから、2日目朝の教室はパフォーマンスの講評と、番狂わせの話題で持ちきりとなる。
B組の捨て種目、ソフトバレーはコスプレで登場した。
それ自体は珍しくないが、問題はその完成度だ。
メイクもウィッグも本気で、噂は一気に広がり、体育館が満員になるほどだった。
一方、番狂わせの話題はあまり出ない。
我がB組が自信を持ってチーム編成した男子400mリレーが、予選でバトンを落とすという致命的なミスで敗退してしまったためだ。
もっとも、そうした目論見外れは他のクラスにも起こっていて、C組も同じく男子400mリレーの予選で三年生チームに敗れていた。
リレーは予選で1位になって決勝レースに進まないと得点にならないから、毎年番狂わせが起こりやすい種目なのだ。
それ以外の競技はほぼ順当で、優琉と俺のミニサッカーも、亜希のバスケも、1、2回戦を突破して準決勝に進出していた。
今日2日目は、午前中に球技系種目の準決勝、午後に各種目の決勝戦と最後の駅伝が行われる。
「みんな、聞いてくれ!」
教壇でクラスマッチ委員の優琉が声を張り上げると、教室内のざわつきは一瞬でおさまった。
「競技順だけはしっかり見ておいてくれよ。目安の時間は書いてあるけど、早まる場合もあるからな。」
限られたグラウンドと体育館でスケジュールが組まれている。
今年の実行委員会は、グラウンドの最終種目を男子ミニサッカーに、体育館の最終種目を女子バスケに割り当てていた。
「応援に行けないけど、二人ともしっかりやんなさいよ。」
と、朝の電車で亜希に激励された。
「そんなこと言って、準決勝で負けるなよ。」
トーナメント表は昨日の朝、抽選で決められた。
亜希の女子バスケは、準決勝で二年D組と対戦することになっている。バスケ部一人のほかも運動部のメンバーで構成された強敵だ。
「あんたたちこそ頑張らないと負けるわよ?」
俺たちミニサッカーの準決勝の相手は三年B組。サッカー部で優琉の先輩のエースストライカーがいるチームだから侮れない。
ま、頑張るのは優琉であって、俺は五分だけ出場してゴール前で肉の壁になるのが仕事だ。
クラスマッチ委員からの簡単な諸注意が終わると、チームごとに分かれて教室を出る。
俺たちはまず、二年C組対三年C組の準決勝を観戦する。決勝で当たるチームを見て対策を考えつつ、自分たちの試合の作戦が伝達される。
もちろん、チーム唯一のサッカー部員である優琉が、作戦を立てて、チームに伝えてくれる、というわけだ。
「準決勝は昨日と同じ。キーパーは井出。ゴール前の肉壁は最初が市川、途中から悠生、後半は香取な。」
「「おう、わかった」」
ゴールはフットサル用の小さなものを使うから、俺たち肉壁係の役割は、1m程度の横移動で相手のシュート範囲を少し狭めることと、ボールを蹴り当てられる痛みに耐えることだけだ。
ゴールキーパーを任された井出湊は、バレー部のリベロ。サッカー経験こそないものの、向かってくるボールへの反応は素晴らしい。
「井出、昨日も言ったけど、シュートは取らなくていい、弾くだけでいいからな。」
「まかせとけって。」
バレーボールにはボールをキャッチするというシーンがないから、井出は相手のシュートを捕らず、弾くことに専念する。弾かれたボールはディフェンダーが追いかけ、前線にいる優琉に供給する。優琉がドリブルで攻めこみ、シュートを決める。
乱暴だが、クラスマッチでは相手チームにもサッカー部が一人しかいないからそれで充分らしい。
二年C組対三年C組の試合が始まった。
15分ハーフの前後半で、同点の場合はじゃんけんで勝敗を決するという、学校行事ならではのルールで行われる。
この試合の見どころは、各所で部活の先輩後輩対決が行われる、という点だ。
特に野球部、柔道部は力関係に勝る先輩が後輩からボールを奪い取る、というより後輩が譲るようなシーンが何度かあって、観客が沸いた。
ゲーム的には、サッカー部で次期エースと目されるフォワードの二年生と、正ゴールキーパーの三年生との一騎打ち、という様相で、両チーム無得点でハーフタイムを迎えることになった。
「優琉、どっちが勝つと思う?」
誰かが聞くと、優琉は、
「わからないな、典型的な矛盾対決だから。じゃんけん決着もあり得る。」
と解説する。それから続けて、
「俺的には二年生が勝ってくれた方が戦いやすいけど、決勝進出すると最低でも4点入るからな。」
クラスマッチでは優勝に6点、準優勝に4点、ベスト4の2チームに2点が加算される。
正ゴールキーパー擁する三年C組が勝ち上がって、そこに俺たちが勝つと、二年C組との間に4点の差をつけられる。
試合は後半も膠着したが、ゴール前の混戦から二年生ストライカーがボールを捻じこみ、1-0のスコアで二年C組の勝利に終わった。
「よし、俺たちには優勝以外の道はなくなった。気合入れていくぞっ!」
