8 新たな特殊スキルの獲得
20分ぶりの百道浜ダンジョン。先ほどと同じようにダンジョンに進入すると、目の前には奥へと続く長い通路が伸びていた。ダンジョンの構造は入る度に変わるという事実を実感しつつ、スマホのマッピングアプリを起動する。マッピングが開始されるのを確認すると、次にステータスカードを呼び出す。つい先ほど見たばかりだが、確かに『あじゃすとうぉーく』と書かれている。
このスキルが一体どういう効果を持つのか想像してみる。
「そのまま読めば、歩行調整か。なんだろう、歩き方をいい感じにしたり、足音でも消せたりするんだろうか。でもそんな効果のスキルがあるなんて聞いたことないしなあ」
そもそも、スキルとは大きく4つに分類される。攻撃スキル、防御スキル、パッシブスキル、そして変化スキルである。二階堂が使った『大一閃』は攻撃スキルであり、ステータスの追加攻撃力以上の威力を生み出せる。防御スキルはその逆で追加防御力以上の守りの力を発揮したり、珍しいところではパリィのような攻撃を無力化できるスキルもある。パッシブスキルはダンジョン内で常に一定の追加ステータスを得ることができ、変化スキルは制限こそあるものの、パッシブスキル以上の追加ステータスを得られたりデバフ効果を持つようなものもある。つまりスキルとは、攻撃、防御、バフデバフに関係するのが基本なのである。『あじゃすとうぉーく』は名前から推察するに、それらとは全く系統の異なるスキルの可能性もありそうだ。それに一般的なスキルはネットで調べればどういった効果を持つのかすぐにわかる。そしてネットで調べて分かるということは、生粋のダンジョンオタクである俺も知っているということだ。
だからこそ、全く聞いたことのない『あじゃすとうぉーく』というスキルは実際に試してみないと何もわからないというわけだ。世に出ていないスキルならば、誰かが効果を隠したがるほど有用なものであり、ダンジョン攻略をより一層加速させてくれるかもしれない。
「とりあえず歩いてみるか。普段と何か違いがあればそれが効果っていうことだろうし。さすがにこの名前で歩くときに何も起こらないとは思えないしな」
とはいえ憶測だけで考えても埒が明かないので、行動を起こしつつ『あじゃすとうぉーく』について調べるのが良いだろう。時間がかかってもいいので歩き回りつつ、ダンジョン攻略を進めていくことにした。
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「なんもわからん!歩き方が変わるわけでもないし、いったいどういう効果なんだ?」
それから2時間ほど経過した。ダンジョン攻略は順調に進み、気づけば3階層へとつながる階段前に到着した。その間、『あじゃすとうぉーく』の効果を実感することはできなかった。少し一息を入れるため、セーフゾーンに腰を下ろし、ステータスカードを確認する。
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なまえ:小野寺太郎丸おのでらたろうまる
とし:16
しゅ:ひと
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ついかこうげきりょく:46(+5)
ついかぼうぎょりょく:41(+5)
まなりょう:25(+6)
ついかいどうそくど:28(+4)
ついかまほうこうげきりょく:19(+6)
ついかまほうぼうぎょりょく:58(+7)
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あじゃすとうぉーく
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さいだいだんじょんれべる:2
だんじょんこうりゃくりれき:『ももちはまだんじょん(1):2かい』
『ももちはまだんじょん(1):4かい』
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道中魔物も倒しているおかげかステータスの伸びも順調だ。やはり初めのほうはステータスがぐんぐん伸びるのは見ていて気持ちいい。ただ、他のスキルはまだ増えていないので、何かしら早く発現してほしいところである。
「よし、じゃあいくか」
軽い休憩を終え、3階層へと進む。前回は幸運によりすぐに4階層のボス戦へと進めたが、今回はそうもいかないだろうと腹をくくり歩き出す。
「ん?マッチラットか」
すると3階層に来て早々、視界の端にマッチラットが映ったので、距離を取りつつ大金槌を構える。ラッチマットの炎攻撃は一度きりとはいえ、皮の鎧を着ている自分からすれば万一の可能性もある。得物のリーチを生かして一撃で仕留める準備をする。
こちらに向かってくるラッチマットの動きに合わせ、餅つきの要領で大金槌を振り下ろす。狙いは見事命中し、押しつぶされたマッチラットが光の粒子となって消えていく。
「おっ、魔石ゲット~」
運よく魔石がドロップしたので回収する。これで今回の攻略で通算5つ目だ。琥珀のような飴色の魔石をバッグの中に入れようと腰を下ろしたとき――
「ひょっとして魔石を食べたからこんな変なスキルが手に入ったんじゃ?」
ぱっと見みたらし団子にも見えるそれを眺めていると、ふとそんな考えが浮かぶ。
そもそも魔石を摂取することは非常識である。魔石を食べると体が爆発するといううわさもあるし、石を食べるなんてふつうはしない。それにもし魔石を食べるだけでスキルが得られるならもっと有名になっているはずだ。
「……まさか、魔石を食べる以外にも何かをしないといけない、とかか?」
周囲を見渡し魔物がいないことを確認すると俺は壁を背に地面へ座り込む。『あじゃすとうぉーく』の検証に夢中になっていたが、そのスキルの入手方法を調べるのを優先すべきだと気づいた。俺ですら知らない未知のスキル。普通ではない方法によって習得したと仮定するのならば、その再現性を確立しておけば新たに未知のスキルを得られるかもしれない。
「この変なスキルは魔石摂取と関連していてもおかしくないんじゃないか?でも魔石を食べるくらいでこんなスキルが手に入るくらいならもっと話題になってないとおかしい。つまり、魔石摂取プラスアルファの何かがあるのかもしれない」
うーんと少し考え込む。現在、魔石とはエネルギー保存媒体という説が有力である。なんでも工業溶液に浸して特殊な合金を接触させることで、電力を生み出すことができるらしい。つまり魔石はエネルギーの塊。そのうえ溶液や接触物体の条件を変えることで熱やら音やらいろいろなエネルギーの状態で取り出すことができる柔軟さも持っているらしい。
「考えたことがなかったけど、ダンジョン内で強くなれるのは何らかのエネルギーをダンジョンから得ているからなのか?だとすれば魔石なんてものはそういうエネルギーの塊として得られるのが本来の役目?」
突拍子もない理論を言葉にしてみる。しかしそう考えてみると腑に落ちることがある。それはニールセンの偉業だ。
ニールセンを除き、現時点で世界で最もダンジョン攻略が進んでいるのはダンジョンレベル35を攻略しているアメリカだ。いや、ダンジョン出現後から5年の歳月が経っているにもかかわらず、ダンジョンレベル35で止まっているという言い方のほうが良いかもしれない。対してニールセンはわずか1年半でダンジョンレベル100をクリアしている。
成長速度なのか、スキルなのか、それとも純粋な武力が突出していたのかは定かではないが、ニールセンがその速さで最高難度のダンジョンをクリアするに至っているには大きな秘密があるはずだ。
「長年ニールセンの強さが謎のままだったが、もしかする魔石なのか?」
これはよく分からないスキルを得ることができたから考えられる仮説だ。今までは俺もただ単に何らかの人間離れの強さをニールセンが持っていたと考えていたし、それが世間一般の認識だった。魔石によって普通以上の速さで強くなれるのなら、あるいはそれ以外にも何かの能力を得られるのなら、その何らかの答えが明らかになるかもしれない。
「……とりあえず魔石食べてみるか?でも絶対魔石食べるだけじゃないよなぁ。まあやってみるか」
バッグからこれまでにドロップした魔石を取り出す。全部で5つの魔石は観賞用としても使えそうな見た目をしている。
「1個ずつ、いや、もし本当に魔石のおかげであのスキルが手に入ったとするなら、あの時と同じようにっ!」
南無三、と気合を入れて5つ一気に飲み込む。さっきは二階堂に全部同時に飲まされた。だからできるだけ同じ条件で同じことをする。きついがこれでさっきと同じ状況——
「待てよ、確かあの時は腹の違和感を減らすために湧水を飲んだじゃんか!それもただの水じゃなくてダンジョンの湧き水……」
ではないことに気づく。ダンジョンの湧き水は普通の水とは言ったが、それはあくまで今の科学技術上の話。魔石なんていうエネルギー資源以外の使い方があるかもしれない仮説が出てきたのに、ダンジョンの湧き水が不通と言い切るのはもう難しいだろう。
「急ぐか。できれば時間差をつけたくないから少しダッシュする感じで、と」
急いで荷物を持ち、小走りで動き出す。二階堂に魔石を飲み込まされたときはすぐにダンジョンの湧き水を飲んだ。もしかするとそれも特殊スキルを得るための条件かもしれない。逸る気持ちとともに3階層を駆け抜けていく。
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「着いた」
それから30分後、俺は4階層へ続く階段前のセーフゾーンにいた。運よく魔物とは出会わず、何度か行き止まりに引っかかったものの、ちゃんとマッピングアプリを取っていたおかげでスムーズに目的地へ着くことができた。そして同時にとあることにも道中で気づいた。