優琉の声に、全員が「おー!」と応じ、俺たちはグラウンドに出て行った。
俺たち二年B組と三年B組との準決勝は、妙な熱気の中で始まった。
知らなかったのだが、サッカー部三年のエース、千葉郁哉先輩は御代田高校の王子様的な存在で、女子からの人気がすごいらしい。
千葉先輩にボールが渡るたび、黄色い歓声が沸き起こった。
「うちのクラスの女子もいるぜ」
同じく控えでベンチにいる香取晴輝が耳打ちしてくる。
たしかに、同じクラスの女子数人が千葉先輩に声援を送っていた。
「個人に声援を送ることとチームを応援することは違うんだからいいんじゃないか?」
そう答えておいたが、香取は、
「いーや、こういうのは士気に関わる。」
と不満そうだ。
しかし、勝負は拍子抜けするほどあっさり決着した。
部活ではミッドフィルダーをやっている優琉のドリブル突破力とキックの正確性は素人目にもわかる高レベルなもので、前半15分で2点を取り、後半は守りに徹して2-0での勝利となった。
(あいつ、あんなに上手かったか。)
中学時代の優琉より、数段技術が向上している。
(高校の部活ってすごいよなあ。)
あたり前のことに感心しながら、俺は優琉とハイタッチを交わし、チームメイトと決勝進出を喜び合った。
ちなみに、俺は予定通り前半10分から出場。
千葉先輩の強烈なシュートが太腿に当たって悶絶しかけたことを除けば、ちゃんと役割をこなせた、と思う。
昼休みの教室に戻ると、午前中の競技結果を受けて朝よりも賑やかに盛り上がっていた。
「ソフバはC組が一年に負けたってよ。」
「女子のリレーは三年C組がすごいんだって。」
「サッカーとバスケはさすがの貫録勝ちだったな。」
ライバルとなる二年のB、C、D組の得点状況はほぼ互角らしい。
「D組はサッカーで0点だったけど、男子400mリレーでの6点は固いよね。」
「卓球も女子はD組の子が強いんだって。」
「バスケでD組に勝ったのはでかいよな。」
亜希のバスケチームは、接戦で二年生対決を制していた。
遅れて教室に戻ってきた亜希と目が合うと、Vサインを送ってきたから、拍手の手真似を返しておいた。
教室では俺や優琉を特別扱いすることは滅多にないから、亜希なりに嬉しかったのだろう。
三琴は駅伝チームのメンバーとの打ち合わせに、真剣な表情で参加していた。
駅伝の出走順は昼休み直後に提出するから、最終的な確認をしているようだ。
優琉やサッカーチームの面々と一緒に、自作の弁当を食べ終わり、一息ついていると、優琉が急に、
「決勝戦は戦法を変えるぞ。」
と言い出した。準決勝の戦い方はしっかり機能していたし、優琉の活躍には目を瞠るものがあったから意外に思っていると、
「まず、悠生。お前、フル出場な。」
と続けた。
「フル出場って、もしかして最初から最後まで出るってことか?」
「あたり前だろ、そういう意味だよ。」
「いや、約束が違うだろ。」
「約束?なんだそれ。」
「俺は補欠で五分だけって約束したじゃねえか。」
「いや、してない。ともかく先発してもらう。」
学食のA定食で買収したことは言えないから、とりあえずは従うことにする。
「ま、使えなかったら交代だから頑張れ。」
その後、優琉はメンバーのポジションとそれぞれの役割を説明して、最後に、
「悠生は俺の右側、2mのところにいてもらう。俺が動いたらくっついて走る、っていう役だ。」
「優琉に俺がついていけるわけないだろ。」
「大丈夫、だって俺はドリブルしながら走るけど、お前はただ走るだけなんだから。」
「うーん、まあやってみるけどさ。」
「で、俺が悠生にパスしたら、ともかく俺に返せ。それだけだ。」
「えーと、壁パスみたいな感じか?」
「みたいじゃなくて、壁パスだ。たぶん、俺へのマークがこれまでの試合よりキツくなるから、相手に対するおとり役になってもらうのが半分、相手の防御ラインを崩す目的が半分だ。」
「それはわかったけど、なんで俺?」
「悠生にしたのには理由が三つある。一つは気心が知れていて、コンタクトが取りやすい。二つめは悠生ならこき使っても俺の気が傷まない。三つめは俺がおいしいところを全部もらっても文句言わない。以上だ。」
メンバー全員に笑いが起こって、一人だけ苦笑している俺を置き去りに、その作戦が認められた。
「ゴールは井出に任せっきりになるけど頼むな。」
「ああ、だけどC組の風間ってサッカー部のフォワードなんだろ?大丈夫かな。」
「大丈夫だよ、あいつのことはよくわかってる。サッカー部のフォワードなんていいセンタリングが来なきゃ大したことないんだよ。」
まるでいつもの活躍は自分のおかげ、と言わんばかりだが、優琉らしいといえば優琉らしい。
「よし、勝ちにいこうぜっ」
「「おー!」」
そうして昼休みが終わり、いよいよ各種目の決勝戦が行われる午後を迎える。