「走っていたのに全然疲れていない。ヤバ」
そう、30分ほど小走りをしていたのだが、息切れ一つせずかすかに額に汗がにじむ程度なのだ。適度に緊張し、荷物や武器を持って10分も小走りをすれば、普通なら少しは息が上がるだろう。だがそれがない。もちろん走り込みをしていてある程度基礎体力があることはわかっているが、それにしても疲れなさすぎる。
「もしや『あじゃすとうぉーく』の力なんだろうか。だとしたらチートすぎるぞ、これ。全然ウォークしてないときに発動した気がするけど」
名前が合ってないような気もするが、もし走る際の疲労を軽減する効果があるのだとすれば、ダンジョンの常識が覆る。
ダンジョン攻略が大変な理由の一つが移動である。ダンジョンはレベルが上がるごとに各階層が広く、そして複雑になっていく。高レベルのダンジョンになれば、たとえ1階層といえど、そのすべてを歩いて回るには1週間を超えることも珍しくはない。もし走っても疲れないのならば、その時間は一気に半分以下になるだろう。
「ははっ、これはますます謎を解かないといけなくなったな」
とりあえずあまり喉は乾いていないが、ダンジョンの湧き水を飲む。走っている際にも腹や胸に違和感があったのでそれを解消しようとごくごくと。
「たしかさっきはこの状態からちょっと時間が経った後に新しいスキルがゲットできてたよな?」
セーフゾーンであることを利用し、少しその場でとどまってみる。武器の手入れをしながらちらりちらりとステータスカードを確認する。すると1分と経たないうちに、そこには新たなスキルが出現していた。
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なまえ:小野寺太郎丸おのでらたろうまる
とし:16
しゅ:ひと
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ついかこうげきりょく:47(+1)
ついかぼうぎょりょく:42(+1)
まなりょう:26(+1)
ついかいどうそくど:28(+0)
ついかまほうこうげきりょく:19(+0)
ついかまほうぼうぎょりょく:60(+2)
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あじゃすとうぉーく
わーどらんげーじ
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さいだいだんじょんれべる:2
だんじょんこうりゃくりれき:『ももちはまだんじょん(1):2かい』
『ももちはまだんじょん(1):4かい』
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「おおっ!お、ん?『わーどらんげーじ』?なんだこれ」
またしても見知らぬスキルの登場に心が沸き立つも、効果が想像し辛いものが出てきたと若干頭にはてなを浮かべる。言葉、言語、に関する何か、ということだけはわかる。ぱっと思いつくのは自動翻訳や言語の習得だが、ダンジョンにはあまり関係なさそうだ。それに試そうにもなかなか難しそうな気もする。
「いや、それよりも変なスキル、もとい特殊スキルを得るための方法をある程度確立できたのが偉いな」
ここまでの仮説は、全て答えありきの妄想ではないかと頭をよぎることがあった。しかし、実際に魔石と湧水を摂ることで、普通のスキルとは系統が恐ろしく違いそうなスキルを獲得できた。つまり、ここですべきことは、難しい言語の話は置いておいて、今一度特殊スキルの取得方法を脳に刻むことだろう。
まずはいくつか魔石を丸呑みする。そしてダンジョンの湧き水を飲む。そうすれば特殊スキルがにょきにょきと生えてくる。
「……さすがに簡単すぎるか。絶対ほかにも条件があるんだろうな」
興奮で納得しかけるも、冷静に条件の甘さに疑問を呈する。ただ、今の時点でそれ以上の何かを確かめる方法はない。
だから、今後はできるだけ今日と同じ状況を作りつつ、真実に迫っていけばいい。少なくともそれを苦と思ったり、リターンのない無駄なことだとは思わない。
「とりあえずさっさとダンジョンボスを攻略して、今日は終わりとするか」
スマホのホーム画面にはでかでかと15:30と表示される。昼ごはんも抜きにダンジョンにこもりっぱなしだ。さっさとダンジョンボスを倒し、優雅に帰宅しよう。ドロップ品の魔石も食べてしまったし手持ちのお金もないので、あまり気は乗らないが親の口座から少しだけ食費を拝借しよう。
最後にもう一度湧き水でのどを潤し、4階層へと進んでいく。実質的には初のダンジョンボス戦。俺は高揚と緊張に包まれながら階段を上るのだっだ。
特殊スキル取得方法条件
・魔石を摂取する
・???
・ダンジョンの湧き水を飲む
・???
・???




